Cardano 財団が日本時間 9 月 30 日 21 時、ブラジルの国営石油会社ペトロブラスとの新しい取り組みを 2 件発表しました。ペトロブラスとリオデジャネイロ・カトリック大学(PUC-Rio)との研究開発の協業から、持続可能な航空燃料(SAF)と、ペトロブラスの再生燃料ブランド「Diesel R」を対象にしたブロックチェーンのアプリケーションを 2 本納品した、という内容です。
燃料そのものではなく、燃料に付いてくる環境面の価値を誰がいつ主張したのか、燃料がどこを通ってきたのかを記録する用途で、どちらもまだ研究段階にあります。8 月に「Cardano on the Road」の最初の訪問先としてペトロブラス本社が登場してから約 1 か月、対話の段階から成果物の段階へ進んだ最初の報告として、何が作られたのかを整理します。
As part of an ongoing R&D collaboration with Petrobras and PUC-Rio, the teams have delivered two blockchain applications focused on sustainable aviation fuel and Diesel R, Petrobras’ brand of renewable fuel.
— Cardano 財団 公式 X(2026年9月30日)
航空燃料のアプリ: 削減価値の二重計上を防ぐ台帳
1 本目は SAF を対象にしています。SAF は、従来のジェット燃料より排出の少ない航空燃料で、いまの機体や空港の設備のまま使えるのが特徴です。
報道によると、このアプリは「Book-and-Claim」と呼ばれる方式を前提にしています。燃料の物理的な流れと、そこから生まれる排出削減の価値を切り離し、航空会社は SAF が別の場所で使われていても、その削減価値を買って自社の実績として主張できる、という仕組みです。SAF を各空港へ届ける物流が整うのを待たずに導入を進められる一方、同じ削減価値を二者が重ねて主張してしまう「二重計上」をどう防ぐかが弱点になります。
アプリが記録するのは、その削減価値を誰が持っていて、いつ主張したのか、という点です。持ち主と使用済みかどうかが一つの共有の記録に残れば、同じ価値を二度数えることは難しくなります。CoinDesk と Unchained は、この二重計上の防止をアプリの目的として同じように伝えています。
Diesel R のアプリ: 製造から使用までを一本の履歴に
2 本目は Diesel R を対象にしています。Diesel R は、植物油や動物性油脂などの再生可能な原料を一部に使ったペトロブラスのディーゼル燃料です。
こちらのアプリは、製造・輸送・使用の各段階で記録点を残し、燃料がたどった経路を一本の履歴としてまとめるものと報じられています。狙いとして挙げられているのは、取引先を含むサプライチェーン全体の間接的な排出、いわゆるスコープ 3 の報告を支えることです。
燃料を買う企業にとって、スコープ 3 の報告では「自社が使った燃料がどこでどう作られたか」を説明できる材料が要ります。製造元の申告を受け取るだけでなく、各段階の記録を後からたどれる形で持てることが、この種の追跡アプリの価値になります。
2023 年の教材から、2026 年の納品まで
財団とペトロブラスの関係は、2023 年 12 月の教育パートナーシップから始まりました。Cardano Academy の教材をペトロブラス大学を通じて提供し、4 万人以上の従業員が利用できるようにするという内容で、当社も当時の発表を紹介しています。
2025 年 4 月には、財団が PUC-Rio との研究開発の協業を発表しました。PUC-Rio の研究グループ Ledger Labs を支援し、まずはペトロブラスなどの産業パートナーとともに、再生燃料の製造・消費・バリューチェーンに関わる仕組みづくりに取り組む、というものです。今回の 2 本は、この枠組みから生まれた成果物にあたります。
そして 8 月 25 日、財団は「Cardano on the Road」の最初の訪問先がペトロブラス本社だったと伝え、ペトロブラスのチームからの質問が「これは何か」から「何を作るか」へ移った、と書いていました。その約 1 か月後に届いたのが、実際に作られたアプリの報告です。
財団は今回の投稿で、この取り組みがブラジルで積み上がってきた実社会のブロックチェーン応用のポートフォリオに加わるものだと位置づけています。
研究段階であることの意味
報道はそろって、2 本とも研究段階の成果であり、本格的な導入の時期は示されていないと伝えています。CoinDesk は、対象となる燃料の量も明らかにされていないと書いています。
ペトロブラスが Cardano 上で燃料の取引を動かし始めた段階には、まだありません。いま確かめられるのは、国営エネルギー企業と大学、財団の三者の協業が、教材と対話の段階を越えて、動くアプリケーションを納品するところまで来たという事実です。
それでも、題材の選び方には意味があります。環境価値の記録は、複数の企業が同じ記録を信頼できなければ成り立たず、どこか 1 社のデータベースに置けば、その 1 社を信じるしかなくなります。誰でも検証できる公開チェーンに記録を置く理由を説明しやすい領域です。Cardano がどこで実需を持つのかを考えるうえでも、金融の外側にある具体例の一つになります。
本番に進むのはいつか
研究段階の成果が本番の運用に移るとき、最初の手がかりになるのは、ペトロブラス自身がこの 2 本を自社の発表で扱うかどうかだと考えます。確認できる次の一点は、ペトロブラスの報道発表の窓口である Agência Petrobras に、SAF や Diesel R の追跡についての発表が載るかどうかです。
あわせて、財団のブログで続報が出たときに、対象の燃料量や試験の相手先が示されるかも見ておきたいところです。航空会社の名前が一つでも出てくれば、Book-and-Claim の台帳は研究の外へ一歩出たことになります。その一歩は、燃料を作る側と買う側のどちらから来るのでしょうか。
ことば
- SAF(持続可能な航空燃料) — 従来のジェット燃料より排出の少ない航空燃料で、既存の機体や空港の設備で使えます。削減価値を燃料と切り離して取引する仕組みと組み合わせることで、使う場所と価値を主張する企業を分けられるようになります。
- Book-and-Claim — 燃料の物理的な流れと環境価値を切り離し、価値だけを買って主張できる方式。供給地から遠い企業も削減に参加できる反面、同じ価値の重複主張を防ぐ記録の仕組みが欠かせません。
- スコープ 3 — 自社の直接排出や購入した電力に由来する排出以外で、取引先や製品の使用など、サプライチェーン全体で生じる間接的な排出。燃料の由来の記録は、この報告の材料になります。
出典について 2 本のアプリを納品したことは Cardano 財団の公式 X 投稿で確認しています。アプリの仕組みと研究段階であることは、複数の独立した報道(CoinDesk・Unchained)が一致して伝える内容にもとづきます。財団ブログの告知全文との突合は行っていません。
一次ソース / 関連リンク
- Cardano 財団 公式 X(ペトロブラスとの 2 件の取り組み・2026年9月30日)
https://x.com/Cardano_CF/status/2105266505512304879 - Cardano 財団ブログ(告知全文)
https://cardanofoundation.org/blog/renewable-fuel-traceability-petrobras - CoinDesk(2026年9月30日)
https://www.coindesk.com/tech/2026/09/30/embargo-1-pm-utc-cardano-tapped-by-brazil-s-state-oil-giant-to-track-cleaner-jet-fuel-and-diesel - Unchained(2026年9月30日)
https://unchainedcrypto.com/petrobras-turns-to-cardano-to-track-green-claims-on-jet-fuel-and-renewable-diesel/ - Cardano 財団ブログ(PUC-Rio との研究開発の協業・2025年4月)
https://cardanofoundation.org/blog/cardano-foundation-pucrio-collaboration - Cardano 財団「Cardano on the Road」開始、初訪問はペトロブラス本社(SIPO.TOKYO・2026年8月26日)
https://sipo.tokyo/signal-20260826-2ac59bc9/ - Cardano Foundation、Petrobrasとの教育パートナーシップを発表(SIPO.TOKYO・2023年12月21日)
https://sipo.tokyo/post-32728/
