Maestro は日本時間 10 月 1 日、開発者向け API の終了にあわせて約束していたとおり、Bitcoin・Cardano・Dogecoin の 3 チェーン分のインデクサ(ブロックチェーンのデータを検索しやすい形に整理して保存する仕組み)を GitHub でオープンソースとして公開しました。これまで有料の API として提供してきた中身そのものが、誰でも複製・監査・自前運用できる形で残ったことになります。
9 月にはサービスの終了と、それに続くリポジトリのアーカイブをお伝えしました(9 月 18 日の記事・9 月 19 日の記事)。この記事では、今回公開されたコードが何を含み、Cardano の dApp 開発者にとってどんな選択肢になるのかを整理します。インフラを提供する事業者が撤退しても、その道具が公共財として残るかどうかは、エコシステムの持久力を左右する論点です。
告知の中身: 「課金していたインデクサ」を 3 本まるごと
Maestro の公式 X は、開発者 API のサンセットを発表した時点で「その裏側のインフラをオープンソースにする」と述べていたことに触れ、「実行した」と報告しています。
The same UTXO indexers we used to charge for. Most companies let that code die when the product sunsets. We gave it away instead.
— Maestro 公式 X(2026 年 10 月 1 日)
課金していたのと同じ UTXO インデクサで、製品の終了とともにコードを眠らせる会社が多いなか、手放すほうを選んだという趣旨です。投稿は「Fork it. Audit it. Run it.」と続き、API キーは不要だとしています。公開されたのは maestro-bitcoin-indexer・maestro-cardano-indexer・maestro-dogecoin-indexer の 3 つのリポジトリで、いずれもライセンスは Apache-2.0、言語は Rust です。
Cardano 版のインデクサが扱うデータと構成
Cardano 版の README は、このコードを「Maestro の商用 API を支えてきた、本番規模の分散型 Cardano インデックス基盤」と説明しています。対象は Byron から Conway までの全期間で、アドレス、トランザクション、UTxO、ネイティブトークン、データム、スクリプト、アカウント、ステークプール、エポック、プロトコルパラメータを索引化します。
構成は複数の部品に分かれています。
- compressor — 受け取ったブロックの入力をすべて元の出力までたどって補い、gRPC で配信します
- polyphony — インデクサ本体で、補われたブロックを読み込んで保存します
- mapi — 約 60 の文書化されたエンドポイントを持つ REST API です
保存先は分散型のキー・バリューストアである TiKV、調整役は Redis で、台帳由来の状態が必要な場合は cardano-db-sync の Postgres と Ogmios を併用できます。各レスポンスには、どのブロックの時点のデータを返したかを示す last_updated が付きます。
Bitcoin 版はチェーン本体に加えてメモリプール(未承認トランザクションの待ち行列)も扱い、Runes、Ordinals・インスクリプション、BRC-20 まで索引化すると README に書かれています。
「API キー不要」は、自分で動かせばという意味です
読み違えやすいのは「No API key required」の一文です。Maestro が無料のホスティングを始めたわけではなく、コードを手元のサーバーで動かせばキーは要らない、という意味です。
Cardano 版の起動には Docker と cardano-node が必要です。README の手順では、テストネットの preprod で試す場合でも同期に数時間かかり、メインネットでは「相応のディスクと数日の同期」が必要だとしています。さらに、このインデクサ自体には認証や流量制限の仕組みがないため、外部に公開するならゲートウェイの背後に置くよう注意書きがあります。
つまり、Maestro の API を使っていた dApp がそのまま乗り換えられる無償の代替品ではありません。自前でノードとインデクサを運用できるチームにとっては、商用品質の部品を一式手に入れたことになります。そうでないチームは、Blockfrost や Koios などのホスト型 API への移行が引き続き現実的な選択肢です。9 月 30 日には Iagon も、Blockfrost・Koios と同じ呼び出しに答えるホスト型 API「Insight」のベータ版を公開しました。
撤退した事業者のコードが、公共財として残る意味
インフラ事業者がサービスを畳むとき、利用者に残るのは移行の手間だけ、ということは珍しくありません。今回は、利用者が「自分で同じものを動かす」道が少なくともコードの上では開かれました。ブロックの入力を事前に補っておく compressor の設計などは、Cardano でインデクサを作るほかのチームにとっても読む価値のある実装例になります。
ただし、コードが公開されたことと、今後も保守されることは別です。Maestro は 9 月 29 日の投稿で、会社を AI エージェント中心に作り直したことと、「エネルギーに裏付けられ、Bitcoin に錨を下ろした金融システム」を使命に掲げていることを説明しています。Cardano 版の今後の更新が誰の手で続くのかは、まだ分かりません。
保守が続くかは、コミット履歴に表れます
確認先は、GitHub の maestro-cardano-indexer リポジトリのコミット履歴と Issues です。10 月 2 日時点の最終更新は日本時間 9 月 16 日で、公開告知の後に Maestro 自身や外部の開発者による修正・フォークが入るかどうかが、このコードが「置いていかれた資料」で終わるか「使われ続ける部品」になるかの分かれ目になります。次の Cardano のハードフォークや台帳の仕様変更が来たとき、追従のコミットが入るかを見ておくと判断しやすくなります。
ことば
- インデクサ — ブロックチェーンの生データを、アドレスやトークンごとに引ける形へ並べ直して保存する仕組み。ウォレットの残高表示や dApp の画面は、ほとんどがこの層の上に乗っています。
- Apache-2.0 — 商用利用・改変・再配布を認めるオープンソースのライセンス。今回のコードは、条件を守れば企業が自社サービスに組み込むこともできます。
- cardano-db-sync — Cardano ノードのデータを Postgres データベースへ写し取る公式ツール。Maestro のインデクサは、台帳由来の状態が必要な場面でこれを併用できる設計です。
一次ソース / 関連リンク
- Maestro 公式 X(2026 年 10 月 1 日・オープンソース化の告知)
https://x.com/GoMaestroOrg/status/2105472947184111849 - maestro-cardano-indexer(GitHub)
https://github.com/maestro-org/maestro-cardano-indexer - maestro-bitcoin-indexer(GitHub)
https://github.com/maestro-org/maestro-bitcoin-indexer - maestro-dogecoin-indexer(GitHub)
https://github.com/maestro-org/maestro-dogecoin-indexer - Maestro 公式 X(2026 年 9 月 29 日・会社の再設計について)
https://x.com/GoMaestroOrg/status/2104751922146365721
