Cardano のプール最低固定費(minPoolCost)を 170 ADA から 75 ADA へ下げるパラメータ変更が、日本時間 9 月 24 日 0 時からの公開セッションを前に、DRep の賛成 11.79% で止まっています。可決には 67% が必要ですが、票が割れているのではありません。9 月 23 日 14 時 22 分(JST)時点で、まだ投票していない DRep が 74.38% を占めています。
この議案は、小さなプールが受け取る報酬の取り分と、そこへ委任した人へ返る金額を直接動かします。プールを運営する側にとっては「一定額の固定費を先に引かれる」という前提が変わり、委任する側にとっては小規模プールの利回り表示が変わります。ただ、今回の票の形を見るかぎり、争点になっているのは賛否の内容よりも、投票そのものが動いていないことのほうです。
公開されている提案書と、取得時点の票数をもとに、この議案が何を変え、いまどの位置にあるのかを順に見ていきます。SIPO の DRep としての投票(棄権)は 9 月 15 日に済ませており、その理由は別の記事に書いています。
■ 340 から 170、そして 75 へ
minPoolCost は、プールが報酬から必ず先に受け取る固定額です。提案書の要旨は「minPoolCost を 170,000,000 Lovelace(170 ADA)から 75,000,000 Lovelace(75 ADA)へ、約 55.9% 引き下げる。このアクションで変更する他のプロトコルパラメータはない」と書いています。
この値は一度下がっています。提案書によれば、2023 年に PCP-001 で 340 ADA から 170 ADA へ下げられ、エポック 445(2023 年 10 月)で発効しました。CIP-1694 によるオンチェーンのパラメータ更新アクションが使えるようになる前のことです。今回はその次の一段にあたり、Cerkoryn 氏(Ryan Wiley 氏)が 2026 年 3 月 30 日に Cardano Forum へ公開した PCP-006 を根拠にしています。Intersect の技術運営委員会(TSC)はこの引き下げを 2026 年 7 月 9 日に承認しました。
なぜ 2023 年の引き下げでは足りなかったのか。提案書は報酬の総額そのものが減り続けていることを挙げています。Shelley 開始時は 1 ブロックあたり約 1,800 ADA あった報酬が、準備金の減少にともなって約 300 ADA まで下がった一方で、設備費は上がってきました。固定額が同じでも、報酬に占める比率は上がっていきます。提案書は PCP-001 の付録データ(エポック 415・1 ブロックあたり総報酬 約 300 ADA)を使って、次のように示しています。
- 1 エポックに 1 ブロック:固定費 340 ADA なら報酬の約 113%(実質ゼロ)/170 ADA なら約 57%/75 ADA なら約 25%
- 1 エポックに 2 ブロック:340 ADA なら約 57%/170 ADA なら約 28%
- 1 エポックに 5 ブロック:340 ADA なら約 23%/170 ADA なら約 11%
提案書は、1 ブロックしか作れないプールに委任した人が被る目減りが、2023 年の変更直後に約 28.3% まで下がったあと、現在は約 52.8% まで戻っていると書いています。そのままなら、エポック 758(2028 年 2 月ごろ)に 100% に達する見込みだ、というのが引き下げを急ぐ側の主張です。
もう一つ、提案書は IO Research の更新版インセンティブ報告が以前の立場を変えたことに触れています。高い固定費の下限は Sybil 型の攻撃を抑えるどころか、大口の事業者が多数のプールへステークを分割して固定費を何度も回収する動機になりうる、という評価です。報告書は minPoolCost をゼロへ近づけ、報酬に比例する minPoolMargin(CIP-0023)と組み合わせることを推奨しています。今回の 75 ADA は、その手前に置かれた段階的な一歩として提案されています。
■ 賛成 11.79%、反対 10.8%、未投票 74.38%
票の内訳を見ます。以下は 9 月 23 日 14 時 22 分(JST)に取得した数値です。大口の 1 票で数ポイント動くため、取得時点を添えます。
- DRep 賛成:11.79%(31 票)。この % は可決基準の読み方で、未投票を分母に含み、棄権を分母から外したうえでの割合です。閾値は 67%
- 投票済みの反対:10.8%(24 票)
- AlwaysNoConfidence:3.03%
- 未投票:74.38%
- 棄権:4 票(分母外)
- 憲法委員会:賛成 2・反対 0・未投票 5
賛成 11.79% と投票済み反対 10.8% は、ほぼ並んでいます。gov.tools の画面では「No」が 13.83% と表示されますが、これは投票済みの反対に AlwaysNoConfidence を足した数字で、投票して反対した DRep の割合ではありません。反対が賛成を上回っている、という読み方はできない位置です。
目立つのは 74.38% のほうです。Cardano の議決は、反対多数で否決される形よりも、賛成が閾値に届かないまま期限を迎える形で終わることが構造的に起こりえます。賛成 11.79% から 67% へ届くには、未投票の 74.38% の多くが賛成側へ動く必要があります。今回の公開セッションの実際の役割は、動いていない 74.38% をどれだけ動かせるかに絞られます。
憲法委員会は賛成 2・反対 0 で、まだ 5 人が投票していません。この議案は委員会の承認も必要です。
■ SPO には投票権がない議案
ここは SPO にとって直接関係する点なので、分けて書きます。minPoolCost の変更は、SPO の承認を必要としません。
提案書のガードレール確認(PARAM-05a)は、minPoolCost がガバナンス上重要なパラメータに含まれること、憲法上の最低ラインが有効な投票力の 50% 超であること、経済パラメータ群に現在適用されている台帳上の閾値が該当 DRep 投票力の 67% であること、そして憲法委員会の承認も必要であることを挙げたうえで、「minPoolCost のパラメータ変更は SPO の承認を必要としない」と明記しています。
実際、取得時点の SPO 側は賛成 0.0%(0 票)・投票済み反対 0.0%(0 票)・未投票 99.46% で、可決基準の閾値も 0% と表示されます。この議案でプールの票は集計されません。自分のプールの固定費が変わる議案に、SPO としては票を投じる先がない——これが現在のルールです。SPO が持つ立場は、DRep としての票と、公開の場での発言に限られます。
なお提案書には CIP-179 に基づく任意のアンケートが紐づけられていますが、提案書自身が「アンケートの回答はこのガバナンスアクションの可決に算入されない」と書いています。
■ 下げたあと、元の水準へは戻しにくい
提案書のリバージョン計画(元に戻す手順)に、見落とされやすい非対称が書かれています。
minPoolCost は、プールが登録するとき、または証明書を更新するときにだけ適用されます。すでにオンチェーンにある証明書へ遡って再適用されることはありません。つまり、下限が 75 ADA のあいだに宣言コストを 170 ADA より下へ設定した SPO は、あとでパラメータが 170 ADA へ戻されたとしても、宣言コストを上げ直すことを強制されません。既存の登録は、次に新しい証明書を出すと決めるまで有効なままです。
提案書はこの点を「リバージョンが制約するのは新規のプール登録と、撤回後に自発的に再登録するプールだけであり、DApp やスクリプト、トランザクションレベルの作り直しを強いるものではない」と説明しています。技術的なリスクが小さいことの根拠として書かれている記述ですが、裏を返せば、料金の実勢が一度下がったあとで引き上げ方向へ戻す手段は、市場の判断に委ねられるということでもあります。
実勢がどう動くかについては、2023 年の実測があります。提案書によれば、170 ADA へ下げたあとも、プールの規模を問わず 340 ADA が最も多い固定費の設定であり続け、下限へ移ったのは競争上その必要があった小規模なプールだけでした。「下限を下げれば全員が下限へ殺到する」という 2023 年の懸念は、少なくともそのときは起きていません。一方で、活動中の 1,614 プールのうち 873 者(54%)が、安定してブロックを作れる目安とされる約 300 万 ADA の委任に届いていないことも、同じ報告書が記録しています。理論上サチュレーションに達しうるプールは 289 に留まります。2023 年の引き下げだけでは構造的な圧力は解けなかった、という評価です。
■ 10 月 12 日までの三つの終わり方
投票できるのはエポック 660 の終わりまで、日本時間 2026 年 10 月 12 日 6 時 44 分です。そのあとエポック 661 で失効します。残りは 3 週間弱です。
- 可決:未投票 74.38% の多くが賛成へ動き、DRep 賛成が 67% を超え、憲法委員会の残り 5 人が承認する。公開セッションが票を動かすとすれば、この経路です
- 失効:賛成が 67% に届かないまま 10 月 12 日を迎える。反対が勝ったのではなく、定足に届かなかったという終わり方です。現在の票の形が続く場合、これが既定路線になります
- 再提出:失効したうえで、同じ内容が改めて提出される。
minPoolCostの議案は 340 → 170 のときから複数回にわたって議論されてきた経緯があり、失効が議論の終わりを意味するとは限りません
確認できる場所は決まっています。まず日本時間 9 月 24 日 0 時から 0 時 30 分の Cardano Governance Hour #11 です。Cardano Foundation のガバナンス責任者 Nicolas Cerny 氏が、PCP-006 の執筆者である Ryan Wiley 氏(@Cerkoryn)に話を聞く回で、議題はこの引き下げ提案そのものです。過去の回と同様、終了後に録画が公開されれば、当日参加できなくても内容を追えます。票そのものは gov.tools の当該提案ページで随時更新されます。セッションの前後で未投票 74.38% がどれだけ減るかが、この議案の行き先を示す最初の数字になります。
■ ことば
- minPoolCost — プールが 1 エポックの報酬からまず受け取る固定額の下限。プールは自分の宣言コストをこれ以上に設定する必要があり、残りが委任者へ分配されます。報酬の総額が減ると、この固定額の重みが相対的に増します。
- PCP-006 — Cardano のパラメータ変更提案(Parameter Change Proposal)の 6 番目。今回の 170 → 75 ADA を求める文書で、Cerkoryn 氏が 2026 年 3 月 30 日に公開しました。オンチェーンのアクションは、この文書を根拠として提出されています。
- minPoolMargin — 固定額ではなく報酬に比例した取り分でプールの取り分を決める案(CIP-0023)。提案書は、固定費の下限を下げる今回の措置を、この仕組みが実装されるまでの中継ぎと位置づけています。
一次ソース / 関連リンク
- Cardano ガバナンスアクション:Reduce minPoolCost to 75 ada(提案ページ・投票状況)
https://gov.tools/governance_actions/75e7882a8ef2bc39517bffbfb654e89f525def5a8364d81e11fc5facafc6dd9b - Cardano 公式:Governance Hour #11 の告知(2026 年 9 月 20 日)
https://x.com/Cardano/status/2101668469922058328 - SIPO:minPoolCost 75 ADA 単独案への DRep 投票(棄権・2026 年 9 月 15 日)
https://sipo.tokyo/sipo-drep-minpoolcost-75-ada-abstain/
