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Signal|GravityDEXがCardano Preprodで公開テストネット——バッチャーなし・並列スワップが拓くDEXの新しい可能性

2026-08-01SIPO

CardanoのDEX体験を、ブロックチェーンの特性からもう一度つくり直そうとする新しい挑戦が始まりました。

GravityDEXは2026年7月31日、Cardano Preprod上でパブリックテストネットを公開し、日本のCardanoコミュニティへ参加を呼びかけました。SIPOにも、TXPipeのAgus氏から「ぜひ試してフィードバックを寄せてほしい」と案内が届いています。

Gravityが目指しているのは、バッチャーを介さず、ユーザーのスワップをプールコントラクトで直接決済するDEXです。さらに流動性を独立した複数のUTxOに分け、複数のスワップを並行して処理できる設計を掲げています。

ここには、Cardanoがもともと備えている「独立したUTxOを並列に処理できる」という強みを、DEXの使い心地へつなげられるかもしれないという期待があります。

Gravityは、単に新しい交換画面を公開したのではありません。CardanoらしいDEXとは何かを、コミュニティが実際に触れられる形で問い直しています。

公式テストネット:
https://preprod.gravitydex.app/swap

日本コミュニティ向け公式投稿:
https://x.com/gravitycardano/status/2082915171962630171

まず、Gravityは何を変えようとしているのか

DEXは、中央の取引所へ資産を預ける代わりに、ブロックチェーン上のプログラムを使ってトークンを交換する仕組みです。

CardanoのDEXでは、これまで「バッチャー」や「スクーパー」と呼ばれるオフチェーンの実行者が重要な役割を担ってきました。

利用者が作った注文を集め、実行順序を決め、流動性プールの状態を更新します。これはCardanoのeUTxOモデルで同時注文を扱うために発展してきた、合理的な設計です。

Gravityは、このバッチャー型を否定するのではなく、別の道も開こうとしています。

利用者がプールコントラクトへ直接スワップを送り、可能な限り一つのトランザクションで決済します。そして一つの共有UTxOに流動性を集中させず、独立した複数のUTxOへ分散します。

目標は、仲介する実行者をスワップの必須経路から外しながら、Cardanoの並列性をより素直に使うことです。

「一つのレジ」から「複数のレジ」へ

まず大切なのは、CardanoのeUTxOモデル自体は並列処理を得意としているという点です。異なるUTxOを入力にするトランザクションは互いに干渉しにくく、並行して処理できます。

一方、同じ一つのUTxOを二つのトランザクションが消費することはできません。一方のトランザクションがそのUTxOを消費すると、もう一方はすでに使われた入力を参照することになるため、そのままでは成立しません。

つまり競合するのは「Cardano上のすべての取引」ではなく、「同じ共有状態UTxOを同時に更新しようとする取引」です。

初心者向けにたとえるなら、Cardanoのネットワークには、もともと独立して動けるレジが数多くあります。しかしDEXがプールの流動性と状態を一つの共有UTxOへまとめると、そのプールだけは「全員が一つのレジに並ぶ」状態になります。

バッチャーは、この一列に並んだ注文を整理し、順番に会計を進める優秀な担当者です。

Gravityの発想は、レジ係を変えるのではなく、流動性を独立した複数のUTxOへ分け、同時に使えるレジを増やすことに近いものです。異なるUTxOを使うスワップ同士であれば、並列に決済できる可能性が生まれます。

もちろん、二つのスワップが同じUTxOを選べば競合は起こり得ます。GravityはCardanoのルールを取り除くのではなく、共有点を分散させることで、そのルールを並列処理へ生かそうとしています。

なお、CIP-31の「参照入力」を使えば、UTxOを消費せずに情報だけを読み取れるため、複数のトランザクションが同じUTxOを参照できます。ただしDEXのスワップでは、準備金や価格に関わる状態を更新する必要があります。Gravityの挑戦は、読み取りではなく、更新される流動性の状態を分散しながら整合させる点にあります。

Cardano Developer Portalでも、単一の共有状態UTxOによる競合を避ける方法として、状態を複数UTxOへ分割するsharding、利用者ごとのUTxO、batchingなどが説明されています。

Gravityの面白さは、こうしたCardanoの設計思想を、誰でも触れられる公開DEXテストネットとして組み合わせた点にあります。

ユーザーにとって、何がうれしいのでしょうか

Gravityの設計が期待どおりに機能した場合、利用者には次のようなメリットが考えられます。

ひと言でいえば、混雑時に一つの待ち行列へ集中しにくくなり、仲介役の処理を必ず待たずに、より直接的で滑らかにトークンを交換できる可能性があります。

  1. 混雑時でも取引が一つの列へ集中しにくくなります。 異なる流動性UTxOを使えるスワップは並列に進められるため、共有プールUTxOを待つ取引や、競合による再試行を減らせる可能性があります。
  2. スワップの経路がより直接的になります。 利用者のトランザクションがプールコントラクトへ直接向かうため、注文を処理するバッチャーの稼働や順番待ちに、決済が必ず依存する構成ではなくなります。
  3. バッチャー固有の手数料を外せる可能性があります。 ただしCardanoのネットワーク手数料やGravity側のプロトコル手数料は別に存在します。利用者が支払う総コストが実際に下がるかは、テストネットの実測で確認する必要があります。
  4. 流動性を分けても、価格面で不利にならないことを目指しています。 開発者は、利用者がプール全体の流動性を使えるため、UTxO分割によってスリッページが悪化しないと説明しています。これは利用者にとって重要な設計目標であり、SIPOでも実際の取引で確認したい点です。
  5. ウォレット操作を滑らかにできる可能性があります。 任意のGravity Accountを使えば、スワップごとに通常ウォレットを呼び出す回数を減らせるため、DEXをより日常的なWebサービスに近い感覚で使える可能性があります。

これらは公開テストネット段階で期待されるメリットです。実際の成功率、待ち時間、総手数料、スリッページ、操作回数は、利用が増えた環境で測定して初めて比較できます。

GravityがCardanoにもたらし得る四つの変化

1. Cardanoの並列性が、利用者に見える価値になる

eUTxOの並列性は、Cardanoの技術的な特徴として長く語られてきました。しかし利用者が本当に知りたいのは、アーキテクチャの名称ではなく、それによって取引がどのように変わるのかという点です。

Gravityの設計が実利用規模でも機能すれば、独立したUTxOを並列処理できることが、DEXの待ち時間、処理能力、混雑時の使いやすさとして見える可能性があります。

これはCardanoの強みを、説明ではなく体験へ変える挑戦と言えます。

2. スワップ経路をより直接的にできる

Gravityでは、利用者のトランザクションがプールコントラクトへ直接向かいます。

この経路が安定して機能すれば、注文をいったん預けて実行者を待つのではなく、利用者自身のトランザクションで交換を完了する体験へ近づきます。

その結果として期待されるのは、中間工程の削減だけではありません。取引がどのように成立したかをオンチェーンで追いやすくし、DEXの構成要素をよりシンプルにできる可能性もあります。

3. DEXの使い心地を改善する余地が広がる

Gravityには通常ウォレットでの直接スワップに加え、任意機能として「Gravity Account」が用意されています。

これは初期設定後、端末内に保存する暗号化ホットキーを使い、スワップのたびに通常ウォレットを呼び出す操作を減らそうとする仕組みです。

ブロックチェーンの安全性を保ちながら、Webサービスに近い滑らかな操作感をつくれるのでしょうか。Gravityは取引エンジンだけでなく、Cardano DeFiのUXにも挑戦しています。

4. Cardano DEX全体の設計競争を豊かにする

Cardanoにはすでに複数のDEXがあり、それぞれ異なる方法で流動性、注文実行、競合、分散性を扱っています。

Gravityが新しい設計を公開テストネットへ持ち込んだことで、バッチャー型とバッチャーレス型、共有プールと分散UTxO、通常ウォレットとスマートアカウントという複数の選択肢を、実際のデータと利用体験で比較できるようになります。

一つの方式がすべてを置き換える必要はありません。異なる設計が競い、学び合うこと自体が、Cardano DeFiの厚みにつながります。

「1トランザクションで直接決済」を支える仕組み

Gravityの日本語投稿には、「スワップは1つのトランザクションで直接決済」と記されています。

標準経路では、利用者がプールへ直接スワップを送ります。開発者のMichele Nuzzi氏は、競合などで直接経路が成立しなかった場合には、指値注文へ切り替えるフォールバックも説明しています。

この第2トランザクションは設定で無効化できます。また、複数トランザクションをまとめて署名できるウォレットAPI、CIP-0103「Bulk Transaction Signing」への対応も選択肢として挙げられています。

つまりGravityは、まず最短の直接経路を目指しながら、Cardano L1で競合が起きた場合の逃げ道も用意しています。

公開テストネットでは、直接スワップがどの程度成立するのか、フォールバックがどの場面で役立つのかを、利用者と開発者が一緒に確かめられます。

GravityはPreprod上ですでに動いている

SIPOは2026年8月1日JST、Gravityの公開テストネットをウォレット未接続の読み取り状態で確認しました。

画面にはSwap、Liquidity、Pools、Orders、Faucet、Debugが用意され、tADA、VEGA、RIGEL、SIRIUS-A、SIRIUS-Bのテスト資産と、4種類の流動性プールが表示されていました。

プール画面では、準備金、TVL、基本手数料、7日平均手数料、LPのnet APR、concentrationなどを確認できます。プールの不均衡に応じて変化する動的手数料や、手数料収入から「repeg costs」を差し引いたnet APRも示されています。

Debug画面には、三つのスクリプトハッシュが公開されています。

  • stateContract: cd2d9971a038ce72f1336e58506257069ae0c23feacb8885f2358188
  • tokenPool: 45537da5d593f4c49ba0990318aa8b4b107ac7db490790a31d33fc67
  • limitOrderContract: 7e798d4ac6b9147f1b1ba453e08042380a68bb72a1411c14ac2b1172

これらをCardanoの公開データAPIであるKoiosのPreprod環境と照合したところ、三つともPlutus V3スクリプトとして確認できました。

tokenPoolスクリプトには、調査時点で610件のredeemerがあり、183件の固有トランザクションにまたがる実行履歴が確認できました。

この件数だけで利用者スワップ数や性能、安全性を判断することはできません。初期化、mint、プール操作などが含まれる可能性があるためです。

それでも重要なのは、Gravityが構想図や静的な画面だけではなく、Preprodへコントラクトを配置し、コミュニティが試せる地点まで到達していることです。

アイデアを実物にし、外部から触れられる状態にしました。Gravityの評価と改善は、ここから始まります。

公開テストネットは、可能性を一緒に育てる場所

テストネットは、完成した製品へ合否をつけるためだけの場所ではありません。

新しい設計を実際に動かし、想定どおりに機能するところ、改善できるところ、利用者が迷うところを見つけ、mainnetへ向けて育てるための場所です。

Gravityが日本のCardanoコミュニティへ直接参加を呼びかけ、SIPOにもフィードバックを求めたことには、大きな意味があります。

Cardanoの強みは、プロトコルや研究成果だけではありません。世界各地の開発者、SPO、DRep、利用者が、新しい仕組みを試し、意見を返し、改善へ参加できるコミュニティにもあります。

Gravityの公開テストネットは、その力をCardano DEXの次の形へつなげる機会になり得ます。

SIPOが今後注視していくポイント

期待を確かな評価へ育てるため、SIPOでは今後、次の点を継続して見ていきます。

  1. 利用が集中したとき、独立UTxOによる並列スワップがどの程度機能するか
  2. 分散したUTxOからプール全体の流動性を活用し、価格とスリッページをどう整えるか
  3. 直接スワップの成功率、決済時間、費用、指値注文フォールバックの使われ方
  4. Gravity Accountがもたらす操作性と、ホットキーの権限、失効、回復の仕組み
  5. ソースコード、正式仕様、監査、管理権限、ベンチマークが今後どのように共有されるか

調査時点では、Gravity公式サイトと公式Xから、公開GitHub、正式仕様書、外部監査報告への導線は確認できませんでした。これは公開テストネットの挑戦を否定する材料ではなく、今後の技術公開と検証によって、Gravityへの理解と信頼をさらに深められる観測点です。

SIPOでも時間を確保でき次第、専用のPreprodウォレットを使い、通常ウォレットでの直接スワップ、署名回数、競合時の挙動、指値注文フォールバック、表示手数料と実際のトランザクション費用を確認していきます。

一度のテストで結論を出すのではなく、Gravityが改善を重ね、Cardanoエコシステムの中でどのような役割を築いていくのかを継続して追っていきます。

Cardanoに「新しい春」をもたらせるか

Gravityは自らを「The First REAL Cardano DEX」と表現しています。これは挑戦的なメッセージであり、すでにCardanoで稼働するDEXの価値を小さくするものとして受け取る必要はありません。

むしろGravityが投げかけているのは、Cardanoの並列性をもっとDEXの中心で使えるのではないか、という前向きな問いです。

バッチャーを介さない直接決済。独立UTxOによる並列スワップ。任意のGravity Accountによる滑らかな操作体験。そして、コミュニティとともに育てる公開テストネット。

これらが組み合わさり、実利用でも力を発揮すれば、Gravityは一つの新しいDEXにとどまりません。Cardanoのアーキテクチャを生かしたアプリケーションとは何かを示す、重要な実例になる可能性があります。

その挑戦が成功すれば、恩恵を受けるのはGravityだけではありません。新しい知見、設計、ツール、利用者体験がCardano DeFi全体へ広がり、次のプロジェクトの出発点になるかもしれません。

日本コミュニティへ向けたGravityの言葉は、「一緒に、Cardanoに新しい春を」でした。

その春がどのような景色をもたらすのでしょうか。SIPOも期待を持ってテストネットを見守り、実際に試しながら、その歩みを伝えていきます。

※Gravityは調査時点でCardano Preprod上のテストネットです。表示されるtADAやテストトークンは実資産ではありません。本稿は利用・投資を推奨するものではありません。ウォレットを接続する場合は、公式URLを確認し、普段使いのウォレットやmainnet資産から分離したテスト専用環境を使用してください。

参考・出典

透明性メモ

本稿は2026年8月1日JST時点のGravity公式サイト、公式X、開発者の公開説明、Cardano公式技術資料、Gravity Preprodテストネットの読み取り確認、Koios Preprod APIによるスクリプト情報と実行履歴の照合にもとづいて作成しました。

SIPOは今回、ウォレット接続、署名、Faucet利用、mint、スワップ、流動性供給、指値注文、Gravity Account設定を実行していません。プール残高、手数料、APR、redeemer数、トランザクション数は変化する可能性があります。

本稿は公開テストネット段階の情報を整理したもので、Gravityの安全性、性能、分散性、mainnet準備状況を保証するものではありません。今後の公開資料とSIPO自身のテスト結果に応じて、継続的に情報を更新していきます。