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🔬 Deep Dive|Cardano 憲法を直す入口が開いた — CAP ポータルの使い方と、参加すると何が変わるか

2026-08-07SIPO

Intersect が 8 月 6 日、Cardano 憲法の改正提案を受け付ける「Constitutional Amendment Portal(CAP ポータル)」をアルファ版として公開しました。憲法の全文と、それを直すための道具が同じ画面にまとまり、「この条文はおかしい」という思いつきを誰もが読める構造化された提案に仕上げるまでの道筋が 1 か所に置かれました。憲法を実際に書き換えるオンチェーンの投票には 10 万 ADA の預託金が要るため、いきなり本番に出すには重すぎます。その手前に、無料で書いて、公開の場で反論に晒せる層ができたことになります。使い方と、参加すると何が変わるのかを見ていきます。

開いたのは「憲法の全文」と「直す道具」が同じ場所にあるサイト

URL は cap.intersectmbo.org です。Intersect は公開にあたって次のように書いています。

The Cardano Constitution belongs to its community. Now there’s a clear place for that community to help shape how it evolves.

(Cardano 憲法はコミュニティのものです。その憲法がどう進化していくかを、コミュニティ自身が形づくれる明確な場所ができました)

画面は Home / Proposals / Constitution / Guides の 4 つに分かれ、上部には「これはテスト中のアルファ版です」という帯が常時表示されています。ポータル自体は 7 月 29 日の Rare Evo 2026 初日に、Intersect Civics Committee 議長の Nicolas Cerny 氏がデモを行っており、今回そのデモ版が誰でも触れる形で開かれました。

日本語で読む人にとって実用的な点として、トップページに置かれた操作解説動画には英語・日本語・スペイン語の字幕が用意されています。

CAP と CIS —「直し方まで書く」か「問題だけ立てる」か

ポータルに出せる文書は 2 種類あります。

CAP(Constitutional Amendment Proposal / 憲法改正提案)は、憲法の条文そのものに対して「ここをこう変える」と具体的に書く文書です。要約・なぜ必要か・分析と検証・影響という 4 部構成が決まっており、必ず一定の熟議期間を通ります。

CIS(Constitutional Issue Statement / 憲法上の論点提起)は、「ここが曖昧だ」「手続きに穴がある」という問題だけを定義して、直し方は書かない文書です。解決策を持っていなくても、問題を共有の記録として残せます。

ガイドは使い分けについて、迷ったらまず CIS から始めるよう勧めています。摩擦が小さく、解決策を議論する前に「何が問題なのか」でコミュニティの認識を揃えられるためです。1 つの CIS が複数の CAP を生むことも、1 つの CAP が複数の CIS を解決することもあります。

ここで押さえておきたいのは、CAP を出して手続きを通り切っても、それ自体では憲法は変わらないことです。ポータルはあくまでオンチェーンの手前にある層で、実際に条文を書き換えるには UpdateConstitution というガバナンスアクションを別途チェーン上に出す必要があります。

参加は「ウォレットをつなぐ」から始まる

読むだけならウォレットは要りません。接続が必要なのは、提案を出すときとコメントを書くときだけです。

1. ウォレットを接続する — Eternl、Lace、Vespr など CIP-30 対応のブラウザウォレットを選び、署名リクエストを承認します。ガイドは、この署名はそのアドレスを自分が管理していることの証明であって、トランザクションを発生させることも、手数料がかかることも、秘密鍵・シードフレーズ・資金へのアクセスを渡すこともないと明記しています。表示名を求められたら設定します。

2. 見て回る — Proposals で提案一覧、Constitution で現行条文と提案後のドラフト、Guides で解説を読めます。各提案ページでは要約・提案されている変更・分析・議論・監査履歴が確認できます。

3. 提出する —「New Proposal」から順に進みます。CAP か CIS かを選び、カテゴリと題名を入力。CAP なら憲法の該当箇所をハイライトし、「置き換える」か「直後に追記する」かを選んで新しい文言を書きます。そのうえで要約・動機(または問題の記述)・分析・影響・参考リンクを埋め、プレビューを確認して提出します。

4. 議論する — 各提案ページの Discussion にコメントできます。編集者は個々の項目に対して構造化された修正提案を付けられますが、それを採用するか却下するかは著者が決めます。やり取りは監査履歴として残り、どの助言が採られ、どれが退けられたかを後から誰でも確認できます。

5. 追う — 提案は Consultation(協議中)/ Ready(熟議を終え次の段階へ進める状態)/ Done(ポータル上の手続き終了)/ Withdrawn(著者による取り下げ)のいずれかの状態を持ちます。

実際の提案ページには「推奨レビュー期間の終了日」が表示されます。8 月 6 日提出の CAP-2 は 9 月 5 日、8 月 7 日提出の CIS-4 は 9 月 6 日となっており、提出から 30 日が目安として置かれているようです。

編集者は品質を見るが、決めるのは著者

ポータルには CAP Editors(編集者)という役割が置かれています。ガイドライン文書は編集者を「facilitators, not decision-makers(進行役であって決定者ではない)」と定義しています。

編集者は提出から 2 週間以内に初回レビューを行い、提案自体が憲法に適合しているか、憲法の他の部分にも変更が必要にならないか、進行中のガバナンスアクションを意図せず止めてしまわないよう経過措置が要るか、文言の誤りがないか、といった観点を確認します。ただし著者の明示的な許可なく中身を書き換えることは禁じられており、迷った場合は直接編集ではなく提案の形にすると定められています。

The Editor guides the quality of the process; the Author defines the final proposal.

(編集者は手続きの品質を導く。最終的な提案を定義するのは著者である)

ブートストラップ期の編集者は CAP Working Group が選び Civics Committee が承認した 3 名で、任期は 1 年です。活動中の編集者は最低 3 名を下回ってはならないとされています。

そして著者は、いつでもポータルの手続きから抜けて直接オンチェーンにガバナンスアクションを出せます。ポータルは関所ではありません。

10 万 ADA を賭ける前に、壊せる場所ができた

実務的に一番大きい変化はここです。

憲法を実際に書き換えるには UpdateConstitution ガバナンスアクションをチェーン上に出します。Koios で取得した現行のプロトコルパラメータ(エポック 647)では、必要な預託金は 100,000 ADA、投票期間は 6 エポック、可決に必要な DRep の賛成比率は 75% です。加えて憲法委員会(CC)の承認も要ります。ステークプール運営者(SPO)はこの種別には投票しません。

預託金は可決されても期限切れになっても返ってきますが、それでも 10 万 ADA を数エポック拘束したうえで、練れていない条文案を 75% という壁にぶつけることになります。文言が一箇所曖昧だった、他の条文と衝突していた、というだけで通らない世界です。

CAP ポータルは、その手前に無料の層を挿し込みます。条文のどこを触るのかを機械的に特定させ、決まった型で書かせ、公開の場で反論に晒す。ここで壊れる案は、10 万 ADA を動かす前に壊れます。

もう一つの変化は、記録が残ることです。誰がどの条文に何を提案し、編集者が何を指摘し、著者がそれをどう扱ったか。これらが監査履歴として公開されるため、「いつのまにか変わっていた」が起きにくくなります。

開いて 1 日で、条文の衝突が 1 件見つかっている

8 月 7 日時点で 4 件が協議中です(Ready と Done は 0 件)。

  • CAP-1「Require Milestone-Based Treasury Disbursement and Return of Undistributed Funds」(Inputendorsers 氏 / 実体的)— トレジャリー支出をマイルストーン連動にし、未配分資金の返還を求める
  • CAP-2「Remove Article II section 7.4」(Michele 氏 / 手続的)— トレジャリー引き出しの際に独立監査と監視指標の費用を ada で確保するよう求める一文を削除する。条文の範囲が広く解釈に委ねられているため、憲法委員会メンバーによる権限の濫用を許してきた、というのが著者の主張
  • CAP-3「Evolve the Net Change Limit into a Strategic Spending Plan」(実体的)— Net Change Limit を戦略的支出計画へ発展させる
  • CIS-4「The “Bundling” problem」(Styg 氏 / 手続的)— 憲法第 IV 条第 1 節が「1 つの改正に何を含めてよいか」を定めていないため、構造的に無関係な変更がひとつの可否投票に束ねられうる、という問題提起

そして 8 月 7 日、CAP-2 のページに編集者からこんなコメントが付きました。CAP-1 と CAP-2 はどちらも第 II 条第 7 節「Treasury Withdrawals」の第 4〜6 項を対象にしている。CAP-2 が 4〜6 項をまるごと置き換えるのに対し、CAP-1 は第 6 項の直後に新しい文を挿入する。CAP-1 の挿入位置が CAP-2 の書き換え範囲の内側にあるため、両方が可決されると先に適用された方がもう一方の前提を壊してしまう、という指摘です。

コメントにはこうも書かれています。ポータルは各提案の差分を「現行の批准済み憲法」に対して個別に生成するため、どちらの差分画面にも相手の変更は映らない、と。つまりこの衝突は、2 つの提案を並べて読む人間がいなければ見つかりませんでした。

熟議層が何をする場所なのかを、これ以上なく具体的に示した例だと思います。オンチェーンに直接出していたら、この衝突が表面化するのは可決の後だったはずです。

ここから見ておきたいこと

  • 4 件の推奨レビュー期間は 9 月 5〜6 日に終わります。Ready へ上がる案が出るのか、そこで止まるのか
  • CAP-1 と CAP-2 の衝突を著者同士がどう調整するのか。ポータルに衝突を自動検出する仕組みはなく、今回は編集者の目視で見つかっています。件数が増えたときにこの方式が保つのか
  • CIS-4 が提起した「束ね」の問題が、慣行に留まるのか、憲法の条文になるのか

憲法を読んでいて引っかかった箇所がある方は、それが CAP と CIS のどちらなのかを考えてみてください。直し方まで書けるなら CAP、違和感の正体だけ言語化できるなら CIS です。ガイドは「迷ったら CIS から」と勧めています。アルファ版である今は、提案の中身だけでなく、ポータルそのものへのフィードバックも求められている時期です。

一次ソース・参照