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DUST は 4 つの局面を回っています——手数料を「誰が払うか」を書き換える sponsorship の設計を読む

2026-08-29SIPO

Midnight の公式ブログが、8 月分の State of the Network を公開しました。中心に置かれているのは DUST です。生成から消滅までが 4 つの局面を回る仕組みであること、そしてその上に載る「手数料を誰が払うか」を付け替える設計——sponsorship——が、今回まとまった形で説明されています。

DUST は、価格が付いて売買される資産ではありません。NIGHT を持っていると自動的に湧いてきて、使わなければ減っていく、時間で満ち引きする容量です。この形を選んだことが、Midnight の利用者体験をどこまで変えうるのか。公式ブログと開発者ドキュメントに書かれていることから、順に組み立て直してみます。

■ 4 つの局面——生成、上限、減衰、ゼロ

公式ブログは、DUST のライフサイクルをこう書いています。

The generation and depletion of the DUST resource moves through a distinct four-phase cycle: generation, constant-capacity, decay, and empty.

生成(generation)、上限での一定(constant-capacity)、減衰(decay)、空(empty)の 4 つです。ブログはこの構造の狙いを、「ネットワークの資源上限を予測可能に保ちながら、使われていない割り当てを線形に薄れさせ、台帳の状態を肥大させない」ことだと説明しています。

開発者ドキュメントは、同じ 4 局面をもう少し機械的に定義しています。生成中は「作成から上限に達するまで(あるいは NIGHT が使われるまで)」で、値は線形に増えます。上限に達すると、裏付けとなる NIGHT の UTXO が使われるまでその値で一定です。NIGHT が使われた瞬間から減衰が始まり、「値がゼロに達するまで」続きます。減衰の速さは生成と同じ率で、向きが逆になるだけです。そしてゼロに達したあとは「その後ずっと」ゼロのままです。

増えるときと減るときが同じ傾きだ、というのがこの設計の輪郭を決めています。急に失われることも、急に膨らむこともありません。

■ 1 NIGHT につき 5 DUST、満充電までおよそ 1 週間

数字はドキュメントに定数として書かれています。上限は night_dust_ratio = 5,000,000,000(Speck / Star)、生成と減衰の率は generation_decay_rate = 8,267(Speck / Star / 秒)です。上限に達するまでの時間はこの 2 つの割り算で決まります。

Δ = ρ ÷ g = 5,000,000,000 ÷ 8,267 ≈ 604,800 seconds

604,800 秒はちょうど 7 日です。人間の単位に直すと、公式ブログの表現どおり「1 NIGHT が最大 5 DUST を生む」、そして DUST の解説記事にあるとおり「満容量に達するのは 1 週間かけて」ということになります。ドキュメントの例では、100 NIGHT はおよそ 1 週間後に合計 500 DUST に達します。

ここで押さえておきたいのは、この 5 という数字が「所持量」ではなく「上限」だという点です。使えば減り、また溜まる。溜まる速さは NIGHT の量に比例し、上限も NIGHT の量に比例します。公式の DUST 解説記事は、この設計の意味をこう書いています。

This design decouples transaction costs from token price volatility. As long as NIGHT is held, it continuously regenerates the DUST required for network operations, which enables predictable operational costs.

手数料の原資が市場価格から切り離される、という主張です。手数料をトークンで払う設計では、トークンが高騰すれば利用コストも上がります。DUST は買うものではないので、その連動が切れます。

■ NIGHT を動かすと、DUST は消えます

運用上いちばん効いてくるのは、減衰の引き金です。ドキュメントは明確です。

Once the backing NIGHT is spent, the DUST UTXO “decays” to zero.

裏付けの NIGHT が使われた時点で、その DUST は減衰に入ります。まだ生成の途中であっても同じです。さらに、NIGHT の一部だけを使った場合は「おつりが新しい NIGHT の UTXO を作り、そちらが新しく DUST の生成を始める一方、古い DUST の UTXO は減衰する」と書かれています。

つまり、NIGHT を送る・分割するという動作は、手数料の残高を作り直す動作でもあります。送金の直後に手数料が薄くなり、満充電まで再びおよそ 1 週間かかる。DUST を日常的に使う立場からは、NIGHT を頻繁に動かさないほうが手数料の面では安定する、という形になります。

なお、DUST 自体は移動させられません。ドキュメントは「DUST はガス専用のシールドされた容量資源であり、利用者どうしで DUST を移転することはできない」としています。足りないから誰かに送ってもらう、という解き方はここでは使えません。

■ 最初の 1 回を、どう払うか

DUST を生成するには、NIGHT の鍵を登録する必要があります。登録の表は「NIGHT の公開鍵と DUST の公開鍵を結びつける」形で記録されます。ところが、この登録そのものが引っかかります。

A first-time DustRegistration faces a bootstrap problem: the transaction itself costs DUST, but a wallet cannot hold DUST until its NIGHT key is registered.

登録するには DUST が要るが、登録しないと DUST は持てない。台帳側はこれを retroactive generation(遡及生成)で解いています。まだ生成を始めていない NIGHT の UTXO も、生成中の UTXO と同じ率・同じ上限式で、その UTXO 自身が作られた時点から「仮想的に」DUST を溜めてきたものとして扱う、という考え方です。登録トランザクションは allow_fee_payment という手数料枠を宣言することで、その遡及ぶんの DUST から自分の手数料を払えます。ドキュメントは「あらかじめ持っている DUST も、2 つ目のウォレットも不要です」と書いています。

ここまでが、NIGHT を持っている人の話です。問題は、NIGHT を持っていない人がどうやって始めるのかでした。

■ sponsorship が書き換えるのは「誰が払うか」です

公式ブログは、この点をアプリケーション側の課題として提示しています。

Most decentralized applications lose up to 80% of users during onboarding due to the friction of acquiring native tokens for gas fees.

ガス代のためにネイティブトークンを手に入れる、という手間で、オンボーディング中に最大 8 割の利用者を失う——これは Midnight 側の主張であり、独立した出典が併記されているわけではありません。ただ、示している問題自体は分かりやすい形をしています。使ってみたいだけの人に、まず取引所で口座を作らせるところから始めるのか、という問いです。

ブログが挙げる解き方が sponsorship です。

Fee sponsorship resolves this drop-off by enabling developers or third parties to cover DUST costs on behalf of end users.

開発者や第三者が、利用者に代わって DUST の費用を負担できるようにする。ブログはこれによって「資本資産(NIGHT)を一切消費しないままトランザクションを動かせる」とし、結果として「プライバシーを損なわずに、Web2 のアプリと同等の利用者体験」が得られると書いています。

ここが DUST の形と噛み合っている部分です。DUST は買うものではなく、NIGHT を持っていれば毎週勝手に湧いてくるものです。だとすれば、NIGHT を持っている側——アプリの運営者——にとって、手数料は「支出」ではなく「持っているだけで再生される容量の割り当て」に近くなります。しかも公式サイトが書くとおり、利用者が使うのは DUST であって NIGHT ではないので、負担しても保有そのものは減りません。

同じ月に、隣接する経路も 1 つ動いています。Sundae Labs の Capacity Exchange で、対応する Midnight アプリの手数料を DUST の代わりに USDM で決済できるようになった、と State of the Network は書いています。手数料の原資を NIGHT 由来の容量以外から持ってくる、という方向です。

なお、NIGHT のほうは秘匿されていません。公式ページは「NIGHT は Midnight ネットワークの非シールドのネイティブ/ガバナンストークンである」と明記し、送り手・受け手・金額のメタデータを隠さないとしています。総供給量は 240 億 NIGHT です。秘匿されるのは DUST の側であって、NIGHT の移動ではありません。

■ 同じまとめに並んだ、エコシステム側の更新

State of the Network は DUST 以外の項目も並べています。数字と範囲が書かれているものだけを拾います。

VIA Labs のクロスチェーン・メッセージングが稼働し、「130 を超える公開/非公開のネットワーク」とコントラクト間で通信できるようになった、とされています。ラップドアセットを介さない形です。lumera は Cascade という分散オフチェーン保管層の統合で、対象は「暗号化ファイル、資格情報の参照、ゼロ知識証明のアンカー、実世界資産のデータ」だと書かれています。

Midnight Node は 2.1.0 が出ました。State of the Network はこれを台帳のハードフォークを伴う更新とし、spec_version が 1_000_003 から 2_001_000 へ、transaction_version が 3 から 4 へ移ると記しています。

このほか、ソニー系 S.BLOX による NIGHT の取扱い開始と、3 つの波で合計 12,500 ドルを配分する Midnight Buildathon も同じまとめに含まれています。これらは SIPO でそれぞれ単体で扱っているので、ここでは項目として並べるにとどめます。

■ 編集メモ

1 点、書ける範囲と書けない範囲の境目を記しておきます。「第三者が利用者の DUST 費用を肩代わりできる」という記述は、今回の State of the Network にあるものです。一方、開発者ドキュメントの DUST アーキテクチャの頁で明示的に解かれているのは、前述の bootstrap 問題——自分の NIGHT の遡及ぶんで自分の登録手数料を払う経路——までで、第三者が代わりに払う仕組みそのものの実装は、この頁には書かれていません。

登録が NIGHT の公開鍵と DUST の公開鍵を結びつける表である以上、両者が同じ人物である必要はない、という構造は読み取れます。ただ、それを「こう実装される」と断定できる記述を、現時点の公開ドキュメントからは確認できませんでした。sponsorship がどのインターフェースで提供されるのかは、これから出てくる部分だと見ています。

■ 再検証推奨先

1 つ目は、開発者ドキュメントの DUST 関連ページです。sponsorship の実装が追記されるとすれば、まずここに入ります。定数(night_dust_ratio と generation_decay_rate)が変更されるかどうかも、同じ場所で確認できます。

2 つ目は、Capacity Exchange の対応アプリの広がりです。USDM で手数料を決済できる範囲が増えるほど、「NIGHT を持たない利用者が始められるか」という問いへの答えは、sponsorship 以外の側からも埋まっていきます。

3 つ目は、実際のアプリケーションが sponsorship を採用するかどうかです。設計として可能であることと、運営者が自分の NIGHT でその費用を持つことは別の判断です。8 割という数字が本当なら、持つ理由はある、という主張になります。


一次ソース / 関連リンク

公式ブログとドキュメントの記述は 2026 年 8 月 29 日に確認したものです。更新される可能性があります。