Peras の実装を進める開発チーム Tweag は、10 月 2 日付の週次報告で、決済の確定を速める新しい仕組み Ouroboros Peras(ペラス)のプロトコルパラメータの初期実装を、Cardano の台帳コード(cardano-ledger)に統合したと報告しました。研究段階の設計だった Peras が、台帳・コンセンサス・ネットワークという本番ノードの部品の中へ、一つずつ組み込まれ始めています。
Cardano 公式 X は 10 月 7 日、この報告を「Peras is getting real!(Peras が現実のものになりつつある)」と紹介し、証明書の構築とテスト、メインネットへの準備が進んでいると伝えました。この記事では、週次報告と GitHub の記録から、何が統合され、何がまだ残っているのかを整理します。初期報は Perasの証明書構築が進行、メインネット展開に向けテスト実施中 です。
Peras は「投票」で確定を早める
Peras の仕様は CIP-0140 にまとまっています。現在の Cardano のコンセンサス(Ouroboros Praos)に、投票の層を一枚足す設計です。ラウンドごとに抽選で投票委員会が選ばれ、委員はブロックに票を投じます。同じラウンドで同じブロックに定足数の票が集まると、それが「証明書」としてまとめられ、そのブロックとそれ以前の履歴に重みの上乗せ(ブースト)が与えられます。重みの付いた履歴は、後から巻き戻される確率が大きく下がります。
CIP-0140 によると、現実的なパラメータ設定のもとでは、ブロックが確定したかどうかを最短で 2 分ほどで見分けられるようになります。Tweag も公式 X で「最短 2 分での決済確定。それが Peras の目指すところ」と書いています。CIP はその用途として、短時間で取引の状態を確かめる必要があるパートナーチェーンやブリッジを挙げています。
安全面の設計も押さえておきたいところです。速い確定が働くのは、攻撃者のステークが全体の 4 分の 1 までの場合で、それを超えても Praos と同じ水準の安全性は保たれます。定足数がそろわないときは「クールダウン期間」に入り、投票を止めて Praos と同じ動きに戻ります。
10 月 2 日付の報告で進んだ 4 つの部品
今回の週次報告の中身を、部品ごとに並べると次のとおりです。
- 台帳: Peras のプロトコルパラメータの初期実装(cardano-ledger #6067)がレビューを経て統合されました。GitHub の記録では統合は 9 月 28 日です。続いて、確定済みのチェーンの先端から見て先の時点のパラメータを見込んで検証できるようにする作業(#6126)に着手しています
- コンセンサス: ブロックに証明書を入れる必要があるとき、そのブロックに詰める取引の量を減らす変更(ouroboros-consensus #2300)を仕上げました。報告時点では内部レビュー中で、GitHub では 10 月 7 日に統合されています。過去の証明書を保存するデータベース(PerasImmutableCertDB)の試作(#2293)も完成し、テストは別の変更提案(PR #2342)で作っています
- ネットワーク: ノードの内部状態を、接続先の切り離しを判断する仕組み(densityDisconnector)に渡す方法の設計を固め、レビュー直前まで来ています
- テストネット: ローカルのテストネットで cardano-tracer を使えるようにし、監視ツール Prometheus への対応を cardano-testnet 本体(cardano-node #6710)に還元しました
このほか、壊れた証明書や欠けた証明書を他のノードに取り寄せ直す「隔離」の仕組みにも着手しています。こちらは研究側の要件しだいで設計が変わる可能性がある、と報告は断っています。
次のリリースでは Peras を動かさない
見落としやすいのが、次のノードのリリースで Peras の状態を進める処理を迂回する小さな変更(ouroboros-consensus #2347)です。GitHub では 10 月 1 日に統合されています。報告の説明は、機能がメインネットに向けてそろう前に、Peras に固有の新しい制約を課さずに済ませるため、というものです。コードは本体に入っていきますが、ノードを更新しただけで Peras が動き出すわけではありません。
設計の側にも、まだ詰める点が残っています。研究者からメインネット向けの暗号の具体的な要件について正式な推奨を受け、やり取りを重ねている段階で、Tweag は内部の議論を終えてから具体的な報告をするとしています。新しく参加したノードが安全に同期する仕組み(Genesis)と過去の証明書の関係も検討中です。過去の証明書を不要にできる別の設計案も検討されましたが、研究者との議論の結果、適さないと判断されました。並行して、実装で得た知見を Peras の設計文書と CIP-0140 に反映し始めています。
統合の日付は Tweag の報告にも GitHub にもありますが、メインネットでの有効化の時期は示されていません。
SPO とガバナンスにとっての接点
Peras は、ブロック生成とは別に「投票」という役目をネットワークに加えます。投票の流通、証明書の保存、証明書入りブロックの扱いは、いずれもノードを動かす側に新しい処理として降りてきます。今回の報告で証明書のデータベースやテストネットの監視が進んだのは、その準備が手元で試せる形になってきたということです。
パラメータは、ガバナンスの側でも動いています。既報の CAP-12、Dijkstra の新パラメータを憲法に追加 で整理したとおり、憲法改正案 CAP-12 の文案は Peras のパラメータを、変更に SPO の投票も必要な「ブロックチェーンの運用に不可欠なパラメータ」の一覧に加えています。文案では、Peras は Dijkstra の後、同じ時代のなかで行う追加のハードフォークで有効になる予定とされ、ガードレール(値の上限・下限)はまだ空欄の箇所が残っています。台帳に入ったパラメータの値の幅は、今後のガバナンスで決まっていきます。
次に見るもの
確かめる先は二つあります。一つは Tweag の Peras プロジェクトページに毎週載る週次報告で、メインネット向けの暗号要件について約束した「具体的な報告」が出るかどうかです。もう一つは cardano-ledger の #6126 で、パラメータを先の時点まで見込む仕組みが統合されれば、台帳側の準備がもう一段進みます。CAP-12 の文案で空欄になっている Peras のガードレールの値が埋まるかどうかも、あわせて見ておきたい点です。
ことば
- Ouroboros Peras — Cardano のコンセンサスに投票の層を足し、ブロックの確定を早める仕組み。仕様は CIP-0140。メインネットでの有効化の時期はまだ示されておらず、今は部品ごとの実装が進んでいる段階です。
- 証明書(certificate) — 同じラウンドで同じブロックに集まった定足数の票をまとめたもの。多くはブロックに記録されず、クールダウン期間の出入りの前後など限られた場面でだけブロックに載ります。
- クールダウン期間 — 定足数の票が集まらないときに投票を止め、Praos と同じ動きに戻る期間。チェーンが回復し、品質がそろうまで続きます。速さより安全を優先するための仕組みです。
一次ソース / 関連リンク
Tweag: Ouroboros Peras 週次報告(2026-10-02)(tweag.github.io)
- Cardano 公式 X の告知(2026-10-07)
https://x.com/Cardano/status/2107828306758291619 - Tweag 公式 X の告知(2026-10-06)
https://x.com/tweagio/status/2107409986192310273
ouroboros-consensus #2347: Disable ticking of PerasEpochContextResolver(GitHub)

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