Cardano憲法を、コミュニティが継続的に議論し、改善案を練り上げるための入口として、Intersectの「CAP Portal」が公開されています。
CAP Portalは、いきなりオンチェーン投票へ進む場所ではありません。憲法上の問題を言語化し、具体的な改正案を提示し、コメントや改訂を重ねるためのオフチェーンの協議空間です。現在は試験公開版であり、画面や編集機能、運用ルールが今後変わる可能性もあります。
SIPOはDRepとして、完成した提案に賛否を示すだけでなく、改正案が固まる前の段階から論点を確認し、質問を返し、Cardanoコミュニティがより良い選択をできるよう議論へ参加することが重要だと考えています。
今回は、2026年9月12日時点で取得した7件のうち、継続レビュー対象の5件のCAP / CISについて、議論の内容とSIPOの暫定見解をまとめます。新規のCAP-10とCIS-11は本稿の評価対象に含めていません。
CAPとCISは何が違うのか
CAP(Constitutional Amendment Proposal)は、憲法の具体的な変更内容を示して議論する提案です。一方、CIS(Constitutional Issue Statement)は、特定の解決策へ急ぐ前に「そもそも何が問題なのか」を整理し、その認識がコミュニティで共有されるかを確かめるための問題提起です。
この区別は大切です。問題への賛同が、そのまま特定の改正文への賛成を意味するわけではありません。また、CAP / CISへのコメントや暫定見解は、GovToolに提出されたオンチェーン・ガバナンスアクションへの賛成・反対・棄権の投票でも、最終的な投票理由でもありません。
1. CAP-1――トレジャリー支出をマイルストーンに連動させる
CAP-1「Require Milestone-Based Treasury Disbursement and Return of Undistributed Funds」は、トレジャリー資金の支払いを、達成度を測れる段階ごとの目標(マイルストーン)と、その達成を認める基準へ連動させる提案です。
提案には、少なくとも90日ごとの公開報告、重大な未達や不正利用がある場合の追加支払い停止、承認目的以外への無断再配分の禁止、完了・終了後に管理者の手元へ残った未配分資金を90日以内にトレジャリーへ返還することなどが含まれます。
SIPOの暫定見解: 方向性を支持
SIPOは、トレジャリーを単なる支出枠ではなくCardanoへの投資として考えています。そのため、成果の受入、証拠、支払い、停止、返還を事前のルールとして結び付ける方向は強く評価します。
一方で、現行案には実務上の重要な未解決点があります。誰がマイルストーンを受け入れるのか、その主体の独立性をどう保つのか、異議申立てや是正、支払い再開をどう扱うのか、「十分な公開証拠」や「重大な未達」をどう定義するのかが明確ではありません。管理者を介さず受領者へ直接支払う場合の適用、小規模案件に過大な負担をかけない仕組み、既存案件への移行規定も必要です。
さらに、CAP-1は次のCAP-2と同じ憲法第II条第7節を編集します。最終的な条文番号、適用順序、監査費用との関係を含む統合後の文面を確認する必要があります。
2. CAP-2――独立監査・監督指標の費用要件を削除する
CAP-2「Remove Article II section 7.4」は、トレジャリーからの資金引出し提案に独立監査と監督指標の費用を含めるよう求める現行要件を削除する提案です。資金管理者の指定や、コミュニティが監査可能な分離口座の要件は残ります。
提案者は、現行条文の範囲が広く解釈に委ねられた結果、憲法委員会による権限濫用を許してきたと主張しています。また、この条文を削除すれば、コミュニティへの保証を測定可能な形で減らすことなく、官僚主義や権限濫用を減らせると説明しています。
SIPOの暫定見解: 現行文面には不支持寄り
監査の範囲や費用が案件規模に対して過剰になり得るという問題提起は検討に値します。しかし、現在の提案には、権限濫用とされる具体的な憲法委員会の判断、該当条文との因果関係、削除後に独立監査を誰がどの財源で実施するかが示されていません。
「監査できる口座があること」と「独立監査を実施する責任と予算があること」は同じではありません。SIPOは、全面削除よりも、案件規模やリスクに応じて監査の独立性、対象範囲、開始条件、頻度、成果物、費用上限を定義する方が、効率性とトレジャリー保護を両立しやすいと考えます。
CAP-1とCAP-2を両方検討するなら、マイルストーン証拠の独立検証を誰が担い、その費用をどう確保するのかを一つの条文設計として示す必要があります。
3. CAP-3――NCLを戦略的支出計画へ発展させる
CAP-3「Evolve the Net Change Limit into a Strategic Spending Plan」は、Net Change Limit(NCL)を単なるトレジャリー流出上限から、大きな分野ごとの予算配分を含む戦略的支出計画へ広げる提案です。
現行案は、NCLの総額と分野別配分を同じガバナンスアクションで承認し、分野別配分を個別の資金引出しが従う上限として扱います。さらに、NCLの承認に必要な賛成割合を50%超から67%以上へ引き上げ、NCL期間の少なくとも50%が経過するまで置き換えを禁止する期間を追加します。
コメント欄では、NCLと予算を分けるべきか、分野別配分を拘束的な上限にするか方向性の目標にするか、長期間の変更禁止が状況悪化時の下方修正を妨げないか、複数の変更を一つの提案へまとめてよいかなど、議論が大きく広がっています。
9月7日(UTC)の提案者の返信では、必要な支出額と優先分野を一体で決めたいという意図が補足されました。ただし、提案本文は第1版のままで、67%という承認基準や、NCL期間の50%にわたる変更禁止の根拠、緊急時の修正手順は、この返信でも具体化されていません。
SIPOの暫定見解: まず深いレビューが必要
個別提案が先着順で資金枠を取り合う前に、Cardanoが「何へ投資し、何を回収したいのか」を全体の戦略として共有する方向は重要です。ただし、その価値への賛同は、67%という数値、期間の50%にわたる変更禁止、拘束的な分野別上限、すべてを一つのガバナンスアクションで承認する現行文面への賛成を意味しません。
SIPOは少なくとも、次の四層を区別して考える必要があると見ています。
- トレジャリーの長期健全性を守る支出上限としてのNCL
- その上限以下で実際に使う予定総額
- 何へ投資するかを示す戦略的分野別配分
- 実行者、金額、成果、条件を定める個別のトレジャリー資金引出し提案
これらを同時に承認する設計であっても、上限と実際の予算を区別し、分野間の再配分、意見がまとまらない場合の扱い、状況悪化時の下方修正を検証できることが必要です。
まずNCL領域で実際に起きている問題、NCLの目的、算定の分母、期中修正の必要性、良い解決策が満たす条件をCISで整理し、その後にNCL、予算、分野別配分、承認基準、変更禁止期間を切り分けて検討できるCAPとして比較する道も検討すべきです。
4. CIS-4――憲法改正の「抱き合わせ」問題
CIS-4「The Bundling Gap in Constitutional Amendment」は、一つの憲法改正提案へ独立した複数の変更をまとめることで、投票者が「一部には賛成、一部には反対」という意思を表せなくなる問題を扱っています。
提案は、プロセスが抱き合わせを強制しているとは主張していません。提出者には変更を分ける自由がある一方、提出済みの一括提案を投票者側で分離する手段がなく、個別評価、特定部分への反対、後日の修正、変更間の相互作用の検証が難しくなるという問題を提起しています。
同時に、すべての一括提案を問題とはしていません。別々に採用すると条文が矛盾したり機能しなかったりする「真に相互依存する変更」と、単に一緒に提出された変更をどう区別するかを、コミュニティへの問いとして残しています。
SIPOの暫定見解: 問題提起を支持
SIPOは、問題の存在を議論する出発点として、現在のCIS-4を支持します。ただし、これは一つの提案で扱う主題を一つに限るルール、提出慣行、憲法による提案範囲の制限、特定の審査機関といった解決策への支持ではありません。
次の段階では、一つの共通目的をどう定義するか、変更同士の必要な依存関係をどう証明するか、各変更を単独で戻せるか、組み合わせた場合の失敗や一部の変更だけを元に戻す際の問題をどう事前開示するかを、再現可能な基準として議論する必要があります。
5. CAP-9――文書の変更不能な保存を求める要件をハッシュ検証へ置き換える
CAP-9「Remove immutable storage requirement for governance metadata」は、ガバナンスアクションの参照文書を後から変更できない保存先へ置くという憲法要件を削除し、オンチェーンに記録されたハッシュ値(文書のデータから計算する照合用の値)と一致する文書を最終版として扱う提案です。ハッシュ値が一致しない文書は、参照された版として扱わないとします。
SIPOの暫定見解: 追加説明が必要
憲法が特定のストレージ技術を固定せず、「同じ文書であることを第三者が検証できる」という安全性の要件を定める方向には合理性があります。ただし、取得したデータから計算したハッシュ値を記録された値と照合できても、将来もそのデータを入手できることまでは保証できません。
参照先のページが見つからない、応答がない、別の場所へ転送される、閲覧が制限される、利用者によって異なる内容が配信される場合の扱いを明確にする必要があります。最低保管期間、複製先や保存記録、共通の検証ツール、ハッシュ値の計算方法も必要です。さらに、文字コードや改行を含め、どのデータを照合対象とするかを厳密に定めなければなりません。文書を取得できない場合に、そのガバナンスアクションの有効性や憲法適合性をどう扱うのかも明確ではありません。
また、現行条文には、オンチェーンのガバナンスアクションの内容が、オフチェーンで確定した最終版と同一でなければならないという要件があります。CAP-9の置換案は、変更不能な保存先を求める要件だけでなく、この同一性要件も削除します。ハッシュ値による照合ルールの下で意図的に不要とするのか、別の形で維持するのかを確認する必要があります。
5件を通じて見えるSIPOの基本姿勢
今回の5件は、テーマこそ異なりますが、共通して「良い意図を、検証可能で持続する制度へ変えられるか」を問うものです。
SIPOは、次の原則でCAPの議論に参加します。
- トレジャリーを投資として考える。 支出額だけでなく、成果、検証、停止、返還、失敗時に残る知見を確認する。
- 問題と解決策を分ける。 問題への共感だけで特定の条文や数値を支持せず、必要ならCISで問題定義を先に整える。
- 変更を検証可能にする。 一つの提案へ複数の判断を含める場合は、必要な依存関係、相互作用、採用順序、個別の巻き戻し可能性を示す。
- 効率化で監査を空洞化させない。 過度な手続は改善しつつ、独立性、説明責任、証拠、トレジャリー保護を残す。
- 技術を固定せず、性質を保証する。 特定製品ではなく、データの同一性を確認できることや、必要なときに取得できることを要件とし、誰でも同じ検証結果を得られる標準とツールを求めます。
SIPOは今後どう参加するか
SIPOは、CAP Portalでの提案や議論を継続的に確認し、根拠と未解決の論点を整理しながら、DRepとして協議に参加していきます。本稿で示した見解は暫定的なものであり、新たな回答や提案の改訂に応じて再評価します。
今後は、確認が必要な点を具体的な質問としてまとめ、SIPOとして内容を確認したうえで、各提案の議論へ届けます。SIPOサイトでも、確認日、参照資料、提案へのリンク、暫定見解、質問と回答の状況を整理し、判断の経緯を追える形で伝えていきます。
CAPは、憲法の変更そのものを直ちに決定する場ではありません。オンチェーンの意思決定との関係は提案ごとに確認が必要ですが、オフチェーン協議の段階で問題を見つけ、異なる立場を比較し、条文を改善できることに意義があります。
SIPOは、賛否を急ぐよりも、根拠に照らして検証でき、必要に応じて見直せる制度を、コミュニティとともに育てる姿勢で参加します。
参照リンク
注記:本稿は、2026年9月12日時点のCAP Portalの公開情報に基づきます。対象5件の見解は暫定的なもので、オンチェーン投票での賛否を確定するものではありません。参照した憲法文書についても、オンチェーン上の憲法との同一性を確認したものではなく、文書の更新を新たな憲法改正の成立とみなしていません。
