Cardano のウォレット Gero Wallet が、バージョン 2.7.1 の公開を 9 月 17 日未明(日本時間)に公式 X で告知しました。Midnight の秘匿残高(シールドされた残高)がメインネットで表示できるようになり、Midnight の dApp が必要とするゼロ知識証明の作成・手数料の支払い・送信まで、ウォレットが引き受ける形になっています。
GitHub のリリースノートは、この更新で「Gero を Midnight の dApp ウォレットとして完成させる」と位置づけています。あわせて、Cardano 側では複数の DEX をまたぐスワップの自動経路と、DRep や提案を追えるガバナンスの画面が加わりました。この記事では、Midnight を使う人にとって何が変わったのかを中心に、Cardano 側の変更と「まだ全員には届かない部分」を整理します。
■ 秘匿残高が、メインネットで見えるようになった
Midnight では、NIGHT のような公開の残高とは別に、中身を外から見えない形で持つ「シールドされた」残高があります。リリースノートによると、これまでテストネットでしか扱えなかったこの秘匿残高の表示が、2.7.1 でメインネットと Preprod(テスト用ネットワーク)でも使えるようになりました。
秘匿残高は、ウォレットが自分宛ての記録をチェーンから探し出して集計しないと表示できません。Gero はこの走査をバックグラウンドで行い、進み具合をダッシュボードと、拡張機能の小さな画面「Mini Gero」の両方に表示します。ページを再読み込みしたり拡張機能が再起動したりしても、途中から再開します。インデクサ(チェーンのデータを検索しやすく整理するサーバー)が止まりがちな場面にも耐えるよう手が入り、履歴の長いウォレットでも最初の走査を終えられるようにしたと書かれています。
残高の対象も広がりました。NIGHT だけでなく、USDM を含む Midnight 上のトークンを送る・受け取る・表示することができます。
■ dApp の「証明」を、ウォレットが肩代わりする
今回いちばん大きいのは、dApp との接続部分です。Midnight の取引では、条件を満たしていることを中身を明かさずに示すゼロ知識証明を作る必要があります。この証明の作成は計算が重く、「証明サーバー」と呼ばれる専用の仕組みで行います。
2.7.1 では、midnight-js で作られた dApp が、この証明の作成をウォレットに任せられるようになりました。証明サーバーは利用者が選べる形で、Gero Cloud、自分の手元で動かすローカルの証明サーバー、zkPaaS の 3 つが挙げられています。リリースノートは、dApp 側からは証明サーバーのアドレスや認証情報が見えない設計だと明記しています。
証明ができたあとの流れもウォレットが受け持ちます。dApp が契約の呼び出しを証明したら、ウォレットがその取引に資金を入れて手数料を支払い、送信する。送信後には、インデクサや公式のウォレット SDK と同じ取引ハッシュが dApp に返るので、dApp はすぐに取引を追いかけられます。
使う人の目に見える変化としては、Mini Gero に接続中のサイトごとの活動カードが出て、「証明 → 資金の追加 → 送信」の各段階と経過時間、失敗した場合はその理由が表示されます。秘匿残高の走査が終わる前にサイトが残高を求めた場合や、証明サーバーが応答しない場合も、黙って失敗させずにサイドパネルで保留し、解錠・設定の確認・再試行・拒否を利用者に選ばせる、とされています。
ただし、この一連の流れを実際の第三者の dApp で最後まで確かめた環境として書かれているのは Preprod です。メインネットの dApp で同じように使えるかは、対応する dApp の側の状況にもよるため、使い始める前に確認しておきたい点です。
手数料まわりでは、別のウォレットの DUST で手数料を肩代わりする機能もこの版に入っています(仕組みは 9 月 16 日の記事で詳しく扱いました)。加えて、Cardano 側で cNIGHT を持ち、その登録から生まれた DUST も手数料の支払い能力として数えるようになり、DUST が Cardano のステーク登録から来ているウォレットでも送金できると書かれています。
■ Cardano 側: 6 つの DEX をまたぐスワップと、ガバナンスの画面
Cardano のスワップでは、メインネットで検証済みの 6 つの DEX を自動で経路選択するようになりました。内訳は Minswap の V1・V2、WingRiders の V1・V2、SundaeSwap V3、Splash です。SaturnSwap と MuesliSwap は「すべての経路を見る」の中で試験扱いのまま残ります。すべての DEX で注文の取り消しが直され、SundaeSwap V3 では自分の注文を取り消せるようになっています。
ガバナンスでは、提案の詳細、DRep を探す画面、自分の委任と投票の履歴、検証済みの投票理由(rationale)の閲覧がまとまった「ガバナンスハブ」が加わりました。検証できない投票理由は警告つきで表示されます。登録済みの DRep は、提案の一覧から投票することもできます。
日常の使い勝手では、ウォレットのお気に入り・カテゴリ分け・ドラッグでの並べ替え、処理中の取引がすぐ履歴に出る表示などが入りました。ハードウェアウォレットの Keystone と、ブラウザの Brave での動作改善も含まれています。
■ まだ全員には届かない部分
リリースノートの末尾には、ガバナンス、CIP-45(dApp との遠隔ペアリング)、CIP-113、RealFi 関連の機能は機能フラグの後ろで段階的に展開し、すべてのネットワークで使えるとは限らない、と書かれています。更新を入れてもガバナンスハブがすぐに見えない場合があるのは、このためです。
もう一つは端末です。今回の 2.7.1 はブラウザ拡張機能の更新で、配布先として案内されているのも Chrome ウェブストアです。スマートフォン版について Gero は公式 X の返信で、現在はクローズドベータで、10〜11 月に iOS から先に出し、その後 Android に広げると答えています。
Midnight は、NIGHT の受け取りや DUST の登録といった「持つ」段階から、dApp を実際に「使う」段階へ移ろうとしています。その境目でつまずきやすいのが、証明の作成と手数料の用意という、利用者から見えにくい二つの手間でした。2.7.1 はその両方をウォレットの内側に引き取る更新です。あとは、引き取った手間を前提にした dApp がメインネットにどれだけ出てくるか。ウォレットが先に道を整えた形になりました。
■ ことば
- 秘匿残高(シールドされた残高) — Midnight で、中身を外から読めない形で保有する残高です。表示にはウォレットが自分宛ての記録を探して集計する必要があり、2.7.1 ではその走査をバックグラウンドで続けられるようにしました。
- 証明サーバー — Midnight の取引に必要なゼロ知識証明を計算する仕組みです。計算が重いため専用のサーバーで行い、2.7.1 では Gero Cloud・ローカル・zkPaaS から利用者が選び、dApp にはその接続先を見せません。
- Stagenet — Midnight の開発者向けテストネットワークです。リリースノートでは、廃止された Preview に代わるネットワークとして扱われ、2.7.1 はメインネット・Preprod と並んでこれに対応しました。
一次ソース / 関連リンク
- Gero Wallet 公式 X : v2.7.1 公開の告知(2026-09-17 01:41 JST)
https://x.com/GeroWallet/status/2100263746849435856 - Gero Wallet 公式 X : Midnight 関連の変更(同スレッド 1/)
https://x.com/GeroWallet/status/2100263750674555332 - Gero Wallet 2.7.1 リリースノート(GitHub)
https://github.com/Gero-Labs/gerowallet/releases/tag/v2.7.1 - Gero Wallet 公式 X : モバイル版の予定についての返信(2026-09-17)
https://x.com/GeroWallet/status/2100344500270813445 - Gero Dashboard(Chrome ウェブストア)
https://chromewebstore.google.com/detail/gero-dashboard/bgpipimickeadkjlklgciifhnalhdjhe - SIPO : Gero 2.7.1、Midnight の手数料を別ウォレットの DUST で肩代わり(2026-09-16)
https://sipo.tokyo/signal-20260916-dd9e65e0/
