カルダノでは 2025 年 1 月 29 日の Plomin アップグレード以降、ADA の保有者が DRep(委任代表者)に投票権を託し、約 13.7 億 ADA ある国庫(トレジャリー)の使い道やプロトコルの変更を決める仕組みが動いています。DRep への委任はステーキングと同じく ADA をウォレットから動かさずに行え、現時点ではステーキング報酬を引き出すための条件にもなっています。
この記事では、カルダノのガバナンスがどう動いているのか、DRep に委任すると何が変わるのか、3 つある選択肢をどう選べばよいのかを解説します。ステーキングの基本は「ステーキングとは」、ウォレットの操作手順は「委任マニュアル 2026 年版」にまとめています。
カルダノは「保有者が決める」チェーンになった
カルダノのガバナンスは、CIP-1694 という提案をもとに、2 段階のアップグレードで実装されました。
- 2024 年 9 月 1 日・Chang:オンチェーンガバナンスの土台が入り、パラメータの変更とハードフォークの開始を、オンチェーンの投票で決められるようになりました
- 2025 年 1 月 29 日・Plomin:DRep の役割と、すべての種類の提案が使えるようになりました
- 2025 年 2 月 23 日:カルダノ憲法がオンチェーンで発効しました。現在有効なのは、2026 年 1 月 24 日に発効した改訂版です
それまで、プロトコルの変更は開発を担う組織が中心になって進めてきました。いまは、国庫からいくら・何に使うか、手数料や報酬のパラメータをどう変えるか、次のハードフォークをいつ行うかを、ブロックチェーン上の投票で決めています。投票の結果は誰でも確認でき、可決された提案はブロックチェーン自身が実行します。
3 つの機関と 7 種類の提案
提案に投票するのは、憲法委員会(CC)・DRep・SPO(ステークプール運営者)の 3 つの機関です。提案の種類によって、どの機関が投票するかが決まっています。
| 提案の種類 | 憲法委員会 | DRep | SPO |
|---|---|---|---|
| 国庫からの引き出し(トレジャリー) | ○ | ○ | — |
| パラメータの変更 | ○ | ○ | セキュリティ関連のみ ○ |
| ハードフォークの開始 | ○ | ○ | ○ |
| 憲法の変更 | ○ | ○ | — |
| 憲法委員会の改選 | — | ○ | ○ |
| 不信任(憲法委員会への) | — | ○ | ○ |
| Info(意思表示) | ○ | ○ | ○ |
表のとおり、DRep は 7 種類すべての提案に投票します。国庫の使い道や憲法の変更のように、ADA の保有者にとって影響の大きい決定ほど、DRep の票が欠かせません。その DRep の票の重さを決めているのが、委任された ADA の量です。
DRep に委任すると、何が変わるのか
DRep への委任は、あなたの ADA が持つ投票権を、代わりに提案を読み込み投票する人に託すことです。ADA はウォレットから動かず、いつでも委任先を変えたり、やめたりできます。
委任した ADA は、その DRep の「投票権の重さ」になります。DRep が賛成に投じれば、あなたの ADA の分だけ賛成が重くなります。提案が多く、一つひとつが専門的なカルダノでは、すべてに自分で目を通すのは現実的ではありません。DRep は、考え方の近い人に判断を託すための仕組みです。
国庫の規模
カルダノの国庫には、2026 年 10 月 11 日(エポック 660)時点で約 13.7 億 ADA があります。ステーキングの報酬の 20% が毎エポック入ってくるお金で、開発・監査・普及活動などの予算はここから出ています。たとえば 2025 年の終わりから 2026 年にかけては、主要な取引所やカストディへの対応(クリティカル・インテグレーション)、DeFi の流動性、Intersect の年度予算といった提案が審議されました。どの提案にどれだけ使うかは、DRep の票で決まります。
選択肢は 3 つあります
委任先には、特定の DRep のほかに、あらかじめ用意された 2 つの選択肢があります。
- 特定の DRep:選んだ DRep が、あなたの ADA の分も含めて提案ごとに賛成・反対・棄権を投じます
- 常に棄権(Always Abstain):すべての提案に参加しない、という意思表示です。棄権は可決・否決の計算から外れるため、あなたの ADA は結果に影響しません
- 常に不信任(Always No Confidence):憲法委員会への不信任の提案には賛成、それ以外の提案には反対として数えられます
エポック 660 の時点で、DRep への委任の合計は約 157.6 億 ADA でした。そのうち約 103.8 億 ADA が「常に棄権」、約 1.4 億 ADA が「常に不信任」で、登録された DRep に委任されているのは約 52.5 億 ADA です。つまり、提案の行方を実際に左右しているのは、委任全体の 3 分の 1 ほどの ADA です。
「常に棄権」を選ぶのも、もちろんひとつの判断です。ただ、特定の DRep に委任された ADA が少ないほど、一票あたりの重みは大きくなります。いま DRep に委任することは、カルダノの行方を決める側に回ることでもあります。
報酬の引き出しとの関係
CIP-1694 の取り決めにより、Plomin 以降は、DRep(「常に棄権」「常に不信任」を含む)に委任していないステークアドレスから、ステーキング報酬を引き出せなくなっています。
- 報酬は消えません:DRep に委任していなくても、報酬は毎エポック報酬アカウントに積み上がり、委任額にも数えられます。止まるのは「引き出し」だけです
- ウォレットでの見え方:Lace では、アカウントのカードに「報酬がロックされています」と表示されます。Daedalus では、報酬を含む送金をしようとすると「ステーキング報酬の引き出しがブロックされています」というエラーが出ます
- 今後の見直し:この要件を外す提案(CIP-181)が出されており、将来のアップグレードで変わる可能性があります。現時点では有効なルールです
報酬を受け取りたい方にとって、DRep への委任はいまや「やっておくべき手続き」のひとつです。どうせ委任するなら、考え方に納得できる DRep を選ぶことをおすすめします。
DRep の選び方
2026 年 10 月時点で、登録されている DRep は 1,048、そのうち投票を続けている(アクティブな)DRep は 314 です。選ぶときは、次の点を見ると判断しやすくなります。
- 投票しているか:DRep は 20 エポック(約 100 日)投票しないと非アクティブになり、委任された ADA は投票の計算に数えられなくなります。委任したのに票が使われていない、という状態は避けたいところです
- 理由を公開しているか:賛成・反対の結論だけでなく、なぜそう判断したのかを読めるかどうか。考え方が自分と近いかは、理由を読んで初めて分かります
- 反対や棄権もしているか:すべてに賛成している DRep が悪いわけではありませんが、提案を読み込んだ結果として反対や棄権が出てくるのは自然なことです
- 何者か:運営者・利害関係・発信の場所が分かるか
DRep の一覧と投票履歴は、GovTool の DRep ディレクトリのほか、Lace や Daedalus の画面からも確認できます。また、プールの委任と DRep の委任は別々に選べます。プールは A、DRep は B、という組み合わせもできます。
SIPO DRep という選択肢
SIPO は、DRep の登録が始まった直後の 2024 年 9 月 5 日に DRep として登録し、これまでに 149 件の提案に投票してきました。内訳は賛成 126・反対 13・棄権 10 です(エポック 660 時点のオンチェーン記録)。現在、404 の委任者から約 8,960 万 ADA の投票権を託されています(いずれも 2026 年 10 月 11 日時点・AdaStat の値)。
SIPO が DRep として大切にしているのは、判断の理由を日本語で公開することです。
- 提案ごとの投票理由:大きな提案は、投票の前後に記事で判断の理由を公開しています。たとえば Intersect の 2026 年度予算の 11 提案では、10 件に期待事項を付けて賛成し、1 件に反対しました。OpenZeppelin スタックの 1,178 万 ADA の引き出しには反対し、minPoolCost を 75 ADA にする単独案には棄権しました
- 提案者の側にも説明を求めること:反対するときも、何が変われば賛成できるかを書くようにしています。再提出された提案に改善が加わり、賛成に変えた例もあります
- いまの議題を一覧で:「Cardano ガバナンスの今」のページで、投票中の提案と SIPO の判断を毎朝更新しています。これまでの投票記事は DRep カテゴリで読めます
SIPO はステークプールの運営者でもあるため、プールの報酬に関わる提案(固定費の最低額など)では、その立場を踏まえて理由を書いています。
DRep をどこにするかは、委任者の皆さまが決めることです。SIPO の投票理由を読んで考え方に納得できたら、SIPO を委任先に選んでいただけたらうれしいです。違うと感じたら、別の DRep を選ぶのも、委任先を変えるのも自由です。
| SIPO DRep | |
|---|---|
| DRep ID(CIP-129) | drep1yffld2866p00cyg3ejjdewtvazgah7jjgk0s9m7m5ytmmdq33v3zh |
| 登録日 | 2024 年 9 月 5 日 |
| 投票した提案 | 149 件(賛成 126・反対 13・棄権 10) |
委任のしかた
Lace と Daedalus には、どちらもウォレットの中に DRep の一覧と検索があり、「SIPO」と名前で探して委任できます。初めてステークアドレスを登録する場合を除けば、必要なのは少額の手数料だけです。
- Lace:ロゴのボタンのメニュー →「ガバナンス」→「投票を委任」→「SIPO」を検索 →「このDRepを選択」→ 確認して委任
- Daedalus:サイドバーの「ガバナンス」→「ディレクトリ」→「SIPO」を検索 →「委任する」→ 確認して送信
画面ごとの手順は「委任マニュアル 2026 年版(Lace / Daedalus)」で、スクリーンショット付きで解説しています。委任が反映されたかどうかは、GovTool の SIPO の DRep ページで確かめられます。いま投票中の提案と SIPO の判断は、毎朝更新の「Cardano ガバナンスの今」でご覧ください。
ことば
- CIP-1694 — カルダノのオンチェーンガバナンスの設計書です。DRep・憲法委員会・SPO の 3 機関と 7 種類の提案を定め、Chang と Plomin の 2 回のアップグレードで実装されました。
- トレジャリー(国庫) — ステーキング報酬の 20% などが積み立てられるカルダノ共有の財布で、いまは約 13.7 億 ADA あります。引き出しには憲法委員会と DRep の承認が必要です。
- 憲法委員会 — 提案がカルダノ憲法に反していないかを判断する機関です。メンバーの入れ替えは DRep と SPO の投票で決まり、不信任の提案で全体を交代させることもできます。
一次ソース / 関連リンク
- CIP-1694:オンチェーンガバナンスの設計(報酬引き出しの要件を含む)
https://github.com/cardano-foundation/CIPs/blob/master/CIP-1694/README.md - CIP-181:報酬引き出しの DRep 要件を外す提案
https://cips.cardano.org/cip/CIP-0181 - Cardano 公式:ガバナンス
https://cardano.org/governance/ - Cardano 公式:ハードフォークの履歴(Chang・Plomin)
https://cardano.org/hardforks/ - GovTool:SIPO の DRep ページ
https://gov.tools/drep_directory/drep1yffld2866p00cyg3ejjdewtvazgah7jjgk0s9m7m5ytmmdq33v3zh - SIPO:Cardano ガバナンスの今
https://sipo.tokyo/governance/