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Liqwid V3 が原子的な実行に対応しました——同じ日に、清算役を DAO が担う提案が投票にかかります

2026-09-09SIPO

協定世界時の 9 月 8 日夕方、日本時間では 9 日の未明にあたる時間に、Liqwid が 19 分の間隔で 2 つの告知を出しました。ひとつは V3 の実装進捗で、利用者の操作を既存の非同期な注文フローと並べて原子的に実行できるようになった、という内容です。もうひとつはガバナンスの予告で、LIP-196 と LIP-197 の投票期間がまもなく始まる、というものでした。前者は取引の組み立て方の話、後者は「清算という仕事を誰が担うのか」の話です。別々の話題に見えますが、どちらも貸付プロトコルの健全性を外部の善意に預けたままにしない、という同じ方向を向いています。SIPO は 8 月に Fluid V4 が清算役をトークン保有者の bot に開いた件を扱いました。今回は同じ論点が、Cardano の主要な貸付プロトコルの側から出てきています。順に見ていきます。

「原子的に実行できる」は、途中で止まらないという意味です

まず V3 の進捗のほうです。Liqwid の公式アカウントは、次のように書いています。

V3 の利用者操作が、既存の非同期な注文フローと並んで原子的に実行できるようになりました。プールの UTxO は、ADA 保管庫の複数 SPO への委任に対応するため分割できます。そして最初の supply 注文が、内部テストで V3 の API を通りました。

ここで言う「原子的」は、Cardano の文脈ではかなり具体的な意味を持ちます。UTxO モデルでは、ひとつのトランザクションで消費できる UTxO は、そのトランザクションを組み立てた時点で決まっています。同じ UTxO を狙う人が同時にいると、後から届いたほうは弾かれます。貸付プロトコルのように多数の利用者が同じプールへ同時に触れる設計では、これが「注文を一度預かって、順番に処理する」という非同期の作りを要求してきました。利用者から見ると、押した操作がすぐには確定せず、待ち行列に入るということです。

原子的な実行が並走できるようになった、というのは、その待ち行列を通さずに一度のトランザクションで完結させる経路が増えた、ということです。前日の投稿では、中核となる流れ全体が単一のトランザクション連鎖で動くようになったことも挙げられていました。既存の非同期フローを捨てたのではなく両方を持つ、という書き方になっている点は押さえておきたいところです。

ADA 保管庫の委任先が、ひとつではなくなります

SPO の立場から見て、今回の告知でもっとも直接的なのは真ん中の一文です。プールの UTxO を分割できるようにして、ADA 保管庫が複数の SPO へ委任できるようにする、と書かれています。

貸付プロトコルに預けられた ADA は、プロトコル側の設計次第で、預かったまま特定のプールへ委任されます。そのとき委任先がひとつしかなければ、預かり額が増えるほど、その一箇所にステークが集中します。集中は、飽和の問題としても、ネットワーク全体の分散度の問題としても、望ましい方向ではありません。UTxO を分割できるようにするというのは、その集中を分けられるようにする、ということです。

ここは実装の告知であって、実際にどのプールへどう配分するのかという運用の設計は、まだ公表されていません。誰がその配分を決めるのか、DAO の投票で決まるのか、あらかじめ規則で決まるのかも、この一文からは読み取れません。それでも「大きな預かり資産を持つアプリケーションが、委任先を分散できる構造を先に用意した」という事実は、SPO にとって追いかける価値があります。分散度は理念ではなく、こうした個々の設計判断の積み上げで決まるからです。

清算役を DAO が担う——LIP-196 が提案しているもの

もう一方の告知は、LIP-196 と LIP-197 の投票期間が「およそ 11 時間 55 分後」に始まる、という予告でした。投稿は日本時間の 9 月 9 日 2 時 36 分ですので、開始はおおよそ同じ日の午後にあたります。

LIP-196 は「短期の無担保ローンを使った DAO 主導の清算」を可能にする提案です。ガバナンスフォーラムに掲載された本文によれば、出発点にあるのは依存の問題です。清算はいま、技術的な知識と遊休資本の両方を持つ外部の bot 運営者に依存しています。手数料の分配を変えて清算の報酬を下げると、その民間の清算者が離れかねず、相場が荒れた局面でプロトコルの支払能力を保つ力が弱くなる、という認識が置かれています。

提案されている仕組みは、DAO が管理する清算の実行主体が、清算のためだけに Liqwid の市場から無担保で借りられるようにする、というものです。フォーラムの記述では、実行の流れは次の 6 段階です。負債となる資産を借りる、健全性を失ったポジションを清算する、担保を差し押さえる、その担保を借りた資産へ交換して戻す、元本と最低利息を返済する、残った利益を DAO のトレジャリーへ送る。

無担保という言葉だけを見ると危なく響きますが、提案側は制約を並べています。用途は清算に限定すること、借入額・エクスポージャー・期間に厳格な上限を置くこと、スリッページの上限と承認された DEX の経路を保守的に設定すること、供給者への最低利息の支払いを必須にすること、ガバナンスで停止できる仕組みを持つこと、公開報告と技術レビューを行うこと。対象も、最初は ADA・NIGHT・ステーブルコインの各市場に限ると書かれています。あわせて、清算の独占権を与えるものではないこと、借り手側の罰則を強めるものではないこと、第三者の清算者を締め出すものではないことも明記されています。

設計の思想としては、8 月に見た Fluid V4 と同じ方向です。清算という「誰かがやってくれないと困る仕事」を、外部の善意と採算性に任せきりにせず、プロトコル側の当事者が担える経路をもう一本引いておく。違いは担い手で、Fluid はトークン保有者の bot、Liqwid は DAO そのものです。

同じ日に投票にかかるもう 1 本は、59,000 ADA を使わない決定です

並んで投票にかかる LIP-197 は、Liqwid V2 のバグバウンティ計画を取り消す提案です。フォーラムの本文によれば、理由は資源配分で、セキュリティの人手は V3 に集中させるべきであり、置き換えが決まっているプロトコルのために別建ての報奨金制度を維持するのはトレジャリーと運用能力の負担になる、という主張です。V2 を BUSL 1.1 のもとでソース参照可能にすること自体が、外部の研究者が脆弱性を見つけて既存の開示経路で報告する機会を十分に与える、という理屈も添えられています。

数字としては、バグバウンティに充てるとされていた 59,000 ADA が使われないことになります。取り消されるのは報奨金の部分だけで、LIP-147 のほかの条項——2026 年 12 月までに V2 のコードを公開するという計画——は残り、責任ある開示の窓口も開いたままです。報奨金を外して窓口だけを残したとき報告が来るのかどうかは、提案の中で唯一、根拠が経験則に寄っている部分です。

次に見るもの

3 点あります。ひとつは LIP-196 の投票結果と、可決された場合の上限値です。提案本文は上限を置くとだけ述べており、具体的な数値はまだありません。無担保で借りられる主体を作るとき、危険を決めるのは思想ではなく上限の数字のほうです。

ふたつめは、ADA 保管庫の委任先をどう配分するかの設計が公表されるかどうかです。UTxO を分割できることと、実際に分散させることは別の話で、後者は運用の規則が要ります。

3 つめは、V3 の原子的な実行が内部テストの外へ出る時期です。今回の告知はいずれも内部テストの段階で、最初の supply 注文が API を通った、という書き方でした。外部の利用者が触れる形になったとき、待ち行列がどこまで短くなるのかが、この設計変更の実質的な採点になります。


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