9月21日、Cardano 財団 (CF) は、HTTP 上の決済規格 x402 の公式 SDK に Cardano が加わったと発表しました。npm の公開記録では Cardano 用パッケージ @x402/cardano が日本時間9月19日に初めて配布されており、TypeScript の開発者はインストールするだけで、API の利用料を ADA や Cardano ネイティブトークンで受け取る仕組みを組み込めるようになっています。
9月10日の Signal で扱ったのは、Cardano の実装コードが x402 のリポジトリに取り込まれた段階でした。今回はそれが公式の配布物として誰の手元にも届く段階です。SIPO は、標準に名前が載ること、動くコードが入ること、実際に使われることを分けて見てきました。三つ目の段階に向けて何がそろい、何がまだ残っているのかを整理します。
初期報: Cardanoがx402 SDKに統合、API決済にADA対応 / 前回の Signal: x402 に Cardano 決済の実装が merge、仕様書から動くコードへ
■ リポジトリの中のコードから、npm の配布物へ
npm レジストリの記録によると、@x402/cardano の最初の版 2.26.0 は協定世界時9月18日 23時19分 (日本時間19日 8時19分) に公開されました。版番号は x402 の中核パッケージ @x402/core の最新版 2.26.0 とそろっていて、x402 の公式スコープ @x402 の下に、EVM 系向けの @x402/evm、Solana 系向けの @x402/svm と並ぶ形で置かれています。ライセンスは Apache-2.0 です。
9月9日にコードが本体へ取り込まれた時点では npm での配布はなく、試すにはリポジトリを手元に取得してビルドする手順でした (CF が紹介したデモもこの手順です)。npm で配布されたことで、x402 をすでに使っている TypeScript のプロジェクトは、依存パッケージを一つ足すだけで Cardano を選択肢に加えられます。
CF のスレッドは、ここまでの経緯も説明しています。仕様書の取り込み後、CF のエンジニアが支払う側 (クライアント)、受け取る側 (サーバー)、決済を仲介する側 (ファシリテーター) の三つを実装し、AI エージェント向けの決済基盤を手がける Masumi Network のチームと組んで、Masumi を送金方式の一つとして加えました。そのうえで3か月にわたるレビューを通したとしています。対応言語は TypeScript が最初で、Python が次だと予告されています。
■ 「アカウントも API キーも要らない」の中身
x402 は、HTTP の応答コード 402 Payment Required を実際の支払い手順に変える規格です。サーバーが「この先は有料です」と機械が読める形で返し、クライアントが支払ってから同じ要求を出し直します。CF の説明では、Coinbase が作り、現在は Linux Foundation が管理していて、参加企業には Visa、Mastercard、Stripe、Google、AWS、Coinbase が名を連ねています。
CF が強調するのは、支払いのために人が関わる場面がなくなる点です。API の呼び出し1回、計算処理1件、データ1件を、ウェブの要求1回の中で買えます。事前のアカウント登録も、API キーの発行も、決済画面もありません。AI エージェントが作業の途中で必要なものを自分で買う、という使い方を想定した設計です。CF は「x402 にすでに載っているサービスは、どれも Cardano を有効にできる」とも述べています。
■ 決済の仲介役を、誰が運用するか
ただし、サービス側で Cardano を「有効にする」には、Cardano の取引を検証して送信するファシリテーターが必要です。CF が紹介したデモの README (8月時点の更新) は、ライブラリが既定で使う公開ファシリテーター x402.org/facilitator は EVM 系と Solana 系のみに対応しており、Cardano に対応した公開のホスト型ファシリテーターは存在しないと注記しています。パッケージを入れるだけでは完結せず、ファシリテーターを自分で立てるか、立てた誰かを使う必要があるということです。
その受け皿として CF が公開しているのが、Java で書かれたファシリテーターです。README によれば、ファシリテーターは鍵を持たず署名もせず、支払う側が署名した取引を検証して送信するだけなので、資金を自分で動かすことはできません。3種類の送金方式 (通常の送金、Masumi のエスクロー、任意のスクリプト) に対応し、166件の単体テストを通したうえで、preprod テストネットでは実際のオンチェーン取引で端から端まで動作を確かめたとしています。一方で、メインネットではまだ一度も動かしていないことも明記され、導入前に確認すべき項目の一覧が添えられています。
ブロック生成を担う側から見ても、ここは見慣れた構図です。ソフトウェアが公開されることと、それを本番で止めずに回す運用者が現れることは、別々に進みます。
■ 使われる段階への距離
今回そろったのは、公式の配布物と、仲介役の参照実装です。残っているのは、メインネットで仲介役を引き受ける運用者と、そこを通って実際に資金が動く最初の事例です。
確認できる次の一点は、公開ファシリテーターの /supported 応答に cardano:mainnet が載るかどうかです。CF のファシリテーター README にあるメインネット確認項目が埋まっていくことと合わせて見れば、使われる段階に入ったかを判断できます。あわせて、CF が次と予告した Python 版の Cardano 対応が x402 リポジトリに入るかどうかも、開発者の裾野を測る目安になります。
■ ことば
- x402 — HTTP の 402 応答を使い、アプリや AI エージェントがその場で少額を払って API やデータを使うための決済規格。人の操作を挟まない支払いの受け皿として、複数のチェーンが実装を寄せています。
- ファシリテーター — x402 で、支払いが正しいか検証し、取引をネットワークに送信して決済の成立を確かめる仲介役。サービス側はこれに任せることで、チェーンとの接続を自前で持たずに済みます。
- CNT (Cardano ネイティブトークン) — 専用のスマートコントラクトを書かずに Cardano の台帳上で送金できるトークン。今回の SDK では、ADA と同じ手順で支払いに使えるとされています。
一次ソース / 関連リンク
- Cardano 財団による発表 (スレッド冒頭)
https://x.com/Cardano_CF/status/2101941890278936666 - Cardano 財団のスレッド (経緯と Masumi との協働)
https://x.com/Cardano_CF/status/2101941895270171057 - @x402/cardano (npm パッケージ)
https://www.npmjs.com/package/@x402/cardano - feat: add Cardano implementation for Typescript package (x402 リポジトリ)
https://github.com/x402-foundation/x402/pull/2537 - Cardano x402 Facilitator (Cardano 財団・README に現状と制約の記述)
https://github.com/cardano-foundation/cardano-x402-facilitator - x402 on Cardano デモ (preprod で動く一連の流れ)
https://github.com/Kammerlo/x402-cardano-demo
