9 月 8 日、OpenZeppelin へ 11,787,063 ADA を支出する国庫提案がオンチェーンに登録され、投票が始まりました。Cardano の国庫でスマートコントラクトの共有部品を買う、という形の要求です。
SIPO は国庫提案を「何を買うのか」と「どう払うのか」に分けて読んできました。合意の質は、金額そのものよりも支払いの区切り方に表れるからです。今回はその両方が細かく書き込まれています。要求の中身、支払いの仕組み、いまの票の状態を順に見ていきます。
■ 何を買う提案なのか
提案はイーサリアム圏で広く使われている契約ライブラリの開発元 OpenZeppelin に、Cardano 向けの開発一式を発注するものです。管理は Intersect が担います。中身は互いに噛み合う三本の柱で構成されています。
- 参照実装:ADA のリキッドステーキング・プロトコル、自己返済型ローン、トークン化マネー・マーケット・ファンドという三種類について、動くコード、設計文書、デモ用のフロントエンド、脅威モデルまでを一式で用意します。開発チームが白紙から始めるのではなく、評価してフォークして積み上げられる出発点を置く、という考え方です。
- 契約ライブラリ:eUTXO と Plutus の環境に合わせた、監査済みで標準化された部品群です。アクセス制御、暗号ユーティリティ、DeFi 計算ライブラリ、Vault、タイムロック、多重署名などが候補として挙がっています。CIP-113 への対応と、Cardano 版の契約 ABI の提唱も含まれます。
- セキュリティ枠:十二か月にわたって専任の監査体制を確保する枠です。ライブラリと参照実装の行単位の監査、フルスタックのレビュー、侵入テスト、そして Immunefi のバグ報奨金の支払い原資を OpenZeppelin 側が負担することまで書かれています。
注意して読むべき点が一つあります。どのスマートコントラクト言語を対象にするかは、まだ決まっていません。提案書は「初期の評価フェーズでエコシステムの関係者と協議して決定する」としています。買うものの輪郭は明確ですが、実装の土台は投票の時点では未確定だということです。
成果物はすべて公開リポジトリに MIT ライセンスで置かれます。OpenZeppelin 側のツール群は AGPL 3.0 です。なお提案書は、OpenZeppelin が Cardano 国庫から資金を受け取るのはこれが初めてであり、過去二年間の受領も Catalyst の採択もないことを開示しています。UTXO 型の設計に触れた経験としては、Midnight での作業が挙げられています。
■ 一括では払われません
要求額 11,787,063 ADA の内訳は、納品分 11,443,750 ADA と、Intersect の管理手数料 343,313 ADA(三パーセント)です。米ドル建てでは十二か月で 1,831,000 ドル、ADA 換算の参照レートは 1 ADA = 0.16 ドルと明記されています。
支払いの区切り方はこうです。まず Cardano Development Holdings との法務契約に署名した時点で、納品分の二割がキックオフとして支払われます。残る八割は四回の等額マイルストーン払いで、一回あたり 366,200 ドル相当です。納品分は署名時に米ドル建てステーブルコインへ換えられるため、以降の支払いは ADA 価格の変動から切り離されます。
各回の支払いには二つの条件がかかります。OpenZeppelin が公開可能な証拠を添えた受入フォームを提出すること、そして Intersect の納品保証部門がそれを検証して承認することです。そして契約満了時に使われずに残った資金は、契約レベルで自動的に国庫へ戻ります。
最初の区切りは今年十月一日から十二月三十一日までです。受入基準には、三本の参照実装の設計文書が公開され事前に合意した相手のレビューを受けていること、ライブラリのコードが選定した開発環境でビルドを通り自動テストに全て合格すること、テストの網羅率が九割を超えていることが並んでいます。数えられる形で書かれている、という点が今回の提案の特徴です。
■ 票はまだほとんど動いていません
投票の状況を確認しました(日本時間 9 月 10 日 1 時 21 分時点)。
- DRep の賛成は 0.0%(0 票)。可決に必要な水準は 67% です
- 投票済みの反対は 0.48%(3 票)
- 常時不信任の設定によるものが 2.68%
- まだ投票していない分が 96.84%
- 憲法委員会は賛成 0・反対 0 で、6 席すべてが未投票です
提出から一日しか経っていないので、この数字は「まだ誰も動いていない」という以上の意味を持ちません。ここで押さえておきたいのは、票の並びではなく分母の作り方のほうです。
賛成率は、投票していない分も分母に含めて計算されます。つまり参加しないことは中立ではなく、可決を遠ざける側に効きます。三分の二という水準は、賛成の意思がある人が実際に票を投じ切って初めて届く高さです。
もう一点、この種別ではブロック生産者は投票の対象になりません。国庫支出を決めるのは DRep と憲法委員会です。憲法委員会は提案の是非ではなく、憲法に反していないかを見る立場にあります。
期限はエポック 661 です。提案が登録されたのがエポック 654 ですから、五日区切りのエポックで七つ分、およそ一か月の猶予があります。提案の保証金は 100,000 ADA が預けられています。
■ これから見るもの
- DRep の賛成率が 67% の水準にどこまで近づくか。いまは提出直後で、票が積まれるのはこれからです
- 憲法委員会の 6 席が意思を示すかどうか
- 反対に回った DRep が理由を公開するかどうか。対象言語が未確定であることや、契約ライブラリの必要性そのものへの評価が、どのように語られるか
買うものの説明と払い方の設計が、これだけ細かく並んだ国庫提案は多くありません。だからこそ、この提案に対して国庫の意思決定がどれだけ参加率を集められるかは、金額の是非とは別に見ておく価値があります。
一次ソース / 関連リンク
- Withdraw 11,787,063 ada for the OpenZeppelin Stack administered by Intersect(提案ページ・投票状況)
https://gov.tools/governance_actions/gov_action1gxxltxr02p28a398p8c6t08xhpg82wkkv9xgwvuxkly48lhgf20sqlkl2l8 - 同提案(cexplorer・提案書本文と票の内訳)
https://cexplorer.io/gov/gov_action1gxxltxr02p28a398p8c6t08xhpg82wkkv9xgwvuxkly48lhgf20sqlkl2l8 - 提案の登録を伝える cexplorer の投稿
https://x.com/cexplorer_io/status/2097598475072356375 - 上限額の枠組み(Net Change Limit: Cardano Treasury, Epochs 613-713)
https://gov.tools/governance_actions/gov_action15atytcy8ru7mkcs8m7r8mx7k5x36t0h6grtgmak6v5wmf4nq07lsqhakceq
※ 票数と比率は AdaStat を主・Koios を照合として、日本時間 9 月 10 日 1 時 21 分に取得したものです。締切前のライブ投票のため、閲覧時点の数値とは異なります。
