Cardano のフルノードウォレット Daedalus の 11.2.0 が公開されました。内容は派手ではありません。一部の Linux ディストリビューションで起動時に落ちていた問題、Windows で NAS や SMB 上にデータを置いていた場合のパス解決、そして Mithril を使わない選択をしたときに約 30 秒待たされていた挙動——この 3 つの修正が中心です。ただし、依存パッケージの更新に一点だけ、上げる前に読んでおくべき注意が付いています。ウォレットのデータベースが自動で移行され、その移行は元に戻せません。
ウォレットは、鍵と履歴を預ける場所です。派手な新機能よりも、起動するかどうか、戻れるかどうかのほうが効きます。リリースノートに書かれていることを、誰に効く修正なのかという順で見ていきます。
■ 3 つの修正が、それぞれ別の人に効く
今回の修正は、対象がきれいに分かれています。同じ「安定性の改善」でも、当てはまる人とまったく関係のない人が明確です。
1 つめは Linux での起動不能です。 リリースノートによれば、11.1.0 のポータブルビルドは XKB と GBM のライブラリパスが誤っており、一部の Linux ディストリビューションで起動時に segfault しえたとされています。11.2.0 はこのパス解決を修正しました。「起動しない」は回避策の立てようがない種類の不具合なので、Linux で 11.1.0 が立ち上がらなかった人にとっては、これが今回の本体です。
2 つめは Windows で NAS / SMB を使っている場合です。 chain-storage の symlink / junction の解決が改善されました。リリースノートは二つの原因を挙げています。従来の path.isAbsolute() によるガードが、パッケージング時に Linux 上で Windows のパスを評価する場面で正しく働かなかったこと。そして、lstat からは symlink に見える junction に対して realpath が ENOENT で失敗しえたこと。11.2.0 は両方に対応しています。ブロックチェーンのデータは容量が大きいため、内蔵ドライブではなくネットワーク上の共有ストレージへ逃がしている利用者は一定数います。その構成にだけ現れる不具合でした。
3 つめは Mithril を断ったときの待ち時間です。 Mithril による高速同期を使わない選択をした場合、スナップショット一覧を取りにいくバックグラウンド処理が、DNS のタイムアウト(約 30 秒)を待たずに即座に終了するようになりました。リリースノートは、これによって Tor / Whonix 環境で見えていた不要なエラー表示が解消されるとしています。ネットワークを絞った環境で使う人ほど、外向きの通信が一つ減る意味は大きいはずです。
■ 上げる前に知っておく一点——戻れなくなるのはどの瞬間か
依存パッケージとして cardano-wallet が v2026-07-23 へ更新されています。ここに、今回いちばん実務的な注意が付いています。リリースノートの記述はこうです。
The wallet database is migrated automatically on next use of your spending password. This migration cannot be rolled back — do not downgrade to 11.1.0 after using this release.
読むべき点は 3 つあり、どれか 1 つだけを覚えると誤ります。
- 移行は次に支払い用パスワードを使った時点で自動的に走ります。インストールした瞬間ではありません
- この移行は元に戻せません
- したがって、一度使ったあとに 11.1.0 へダウングレードしてはいけません
言い換えると、11.2.0 をインストールしただけの段階には、まだ引き返す余地があります。境界は「支払い用パスワードを使ったかどうか」です。バックアップの確認をするなら、そのタイミングより前ということになります。リリースノート自体は、全ユーザーへのアップグレードを推奨しています。
■ Mithril の検証キーが IntersectMBO を向いたこと
もう一つ、目立たないが位置づけとして読める変更があります。Mithril の検証キー URL の参照先が、IntersectMBO のリポジトリへ変更されました。
検証キーの参照先というのは、ウォレットが「この配布物は本物か」を確かめるときに見にいく場所です。機能としては何も変わりませんが、どこを信頼の起点にするかという線は動きます。
この 1 行は、単独では小さすぎて読み取れません。ただ、今週は同じ方向の話が続いています。Cardano のコア開発 4 機能が IO Labs から ICAN Group へ移ります——チームも責任者も、そのままで扱ったとおり、開発の担い手そのものの配置が動いている時期です。Daedalus 自体も、今回のリリース告知は @se7en_labs のアカウントから出ています。参照先の付け替えは、その並びの中に置くと意味が見えてきます。
担い手が移るとき、利用者から見えるのは製品名やアイコンではなく、こうした参照先や URL の書き換えのほうです。リリースノートの依存更新欄は、その移り方がいちばん早く現れる場所の一つと言えます。
■ 次に見るもの
2 点あります。
ひとつは、データベース移行まわりの追記です。「戻せない」という性質の変更は、次のリリースで補足や注意の追加が入ることがあります。移行後に何か起きた場合の扱いが明文化されるかどうかは、リリースノートを追う価値があります。
もうひとつは、参照先の付け替えが今回だけで終わるのかどうかです。検証キーの URL に続いて、他の参照や配布経路にも同種の変更が入るのであれば、それは個別の不具合修正ではなく、担い手の移管が実装面に降りてきている証拠になります。次のリリースノートの依存更新欄を、同じ目で見ておきたいところです。
一次ソース / 関連リンク
- Daedalus 11.2.0 リリースノート(GitHub・公式日本語訳を併載)
https://github.com/input-output-hk/daedalus/releases/tag/11.2.0 - リリース告知(@se7en_labs)
https://x.com/se7en_labs/status/2085374563248996666 - 既報:Cardano のコア開発 4 機能が IO Labs から ICAN Group へ移ります
https://sipo.tokyo/signal-20260807-6e246df2/
