Midnight が日本時間 8 月 25 日、公式ブログに「主流化には透明性以上のものが要る」という一本を出しました。新機能の発表ではありません。なぜ企業が公開台帳を使えないのか、その理由を正面から並べた文章です。挙がっているのは医療記録・企業の財務データ・決済・個人識別情報——公開ブロックチェーンに載せた瞬間、競合にも見知らぬ相手にも見えてしまうものの一覧でした。当社は Midnight をめぐる発信について、機能が増えたかどうかよりも「何を秘匿し、何を開示すると決めているか」の側を観測点に置いています。設計の線引きが先に言葉になり、実装はその後を追うからです。何が書かれ、どこが既存の話の延長で、どこがまだ書かれていないのかを分けて読みます。
■ 公式ブログが並べた「載せられないもの」
パーミッションレスなブロックチェーンは、中央の許可なしに人・アプリ・組織がやり取りできる代わりに、すべての取引が可視で数学的に検証できる状態に置かれます。ブログはこの点を、公開ブロックチェーンは設計上プライバシーを不可能にする、と書いています。トークンの移転を追うだけであれば、この既定は問題になりません。問題になるのは、実務のデータを載せようとしたときです。
具体例として挙げられているのは三つの領域です。医療のアプリケーションは、多くの規制の枠組みの下で、患者の状態をブロックチェーンの基盤経由で露出させることができません。金融機関は、取引を公開にしたまま顧客の懸念を招かずにいるのが難しい。本人確認の仕組みは、ひとつの事実を証明するためだけに個人情報のすべてを明かす必要はないはずだ——という並べ方です。
数字も一つ置かれています。Midnight Foundation が実施したグローバル調査で、回答者の 56% が金融データの保護を他のどのカテゴリよりも優先した、というものです。この調査そのものは 2 月 23 日付の別記事にまとめられていて、そちらではおよそ 9 割が自分のデータのプライバシーを懸念していること、92% がアプリのデータアクセスを制限する行動を取っていること、94% がデータ保護上の懸念からアプリを削除した経験があることが報告されています。組織が分散型ネットワークの利点を欲しがりながら、残高や決済や資金の状況を公開のまま流したくない、という説明の裏づけとして置かれた数字です。
■ 「証明する」と「見せる」を分ける
ゼロ知識証明の説明は、ブログでは一つの例だけに絞られています。18 歳以上であることを、ID の全部・氏名・生年月日・住所を見せずに証明する、というものです。
短い例ですが、分けているものははっきりしています。「証明する」と「見せる」です。従来の本人確認は、この二つが束ねられていました。年齢の条件を満たしていることを相手に納得させるために、書類そのものを渡す。渡した瞬間、年齢以外の情報も相手の手元に残ります。ゼロ知識証明は、条件を満たしているという結論だけを検証可能な形で渡し、元のデータは渡しません。
ブログはこの原理が広く適用できるとしています。出力や資格の有無を、追加のデータ露出とそれに伴うリスクなしに検証する。言い換えれば、確認のために預けたデータが後から漏れる、という事故の型がそもそも成立しなくなる設計です。
■ 選択的開示は、どちらかを選ぶ設計ではありません
そのうえでブログが置いているのが、選択的開示です。あらかじめプログラムされた条件のもとで特定の情報を共有できるようにするもので、絶対的な原則ではなく実際のアプリケーションの必要に応じて、プライバシーと透明性のバランスを取る、と説明されています。
ここは読み方に注意が要ります。「秘匿するチェーン」と「公開するチェーン」の二択があって後者を選ぶ、という構図ではありません。何を private のままにし、何を開示するかを、作る側が決められるようにする——ブログの言い方では、その決定権をビルダーに渡す、という設計です。アプリケーションはブロックチェーンのセキュリティと監査可能性を保ったまま、機密データを保護できる、と続きます。
結びの主張は、この記事のタイトルそのものです。分散型技術の主流化には透明性以上のものが要る。必要なのは秘匿性と法令順守の両方であり、透明なセキュリティがもたらす信頼とデータ保護を組み合わせたものだ——そして Midnight は、プログラム可能なプライバシーを設計として提供する、と結ばれています。
書かれていないものも並べておきます。どの規制の枠組みを想定しているのか、開示条件を具体的にどう記述するのか、条件を後から変更できるのか、開示を受け取った側の義務はどうなるのか。この記事は設計思想の説明であって、実装の仕様書ではありません。踏み込みの幅を測っておくと、次に出てくる資料の重みが判断できます。
■ ブロックを作る側から見ると
この論の効きどころは、「監査可能性を保ったまま」と明記されている点にあります。ステークプールを動かす立場からは、ここが一番効きます。
秘匿を強めるほど、外から異常が見えにくくなります。公開チェーンであれば不審な資金の動きは誰でも観測でき、実際にそれで早期に発見された事故がいくつもありました。取引の中身が秘匿される設計では、その経路が細くなります。だからこそ、開示の条件をあらかじめコードに書いておく——つまり誰がどんなときに何を見られるかを設計時点で決めておく——という組み立てが要になります。事後に人が判断して開示するのではなく、条件のほうが先に固定されている、という順序です。
Cardano の側から見れば、この話は遠いところにありません。Cardano と Midnight をつなぐ橋は 8 月 14 日にメインネットで開いており、当社でも既報のとおりです。外から中身が見えない場所の正しさを誰が確かめるのか、という問いは、CertiK とのエコシステム提携の告知を読んだときにも同じ形で出てきました。今回のブログは、その問いに対して「開示の条件を設計に埋め込む」という答え方を示した文章だと読めます。
次に見るものを三つ挙げておきます。
ひとつめは、選択的開示の条件をどう書くのかを示した技術資料が出るかどうかです。設計思想の説明と、開発者が実際に書けるものとの間には距離があります。
ふたつめは、規制対応の側の具体化です。秘匿性と法令順守の両立という主張は、どの法域のどの要件に照らして成り立つのかが示されて初めて検証できます。
みっつめは、この論に沿って作られたアプリケーションが出てくるかどうかです。医療・金融・本人確認という三つの領域が名指しされている以上、最初の実例がどこから出るかは、この設計がどこで受け入れられたかの手がかりになります。
一次ソース / 関連リンク
- Midnight 公式ブログ「Why mainstream blockchain adoption requires more than transparency」(2026 年 8 月 25 日・本記事の元になった論考)
https://midnight.network/blog/why-mainstream-blockchain-adoption-requires-more-than-transparency - Midnight 公式ブログ「Midnight’s second annual survey: focus on privacy」(2026 年 2 月 23 日・56% の出典となった調査)
https://midnight.network/blog/midnights-second-annual-survey-focus-on-privacy - Midnight 公式ドキュメント(Compact とゼロ知識証明の位置づけ)
https://docs.midnight.network/ - CertiK が Midnight とのエコシステム提携を告知しました(SIPO・2026 年 8 月 24 日)
https://sipo.tokyo/signal-20260824-8ea4e111/ - プライバシー資産が「規制された器」に入ります——Zcash の現物 ETF 化を、Midnight の側から見る(SIPO・2026 年 8 月 24 日)
https://sipo.tokyo/signal-20260824-d0a4b81e/ - Cardano と Midnight をつなぐ橋がメインネットで開きました(SIPO・2026 年 8 月 14 日)
https://sipo.tokyo/signal-20260814-500e9674/
