Input Output (IOG) は 10 月 22 日、Cardano のレイヤー 2「Hydra」の現行版で、2025 年の Midnight トークン配布「Glacier Drop」の請求 24,576 件を再実行した結果を公表しました。1 件の請求が確定するまでの時間は 9.9 秒から 4.4 秒に縮み、1 秒あたりに確定できる請求は 42 件から 79 件に増えています。
本物のスクリプトと署名を載せた請求で測った数字で、実際の配布でどこまで速くなるかに近い値です。初期報 (Hydra v2、クレーム処理速度1.9倍・決済速度2.3倍に向上) では数字だけをお伝えしましたが、この記事では、何を比べた数字なのか、ヘッドを運用する側にとって何が変わったのかを順に整理します。
2025 年の Glacier Drop で 1 つのヘッドが担ったもの
IOG の記事によると、2025 年 10 月、5 つの組織が 10 台のノードで 1 つの Hydra ヘッドを動かし、Glacier Drop の請求期間の最後の部分を引き受けました。ヘッドは 10 月 14 日に開き、9 日間で 35 億 NIGHT を処理して、10 月 23 日までにすべてを Cardano のメインチェーンへ戻しています。NIGHT の発行総量 240 億のうち、請求の経路で配る設計だったのは 5 分の 1 で、その中の 35 億がこのヘッドを通りました。
配布は完了しましたが、運用は楽ではなかったと IOG は書いています。本番で見つかった深刻な不具合は 2 つです。再起動したノードが自分の状態ファイルを読み直す途中で止まり、ヘッドに戻れなくなることがありました。もう 1 つは、一度拒否された取引を再送すると、ヘッド全体が二度と動かなくなるというものです。どちらも運用中に Hydra チームが修正し、2 つ目には同じ不具合が戻らないよう回帰テストが付きました。
ヘッドを開くまでにも数週間かかっています。各ノードには鍵の一覧とホストの一覧を別々に渡す必要があり、両者が対応していないため、記事によれば 6 人が 1 週間かけてノード間の設定を手で突き合わせた時期もありました。さらに当時の手順では、全員が資金を預け入れるまでヘッドが開かず、1 人でも遅れると、やり直すには中止して最初から始めるしかありませんでした。
ヘッドを開く手順と、開いたままの出し入れ
v2 のプロトコルは、この 2 つの手間に直接手を入れています。v1 では Init・Commit・Collect の 3 段階を経て、各段階で全員が動かないと最初の取引すら流せませんでした。v2 では Init から直接 Open に進み、ヘッドは空の状態で始まります。預け入れの段階そのものが無くなったため、遅れた参加者を待つ理由も、やり直す理由もなくなりました。
資金はヘッドを閉じずに出し入れできるようになっています。誰でも Cardano 上で資金をロックしておけば、ロールバックで取り消されない程度の待機期間のあと、次のスナップショットでヘッドに取り込まれます (Deposit)。参加者はヘッドを動かしたまま資金をメインチェーンへ引き出せ (Decommit)、期限までに取り込まれなかった預け入れは持ち主がメインチェーンで取り戻せます (Recover)。大きなヘッドは、複数の取引に分けて精算できるようになりました (部分ファンアウト)。
ノードの設定もコマンドラインの引数の山からファイルに移り、同じ参加者の予備機 (ミラーホスト) を直接書けるようになりました。IOG は、v1 のヘッドは「使うたびに開いて閉じるもの」だったのに対し、v2 のヘッドは役に立つ限り開いたまま価値を流し続けられるものになったと説明しています。
1.9 倍という数字を、どの条件で読むか
再実行は、2025 年にヘッドを運用したのと同じチームが、Hydra のコアチームとは別に行いました。当時使った 0.22.4 と現行版で 3 回ずつ、同じマシンで交互に走らせ、どの回も各版の中央値から 3% 以内に収まったとしています。24,576 件すべての処理にかかった時間は 590.4 秒から 339.1 秒に縮み、全体でおよそ 43% の短縮です。
IOG は、同じ比較を中身のない取引 (何もしないスクリプト 1 本だけ) でもやり直しています。この場合の差は 3.3 倍まで広がりました。実際の請求は 1 件ごとに Plutus スクリプトを 3 本実行するため、その実行時間はどちらの版でも避けられず、改善の幅を 1.9 倍に抑えています。記事は、スクリプトのない取引で測った大きな処理量の数字が Hydra についてよく引用されると断ったうえで、実際の検証を伴う処理では 1.9 倍が正直な数字だと書いています。
SIPO が 10 月 17 日にお伝えしたスナップショット上限の引き上げの試験 (毎秒 648 件から 1,778 件) は、最小構成の送金を一気に流した測定でした。今回の 79 件という数字と桁が違うのは、測った取引の重さが違うためです。そのとき確かめる先として挙げた次の正式版は、10 月 22 日 (UTC) に Hydra 2.4.2 として公開され、リリースノートにはスナップショットのまとめを大きくしたことが書かれています。
トークン配布の器としての Hydra
Cardano の処理能力を広げる道は、レイヤー 1 そのものを広げる Leios と、取引を台帳の外でまとめて片づける Hydra の 2 本が並行して進んでいます。今回の報告は、後者が「理論上いくら速いか」ではなく、実際に 35 億 NIGHT を動かした請求で、どれだけ速く・どれだけ手間なく回るようになったかを示した点に意味があります。開いたまま資金を出し入れできるヘッドは、期間を区切って大量の請求を受け付けるトークン配布のような用途と相性がよい設計です。
次に確かめる先は、Hydra チームが GitHub で公開している週報です。2.4.2 を公開した週にあたる第 43 週 (10 月 19〜25 日) の号が出たら、公開後に見つかった課題と、v2 のヘッドを使う側の手順の整備がどこまで進んだかを確かめられます。
ことば
- Glacier Drop — Midnight のトークン NIGHT を、他のチェーンで条件を満たす履歴を持つ人が請求して受け取る配布です。2025 年 8 月 5 日から 10 月 20 日まで請求を受け付け、終盤の一部を Hydra のヘッドが処理しました。
- Hydra ヘッド — 少数の参加者が台帳の外で取引をやり取りし、結果だけを Cardano に戻す仕組みの 1 単位です。全員がスナップショットに署名するため、参加者のうち 1 人が誠実であれば安全が保たれます。
- 部分ファンアウト — ヘッドを閉じるとき、中の残高を複数の取引に分けてメインチェーンへ戻す方法です。v2 で入り、ヘッドが大きくなっても無理なく閉じられるようになりました。
一次ソース / 関連リンク

Hydra v2 – Glacier Drop rerun (IOG)
Input | Output
- Input Output 公式 X の告知
https://x.com/IOGroup/status/2113298531993759974
GitHub
Hydra 週報 (cardano-scaling)(Hydra)

