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Weekly Brief #16|床は上がった、次は配分 — PV11 稼働、国庫 5 件が 7/28 の期限へ、そして落ちたのは橋だった

2026-07-25SIPO
一段上がった台の上に置かれた投票箱に投票用紙が入っていくポップなイラスト

今週の Cardano は、先週の宿題を片づけるところから始まりました。長く待たれていた van Rossem ハードフォークが協定世界時 7 月 18 日 21:44:51、エポック 644 の境界で発効し、プロトコルの「床」が 10 から 11 へ上がりました。前号(#15)で「発効は予定です」と留保して閉じた、その床です。上がったあとに残るのは、もっと地味な問いでした——その床の上で、限りある資金を誰に配るのか。7 月 28 日に期限を迎える国庫引き出しが 5 件並び、憲法委員会の顔ぶれも決まりました。そして週の半ばには、Cardano 本体ではなく、外部の「橋」が落ちました。今週動いたのは、床と、配分と、境界です。

エグゼクティブ・サマリー

  • 床は上がった:van Rossem が協定世界時 7/18 21:44:51(エポック 644 境界)で発効し、プロトコルバージョンが 11 になりました。発効直後に約 10 分のブロック生成の空白がありましたが一過性で、エポック 645 では通常に戻っています。
  • 中身は「安くなった」ではなく「引き直された」:5 つの CIP による新しい組込関数と型が入り、既存プリミティブのコストモデルは一部引き上げられました。一律の値下げではなく、価格表そのものの改訂です。
  • 次は配分:7 月 28 日(エポック 646)に期限を迎える国庫引き出しが 5 件。可決に必要な DRep 67% に対し、最上位の Daedalus 保守提案でも 54.72%(7/25 時点)で、いずれも閾値には届いていません。
  • 落ちたのは橋:第三者ブリッジ Wanchain の Cardano 側から 7/20 に約 5.15 億 NIGHT が流出しました。Midnight のコアプロトコル・検証者・合意は影響を受けていません。NIGHT は週間で約 −27%。

1. マーケット・パルス

資産7/187/25前週比
BTC$63,905$64,093+0.3%
ETH$1,840.77$1,860.44+1.1%
ADA$0.16669$0.16382−1.7%
NIGHT$0.02764$0.02018−27.0%

BTC と ETH はわずかな上昇、ADA は小幅安で、主要通貨は先週に続いて方向感の乏しい一週間でした。今週の値動きはほぼ NIGHT に集中しています。約 −27% という下げ幅の背景には、後述するブリッジの事故と、配布されたトークンが順次流通に入る局面が重なっています。指数が動かない週ほど、動いた一点を丁寧に見る価値があります。

2. 床は上がった — van Rossem 発効の中身

何が変わったのか

van Rossem は Cardano をプロトコルバージョン 11(PV11)へ進める更新です。エポック 644 の境界、協定世界時 7 月 18 日 21:44:51 に発効しました。

中身は派手な新機能ではなく、スマートコントラクトが使う「部品」と「値段表」の更新です。5 つの CIP が新しい組込関数と型を導入しました——モジュラー冪乗(CIP-109)、リストを効率的に扱う dropList(CIP-132)、BLS12-381 上のマルチスカラー乗算(CIP-133)、配列型(CIP-138)、そして多資産の値を扱う MaryEraValue 型(CIP-153)です。あわせて、新しい組込関数が Plutus V1・V2・V3 のいずれからも使えるようになり、後発のプリミティブを使うためだけに古い契約を再コンパイルする必要が薄れました。

ここで注意しておきたいのは、コストモデルの向きです。Intersect の説明では、この更新には「既存プリミティブの一部についてはコストモデルの引き上げ」が含まれます。

increases in the cost model of some existing primitives ——Intersect MBO

つまり「実行コストが一律に下がった」という要約は正確ではありません。正しくは、使える部品が増え、それに合わせて価格表が引き直された、ということです。配列型や多資産値型がネイティブに入ったことで、これまで高くつく書き方でしか表現できなかった処理は確かに安くなります。一方で、既存の書き方のまま据え置かれるとは限りません。開発者にとっては、値上げと値下げが同時に起きた更新として読むのが実態に近いはずです。

SPO 視点で見ておきたいこと

ハードフォークは、全ノードが同じ床に一斉に揃う作業です。今回は発効直後に約 10 分間、ブロックが生成されない時間がありました。ただしこれは一過性で、続くエポック 645 では通常のブロック生成に戻っています。分裂も、長時間の停止も起きていません。

数万のノードが、事前に決められた一つのスロットで足並みを揃えて切り替わり、10 分の間を置いて何事もなく走り出す——この地味さこそが、ハードフォークの成功の姿です。そして今回その意思決定は、憲法とオンチェーンガバナンスの手続きを通って行われました。Intersect は、長くコミュニティに関わってきた人にとって、van Rossem をめぐる決定が「憲法と、オンチェーンのガバナンス枠組みを通じて、ますます行われるようになってきた」局面だと位置づけています。

前号で私たちは「その床が、今まさに動きます」と書きました。床は動きました。ここから先は、その上に何を積むかの話になります。

3. 次は配分 — 7 月 28 日に期限が来る 5 件

国庫引き出しの現在地

床が上がった直後の Cardano で進んでいるのは、資金の配分をめぐる投票です。エポック 646(7 月 28 日)に期限を迎える国庫引き出し(Treasury Withdrawal)は 5 件あります。可決には DRep の 67% の賛成が必要です。

提案DRep 賛成
Se7en Labs: Daedalus ウォレット保守・改善 2026-202754.72%
Blockfrost の非営利化27.48%
Cardano Enterprise Adoption: チケッティング基盤(4,969,231 ada)18.81%
Cardano Builder DAO7.93%
Alchemy by Sundial × Charms: Cardano ネイティブ BTC トレジャリー6.37%

(2026 年 7 月 25 日時点のオンチェーン集計)

一覧にすると、状況ははっきりしています。5 件のいずれも 67% には届いていません。最も支持を集めている Daedalus の保守提案でも 54.72% です。期限までに大きく票が動かなければ、多くは通らずに期限切れとなります。

これは機能不全ではなく、閾値が意図どおりに効いている状態だと考えています。国庫は「申請すれば下りる予算」ではなく、67% という高い合意水準を越えたものだけが通る仕組みとして設計されています。通らない提案が並ぶ週は、そのハードルが実際に機能していることの裏返しでもあります。

期限が先の案件も動いています。エポック 647 では Bitcoin DeFi の Bifrost(20.99%)、国庫の純増限度を定める Net Change Limit(29.27%)、Global Order Book(14.57%)、Scalus 2026(17.23%)。エポック 649 には AlphaGrowth の Cardano PRIME(1 億 2,000 万 ada・29.68%)が控えます。

なお、国庫引き出しは DRep と憲法委員会が判断する種類の議案で、SPO は投票主体ではありません。集計上 SPO の賛成率が 0% と表示されるのは反対したからではなく、この議案では投票資格を持たないためです。SPO が票を持つのはハードフォーク開始や情報提供議案などで、実際、プロトコルバージョン 12 のハードフォークを「von Bergen」と名付ける情報提供議案には、SPO の 91% が賛成しています。次の床の名前は、もう決まりかけています。

憲法委員会の顔ぶれが決まった

DRep の投票は協定世界時 7 月 23 日 21:45 に締め切られ、憲法委員会(CC)選挙 2026 の暫定結果が出ました。選出されたのは Philip DiSarro(20 億 ada)、Leandros BSP(20 億 ada)、Marek Mahut/deliberative.cc(14 億 ada)、Cardano Curia(13 億 ada)の 4 者です(括弧内は投票を支えた委任量)。監査は 7 月 27 日(月)までに完了予定で、オンチェーンへの反映はエポック 646(7 月 28 日〜)に行われる見込みです。

憲法委員会は、議案が憲法に適合しているかを審査する役割を担います。予算そのものを決める機関ではありませんが、通ったものが憲法の枠内に収まっているかを見る最後の関門です。資金の配分が票にかかっている同じ週に、それを審査する側の顔ぶれも確定した——今週のガバナンスは、この二つが並んで進みました。

4. Midnight ウォッチ — 落ちたのは橋だった

何が起きたのか

協定世界時 7 月 20 日 14:46 から 14:55 までの 9 分間に、第三者ブリッジ Wanchain の Cardano ↔ BNB Chain 経路から、約 5 億 1,520 万 NIGHT が 4 回の送金で流出しました。Cardano 側の準備量のおよそ 97.8% にあたります。

原因は署名検証の設計にありました。ブリッジの TreasuryCheck バリデータが、14 個の可変長フィールドを区切り文字も長さ情報も付けずに連結して署名対象のメッセージを作っていたため、フィールドの境目が一意に定まりませんでした。結果として、約 3,110 NIGHT を承認する正当な署名が、2 億 300 万トークンの引き出しにもそのまま通ってしまいました。差はおよそ 65,000 倍です。Wanchain は無断の引き出しを認め、調査のあいだブリッジを停止しています。

まず押さえておきたいのは、これは Cardano でも Midnight でもなく、外部ブリッジの事故だという点です。Midnight Foundation は、事象が Wanchain の Cardano-BNB Chain ブリッジに限定されており、Midnight のプロトコル・検証者ネットワーク・合意機構は通常どおり安全に稼働していると説明しています。

価格はどう動いたか

流出したトークンはすぐに売られました。追跡では約 3 億 NIGHT が Cardano の分散型取引所で売却され、うち約 2 億 1,770 万が ADA に、約 8,788 万が USDCx に交換されています。

値動きはこの順序どおりに現れました。NIGHT は 7 月 20 日 16 時(協定世界時)の $0.0252 から同日 20 時には $0.0186 まで落ち、7 月 21 日早朝に $0.0174 前後の週間安値をつけています。その後は戻し、7 月 22 日 0 時には $0.0237 まで回復しました。週末の終値は $0.0202 です。

一点補足しておくと、報道では事故の日付が 7 月 21 日と記されているものが少なくありません。これは記事の公開日で、取引そのものは 7 月 20 日に起きています。価格の推移を見ると、下げは 7 月 20 日の流出とその直後の売却に対応しており、時系列は整合しています。

読み筋

プライバシーを扱うネットワークにとって、この事故は皮肉な形で本質を突いています。守られていたのは Midnight のコアでした。破られたのは、そこへ資産を運ぶために架けられた外部の橋です。

チェーン本体の安全性と、そこへ出入りする経路の安全性は別の問題です。利用者から見れば、資産が消えたという結果は同じでも、原因の所在が違えば取るべき対処も違います。どのチェーンを使うかと同じ重さで、どの橋を渡るかが実務的な判断になってきた——今回の事故が残したのは、この線引きの明確さだと考えています。

Midnight 自身は同じ週に、7 月版の State of the Network を公開しました。政策方面への働きかけや教育コンテンツに加え、Token Terminal と Dune との連携が挙げられています。外部の分析基盤からネットワークの動きを追えるようになるということで、プライバシーを扱う設計が「見えない」のではなく「何を見せるかを選べる」ものであることを、データの面から確かめやすくなります。

5. リスク・ディメンション

領域今週の状態次に確認したいこと
プロトコルPV11 が発効。約 10 分の空白のあと正常化新しい組込関数を使った契約が実際に出てくるか
実行コスト一部プリミティブは引き上げ、新型で下がる余地主要 DeFi の実コストが結局どちらへ動くか
ガバナンス国庫 5 件が 7/28 期限。いずれも 67% 未達期限までの票の動きと、否決後の再提案
監督CC 4 名が確定、監査は 7/27 までオンチェーン反映(エポック 646)の完了
境界(ブリッジ)第三者ブリッジで大規模流出、停止中復旧条件、他ブリッジの同種検証の点検
配布(Midnight)NIGHT は週間 −27%、事故後は一部戻す流通量の増加ペースと実需の立ち上がり

6. 来週の注目

  1. 国庫 5 件の決着 — 7 月 28 日の期限に向けた DRep の票の動き。通るのか、期限切れになるのか。
  2. 憲法委員会の確定 — 7 月 27 日までの監査完了と、エポック 646 でのオンチェーン反映。
  3. PV11 の実効 — 新しい配列型・BLS12-381 関連の組込関数を実際に使う実装が現れるか。
  4. ブリッジの後処理 — Wanchain の調査結果と復旧条件、および同種の署名検証を持つ他ブリッジの点検。
  5. NIGHT の需給 — 事故後の戻りが続くか、配布分の流通増を消化できるか。

まとめ

今週の Cardano は、床を上げ、その上で配分をめぐる投票に入り、外部の橋で事故を経験しました。van Rossem は予定どおり発効し、10 分の空白のあと何事もなく走り出しています。ただし「実行コストが下がった」という要約は正確ではなく、実際には価格表が引き直されました。そして国庫の 5 件は、いずれもまだ 67% に届いていません。

前号で私たちは「その上に何を積むかが次の問いです」と書きました。今週その問いは、投票という具体的な形で返ってきました。積むものを決めるのは、床ではなく、票です。

参考・出典

  • Intersect MBO — Weekly Update #121(2026-07-24・発効確認、CC 選挙結果、提案の期限):https://www.intersectmbo.org/news/intersect-weekly-update-121-july-24-2026
  • Intersect MBO — Cardano upgrade: van Rossem Hard Fork(発効時刻・コストモデルの方向):https://intersectmbo.org/news/cardano-upgrade-van-rossem-hard-fork
  • Hard Fork to Protocol Version 11「van Rossem」(ガバナンスアクション):https://gov.tools/governance_actions/fdd468da5cc4ac8431dcd7e2b3211666c73bc229f85879469f67f1d9d51d344d
  • Daedalus 11.1.0 リリースノート(2026-07-22・既存インストールの Mithril 同期):https://github.com/input-output-hk/daedalus/releases/tag/11.1.0
  • Wanchain ブリッジ流出の技術解説(署名エンコーディングの欠陥):https://www.cryptotimes.io/insights/wanchain-night-bridge-exploit-signature-flaw/
  • NIGHT の反発と業界への提起(CoinDesk・2026-07-22):https://www.coindesk.com/business/2026/07/22/midnight-token-rebounds-after-wanchain-bridge-hack-hoskinson-calls-for-industry-overhaul
  • Midnight — State of the Network, July 2026(Token Terminal / Dune 連携):https://midnight.network/blog
  • オンチェーンのガバナンス集計:Koios(https://api.koios.rest)
  • 価格:CoinGecko(https://www.coingecko.com/)

透明性メモ

価格は CoinGecko の日次スナップショット(協定世界時基準)で、7 月 18 日と 7 月 25 日を比較しています。前号は別の時点のスナップショットを使っているため、7 月 18 日の数値がわずかに異なります。NIGHT の日中の推移は同じく CoinGecko の時間足によります。ガバナンスの賛成率は Koios の集計で、2026 年 7 月 25 日時点の値です。投票は期限まで動くため、この数値は確定値ではありません。憲法委員会の選出は暫定結果で、監査とオンチェーン反映が残っています。ブリッジ事故の被害額は報道によって約 900 万〜1,300 万ドルと幅があるため、本文ではトークン数量を用いました。

※本記事は情報提供を目的とし、暗号資産の購入・売却・保有を推奨するものではありません。