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🔬 Deep Dive|暗号資産に欠けている「安全網」— ホスキンソン氏が語ったウォレット保険と ZK 本人証明

2026-07-26SIPO

CoinDesk の番組「Markets Outlook」に、Input Output の CEO 兼創業者であるチャールズ・ホスキンソン氏が出演しました。収録は Wanchain のブリッジから 5 億 1,500 万 NIGHT が流出した直後。43 分にわたる対話の中心にあったのは、「ブリッジは壊れた」ではなく 「壊れた後に、この業界には何もない」 という一点でした。ウォレット保険、ゼロ知識証明ベースの本人証明、ホワイトハット救済の法的枠組み。そして van Rossem ハードフォーク後の Cardano、Ethereum との構造差、価格がいつ追いつくのかという問い。SIPO が一貫して見てきた「検証できるものだけを信頼する」という軸に、今回の対話は正面から接続します。本記事では動画の論点を 6 つのテーマに整理し、決定的な発言は原文と和訳で示します。

「あらゆるソフトウェアが、いま巨大な攻撃にさらされている」

まず事実関係を整理します。2026 年 7 月 21 日、Wanchain が運用する Cardano ⇄ BNB Chain ブリッジが攻撃を受け、約 5 億 1,500 万 NIGHT(約 1,000 万〜1,300 万ドル相当)が流出しました。

原因は暗号技術そのものの破綻ではなく、署名対象メッセージのエンコードが非単射(non-injective)だったことです。ブリッジの TreasuryCheck バリデータは、14 個の可変長 redeemer フィールドを区切り文字も長さ情報も入れずに連結して署名対象メッセージを作っていました。その結果、フィールドの境界が曖昧になり、正規の署名を桁違いに大きな引き出しへ再利用できてしまいます。実際、BNB Chain 側で約 3,110 NIGHT を認可した署名が、Cardano 側では 203,001,692 NIGHT の引き出しに転用されました。意図した額の 6 万 5,000 倍以上です。

Wanchain はブリッジを停止して調査に入り、Midnight Foundation は Midnight のバリデータ・コンセンサス・コアプロトコルはいずれも侵害されておらず、Cardano ネットワークも通常どおり稼働していると説明しています。NIGHT は一時 30% 超下落して過去最安値圏($0.016 前後)を付けたあと、24 時間で約 19% 戻しました。

ホスキンソン氏はこの事件を、暗号資産に固有の問題としてではなく、ソフトウェア全体が置かれている状況の一例として語りました。

「直近 2 か月で Linux カーネルに見つかった脆弱性は、その前の 2 年間より多い。あらゆるソフトウェアが、いま途方もない規模の攻撃にさらされている、ということです」

“there’s more vulnerabilities in the last two months that have been discovered with the Linux kernel than the last two years. So it gives you a sense of just all software is under this enormous assault.”

ここで重要なのは、彼が「高い保証性(high assurance)で作られたシステムは安全だ」という結論に逃げなかったことです。

「Cardano のように高い保証性を前提に作られたシステムは、たしかに耐性が高い。しかしそれは、致死性の病に 90% の耐性がある、というのと同じことです。曝露が続けば、いずれかかる。そして耐性があったことは何の慰めにもなりません。結局は死ぬのですから」

“systems that were built with high assurance, we fare better, but that’s like being 90% resistant to a deadly disease. If you’re exposed to it enough, eventually you still catch the disease and it’s no solace. You still die of it.”

だからこそ、信頼の預け先を移す必要がある — というのが彼の議論の起点です。ブリッジ運用者を信頼する、マルチシグを信頼する、ソフトウェアを信頼する。そこからゼロ知識証明を信頼する側へ移す。「人を信頼する」から「数学を信頼する」へ戻す、という言い方をしています。

ウォレット保険 — いちばん地味な解が、いちばん大きな扉かもしれない

対話の中心はここでした。彼が繰り返し強調したのは、ゼロ知識技術だけでは足りない、ということです。事故が起きた後に、被害者へ資金を戻す経路がない。ウォレットもブリッジも、ハッキングされたら打つ手がないまま 15 年が過ぎています。

彼が描いた仕組みは、驚くほど地味です。まずカストディアルとノンカストディアルを分ける。ノンカストディアルの場合はオプトイン型で、火災保険のような月額か、あるいは取引手数料の一部を支払う。それが RWA としてプールに積み上がり、反対側で Bitcoin などの担保を提供する側が保険料を受け取る。ポリシーが発動しなければ担保提供者の利益になり、発動すれば支払われる。

面白いのは、彼がこの仕組みの本命を「支払い」ではなく 強制力(forcing function) に置いていることです。

「保険に入る唯一の道は、ベストプラクティスを満たしたウォレットであること、あるいはベストプラクティスを満たしたブリッジであることです。つまり我々は、ガバナンスの監督体制、運用負荷、ソフトウェアの形式性といった観点で、何がベストプラクティスなのかを定義せざるを得なくなる」

“the only way to get insured is to have a wallet that meets best practices or a bridge that meets best practices. So we’d have to define what best practices are in terms of governance oversight, the operational overhead, the software level of formalism”

倉庫の火災保険に、柵と警備員とカメラが要るのと同じことです。保険会社が「これが無いと引き受けられない」と言い出した瞬間に、業界全体のソフトウェア品質が上がる。誰も強制できなかった標準化が、保険という経済的な回路によって強制される、という構図です。

もう一つ、彼は保険を DeFi の利回り源 としても位置づけています。保険市場は数十億ドルではなく数兆ドル規模であり、「持続可能な利回りはどこから来るのか」という DeFi の長年の問いに対する一つの答えになる、と。バミューダで開かれた SALT に招かれた際、バミューダ金融庁(BMA)などの場でも、ウォレット保険・AI エージェント向け保険・ブリッジ保険をどう作るかが議題になっていたと述べています。保険各社が待っているのはプライバシー要素と法的な要素だ、というのが彼の見立てです。

そして、この話をなぜするのかについて、彼はかなり率直でした。

「そうしなければ、この 15 年と同じことが続くだけです。『残念、全部なくなったね。次いこう』と。その態度のままなら、我々は決して主流のプロダクトにはならないし、尊敬もされないし、普通の人が信頼できるものにもならない。金融システムには、法の支配とチェック&バランス、そして悪いことが起きたときに回復を求められることが必要なんです」

“the alternative is just 15 years of the same thing where it’s like oh well you lost all your money too bad move on. It’s like we’re never going to be a mainstream product… You need financial systems with rule of law and checks and balances and the ability to get restitution when bad things happen.”

選択的開示という第二の鍵 — 本人証明・デッドマンスイッチ・ホワイトハット救済

保険が成立するには、前提として「このウォレットの持ち主は誰か」を証明できなければなりません。しかしノンカストディアルの世界には、その手段がありませんでした。ここで彼が挙げたのが Midnight Passport と 選択的開示(selective disclosure) です。

選択的開示は、自分についての特定の事実だけを、その根拠となる個人情報を明かさずに証明する仕組みです。ゼロ知識証明で担保されるため、カストディアル業者に KYC を通すのとは性質が違います。彼が強調したのは、事故が起きた「後から」名乗り出て所有を証明できるという点でした。あらかじめ身元を預けておく必要がない。

同じ仕組みは、もう一つの長年の問題も解きます。デッドマンスイッチです。

「自分が携帯をなくすとも、鍵へのアクセスを失うとも思っていないでしょう。でも、そういうことは起きます。たとえばタイで逮捕されて 10 年入っていて、戻ってきたら — あなたの携帯はどこに? ウォレットは? という話です」

“you don’t think you’re ever going to lose your phone or ever lose access to things, but stuff happens. what if you get arrested in Thailand or something, you know, and they throw you in prison for 10 years and you come back and like where’s your phone? Where’s your wallet?”

一定期間アクセスがなければカストディアン等へ資金をスイープする権限をあらかじめ与えておき、後から KYC を通して回収する。極端な例に聞こえますが、要は「鍵を失った人に、鍵以外の回復経路を残せるか」という設計上の問いです。

そして三つ目が、この業界で最も長く放置されてきた法的なグレーゾーン — ホワイトハット救済です。彼の説明はこうです。攻撃が進行しているとき、攻撃者が一度に全額を持ち出せないケースは多い。そしてインフラを作った側のほうが、攻撃者より先に資金を退避させられる立場にいることが多い。実際そうする例も多いのですが、多くの場合それを行う法的権限がありません。「ハッカーに取られるよりマシだ」という理由だけで実行し、その後何か月、何年もかけて返還先を探すことになる。しかも本人確認の仕組みがないので、誰に返せばいいのかすら確定できない。救助した側が、かえって非常に厄介な立場に置かれる構造です。

ここで彼が接続したのが、American Arbitration Association(AAA)の Legal Context Protocol(LCP) でした。2026 年 6 月 24 日に AAA が Integra Ledger らと発表した公開標準で、AI エージェントが人や組織に代わって取引する際に、適用される契約条件・準拠法・紛争解決の道筋を発見可能かつ検証可能な形にすることを狙っています。創設貢献者には Google、IBM、Circle、Stellar Development Foundation、Ava Labs、Hedera、そして Cardano が名を連ねています。

ホスキンソン氏はこの LCP に「まだプライバシー標準がない」点を挙げ、そこへ選択的開示を足せば、契約の当事者や意図そのものを明かさずに、ウォレットや取引についての性質だけを証明できるようになると述べました。そこから導かれるのが、次の一文です。

「こうした構造の下であれば、一定のホワイトハット・ライセンスのようなものに従う限りにおいて、救済行為に事前同意しておくことができます。そしてそれは、この業界が抱える最大級の法的グレーゾーンの一つを解消します」

“under these structures, you could preconsent to a white hat rescue if it follows some sort of white hat license or something like that. And it solves one of the biggest legal gray areas that our industry has.”

保険・本人証明・法的文脈。この 3 つが揃ってはじめて「壊れた後」が成立する、というのが対話前半の骨格でした。

van Rossem が証明したこと — 「Input Output が消えても Cardano は進む」

話題は Cardano のハードフォークへ移ります。こちらも事実から整理します。

2026 年 7 月 18 日 21:44 UTC(エポック 644)、Cardano メインネットはプロトコルバージョン 10 から 11 へ移行しました。コードネームは van Rossem。そして、これは オンチェーンガバナンスのみで批准された初のハードフォークです。DRep・SPO・憲法委員会という 3 者の投票をすべて通過しており、報道ベースでは SPO の賛成率が 3 つの中で最も薄いマージンだったとされています。

中身は、地味ですが実務的なものが並びます。Plutus V1 / V2 / V3 にまたがって組込関数を統一したこと(従来は新機能を使うには最新バージョンへ再コンパイルする必要がありました)、スマートコントラクトの実行コスト低減、台帳ルールの整理 — たとえば 2 つのステークプールが同じ VRF 鍵を再利用できないことを保証する検証が入りました。SPO の運用に直接効く変更です。

そして 5 つの新しい Plutus プリミティブが入りました。Intersect の公式アップグレード文書では次のように整理されています。

  • CIP-109 — オンチェーンのモジュラー冪剰余(高度な暗号処理に不可欠)
  • CIP-132 — 効率的なリスト操作(dropList)
  • CIP-133 — BLS12-381 上のマルチスカラー乗算
  • CIP-138 — 定数時間インデックスを持つネイティブ Array 型
  • CIP-153 — マルチアセット値操作を最適化するネイティブ Value 型

ホスキンソン氏は番組内で、これを「Cardano 上で Groth16 証明を検証できるようになった」と表現しました。ここは一点だけ、床を正確にしておきます。 公式ドキュメントの記述は CIP-133 について「オンチェーンでのゼロ知識証明検証を支える BLS12-381 上のマルチスカラー乗算」までであり、Groth16 という証明系を名指ししてはいません。実務的には BLS12-381 上のマルチスカラー乗算とモジュラー冪剰余が Groth16 検証の主要コストを担うため、彼の表現は方向として整合しますが、公式文言との粒度差は押さえておきたいところです。

彼がこのハードフォークで本当に強調したかったのは、技術内容よりも 手続きのほう でした。

「つまり実質的に、Input Output が完全に消えたとしても、Cardano は再帰的な自己改善を続けられる、ということです。本当の意味で分散化されたエコシステムなんです」

“it means that effectively input output can completely disappear and Cardano will continue to recursively self-improve. So it’s a truly decentralized ecosystem.”

この「消えても回る」を成立させるために、過去 2 年で何を積んできたかも具体的に語られました。Agda という形式言語で実装非依存の仕様を書く project blueprint。Haskell ノードに加えた Rust・Go・JavaScript のノード実装。今後 9 か月かけて開発者を複数の企業へスピンアウトし、Haskell ノードを Linux カーネルのような連合型のオープンソースプロジェクトへ移していく計画。そしてそれを支えるメンバーシップ型組織として Intersect と PRAGMA。

PRAGMA は Cardano Foundation・Blink Labs・dcSpark・Sundae Labs・TxPipe が立ち上げた非営利のオープンソース協会で、Rust 製フルノード Amaru と、Plutus の代替スクリプト言語 Aiken を手がけています。オープンソースのガバナンス、ノード実装、オンチェーンガバナンス。この 3 層すべてに多様性を持たせる、という設計です。

次のマイルストーンとして挙げられたのが Leios(Dijkstra era)でした。公式ロードマップでは endorser block と委員会型検証の導入により、段階的に 10 倍〜65 倍 のスループット拡大を目指し、メインネットは 2026 年後半が目標とされています。ホスキンソン氏は番組内で「約 60 倍」と表現しています。van Rossem はその土台にあたる、という位置づけです。

そして残る最後の課題が 行政機能(executive function) です。司法と立法は作った。しかし行政がない。マーケティングをどうするか、アダプションと商用化をどう進めるか — 「もっとマーケティングをやれ」と言う人は多いが、ロードマップと目標を設定する主体がなければそれは実行できない、というのが彼の整理です。同時に、彼はその危うさも明言しました。

「行政機能が強くなりすぎるのは避けたい。それは王や独裁者になってしまうからです。だからチェック&バランスが要る。早く入れすぎれば、終身の慈悲深い独裁者が生まれる」

“you don’t want your executive function get too powerful because that becomes a king or a dictator. Uh so you need checks and balances in the system… if you put it in too soon then you have beneficent dictator for life”

彼が挙げる Ethereum との構造差 — L2 モデルとオンチェーン国庫

動画のタイトルにもある通り、Ethereum への言及はかなりの分量を占めます。ここは ホスキンソン氏個人の主張 として、彼の論拠とともに整理します。彼自身 Ethereum の共同創業者の一人であり、この論争は 2014 年から続いているものです。

争点は二つに集約できます。

一つ目は L2 モデルの性質です。 彼は Cardano のパートナーチェーン方式を「partnered L2」、Ethereum の方式を「parasitic L2」と対比しました。彼の説明では、パートナーチェーンが立ち上がるたびにエアドロップが ADA 保有者へ届くため、ステーキングの実質利回りは ADA だけでなくパートナーチェーンのポートフォリオを含んだものになる、という構図です。Midnight がその最初の実例で、その成功を見て後続が乗ってくる、と。SPO と委任者にとっては、この差がそのまま委任の意味づけに関わってくる論点です。

あわせて彼が Cardano 固有の強みとして挙げたのが Bitcoin DeFi でした。UTxO から拡張 UTxO へは構造的にミラーできるが、UTxO からアカウントモデルへは同じことができない — だから Cardano 上ではノンカストディアルかつトラストレス、そして税務上ニュートラルな形で Bitcoin をミラーできる、という主張です。さらに Midnight を通せば、プライベートな Bitcoin レンディングや DeFi が可能になる。オンチェーンで保有や利回りを晒したくない層には大きい、というのが彼の見立てでした。

二つ目がオンチェーン国庫です。 彼の議論の骨格はこうです。Cardano には大幅に下がった評価額であってもエコシステムの成長と開発に年 1 億ドル超を支出できるオンチェーン国庫があり、Alpha Growth や Draper のようなパートナーを引き込めている。一方 Ethereum には、プロトコル収益の一部を自動的に開発へ回す仕組みがない。仮に 5% を Ethereum Foundation へ回せば年 3 億 9,000 万ドルになるはずだ、と彼は述べました(この試算は彼の発言であり、本記事で検証したものではありません)。

そして彼が最も強く問題視したのが、資金の出所と意思決定の関係です。

「ゴールデンルールというものがあります。金(gold)を持つ者がルールを作る、と。開発費を払っている中核事業者の集まりがあるなら、どの EIP が開発され、どれが開発されないかについて、最終的には彼らが 100% の発言権を持つことになります」

“there’s this thing called the golden rule. Those who have the gold make the rules. So if there’s some collection of core entities that are paying for development, they have 100% say ultimately in the EIPs that get developed and the ones that don’t get developed.”

大企業は堀(moat)を作るビジネスモデルを組む。ウォール街がコンプライアンスと規制を武器化して新規参入を防いだように、テック企業が標準を武器化したように — その力学がエコシステムにも働く、というのが彼の懸念です。オンチェーン国庫とオンチェーン投票があれば、トークン保有者自身が方向を決められる。それが唯一の対抗手段だ、と。

ここは論争のある領域である、という点を明記しておきます。 Vitalik Buterin 氏はオンチェーンガバナンスに対して一貫して批判的な立場を公表してきており、これは 10 年以上続いている設計思想上の対立です。どちらが正しいかは、まだ実証の途上にあります。そしてホスキンソン氏自身、自分が選んだ道のコストを認めています。

「難しいし、速度は落ちます。会ったこともない、何の関係もない人たちが、自分の出した提案に反対票を入れる — 深くフラストレーションが溜まる。しかしそれが民主主義というものです。代わりにあるのは寡頭制か独裁で、それが良い結果に終わったことはありません」

“It’s hard. It slows you down. It’s deeply frustrating when people you’ve never met, you have no relationship to vote against things that you’re proposing and in bad faith. But that’s the nature of democracy and the alternative is oligarchy or dictatorship. And that never results in a good outcome.”

あわせて、彼は Cardano が抱える課題も率直に語りました。2021 年に時価総額 3 位に達したことで「Ethereum を抜けなかった」「Solana に DeFi で抜かれた」という認識が残り、ナラティブ・リセットが必要な状態にある、と。ただしそれはエコシステムの問題というよりマーケティングとブランディングの問題であり、行政機能が入ればそこに手を付けられる、という整理でした。そして、その評価軸そのものへの自己言及も残しています。

「Cardano が 3 位だったときは、私も賢い人間でした。誰もが史上最高の起業家だと言っていた。いまは違います。なぜか。価格が下がったからです。この業界では、人間としての価値もアイディアの質も、時価総額のどこに座っているかに完全に紐づけられてしまっている」

“I was a smart guy, too, when Cardano was number three and everybody thought I was the greatest entrepreneur ever… Why? Because the price is down. In this industry, we’ve fetishized and become addicted to where you sit on the market cap.”

価格はいつ追いつくのか — Web2.5、DTCC、そして AI というワイルドカード

最後の質問は、視聴者から最も多いというものでした。これだけ開発が進んでいるのに、価格はいつ追いつくのか。

彼が挙げた市場のスナップショットは以下の通りです(いずれも収録時点の彼の発言であり、本記事で個別に検証したものではありません)。Fear & Greed 指数は 24 前後。ETF の運用資産残高は約 800 億ドルだが、純流出が約 45 億ドル出ており、Bitcoin に対する消費者の需要は軟化している。Coin50 のような指数も総じて下。総時価総額はピークの約 4.4 兆ドルに対して現在約 2.2 兆ドルで、下落率は約 50%。

そして彼の読み筋は、この 50% という数字にありました。通常のベアサイクルでは 70〜80% 下落するのが伝統的なパターンであり、今回それが 50% で止まっていること、そして今後 10 兆ドル規模の資本を呼び込みうる材料があることを踏まえれば、3〜5 年の視野では最高値更新どころか市場全体の改善は避けられない、という立場です。

ただし、古いナラティブでは戻れない、というのが彼の核心でした。次のナラティブは web2 と web3 の融合 — 彼の言葉では「web 2.5」です。規制された会社がブロックチェーン製品に接続している領域、Canton や Ripple、Circle、Tether、Binance などがそこにあたり、過去 3 年で運用資産・価値ベースでおよそ 10 倍になった、と。そして 3〜5 年で 10 兆ドル超の RWA が入り、10〜20 億人の新規ユーザーがそれに伴って来る、という見立てを示しました。

この見立てを裏づける具体例として、番組は同じ回の別コーナーで DTCC を取り上げています。2026 年 7 月 15 日、米国のほぼすべての株式取引を清算・決済する DTCC が、トークン化証券をライブ本番環境へ移行しました。すでに保管している証券のトークン化表現として、Microsoft と Circle の株式、Invesco QQQ Trust、State Street の SPDR S&P 500 ETF、BlackRock の iShares 0-3 Month Treasury Bond ETF などを発行し、機関投資家が実取引を行っています。JPMorgan、Vanguard、BlackRock、Goldman Sachs、CME、NYSE、Nasdaq が参加し、事前に SEC からノーアクションレターを取得済み。10 月の本格展開が予定されています。

DTCC のデジタル資産グローバル責任者 Nadine Chakar 氏は、番組で次の段階をこう説明しました。9 月初旬に環境を開放してテストと 10 月に向けた準備を可能にし、11 月末から 12 月にかけて担保アプリチェーンとトークン化サービスをリリースして、トークンを担保として使えるようにする。その後はコーポレートアクション処理のオンチェーン化と対応チェーンの追加へ。

「結局のところ、これはテクノロジーのためのテクノロジーではありません。業界によって、業界のために作られたテクノロジーです。これからもそのように運用していきます」

“At the end of the day, it is not tech for tech. It is tech that’s built by the industry for the industry and will continue to operate as such as we go forward.” — Nadine Chakar, DTCC

短期の変数として彼が挙げたのが CLARITY 法案でした。通れば大量の資金流入があるが、「子どもに大量の砂糖を与えるようなもの」 — しばらく走り回って楽しむが、栄養にはならないし持続もしない、そのあとに反落が来る、という見方です。ここは床を確認しておきます。CLARITY 法案(H.R. 3633)は下院を通過し、上院銀行委員会を 2026 年 5 月 14 日に 15 対 9 で通過して上院本会議の議事日程に載っていますが、7 月下旬時点で本会議採決は行われていません。可決には 60 票が必要で、8 月 10 日から上院は州作業期間に入ります。

そして最後のワイルドカードが AI です。彼の整理はシンプルでした。米国経済の 8〜9% がすでに AI に接続されている。そこでバブルが弾ければ 2008 年型の深い景気後退に引き込まれ、暗号資産は依然として「投機的な贅沢品」と見なされている以上、そこから独立していられない。逆に AI の勢いが続けば、暗号資産は今後 24〜36 か月で実用性の高い領域へ移り、RWA と consumer 化がそれを支えるため、歴史的なテック株との相関から離れられる。

そのうえで、AI 産業そのものの構造についても踏み込んでいます。オープンなモデルがフロンティアモデルに肉薄しつつあり、推論コストは年に 3〜6 倍のペースで下がっている。2〜3 年でフロンティアモデルは、かつて 50 万ドルかかったものが 1 万ドル級のハードウェアで動くようになる。

「モデルそのものに価値はありません。価値があるのはハーネスと、モデルを取り巻くデータです。粘着性はそこにある」

“there’s no value in the actual models themselves. It’s the harness and the data surrounding the models that has the value and that’s the stickiness.”

そして彼が「夜も眠れない」と語ったのは、他のチェーンとの競争ではありませんでした。Google や JP Morgan のような既存の巨人が、静かにこの領域へ入ってきていること。彼らには、安全性やコンプライアンスを毎日考えている人材が軍隊規模でいる。「Solana 対 Ethereum、Cardano 対どこか、と我々が争っている間に、彼らはじわじわと入り込んでいる」というのが、彼の危機感でした。

この対話が示している軸

動画の冒頭で、ホスキンソン氏はこの 43 分全体を貫く比喩を先に置いています。

「Anthropic を、OpenAI や Google と比べて見るのが好きなんです。最初は Google が大きくリードしていて、次に OpenAI がリードした。そこへ Anthropic というものが出てきて、全員を一気に飛び越えた。彼らは根本的に何かを変えたわけではありません。ただ、正しいマインドセットを持っていた。AI の憲法から始めて、どう作りたいのかについて非常に明確な見通しを持っていた。それはあまりセクシーではなかったし、多くの人が無視していました。Cardano も同じです。すべてが破られる AI ハッキングの時代において、市場への速さが必ずしも最も望ましいものではない、と人々が気づき始めている」

“I like looking at it like Anthropic to OpenAI and Google… They just had the right mindset. They started with an AI constitution… and it wasn’t very sexy and a lot of people ignored them, but now they’re the leader of the pack… Much the same way with Cardano… especially in the age of AI hacking where everything is getting broken, that speed to market’s not necessarily the most desirable thing.”

SIPO がステークプールと DRep の運用を通じて一貫して見てきたのは、「速さ」ではなく「検証できること」が最後に効いてくるかどうか、という一点です。今回の対話は、その軸を二つの方向から補強しています。

一つは、検証の対象が広がったこと。ブリッジ事件の原因は暗号の破綻ではなく、署名対象メッセージのエンコード仕様という、監査の網から漏れやすい層にありました。「高い保証性で作られているから安全」ではなく「どの層まで検証されているか」を見る必要がある、という具体例です。

もう一つは、検証だけでは足りないと彼自身が認めたこと。保険、本人証明、法的文脈という 事後の回復経路 が揃わなければ、普通の人が資産を預ける対象にはならない。van Rossem がオンチェーンガバナンスだけで批准されたことは、その回復経路を作る主体を誰が持つのかという問いに対して、Cardano が一つの答えを実装で示したものだと言えます。

ここから確認できること

この対話で語られた内容のうち、今後数か月で外形的に確認できるものを挙げておきます。

  • van Rossem の効果が実利用に出るか — CIP-133 と CIP-109 によるゼロ知識証明検証の実装が、実際にブリッジやアプリケーションとして稼働するかどうか。プリミティブが入ったことと、それが使われることは別の話です。
  • 行政機能(executive function)の設計案が出るか — 彼が「最後のマイルストーン」と呼んだ部分です。どのようなチェック&バランスとともに提案されるかが、Cardano のガバナンス設計の完成形を決めます。
  • Leios のメインネット到達 — 公式目標は 2026 年後半、段階的に 10〜65 倍のスループット。van Rossem はその土台にあたります。
  • ウォレット保険が実際の商品として出てくるか — 彼は「もうすぐそこまで来ている」と述べました。保険各社が待っているとされるプライバシー要素と法的要素が揃うかどうかが前提条件になります。
  • CLARITY 法案の上院採決 — 8 月 10 日から上院は州作業期間に入ります。通過すれば流入、否決または先送りなら 9 月中旬以降へ。
  • DTCC の 10 月本格展開と、11 月末〜12 月の担保アプリチェーン — 「web 2.5」という彼の見立てが実際の量として現れるかどうかの、最も観測しやすい指標です。

一次ソース・参照

引用について: 本記事の発言引用は動画の自動文字起こしに基づいており、固有名詞の音声認識誤り(Anthropic / Cardano / Solana / Leios / Vitalik など)は原文の意味を変えない範囲で修正しています。数値・仕様は上記の一次ソースで確認できたもののみ本文に採用し、ホスキンソン氏の見立てによる数値はその旨を明記しました。なお本番組は RealFi / Ledn / JPEG Trading の提供で、RealFi は本編内で Cardano エコシステムのプロダクトとしても言及されています。