米国の Toto Finance が 10 月 15 日、Cardano のトレジャリーから 2,200 万 ADA を引き出して米国の倉庫にある銅を買い、CuTT というトークンにする提案を、オンチェーンのガバナンスアクションとして提出しました。銅を 18〜24 か月保有したあと売却し、売却代金の全額と使わなかった予算をトレジャリーへ戻す設計で、DRep (委任代表者) にとっては、実物資産のトークン化 (RWA) の実証にトレジャリーの資金をどこまで預けるかを問う一票になります。
提案書は 54 ページあり、元本が戻る保証はないこと、損益分岐に必要な銅価格まで自ら数字で示しています。この記事では、何を買って誰が管理するのか、2,200 万 ADA がどう配分されるのか、DRep が投票前に確かめたい点はどこかを、提案書の原文に沿って整理します。
買うのは COMEX 規格の銅、置き場所はルイジアナ州の倉庫
ガバナンスアクションの種別はトレジャリー引き出し (TreasuryWithdrawals) で、要求額はちょうど 2,200 万 ADA です。受取人は米デラウェア州法人の Toto Finance Inc. で、資金の受け手であると同時に、プロジェクト全体の責任を負う管理者として名前が記されています。提案書によれば、同社が過去 24 か月に Cardano トレジャリーから受け取った資金はゼロです。
購入するのは、米国の先物取引所 COMEX が受け渡しに使う規格 (Grade 1) の電気銅で、保管先はニューオーリンズ近郊、ルイジアナ州ウエストウィーゴの COMEX 承認倉庫とされています。トークンの単位は 1 CuTT = 検証済みの銅 1 ポンド (約 0.45 kg) です。
トークンの流れは少し込み入っています。CuTT の正本はまず Ethereum 上の ERC-20 として発行し、トレジャリー資金で買った分はその全量を Ethereum 側のブリッジのエスクローに固定します。そのうえで Cardano 側に 1 対 1 でブリッジされた CuTT を発行し、これをトレジャリー分の唯一の「動かせる」表現にする、という構成です。他のチェーンで追加発行する CuTT には、別途検証された銅の裏付けが必要だと書かれています。
2,200 万 ADA のうち、銅に充てるのは約 67%
提案書は配分を次のように明示しています。
- 銅の購入: 14,724,409 ADA (66.93%)
- 倉庫・保険・監査・法務などの外部運営費 (上限): 3,533,859 ADA (銅の元本に対し年 8% × 最長 36 か月)
- Toto Finance への技術開発・プロジェクト管理費: 2,640,000 ADA (12%・独立した審査でマイルストーンが認められた分のみ)
- 独立した監督・管理: 660,000 ADA (3%)
- 銅の購入執行: 441,732 ADA
独立監督の担い手として「米国の PwC メンバーファーム」を希望すると書かれていますが、契約はまだ結んでいないこと、PwC も Intersect もオンチェーンの受取人や確定したパートナーではないことが、提案書の中で繰り返し断られています。法務・保管・監査・ブリッジの実装契約も、資金を危険にさらす前に整えるべき「展開前の条件」という位置づけで、提出時点では未確定です。
運用の流れは、18〜24 か月の保有のあと 1〜12 か月かけて売却し、遅くとも 36 か月目までに売却で得た正味の代金と未使用の予算をトレジャリーへ寄付の形で戻す、というものです。最終年は裁量を段階的に絞り、30 か月目までに当初の 25%、33 か月目までに 60%、36 か月目までに 100% を売却 (または受け渡し確定) する最低ラインも置かれています。
元本を取り戻すには、銅が 1 ポンド 10.06 ドルまで上がる必要がある
この提案の読みどころは、提案者自身が回収の見込みを数字で示している点です。10 月 14 日時点の COMEX 12 月限の参照値 1 ポンド 6.73 ドルで銅を買い、ADA/USD が変わらず、費用の上限を使い切ったと仮定すると、2,200 万 ADA 相当を取り戻すには銅が約 49.41% 上がり、1 ポンド 10.06 ドル前後になる必要があると試算しています。
同じ表では、売却時の銅価格ごとの回収率も並んでいます。6.73 ドルのままなら 66.9%、8 ドルで 79.6%、10 ドルでも 99.4% です。提案書はドイツ銀行による「2027 年第 2 四半期に最大 1 ポンド 10 ドル」という強気の見通しを引用しつつ、その水準でも全額の回収にはわずかに届かないこと、売却が想定される 2028〜2029 年とは時期がずれることを、自らリスクとして書いています。
つまりこの提案は、利回りや元本保証をうたう投資ではありません。銅の値上がりと ADA の値動き次第でトレジャリーに戻る額が上下する、期限付きの資金配分です。そのうえで、監査できる裏付けの仕組み、準備金と発行量を突き合わせる公開ダッシュボード、再利用できるトークン化の基盤を、成果物として残すことを目的に掲げています。提案書は、資金を回収する設計の先例として Cardano × Draper Dragon の Orion Fund を挙げています。
DRep が投票前に確かめたい 3 つの点
1 つ目は関連当事者の取り分です。倉庫と保険の請求書は、トレジャリー資金の ADA を Toto Finance のユーティリティトークン TOTO に替え、それを米ドルに替えて支払う経路が想定されています (直接の法定通貨払いは代替手段)。第三者の倉庫・保険の請求書には最大 30% の上乗せが認められており、これは運営費の上限の内側に収まると書かれています。また、トレジャリー分とは別に資金を集めた CuTT を DeFi で運用する事業の利益は、Toto Finance 側に帰属すると明記されています。提案書はこれらを「重要な関連当事者の開示」と自ら呼んでいます。
2 つ目は資金の管理主体です。受取先のウォレットは Toto Finance が管理しており、提案書自身が「独立したエスクローではない」と書いています。担保の設定や第三者による執行の仕組みは、銅を買う前に整える条件とされているため、承認後にそれが本当に整うのかを、どの時点で誰が確認するのかが論点になります。
3 つ目はトレジャリー全体の枠との兼ね合いです。トレジャリー引き出しは、一定期間に引き出せる総額の上限 (Net Change Limit) の残り枠の中で可決される必要があり、提案書も批准の直前に残り枠を確かめ直すよう求めています。可決には DRep の賛成が閾値 67% に達することに加え、憲法委員会の承認が必要です。
10 月 16 日 01:20 (日本時間) 時点の集計では、DRep の賛成は 0.24% (2 票)、投票済みの反対が 2.74% (6 票)、常時不信任 (AlwaysNoConfidence) が 2.57%、未投票が 94.45% でした。憲法委員会は 7 名とも未投票です。提出から間もないため、ほとんどの DRep はまだ判断を示していません。
次に見るもの
投票の期限はエポック 668 で、日本時間ではおおむね 11 月下旬にあたります。まず見ておきたいのは、GovTool の提案ページに表示される憲法委員会 7 名の投票です。委員会が憲法第 2 条 §6〜7 (トレジャリー引き出しの開示要件) に照らしてどう判断するかで、DRep の議論の土台が変わります。並行して、大口 DRep が投票理由 (rationale) で関連当事者の取り分と資金の管理主体をどう評価するかが、この提案の行方を左右するはずです。
ことば
- CuTT — Toto Finance が発行する銅のトークン。1 CuTT が検証済みの銅 1 ポンドに対応する。今回の提案では Ethereum で発行し、Cardano へブリッジした分をトレジャリーの持ち分として扱う。
- Net Change Limit — 一定期間にトレジャリーから引き出せる総額の上限。個々の提案が良くても枠が残っていなければ可決できないため、大型の引き出し提案では残り枠の確認が欠かせない。
- COMEX Grade 1 — 米国の先物取引所 COMEX が受け渡しに認める品質規格の電気銅。品質と倉庫の記録が標準化されているため、トークンの裏付け資産として検証しやすい。
一次ソース / 関連リンク
Cardano Strategic Copper Reserve(GovTool の提案ページ・投票状況)(gov.tools)
ガバナンスアクションのメタデータ(Cexplorer)(cexplorer.io)
提案書全文(Toto Finance・PDF)(totofinance.com)
提案メタデータ原本(CIP-108 JSON-LD)(totofinance.com)
