Midnight の公式アカウントが9月25日、ODATANO が開発する「NightPass」をエコシステムの注目事例として紹介しました。EU で 2027年2月から義務になる電池のデジタルパスポートについて、再生コバルトの含有率が法定の下限を満たしていることを、数値そのものを明かさずに Midnight 上で証明できる仕組みです。
電池のパスポートには、取引先や製造工程に関わる、競合に見せたくない数字が含まれます。それでも規制当局やリサイクル事業者には、基準を満たしていることを示さなければなりません。「見せずに示す」という Midnight の設計が、規制対応という具体的な現場にどう当てはまるのかを、公開されているコードと資料から見ていきます。
2027年2月18日から、EU の電池にパスポートが要る
NightPass が対象にしているのは、EU の電池規則(規則 2023/1542)が定めるデジタル・バッテリー・パスポートです。GitHub の README は、この義務が 2027年2月18日から始まると明記しています。ODATANO の資料によると、対象は EU 市場に出るすべての電気自動車(EV)用電池と、電動自転車やスクーターなどの軽量移動手段(LMT)用電池、そして 2 kWh を超える産業用電池で、初年度から年に 700万〜900万件のパスポートが必要になると見積もられています。
パスポートは QR コードから読める形で用意し、見る人によって開示の範囲を変える必要があります。README は規則の附属書 XIII に沿って、消費者、リサイクル事業者などの正当な利害を持つ者、そして当局という 3 つの段階を挙げています。
ここに難しさがあります。データの出どころは企業の基幹システムで、仕入先の情報や炭素排出の数字のように、競争上伏せておきたいものが含まれます。一方で、監査する側にとっては、改ざんされていないことを確かめられなければ意味がありません。秘密にすることと検証できることを、同時に満たす必要があるわけです。
チェーンに置くのは、ハッシュだけ
NightPass の設計は、この 2 つの要求を分けて処理します。README によると、Midnight 上に記録されるのはパスポートのデータのハッシュと公開用のメタデータだけで、中身は暗号化されたまま企業の側に残ります。どの段階の相手に何を見せるかは、サーバー側の API で制御し、特定の取引先の閲覧段階を引き上げる権限はオンチェーンで付与します。
そのうえで、伏せた数字について「基準を満たしている」ことだけを、ゼロ知識証明で示します。Midnight の紹介投稿が挙げたのは再生コバルトの含有率で、README の実例では「炭素排出量が上限以下である」ことを、値を明かさずに証明しています。証明はチェーンに記録されたそのパスポートの項目に結びつけられており、別の電池の数字で代用することはできません。1 回の取引で最大 8 項目までまとめて証明できるとされています。
企業にとっての使い勝手にも手が入っています。手数料は共同のスポンサー用プールが払うため、製造者はトークンを持つ必要がありません。SAP の S/4HANA で入荷を記帳すると、パスポートが自動で発行される連携も用意されています。README は、EU のデジタル製品パスポート登録簿への登録、公式の相互運用シナリオ 11 件すべての通過、BatteryPass の公式検証ガイド 5 種での検証エラーゼロを実績として挙げています。いずれも開発元自身による記載です。
まだ試験用ネットワークの上の段階
NightPass は、まだメインネットでは動いていません。Midnight の投稿は Build Club の初期のプロジェクトで Preview ネットワーク上で動いていると紹介しており、README の公開デモと検索用のエクスプローラーは preprod という試験用ネットワークで稼働しています。デモでは、誰でも電池のパスポートを作り、最大 4 つの数値を伏せたまま 1 回の取引で証明するところまでを、5 分ほどで試せるとされています。
義務化まで、あと 5 か月足らずです。事業者が実際に採用するには、Midnight のメインネットでの運用と、企業の既存システムとの本番接続が必要になります。いまは「規制が求める形に、技術的には当てはまる」ことを、動くデモで示した段階と見るのが正確です。
選択的開示が、規制対応の道具になる
Midnight は、データを全部隠すのでも全部見せるのでもなく、必要な事実だけを必要な相手に示す「選択的開示」を設計の中心に置いてきました。NightPass はその考え方を、EU の電池規則という、期限の決まった具体的な義務に当てはめた例です。規制当局が求めているのは数字そのものより「基準を満たしているか」であり、その問いにだけ答えられる仕組みは、企業の側にとっても当局の側にとっても合理的です。
EU 市場に電池を出すのは欧州の企業だけではありません。日本の電池メーカーや自動車メーカーにとっても、2027年2月の期限は同じように適用されます。日本では 9月24日に Midnight のゼロ知識証明を使うアプリのワークショップが初めて開かれ、10月10日には東京・八芳園で Midnight City のイベントも予定されています。こうした場で、規制対応という使い道がどこまで具体的に語られるかは、日本の読者にとっても関心の置きどころになります。
確認できる次の一点は、ODATANO の公開エクスプローラー(zkpassport.eu)です。証明済みのパスポートが増えていくか、そしてデモが preprod からメインネットへ移る告知が GitHub の NIGHTPASS リポジトリに出るかを、10月10日の Midnight City 東京の前後に見ておくとよいでしょう。
ことば
- デジタル・バッテリー・パスポート — 電池 1 個ごとに、素材や製造・炭素排出・リサイクルの情報を記録し、QR コードから読めるようにする EU の仕組みです。2027年2月18日から EV 用電池などで義務になります。
- ゼロ知識証明 — ある主張が正しいことを、根拠となるデータを見せずに相手に納得させる暗号の技術です。NightPass では「含有率が下限以上」「排出量が上限以下」といった条件だけを示すのに使われています。
- 選択的開示 — 相手ごとに示す事実を選べるようにする考え方で、Midnight が設計の中心に置いてきたものです。NightPass では、閲覧の段階分けとゼロ知識証明を組み合わせ、規制が問う「基準を満たすか」への答え方として使われています。
一次ソース / 関連リンク
- Midnight の紹介投稿(2026年9月25日)
https://x.com/MidnightNtwrk/status/2103431110529077312 - ODATANO/NIGHTPASS(GitHub)
https://github.com/ODATANO/NIGHTPASS - NIGHTPASS one-pager(GitHub)
https://github.com/ODATANO/NIGHTPASS/blob/main/docs/one-pager.md - NIGHTPASS 公開デモ(Midnight preprod)
https://demo.zkpassport.eu - NIGHTPASS エクスプローラー(Midnight preprod)
https://zkpassport.eu - Midnight Japan の投稿(日本初のゼロ知識証明アプリのワークショップ)
https://x.com/midnight_jpn/status/2103290731423318188 - ホスキンソン氏と Midnight City、10月10日に八芳園で東京イベント(SIPO.TOKYO)
https://sipo.tokyo/signal-20260925-c3333d78/
