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SEC ピアース委員、本人確認は ZK 証明で最小限に

2026-09-26SIPO #Midnight

米証券取引委員会(SEC)のヘスター・ピアース委員が9月23日、ニューヨークで開かれた SIFMA のデジタル資産カンファレンスで講演し、金融機関に課されている本人確認(KYC)とマネーロンダリング対策のデータ収集を、属性ベースの資格情報やゼロ知識証明を使って最小限に絞るべきだと提案しました。講演は委員個人の見解として行われたもので、規則の変更ではありません。

「集めれば集めるほど犯罪者が見つかる」という前提そのものを問い直す内容で、ピアース氏が委員として最後から 2 番目の週に行った講演でもあります。必要な事実だけを必要な相手に示すという考え方は、Midnight が掲げてきた選択的開示と重なります。講演が何を言い、何を言っていないのかを、SEC が公開した原文に沿って整理します。

「干し草の山」を大きくしても、針は見つけにくくなる

講演のタイトルは「Looking for Change in Haystacks」。ピアース氏は、KYC と AML(マネーロンダリング対策)の枠組みが、金融機関に十分な量の情報を集めさせれば、法を守る多数派の中に紛れた犯罪者を捜査当局が見つけられる、という単純な理論の上に立っていると整理します。そのうえで、この発想は「針を 1、2 本見つけるために、干し草の山をどんどん大きくしている」ものであり、山が大きくなるほど針は見つけにくくなる、と述べました。

山の中身として挙げたのは、顧客の氏名・生年月日・住所・識別番号などを集めて確認する顧客識別プログラム(CIP)、一定額を超える現金取引の報告(CTR)、疑わしい取引の報告(SAR)です。ピアース氏は、この仕組みを動かす費用は、悪意ある者を止める効果をはるかに上回っているように見えると指摘し、知らないうちに情報を追跡・蓄積され、流出の危険にさらされている無実の人々の負担にはほとんど注意が払われていない、とも述べています。

規制の側にある「データは多いほどよい」という傾向を、ピアース氏は暗号資産の愛好家が口にする「number go up(価格は上がる)」になぞらえ、「data go up」と呼びました。政府が集めて保存する個人情報や企業情報が 1 項目増えるごとに、誤って、あるいは意図的に取り扱いを誤られる可能性が少しずつ高まる、という指摘です。

「条件を満たすか」だけを確かめる道具

代わりに示したのが、新しい技術を使う道です。属性ベースの資格情報を使えば、年齢、市民権、適格投資家であること、制裁リストに載っていないことといった特定の事実を、その事実を生んだ元のデータを明かさずに証明できる。ゼロ知識証明なら、取引相手に「この人はあなたの要件を満たしている」と伝えながら、名前も収入も住所も知らせずに済む、という説明です。

ピアース氏は、そうした道具はすでに存在しており、欠けているのは採用を認め、促す規制の枠組みだと述べました。規則を見直す際には、段階ごとに「この情報そのものが必要か」「必要なのは、この情報がたまたま証明している事実だけではないか」を問うべきだとしています。

具体策として挙げたのが、本人確認の重複をなくすことです。現在の CIP の規則は、限られた例外を除き、別の登録事業者がすでに確認した顧客であっても、各事業者が個別に情報を集めて確認することを求めています。その結果、同じ人の機微な情報が何十もの機関に複製・保存され、そのぶん危険にさらされる。信頼できる事業者が一度確認したなら、後続の機関がそれに依拠することを標準にすべきではないか、という提案です。

講演が触れなかったこと、重なること

講演は、特定のブロックチェーンやプロジェクトの名前を挙げていません。Midnight や Cardano への言及もありません。ピアース氏が語ったのは、公開台帳は紙の記録よりも透明で改ざんしにくく、暗号技術は元のデータを知らなくても事実が正しいと確信させてくれる、という一般論です。一方で、公開ブロックチェーンが残す取引記録は、捜査当局が分析手法を使って追える、とも述べています。

それでも、方向性は Midnight が掲げてきた考え方と重なります。Midnight は、データをすべて隠すのでも、すべて見せるのでもなく、相手ごとに必要な事実だけを示す選択的開示を設計の中心に置いてきました。ピアース氏の言う「属性ベースの検証」は、その発想を規制の言葉で言い直したものと読めます。

ただし、これは退任を控えた一人の委員の見解です。講演の冒頭でピアース氏自身がそう断っており、SEC や他の委員の見解を代表するものではありません。CoinDesk は、ピアース氏が X に投稿した辞任の書簡をもとに、最終出勤日が 10月2日であり、昨年から SEC の Crypto Task Force を率いてきたと報じています。提案が制度になるには、後に残る委員会や関係当局が、この問いを引き継ぐかどうかにかかっています。

同じ講演で触れた「Innovation Exemption」

講演の前半では、SEC が 9月17日に出した「Innovation Exemption」にも触れています。トークン化された株式を、自動マーケットメイカー(AMM)を使って暗号資産のネットワーク上で取引できるようにする、期間と規模を限った適用除外です。ピアース氏は、トークン化は来ると述べたうえで、米国株へのトークン化された投資機会が国内に選択肢のないまま海外市場で提供されるより、米国で起きてほしいと語っています。

本人確認のデータを減らす話と、トークン化証券の取引を認める話は、同じ方向を向いています。既存の規則が前提にしてきた仲介者と紙の記録の世界から、コードと公開台帳の世界へ、規制の道具を合わせていく作業です。

確認できる次の一点は、SEC が 9月17日に公表した Innovation Exemption の意見募集です。SIFMA はすでに予備的な反応を出しており、どんな意見が集まり、恒久的な規則づくりがいつ始まるのかは、SEC のプレスリリース(2026-90)から追えます。本人確認の重複をなくす提案が規則の見直しに乗るかどうかは、その後の SEC の規則制定の動きで見えてきます。

ことば

  • 属性ベースの資格情報 — 「18 歳以上」「適格投資家である」といった特定の事実だけを証明する、デジタルの証明書です。生年月日や資産額そのものを渡さずに条件を満たすことを示せるため、ピアース氏は KYC の代替として挙げました。
  • CIP(顧客識別プログラム) — 金融機関が口座開設時に顧客の氏名・生年月日・住所・識別番号などを集めて確認する仕組みです。今回の講演では、事業者ごとの重複した収集が情報流出の危険を広げている点が問題にされました。
  • SAR(疑わしい取引の報告) — 不審な取引を見つけた金融機関が当局に提出する報告です。個人情報と取引情報を詳しく含み、講演ではデータの「干し草の山」を構成する柱のひとつとして挙げられました。

一次ソース / 関連リンク

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