Cardano 財団は 10 月 7 日、シンガポールで開かれている TOKEN2049 の場で、プログラマブルトークンの規格 CIP-0113 が Cardano のメインネットで稼働したと発表しました。ステーブルコインやトークン化ファンド、債券の発行体は、本人確認(KYC)やマネーロンダリング対策、制裁リストの照合、凍結と差し押さえ、移転の制限といったルールをトークンそのものに組み込めるようになり、そのルールは送金・発行・焼却のたびに Cardano の台帳が執行します。
同じ日には、スイスの業界団体 CMTA が、CIP-113 のトークンを自らの認証制度で使える規格として認めたことも発表されました。9 月 30 日に CIPs リポジトリへ統合された規格が 1 週間で本番に乗り、規制の側の物差しにも一つ届いたことになります。この記事では、発表で何が確定したのか、発行体と保有者それぞれに何が変わるのかを整理します(初期報)。
発表で確定したこと: ネイティブ資産のまま、台帳がルールを守らせる
財団のプレスリリースによると、CIP-0113 は Cardano コミュニティの専門家との共同開発と、複数の独立したセキュリティ監査を経てメインネットに載りました。財団の公式 X は、要点を次の 3 文にまとめています。
Issuers of stablecoins and other regulated assets can now build compliance rules directly into native Cardano tokens. Enforced by the network itself. No hard fork required.
— Cardano 財団公式 X(2026 年 10 月 7 日)
仕組みの上で大事なのは、このトークンがCardano のネイティブ資産のままだという点です。ラッパー(別の器に包んだトークン)や閉じたシステムに移すのではなく、Cardano の EUTXO(拡張 UTXO)台帳の上で、ルールの処理をトークンに結びつけます。リリースは、ウォレットやエクスプローラーが一度対応すれば他のネイティブ資産と同じように扱えること、取引の入力がいくつあっても実行コストが予測できること、ハードフォークが要らなかったことを挙げています。
ルールは「モジュール」と呼ぶ部品として組み合わせます。発行体は用意されたモジュールを選ぶことも、自分で書くこともでき、規制が変わったときには中核の規格に手を入れずにモジュールだけを更新できます。財団のシニア・ブロックチェーン・アーキテクト、ジョヴァンニ・ガルジューロ氏は「プログラマブルトークンもネイティブ資産なので、エコシステム全体がそのまま扱える。一方で発行体のルールは取引のたびに台帳が確かめる」と説明しています。
CMTA の認定と、対応を表明した 4 つの道具
スイスの資本市場・技術協会(CMTA)は、CIP-113 のトークンを、自らが定めるトークン化証券の規格 CMTAT と同等のスマートコントラクトとして、認証制度の上で扱うと発表しました。CIP-113 のトークンは CMTAT が必須とする機能を備えており、CMTA の基準のもとで台帳型の株式(スイス法の ledger-based securities)の適合性を認証する際に使えます。財団は 9 月の月次報告で、最初のモジュールが監査を通って CMTA に認証を申請したと書いていました(10 月 7 日の記事)。その申請に答えが出た形です。
道具の側では、ウォレットの Eternl と GeroWallet、エクスプローラーの CardanoScan、開発ツールの BloxBean が、稼働の時点から対応しています。発行体も保有者も、すでに使っている道具でトークンを扱い、ルールを確かめられるというのが財団の説明です。
規格の元になったプロトコルを設計した Midgard Labs の CEO、フィル・ディサロ氏は、財団のチームが Aiken(Cardano のスマートコントラクト言語)による実装に厳密さを持ち込み、共同作業で規格が強くなったと述べています。財団は今後、規制対象の金融商品に向けた証券モジュールの開発を続けるとしています。
発行体の入口が開き、保有者には確かめる点が一つ増える
発行体にとっての変化ははっきりしています。これまで Cardano のネイティブトークンは、一度発行すれば誰にでも自由に送れました。扱いやすい反面、法的な理由で口座を凍結したり、許可された相手にだけ渡したりする手段がなく、規制に対応したステーブルコインやトークン化証券を出しにくい構造でした。財団のフレデリク・グレガード CEO は「ルールが資産と一緒に移動し、動くたびに執行されること」を規制当局が求めていると述べ、Cardano がそれを自前でできるようになったと位置づけています。資金を出すアプリに CIP-113 への対応を求める Cardano PRIME の方針(10 月 2 日の記事)も、この土台が本番にあることを前提に動き出します。
保有者の側では、受け取ったトークンがどのモジュールで動いているかが新しい確認点になります。凍結や差し押さえは、規制の要請に応えるための機能であると同時に、発行体などが保有者の残高に手を入れられる権限でもあります。誰がその操作を実行できるのかは CIP-113 そのものではなく個々のトークンの設計で決まる、と規格本文が書いていることは、9 月 30 日の記事で整理しました(9 月 30 日の記事)。同じ「ドル建てのトークン」でも、ルールの中身はトークンごとに違いうるということです。
SIPO の視点では、Cardano のステーブルコインと実物資産の議論は、これから「どのトークンに、どのルールが付いているか」を読み比べる段階に入ります。読み比べる手間は増えますが、発行体が守ると約束しているルールを、台帳の上で確かめられるようになります。
次に見るもの
確かめられる点は 3 つあります。1 つ目は、CIP-0113 で発行された最初の本番トークンです。どの発行体が、どのモジュールを組み合わせて出すのかは、対応済みの CardanoScan のトークンページで読めるはずです。2 つ目は、財団が開発を続けるとした証券モジュールで、11 月初めに出る見込みの 10 月の月次報告に進み具合が載るかどうかが目安になります。3 つ目は、CIPs リポジトリでの CIP-113 の状態です。9 月 30 日の統合時点では Proposed(提案済み)で、Active への条件はまだ満たされたと記録されていませんでした。本番の稼働がこの記録にどう反映されるかを見ます。
ことば
- CIP-0113 — Cardano のネイティブトークンに、送金のたびに必ず実行されるルールを持たせる規格。2023 年 1 月に提案され、9 月 30 日に CIPs リポジトリへ統合、10 月 7 日にメインネットで稼働しました。
- CMTA / CMTAT — スイスの資本市場・技術協会と、同協会が定めるトークン化証券のスマートコントラクト規格。今回、CIP-113 のトークンがこの規格と同等として認証に使えると認められました。
- 凍結と差し押さえ(freeze and seize) — 発行体などが特定のアドレスのトークンの移動を止めたり、回収したりする機能。規制対応の要ですが、誰が実行できるかはトークンごとの設計で決まります。
一次ソース / 関連リンク
Cardano Foundation launches programmable token standard(Cardano 財団プレスリリース・2026 年 10 月 7 日)(cardanofoundation.org)
- Cardano 財団公式 X の告知(2026 年 10 月 7 日)
https://x.com/Cardano_CF/status/2107667227210367411



