Cardano の TypeScript 向け開発キット Mesh SDK を開発する Mesh は 10 月 15 日、2026 年の保守費として国庫から ₳600,000 を引き出すガバナンスアクションの草案を公開し、意見を募り始めました。月 ₳50,000 で 2026 年 1 月から 12 月までの保守を対象とし、すでに終わった 1〜9 月の作業も含めて後払いで受け取る設計です。
新機能の開発は対象から外し、SDK が動き続けることにだけ予算を付けた申請です。Mesh は「Catalyst は助成の募集をやめた」としています。多くのアプリが頼る開発基盤の保守を誰が払うのか。その問いが、草案という形で DRep の前に置かれました。
草案の中身: 月 ₳50,000、新機能は含めない
草案の種別は国庫引き出し(Treasury Withdrawal)です。₳600,000 のうち 84% にあたる ₳504,000 が保守のエンジニアリング(プロトコル変更への追随、不具合の修正、リリース、外部データ接続の維持、テスト)に、16% の ₳96,000 が開発者サポートとドキュメントに充てられます。予備費の枠は置いていません。
対象に含めるのは、プロトコルのパラメータやハードフォークへの対応、不具合とセキュリティの対応、月 1 回以上のリリース、Blockfrost や Koios などデータ接続部品の維持です。次のプロトコル版 PV12 が期間内に来た場合も対象になります。一方で、MeshTxBuilder V2 の完成、Hydra・Midnight・Bitcoin 向けのツール、Mesh のウォレットといった新機能は外されています。草案は、これらに資金を求めるときは別の提案にすると書いています。
資金は Mesh の 4 人が署名者となる 3-of-4 のマルチシグのウォレットで受け取り、支払いには毎回 3 人の署名が要ります。使い残しは 2027 年 1 月 30 日までに国庫へ戻すとしています。受け取りのアカウントはステークプールに委任せず、投票権は常に棄権する DRep に委ねます。Mesh 自身も DRep として登録していますが、この議案には棄権すると明記しています。
889 のリポジトリが頼る部品
草案が申請の根拠として示すのは利用の広がりです。GitHub 上で @meshsdk/core に依存するリポジトリは 889、パッケージは 58 あります。npm でのダウンロードは 2026 年 1 月 1 日から 10 月 14 日までで 274,952 回と、前年の同じ期間の 103,769 回から約 2.6 倍に増えました。
依存する側の名前には、スマートコントラクト言語の Aiken、Cardano 財団の開発者ポータル、Yaci DevKit、IntersectMBO の cardano-api、SundaeSwap の SDK、IO の contracts-library が並びます。Dfns や Turnkey といった資産保管・ウォレット向けの SDK も Mesh の上に作られており、Cardano 以外の利用者に Cardano 対応を届ける経路にもなっています。
保守が目に見えにくい仕事であることを示す例として、草案は 5 月の出来事を挙げています。テストネットでコストモデルが拡張されたあと、Plutus V3 の取引で PPViewHashesDontMatch というエラーが出るとの報告が Mesh の利用者から相次ぎました。放置すれば PV11 のハードフォークとともにメインネットでも同じエラーが起きるところでしたが、Mesh は数日で修正しています。5 月 31 日の 1.9.0 は、2024 年 12 月の 1.8.0 以来の安定版でした。こうした作業を、Mesh は専用の保守資金なしで続けてきたと説明しています。
後払いの保守費、DRep はどこを見るか
この草案の特徴は、支払いがマイルストーンに結びついていないことです。対象期間が 2026 年の暦年なので、第 1〜第 3 四半期の作業はすでに終わっており、草案には四半期ごとの成果とプルリクエストの番号が並んでいます。DRep は、お金を出す前に成果を GitHub と npm で確かめられます。1 年分の報告書は 12 月の最終週に公開する予定です。
その一方で、草案にはまだ空欄が残っています。ADA から米ドルへの換算額、担当者ごとの稼働量と単価、ADA の価格が上がったときに超過分を国庫へ返すかどうかの方針、受け取りのマルチシグのアドレスです。いずれも「判断が要る」として括弧書きのまま公開されており、意見を募る段階であることがはっきりしています。人件費の内訳は、保守の提案を判断する DRep が最も確かめたい項目の一つになるでしょう。
資金の出どころの事情も草案は率直に書いています。Mesh はこれまで Catalyst の Fund 10 から Fund 14 で 11 件、計 ₳2,118,429 の助成を受け、55 のマイルストーンをすべて達成しました。ただ、Catalyst は提案の上限を ₳100,000 に下げたあと助成の募集をやめたとし、開発基盤の保守に資金を求める場所はオンチェーンのガバナンスしか残っていない、というのが Mesh の見立てです。
国庫の側にも枠があります。エポック 613〜713 の期間に国庫から引き出せる上限(Net Change Limit)は 5 億 ADA で、草案によると 10 月 14 日の時点で残りは約 ₳4,260 万でした。₳600,000 はその約 1.4% にあたります。草案は、提出時に残りを確かめ直すとしています。
空欄が埋まり、提出されるまで
新しい機能には予算が付きやすく、すでにある道具を動かし続ける仕事には付きにくい。Mesh の草案は、その差を国庫の議案として DRep に判断してもらう試みです。Plutus V3 の件のように、保守が止まったときの影響は依存する 889 のリポジトリの側に出ます。
草案には提出日が書かれていません。確認できる次の一点は、HackMD の草案で米ドル換算・人件費の内訳・価格上昇時の扱いの空欄がどう埋まるかと、それが GovTool に正式な議案として現れる時期です。Mesh は自分たちのダッシュボード gov.meshjs.dev でも、利用状況の数字を公開し続けています。
ことば
- 国庫引き出し(Treasury Withdrawal) — Cardano の国庫から資金を出すためのガバナンスアクション。DRep と憲法委員会の承認が要ります。Mesh は、開発基盤の保守に資金を求める場所はいまやこの経路しか残っていないとみています。
- Net Change Limit — 一定のエポック期間に国庫から引き出せる総額の上限。いまはエポック 613〜713 で 5 億 ADA と定められ、個々の引き出しの議案はこの残りの範囲に収める必要があります。
- Mesh SDK — Cardano の取引の組み立てやウォレット接続を TypeScript で扱うためのオープンソースの開発キット。889 のリポジトリが依存し、多くの dApp やほかの SDK の土台になっています。
一次ソース / 関連リンク
- Mesh 公式 X: 「Mesh SDK Maintenance 2026」草案への意見募集(2026 年 10 月 15 日)
https://x.com/meshsdk/status/2110631605593309581
GovTool: エポック 613〜713 の Net Change Limit(gov.tools)
Mesh のガバナンス用ダッシュボード(gov.meshjs.dev)
