Cardano のスケーリング方式 Leios を試す公開テストネット「Musashi Dojo」が、プロトタイプ 2026w36 への入れ替えにともなって作り直されました。参加しているプール運用者は、ローカルの状態を消して同期し直し、ノードと設定を更新したうえで、投票に使う BLS 鍵を新しい cardano-cli で登録し直す必要があります。
SIPO がこの種の告知を追うのは、テストネットの入れ替え作業そのものが、将来メインネットで同じ手順を踏むときの予行演習になるからです。しかも今回の版には、運用者にとって性質の悪い変更が 1 つ含まれています。鍵の登録に失敗しても、エラーが出ないというものです。
以下では、作り直しが必要になった理由、鍵まわりで何が変わったのか、自分の席が生きているかをどう確かめるか、そして委員会の設定がどこへ移ったのかを順に見ていきます。
■ 作り直しが必要になった理由
プロトタイプ 2026w36 は、Leios の開発リポジトリで日本時間 9 月 7 日 20 時 29 分に公開されました。リリースノートは冒頭で、作り直しが必要だと明記しています。
Requires respin: Delete your local state and re-sync from genesis or sideload from the IOG relays, using the
musashinetwork config from https://book.play.dev.cardano.org/adv-musashi.html. The respin is expected to happen in 1-2 days.
つまりローカルの状態を削除し、genesis から同期し直すか、IOG のリレーから流し込むかのどちらかを行い、その際に musashi のネットワーク設定を使う、という指示です。作り直しは 1〜2 日のうちに起きる見込みとも書かれていました。
実際の実施は日本時間 9 月 10 日に告知されています。Musashi を支援しているプール運用者の kiwipool2 氏が、この日に 2026w36 で作り直すこと、データベースを消し、ノードと設定を更新し、プールを登録し直したうえで、新しい BLS 鍵を使うか既存の鍵を Discord の案内どおりに修正することを呼びかけました。この投稿は、Musashi Dojo の立ち上げに関わってきた Blink Labs のアカウントにも再投稿されています。
作り直しを伴わない改善も入っています。メモリプールが埋まってもブロックの生産が遅くならないよう、スナップショットの再計算に時間の上限を設けた点。そして投票の記録に、その時点の集計値としきい値が載るようになった点です。
■ いちばん危ないのは、エラーが出ないところです
運用者にとっての本題は、BLS の鍵です。リリースノートは、鍵の所有証明(proof of possession)が IETF の草案 draft-irtf-cfrg-bls-signature-06 が定めるドメイン分離タグを使う形に変わったと述べています。その結果、これより前の版で作られた証明はもう検証を通りません。登録はこの版の cardano-cli で行う必要があります。
問題はここからです。リリースノートはこう書いています。
A key that fails to verify is not rejected: the pool stays seated but cannot vote, with no error to say so.
検証に通らない鍵は拒否されません。プールは委員会の席に座ったままで、しかし投票はできず、そのことを知らせるエラーも出ない、ということです。運用者の視点でこれを言い換えると、ログを見ても正常に見えるということになります。何かが壊れていれば気づけますが、静かに票だけが出なくなる状態は、意識して確かめない限り見つかりません。
もう 1 つ、鍵に有効期限が付きました。Leios の委員会はエポックの境界で選ばれるようになり、投票鍵は KES 鍵と同じように期限が来たら交換する対象になります。リリースノートによれば、鍵が有効なのは登録されたエポックから ceil(maxKESEvolutions × slotsPerKESPeriod / epochLength) + 2 エポックの間です。具体的に何エポックになるかはネットワーク側のパラメータ次第なので、本稿では数字を当てはめません。設計の意図としては、鍵の交換が既存の KES 鍵の交換作業に相乗りする形になっています。
そして期限切れも、席を空けてはくれません。失効した鍵を持つプールは委員会での重みを保持したまま投票できなくなり、その席が他へ割り当てられることもない、と明記されています。つまり鍵の失敗と鍵の失効は、どちらも「席はあるのに票がない」という同じ状態に着地します。
■ 自分の席が生きているかを確かめる
エラーが出ない以上、確かめる側から見に行くしかありません。今回の版では、確認のための出口が CLI に用意されています。
query pool-state:そのプールの BLS 鍵と、それが登録されたエポックを返します。query stake-snapshot:leiosCommitteeとして、各席のプール、重み、登録されている鍵、登録されたエポック、そして投票中かどうかを返します。鍵はあるのに"voting": falseになっている席は、期限が切れています。
ただしリリースノートは、この出力について「初版であり、また変わる可能性が高い」と断っています。監視スクリプトに組み込む場合は、項目名が動く前提で書いておくのが無難です。
Leios のテストネットは、8 月にも不具合の記録を公開しています。1 バイトの分岐が全マシンを止めた件は、記録つきで公表されました(Leios のテストネットで壊れたものが、記録つきで公開されました)。壊れ方を隠さない運用が続いているのは良い材料ですが、今回の「エラーが出ない」は壊れ方ではなく静かな不発です。記録には残りません。
■ 委員会の設定が、プロトコルパラメータへ移りました
運用手順とは別に、今回の版にはガバナンス側から見て意味のある変更が入っています。委員会の規模、定足数のしきい値、エンドーサーブロックの上限、そして証明書までの間隔が、プロトコルパラメータから読まれるようになりました。リリースノートはその狙いを、ノードのリリースなしにガバナンスがこれらを変更できるようにするためだと説明しています。
これは小さな行に見えて、決定権の置き場所の話です。委員会の大きさやしきい値がノードのコードに埋まっている限り、それを変えるにはリリースが要ります。パラメータへ出せば、変更はオンチェーンの手続きの側に移る。Leios がメインネットへ来たときに、この種のつまみを誰がどの手続きで回すのかは、SPO と DRep の双方にとって直接効いてくる論点です。テストネットの段階でその形が先に置かれたことは、記録しておく価値があります。
委員会をエポック境界で選ぶようになったこと自体にも実利があります。これまでは投票を検証するたびに委員会を導出しており、その分の負荷がかかっていました。なお今回の版は新しい cardano-ledger へのリベースも含み、Leios とは独立した Dijkstra のブロック構造の変更が入っています(cardano-node 11.1.1 が出ました)。
■ ここから見ておくもの
3 つあります。1 つ目は、Musashi に参加しているプールのうち、どれだけが新しい鍵の登録まで到達するかです。「席はあるが票がない」プールが多く残れば、定足数の設計そのものを試す材料になります。テストネットで表面化する分には、むしろ好都合な失敗です。
2 つ目は、作り直しの頻度です。8 月以降、状態の削除を求める版が繰り返し出ています。プロトタイプの段階ではそれが普通ですが、間隔が伸びていくかどうかは成熟度の指標になります。
3 つ目は、CLI の出力が固まるかどうかです。運用者が自動で監視できる形が定まって初めて、「静かに票が出ていない」は検知可能な障害になります。いまはまだ、人が見に行く運用です。
■ ことば
- respin(作り直し):テストネットを最初の状態から立ち上げ直す操作です。今回は台帳やブロックの構造に互換性のない変更が入ったため、これまでのデータを持ち越せず、参加者全員が手元の状態を消すことになりました。
- BLS 署名鍵:複数の署名を 1 つにまとめられる方式の鍵で、Leios では委員会が投票するときに使われます。多数の票を小さくまとめられることが、この方式を採る理由です。
- KES 鍵:Cardano のプール運用者が定期的に交換している、期限付きの、ブロックを作るために使う鍵です。今回の版で投票鍵にも同じ発想の期限が入ったため、交換作業を既存の運用に相乗りさせられる設計になっています。
一次ソース / 関連リンク
- Ouroboros Leios プロトタイプ 2026w36 リリースノート(input-output-hk/ouroboros-leios・2026 年 9 月 7 日)
https://github.com/input-output-hk/ouroboros-leios/releases/tag/prototype-2026w36 - MusashiNet prototype(The Cardano Operations Book・musashi のネットワーク設定)
https://book.play.dev.cardano.org/adv-musashi.html - 作り直しの実施を告知したプール運用者の投稿(2026 年 9 月 10 日)
https://x.com/kiwipool2/status/2097976628458684680 - BLS 署名の所有証明が参照する IETF 草案 draft-irtf-cfrg-bls-signature
https://datatracker.ietf.org/doc/draft-irtf-cfrg-bls-signature/ - 関連:Leios のテストネットで壊れたものが、記録つきで公開されました(SIPO.TOKYO・8 月 27 日)
https://sipo.tokyo/signal-20260827-ef9f1eda/ - 関連:cardano-node 11.1.1 が出ました(SIPO.TOKYO・9 月 9 日)
https://sipo.tokyo/signal-20260909-78634731/
