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L2 が増えるほど、データの置き場が問題になります——IOR がデータ可用性のワークショップを開き、CPS の材料を集めます

2026-08-29SIPO

Input Output Research(IOR)が、データ可用性(Data Availability, DA)の技術ワークショップを 9 月 3 日に開くと告知しました。開催は協定世界時 14 時、日本時間では 9 月 3 日 23 時です。Cardano Vision 26 の各プログラムを扱う技術ワークショップ連載の、次の回にあたります。

ただ、この告知でいちばん重要なのは日程ではありません。告知には、この回が「Cardano Problem Statement(CPS)を進めるための研究上・技術上の要件を集める」場だと書かれています。Cardano には、解決策(CIP)を提案する前に問題そのものを文書化する枠組みがあり、DA はこれからその入口に入る、という位置づけです。答えを見せる会ではなく、問いを固める会だということです。

何が議題になり、なぜ Hydra と Midgard が名指しされているのかを、告知と登録ページに書かれていることから順に見ていきます。

■ 告知に書かれていること

IOR の告知は 2 つの投稿に分かれています。前半が趣旨、後半が中身と日程です。

📢 Data Availability Technical Workshop – Sept 3
Input Output Research (IOR) is running the next in a series of technical workshops on the Cardano Vision 26 programs.
This session covers on-chain Data Availability (DA) requirements for Cardano’s growing L2 ecosystem, including: 👇

🔹 Data availability requirements for scaling rollups and off-chain systems (Hydra, Midgard)
🔹 Gathering research and technical requirements to drive an upcoming Cardano Problem Statement (CPS)
🗓️ September 3, 2026, 2:00 PM UTC

議題は 2 行だけです。1 行目が「ロールアップとオフチェーン系(Hydra、Midgard)を伸ばすうえでのデータ可用性の要件」、2 行目が「CPS を進めるための要件収集」。つまり、技術的な論点の洗い出しと、それを文書に落とす段取りが同じ会に置かれています。

登録ページ側には、もう少し踏み込んだ説明があります。この取り組みの目的は「仕様と要件を進めること。CPS の準備、ロードマップの議論、実装への引き渡しを含む」と書かれ、扱う対象は「ロールアップやオフチェーン系が低コストで L1 にデータを載せられるようにする DA 層の設計空間」だとされています。論点として挙げられているのは、コスト効率と、検証および保存の要件とのバランスです。blob を使う構成のような方式が検討対象として挙げられています。

進行は、Input Output Group の Fergie Miller 氏(Director of Research Partnerships)と Giorgos Panagiotakos 氏(Research Fellow)の 2 名です。開催場所は登録者にのみ開示される形になっています。

■ データ可用性が問うのは「中身を、誰が読み直せるか」です

データ可用性という言葉は抽象的に聞こえますが、問いはかなり具体的です。L2 は処理を L1 の外に出すことで速く安くなります。ただし外に出したぶん、L1 に残るのは要約や結果だけになります。では、その要約が正しいかどうかを誰かが疑ったとき、元の中身はどこにあるのか——これが DA の問いです。

Midgard は、この問いが設計の中心に来るタイプです。同プロジェクトは自らを Cardano 初のオプティミスティック・ロールアップと位置づけ(現在はプレアルファのテストネット段階です)、「すべてのブロックは Cardano L1 上の不正証明によって守られる」と説明しています。ブロックのヘッダーはオンチェーンのステートキュー・コントラクトに置かれる、とも書かれています。オプティミスティック方式は「異議が出るまでは正しいものとして扱う」設計なので、異議を出す側がブロックの中身を再実行できることが前提になります。ヘッダーだけが L1 にあって中身がどこにも無ければ、不正証明は成立しません。

Hydra は形が違います。公式ドキュメントは、Cardano のトランザクションを「まさに同じ、実績のある Cardano 台帳を使って」オフチェーンで処理すると説明し、「1 つの Hydra head の中で多数のトランザクションやとりまとめが行われ、メインチェーンに記録されるのは最終的な結果だけ」だとしています。中身を見る必要があるのは基本的に head の参加者であり、外部の第三者ではありません。

同じ「オフチェーンに出す」でも、誰が・いつ・どれだけの期間データを読める必要があるかが違います。告知が Hydra と Midgard を並べて名指ししているのは、この差を 1 つの要件表にまとめる作業がまだ済んでいないからだと読めます。

■ ZK の次に DA、という順番

この連載の前回は、ゼロ知識(ZK)検証の回でした。IOR は 7 月 9 日(協定世界時 15 時)に「ZK Verification Technical Workshop」を開き、証明系の設計上のトレードオフ、SNARK の標準化(Halo2、Plonk)、Hydra Tail の ZK ロールアップとしての安全性、BN254 と BLS12-381 のツール相互運用を扱うと告知していました。

証明の話が先に来て、データの置き場の話が後から来る。この順番自体には理由があります。証明は「計算が正しいこと」を短く示す技術で、DA は「その計算の入力が、誰でも取り出せる場所にあること」を保証する話です。前者だけでは、正しさを主張する側が中身を隠したまま検証を封じる余地が残ります。L2 の数が増えるほど、後者の設計が効いてきます。

そして今回は、その設計を CIP ではなく CPS から始めると明言されています。CPS は Cardano の仕様プロセスの中で、問題のほうを形式化する文書です。CIP と並んで CIP リポジトリに置かれる第一級の文書と定義されており、解決策を提示しないまま「問題を見つけたが適切な解がまだ無い」立場で書かれることが想定されています。解決策は後続の CIP に委ねられ、実装された CIP が元の問題文を参照する、という組み立てです。

言い換えると、9 月 3 日の会で決まる可能性が高いのは「Cardano の DA はこういう課題である」という定義のほうであって、「Cardano の DA 層はこうなる」という答えではありません。

■ 9 月 3 日に見るところ

1 つ目は、CPS がどの粒度で切られるかです。DA 層を新しく設ける話として書かれるのか、それとも既存の L1 の使い方(どの領域にどれだけの期間データを載せるか)の話に収めるのかで、その後の CIP の形がかなり変わります。

2 つ目は、Hydra と Midgard の要件が 1 本の CPS に収まるか、別々に分かれるかです。前節で見たとおり、外部の第三者が中身を読む必要があるかどうかが両者で異なります。1 本にまとめるなら、その差をどう共通の要件語に翻訳したかが読みどころになります。

3 つ目は、コストの置き方です。登録ページには「低コストで L1 にデータを載せられるように」と書かれ、同時に「検証と保存の要件とのバランス」が課題として挙げられています。安く載せることと、長く確実に読めることは、そのままでは両立しません。どちらをどれだけ譲る設計を候補に挙げるのかが、この会でいちばん具体的に出てくる部分になりそうです。

SIPO は、仕様が固まってからではなく、問題が言語化される段階から追っていきます。CPS はまだ書かれていません。書かれる前の材料が公開の場に並ぶ機会は、そう多くありません。


一次ソース / 関連リンク

登録ページとサイトの表記は 2026 年 8 月 29 日に確認したものです。更新される可能性があります。