Crypto Coin Show・Ashton Addison氏によるCharles Hoskinson インタビュー(2026年Q2初頭収録、約1時間24分)の全論点解説。Clarity法案の構造的欠陥、Midnight Passportの7層設計、AIエージェント主導時代におけるブロックチェーンの位置付け、そして自己主権という最終解。
「私個人はこの法案で得をする。だからこそ反対している」
インタビューの中盤、Hoskinson氏は静かにこう述べました。
「Clarityは現状のままなら、私のプロジェクトには有利です。Cardanoもイーサリアムも XRP も既にcommodity扱いで通過する。私が本当に建てたものは security 認定されない。だから自分のためだけ考えるなら『パスさせろ』と言うべきです。XRP陣営の一部のように。けれど業界全体として見たとき、私はこれを通すべきではないと考えます」(45:00–48:00 要約)
このスタンスが、今回のインタビューを単なる「規制反対論」と一線を画すものにしています。Hoskinson氏は自身がWyoming州で30以上の暗号資産関連法を全会一致で成立させた経験を持ち、2022年にはLummis-Gillibrand両議員のFinancial Innovation Act(FIA)の起草に関わりました。立法プロセスを内側から知る当事者として、現状のClarity法案には何が欠けているのかを論じています。
本稿では、約1時間24分のインタビューを7つの論点に整理し、SIPOの視点から重要な部分を解説します。
1. なぜ今も建設し続けるのか
冒頭、Ashton氏が「強気相場でも弱気相場でも、なぜビルドし続けるのか」と問います。Hoskinson氏の答えは明快でした。
「金のためならもう十分稼ぎました。1ドルBTCの頃から続けて今ここにいるなら、世界で最も無能なビジネスマンか、哲学のためにいるかのどちらかです。私は哲学のために、ここにいます」
そしてSatoshiビジョンの「未完の4要素」を提示します。
- 世界規模の分散型金融OS化——「株式・債券は乗っていますか?レンディングは?」 → 進捗あれど未完
- 耐障害性と分散化——「効率化のために再中央集権が進む現状は問題」
- プライバシー——「この欠如により、いつでも経済的に de-platform される」
- アイデンティティ——「規制と非規制、許可と非許可を分ける機能が必要」
「我々は前に進んでいるが、進み方がアシンメトリーです。Midnightは『最後のピース』を入れに行くプロジェクト。これが私の引退前の最後の仕事になるでしょう」
2. Clarity法案の3つの構造的問題
インタビュー中盤、Hoskinson氏は約25分間にわたりClarity法案を論じます。論点は3層に整理できます。
A. 1933年証券法は「修正不可能(unamendable)」
「1933年証券取引法は93年前のものです。FDR大統領、JFKの父が初代SEC委員長、世界恐慌のさなか、ドイツでヒトラーが台頭していた時代の法律。それが今も『証券』の定義を縛っている」
Hoskinson氏は、まずこの定義に「Blockchain-based digital security」というカテゴリを追加することが出発点だと主張します。それなしにルール作りを進めても、ZK開示やオンチェーン情報開示といった現代の手法は法的フックを持てない、と。
B. プロセスの構造的腐敗——3層すべてで失敗
立法には3つの層があるとHoskinson氏は説明します。
- Statutory(法律)= 議会が通す法そのもの
- Rule-making(規則制定)= SEC、CFTC等の機関が運用ルールを作る
- Industry interface(業界連携)= FINRAのような自主規制機構を通じた継続的調整
「今回のプロセスでは、3層すべてが破壊されました」
具体的批判は以下のとおりです。
- 「Crypto Czar(暗号資産担当)」に立法経験のない人物が就任した
- 民主党を完全に排除した党派的プロセスとなった
- グローバル連携が皆無——MiCA、JFSA、シンガポール、ADGMなど他国規制者との対話が一度も行われなかった
- NIST(国立標準技術研究所)すら呼ばれず、「部屋の中は弁護士のみ」の状態で技術用語を議論した
- 「部屋に入るには $1〜5M」という patronage system が事実上機能した
過去の成功例として、Hoskinson氏はWyoming州での経験を挙げます。「30以上の暗号資産関連法を全会一致で通しました。共和党も民主党も賛成した。事前準備に数ヶ月かけ、業界・規制当局・両党を一つのテーブルに座らせ、利害をすり合わせる。これが立法の基本動作です」
C. 「Security by Default」の致命的影響
最も重要な論点は、もしClarity法案が現状のまま成立した場合の影響です。
「現状の法案では、新規プロジェクトはデフォルトで証券扱いになります。Mature Blockchainの定義を満たすまで成長する必要があるが、その成長のために必要なのは、上場・VC投資・コミュニティ拡大——これらすべてがsecurityラベルでブロックされます」
具体的には、
- 取引所への上場経路が事実上閉ざされる
- VC投資が入らない(証券性リスクのため)
- 分散化への経路がない(「Securityである限り、disclosure継続のために中央化された主体が残らねばならない」)
「Cardano・XRP・ETHはすでにcommodityとして扱われ、Mature Blockchain testで通過します。だからこの法案は私には有利です。けれど、これは『既存大手のための法案』です。我々が成長してきた曖昧さの恩恵を、後続から取り上げることになる。それは銀行やWall Streetがやってきたことと同じで、業界の理念に反します」
そしてHoskinson氏は、Pass せず2029年まで待つ という選択肢を提示します。「曖昧さの中で裁判を戦うほうが、法律が敵に回った状態で戦うよりはるかに良い」
3. SIPO的読み解き:Cardanoの「Mature Blockchain」地位の意味
ここからは、SIPOの視点で本インタビューを読み解きます。
Hoskinson氏の発言は、Cardanoエコシステムが置かれた構造的ポジションを浮き彫りにします。
ADAは既にcommodity扱いで、新法案下でも基盤通貨としてのステータスを失いません。ただし、Cardano上で新規プロジェクトを立ち上げるビルダーは、もし米国所在ならば「security by default」の網にかかります。
これは現実的に何を意味するか。
- Cardano上の新規DeFi/NFT/RWAプロジェクトの拠点選択が、米国外(UAE、英国、シンガポール、日本等)にシフトする圧力となる
- IOG・Midnight Foundationが既に進めているUK・Argentina・Abu Dhabi・Hong Kongのサンドボックス活用が、米国規制の代替経路として相対的に重要性を増す
- Partner Chain戦略(Midnight、Minotaur等)による分離アーキテクチャが、規制境界線を引きやすくする利点を持つ
これらは批判的なニュースではなく、SIPOがCardanoエコシステムの現在地を理解する上で見ておくべき構造です。
4. Midnightの現在地——Passport 7層スタックと提携拡大
インタビュー終盤、Hoskinson氏は画面共有で Midnight Passport の設計を解説します。
7層スタック構成は以下のとおりです。
- Trusted Execution Environment(TEE)——iOS Secure Enclave / Android Strong Box を活用
- Seed——TEE内で生成、外部に出ない
- Wallet層——1 Seedから複数ウォレットを派生
- Identity層——DID(分散型ID)を統合
- Naming層——
ashton@midnightのような人間可読アドレス - Chain Abstraction層——Bitcoin・Ethereum・Solana・Cardano等を統一インターフェースで操作
- App Connector層——DApp接続、ペルソナ管理(新規ユーザー / Enterprise IT / Compliance Officer / Power User)
「QRコードをスキャンして60秒で完全機能ウォレットが立ち上がります。24語のシードフレーズを覚える必要はありません。Recovery serviceを同時にセットアップしますし、暗号化キーチェーンはGoogle Drive/OneDriveに投げても中身は読まれません」
提携の現状として言及されたのは以下です。
- Monument Bank(既発表のtokenized deposits)——「Web 2.5銀行」のリファレンスケースとして
- Google Cloud / MoneyGram / Vodafone——エンタープライズ統合
- zk.me——ZK KYB(Know Your Business)、ZK ロケーション開示の実装パートナー
- Midnight City(midnight.city)——agentic civilization、Passport普及の入口体験として位置付け
「春から夏にかけてデモが続き、その後5〜10のverticalで実体験ができる状態になります。最終的には『Bitcoinを安全に使うならMidnight Passport』と言われる存在を目指します」
5. AIエージェントが主役の時代——Proof Layerという欠落
本インタビューでSIPOが特に注目すべき発言が、AI Agentに関する論点です。
「2035年のインターネットでは、検索・コマース・広告・コンテンツ消費の大部分がエージェント主導になります。彼らは人間ではないので、表情や声色で信頼を測れない。エージェントの言語は、Proof(証明)です」
そしてブロックチェーンを「algorithmic trust engine」と位置付け、x402、OWS、Ethereum Name Serviceなどのagent標準が形成されつつあることを指摘した上で、こう続けます。
「ただし、決定的な欠落があります。Proof Layerが存在しない。Selective disclosureとZero Knowledge Proofs——これがエージェント間の言語になり得ます。Midnightをこの方向に拡張しているのは、長年の試行錯誤の中で発見した『missing feature』だからです」
この見解は、SITION・SIPOがこれまで観察してきたCardano/Midnightの構造的優位性と一致します。EUTxOモデルの決定論性、ZKによるselective disclosure、DIDによるエージェント認証——これらは今後数年のうちに「AIエージェント経済の前提条件」として競争力に直結する可能性があります。
6. 自己主権ウォレット普及こそ本質的解決——「政治家に陳情するな」
インタビューの終盤、Hoskinson氏は「では我々視聴者に何ができるのか」というAshton氏の問いに対し、政治的アクションを正面から否定します。
「政治家に手紙を書け、と言うつもりはありません。彼らは聞きません。私は全員と話してきました。彼らが聞くのは、私が100万ドルの小切手を切ると思っているときだけです。半分はそれですらないでしょう」
代わりに提示されるのが「Vote with your feet(足で投票せよ)」というメッセージです。
- 米ドルから暗号資産へ資産を移す
- レガシー金融システムから分散型システムへ移る
- 自己主権ウォレット、自己主権ID、自己保管を実践する
- 真に分散化されたプロトコルを使い、普及させる
「Cryptoが2013年の規模なら、彼らは法律で禁止できました。今はもう禁止できません。お金が中に入りすぎている。だから今、彼らは『コントロール』を試みている。ETFを通じて、規制された保管者を通じて、銀行を通じて。あなたが自分のキーを自分で持っている限り、それは不可能です」
そして印象的なのが、selective disclosureの政治的応用への言及です。
- Epstein文書のリーク——「FBI/DOJの内部者が、自分の身元を露出せず『この文書を持つ権限がある者である』ことを証明して開示できる」
- 投票システム——「Dog with Hatコインのガバナンス投票のほうが米国大統領選より検証可能というのは、おかしくないか」
- ID盗難(年間 $56B 被害)——「同じ技術で根本解決できる」
- 政府の説明責任——「イラン爆撃で女子校150名死亡を米軍は認められない構造を、disclosure systemが変える」
これらの具体例を通じて、Hoskinson氏は「ZK + DID + 自己主権」を単なる技術仕様ではなく、社会制度としての可能性として描いています。
7. ソビエト崩壊メタファーと「自由はデフォルト」
インタビューの結びに、Hoskinson氏はソビエト連邦崩壊の話を持ち出します。
「私のもとで長年働いていたDan Friedmanが、ウクライナのソビエト時代の話をします。RamboのVHSを密輸すると最高15年の懲役刑だったのに、人々は肉や物々交換で取引していた。Rolling Stonesもブルージーンズも止められなかった」
「1991年の崩壊直前、Metallicaがソ連で開いたコンサートは史上最大規模になった。ソ連政府は通常なら鎮圧したが、人数が多すぎて『鎮圧したら我々が死ぬ』と判断した。最終的には兵士たちもパーティーに加わった」
「自己主権ウォレットも同じです。Seductiveでappealingにする。十分な人が使えば、根本から構造を腐食させて崩壊させる。あなたがすべきことは、自分のagencyを誰にも渡さないことです」
結論——Cardano/Midnightエコシステムへの3つの示唆
本インタビューから、SIPOが今後の活動方針として参照すべきポイントは以下の3点と考えます。
- 規制環境の不確実性は数年継続する——Clarity法案の成立有無に関わらず、米国規制は当面流動的です。Cardano・Midnightは既にUK・Argentina・Abu Dhabi等の代替サンドボックス活用を進めており、地理的分散がエコシステムの安定性に寄与します。
- Midnight + Partner Chain アーキテクチャの構造的優位性——
L2+ラップ済みブリッジではなく、Partner Chain で規制境界を分離する設計は、規制対応の観点でも合理的です。Midnight Passport 7層スタック、Monument Bank tokenized deposits、USDM × Midnightブリッジ(先日報告した動き)は、いずれもこの方向性の具体化です。 - AIエージェント経済への先行投資——Hoskinson氏が強調した「Proof Layer」は、Cardano/MidnightがUTxO・ZK・DIDという3要素を既に持っている点で構造的にフィットします。SITIONが先日確立した「AI Agent Trinity Doctrine」とも完全に一致する見解です。
政治家に陳情するな、自分で使え というHoskinson氏のメッセージは、SIPOが日々取り組むSPO運用・DRep活動・ノード運営・教育コンテンツとも本質的に同じ方向を向いています。1人のユーザーが1つのウォレットを自分で持つ。その地道な積み重ねが、最終的に法律より強い構造を生む——これがインタビューの核心と理解しています。
一次ソース
Charles Hoskinson Interview by Ashton Addison (Crypto Coin Show)
“Charles Hoskinson: The Clarity Act Will KILL American Crypto — Here’s Why”
https://www.youtube.com/watch?v=2XyyoviUhIk
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