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Deep Dive

minPoolCost 75 ADA 案、次の論点は k とプレッジ

2026-09-27SIPO

Cardano 公式は 9 月 26 日、9 月 23 日に配信した Governance Hour #11 の録画を公開し、minPoolCost(プールの最低固定手数料)を 170 ADA から 75 ADA へ下げる議案の論点をまとめました。セッションは 75 ADA の是非にとどまらず、その先に控える最低マージン(CIP-23)、k の引き上げ、Dijkstra で入るプレッジの仕組みまでを一続きで扱っており、10 月 11 日に締め切られるこの一票が、次の三つの設計のどこにつながるのかが見えてきます。

ホストは Cardano Foundation の Nicolas Cerny 氏、ゲストは提案者の Ryan Wiley 氏(Cerkoryn)です。本稿では、公式の告知文が要約した論点を柱に、提案書と各 CIP の原文、取得時点の票数を重ねて、議案のその先を順に読んでいきます。

minPoolCost は「最低手数料」

公式の要約によれば、Wiley 氏がまず説明したのは、minPoolCost は実際には運営コストではなく「最低手数料」だという点でした。プールの報酬はエポックの終わりに配られ、固定手数料がまず運営者へ渡り、残りが委任者へ回ります。宣言できる固定手数料の下限がこの値で、下回る設定はプロトコルが受け付けません。

二つめの論点は、小さなプールに委任した人が被る目減りが、ブロック報酬の減少とともに膨らんできたことです。提案書は、1 ブロックあたりの報酬が 2020 年当時の約 1,800 ADA から、準備金の減少にともなって約 300 ADA まで下がったと書いています。固定額が同じなら、報酬に占める比率は上がります。1 エポックに 1 ブロックしか作れないプールでは、170 ADA の固定費が報酬の約 57% を占め、75 ADA なら約 25% です。

提案書はさらに、1 ブロックのプールに委任した人の目減りが 2023 年の引き下げ(340 → 170 ADA)直後に約 28.3% まで下がったあと、現在は約 52.8% まで戻っており、手を打たなければエポック 758(2028 年 2 月ごろ)に 100% に達すると見込んでいます。75 ADA はこの目減りを過去の水準へ戻す値だ、というのが三つめの論点でした。

票は動き始めたが、まだ 12% 台

9 月 27 日 14 時 21 分(JST)に取得した DRep 側の数字は次のとおりです。大口の 1 票で数ポイント動くため、取得時点を添えます。

  • 賛成:12.29%(38 票)— 可決基準の読み方で、未投票を分母に含み、棄権を分母から外した割合。閾値は 67%
  • 投票済みの反対:10.88%(25 票)
  • AlwaysNoConfidence:3.03%
  • 未投票:73.8%
  • 棄権:6 票(分母外)
  • 憲法委員会:賛成 3・反対 0・未投票 4

セッション当日(9 月 23 日)の SIPO の集計では賛成 11.79%(31 票)、委員会の賛成は 2 でした。4 日で賛成は 7 票、委員会は 1 票増えています。それでも 67% との距離はまだ大きく、行方を決めるのは 73.8% の未投票がどちらへ動くかです。この議案は経済パラメータの変更で、SPO の票は集計されません。期限は 10 月 11 日(UTC)、日本時間では 10 月 12 日早朝のエポック境界です。

最低マージン(CIP-23)が来るまでの暫定値

公式の要約は「この先の道筋」として、最初に minPoolMargin(CIP-23)を挙げています。CIP-23 は 2021 年に Shawn McMurdo 氏と Wiley 氏が起草した提案で、プールが取る変動手数料(マージン)に下限を置く新しいパラメータを定めます。固定手数料の下限とは別に、報酬に比例した取り分の下限を持たせる設計です。導入時の値はゼロで、ガバナンスで引き上げていきます。既存のプール証明書のマージンが下限より低い場合は、報酬計算のときに下限まで引き上げて扱うため、再登録を強いられることはありません。

今回の提案書も、75 ADA を「比例型の minPoolMargin(CIP-0023)という、より構造的な解決までの暫定の一歩」と位置づけています。Intersect の Dijkstra 計画ページによれば、CIP-23 のパラメータは Dijkstra の第 1 段で定義されますが、手数料ルールそのものが第 1 段のハードフォークで有効になるかは、実装とガバナンスの準備が揃うかしだいで、後続のハードフォークへ回る可能性もあります。固定費の一歩が先に進み、比例型の下限は条件つきで後から来る——この順序が、議案を見るときの前提になります。

k の引き上げと、その前提

二つめの道筋が k(stakePoolTargetNum)の引き上げです。提案書はこの点を明確に書いています。小さなプールの経済が成り立っていなければ、将来 k を上げても効かない。だから今回の引き下げは、k を上げる前に踏んでおく一歩だ、という位置づけです。

k については、500 から 1000 へ上げるべきかを SPO に問う Info Action(意思表示の投票)が 9 月 17 日から係属しています。9 月 27 日 14 時 23 分(JST)時点で、SPO 側は賛成 11 票・投票済みの反対 11 票で、賛成は 0.58%、未投票が 96.44% を占めます。この議案の経過は Weekly Brief #25 で詳しく扱いました。Wiley 氏自身は日本時間 9 月 22 日の X 投稿で、minPoolCost の引き下げと k の引き上げを組み合わせた案を、今回の議案の期限が過ぎしだい提案する考えを示しています。

Dijkstra で入るプレッジの上限(CIP-50)

三つめが、Dijkstra でのプレッジの変更です。Intersect の計画ページは、CIP-50(プレッジのレバレッジにもとづく報酬)を Dijkstra の第 1 段(コード完成の目標は 2026 年第 4 四半期・ガバナンス手続きとテストは含まない見積もり)に置いています。

CIP-50 は新しいパラメータ L を導入し、報酬計算に使うプールのステークを「実際のステーク」「プレッジの L 倍」「飽和点」のうち最も小さい値に抑えます。飽和点による上限に加えて、プレッジに比例した二本目の上限がかかる形です。L が設定されると、プレッジがゼロのプールは委任があっても報酬がゼロになります。CIP の本文は、同じ運営者が追加のプレッジなしに多数のプールへステークを分ける動機を弱めることを狙いに挙げています。

ただし計画ページによれば、L は導入時に値が入らない状態(Nothing)で始まり、ハードフォークの時点では報酬の計算は何も変わりません。実際に効くのは、DRep が L に具体的な値を入れる投票を通したあとです。提案書が引く IO Research の報告は、高い固定費の下限はむしろ大口の事業者がステークを多数のプールへ分ける動機になりうると評価しており、固定費を下げたあとの分割をどう抑えるかという問いが、ここで CIP-50 につながります。

三つの設計が並ぶ順番

並べると、決まる順番が見えてきます。いま票が集まっているのは固定費の下限だけで、DRep と憲法委員会が決めます。k は SPO の意思表示が先に問われ、変えるなら別のパラメータ変更の議案が必要です。CIP-50 と CIP-23 は Dijkstra の中に置かれていますが、L の値は DRep の投票を待ち、CIP-23 の手数料ルールは有効になる時期そのものが条件つきです。

固定費の一歩が、その安全装置となる比例型の下限や分割への歯止めより先に進む、という順序です。SIPO の DRep は 9 月 15 日、この順序を理由の一つに挙げて本議案に棄権を投じています。一方で提案書は、k を上げる前に小さなプールの採算を立て直すことが先だと読みます。どちらの順序を重く見るかが、残り 2 週間の票の動きを分けることになりそうです。

次に確かめる場所

  • gov.tools の minPoolCost 議案ページ:10 月 11 日(UTC)の期限までに、未投票 73.8% がどちらへ動くか
  • gov.tools の k ポールのページ:期限のエポック 663(日本時間 10 月 22 日 6 時 44 分ごろ始まり)までに、SPO の賛成がステーク加重で過半へ向かうか
  • Intersect の Dijkstra 計画ページ:CIP-23 の手数料ルールが第 1 段で有効になるか、後続へ回るかの記載

編集メモ:セッションで語られた内容は、Cardano 公式の告知文が要約した範囲で扱っています。発言の細部は録画で確かめられます。

ことば

  • minPoolCost — プールが報酬から最初に受け取る固定手数料の下限。名前は「コスト」ですが実態は最低手数料で、下限が下がっても各プールの設定が自動で変わるわけではありません。
  • minPoolMargin(CIP-23) — 変動手数料(マージン)の下限を定める新パラメータ。固定費の下限を下げたあとも手数料の底なし競争を防ぐ装置として、今回の議案が本来の解決と位置づける仕組みです。
  • L(CIP-50) — プレッジに対して何倍までのステークを報酬計算に数えるかを決めるパラメータ。Dijkstra で入りますが、DRep が値を決めるまでは報酬に影響しません。

一次ソース / 関連リンク