SecondFiは2026年7月29日、セキュリティ・インシデント後の資産回収プロセスについて、新しい進捗を公表した。対応に参加する白帽子グループの一つが、救出した資産をEMURGO設置の回収基金へ入金したという。
これは、被害者への返還そのものが始まったという発表ではない。しかし、これまで「保護され、アクセス可能」と説明されていた救出資産が、公開された回収基金へ集約される工程へ進んだという点で、実務上の前進である。
一方、オンチェーン記録と公式発表を突き合わせると、今回の更新を「7月29日に新しい大口送金が起きた」と読むべきではないことも分かる。重要なのは、既に確認できる資産移動の一部について、SecondFiが白帽子救出資産として公式に位置づけたことだ。
今回、何が新しくなったのか
SecondFiは7月29日の公式Xで、次の3点を明らかにした。
- 参加する白帽子グループの一つが、救出資産を回収基金へ入金した
- 入金先は、EMURGOが当初設置した公開済みの回収基金アドレスである
- 緊急救出対応で確保された資産は、現在も保護され、アクセス可能な状態にある
対象アドレスは次のとおり。
addr1qyvvn9e9ulvzw2nvgkwraxwrla4a28l7gmduk7jru2rw9kdxkls8aczwgg8u44nj87uaq50rgcjulcxtzv9q8j0g2lss9kv2ss
このアドレスは7月4日の更新ですでに公表されていた。SecondFiは当時、4件の資産流出事象のうち3件が外部攻撃者によるもので、約1,600万ADAが失われたと説明し、被害者への返還用としてEMURGOが回収基金を設けたとしていた。
今回の新規性は、回収基金の存在そのものではない。「安全に確保している」と説明されてきた白帽子救出資産の一部が、公開された基金へ実際に集約されたとSecondFiが確認した点にある。
オンチェーンで確認できる現在地
SIPOは7月30日13時58分JST時点で、Cardanoの公開データAPIであるKoiosとCardanoscanを使い、対象アドレスを確認した。
Koiosの最新スナップショットでは、同アドレスの残高は16,102,368.735435 ADA(約1,610万ADA)。加えて、61種類のCardanoネイティブ資産が保持され、取引履歴は15件だった。
現在のUTXOには、NIGHT、HUNT、DRIP、USDA、INDY、IAG、HOSKY、MIN、複数の流動性プール・トークンなど、多様な資産が含まれている。回収対象がADAだけではなく、Cardanoネイティブ資産やDeFiポジションにも広がることを示す構成だ。
ただし、ここには重要な注意点がある。
オンチェーン上で大口のADAと複数資産が入ったのは主に7月1日と7月13日で、直近の小口入金は7月20日だった。7月29日の発表時刻に対応する新規トランザクションは確認できない。
したがって、現時点で最も安全な読み方は、「7月29日に新しい入金が起きた」ではなく、「既存のオンチェーン入金のうち一部を、SecondFiが白帽子グループの救出資産として公式に確認・公表した」である。
残高だけでは分からないこと
公開アドレスは、資金が存在することと、その後の移動を誰でも追跡できる点で重要だ。しかし、ブロックチェーン上の残高だけでは、返還プロセスの全体像までは分からない。
現時点で未解決なのは、主に次の点である。
- 約1,610万ADAのうち、EMURGOの拠出分と白帽子救出分がそれぞれいくらか
- 61種類の資産が、4件の資産流出事象や個別ウォレットとどう対応するか
- LPトークンやその他ネイティブ資産をどの時点・どの形で評価し、返還するか
- 個別利用者の資格確認、返還額、返還順序、異議申立ての方法
- 独立監査、回収ポータル、secure wallet exportの公開日
- 実際の返還開始時期
また、公開アドレスには第三者が少額資産を一方的に送ることもできる。アドレスに存在するすべての取引を、公式の回収資産や白帽子資産とみなすことはできない。
SecondFiには次の更新で、白帽子入金に対応するトランザクション、基金の資産構成、EMURGO拠出分との区分、返還工程との接続を示すことが期待される。公開アドレスの提示から、説明可能な会計へ進めるかが次の透明性の焦点になる。
利用者が今やってはいけないこと
SecondFiは、回収基金アドレスを「透明な進捗確認のためだけのアドレス」と明記している。利用者がこのアドレスへ資金を送る必要はない。送金してはいけない。
同社は続く安全注意で、次の行為を行わないと改めて説明した。
- 秘密鍵、復元フレーズ、ウォレット認証情報を求めない
- SecondFi側から先にDMやメールを送らない
- ウォレットアドレスへの送金を求めない
- 非公式リンク、偽アプリ、偽ブラウザ拡張を案内しない
7月30日時点で、資産移行について質問した利用者に対し、SecondFiは近日公開予定のsecure wallet export機能を待つよう案内している。つまり、今回の基金更新は、利用者が独自に送金、署名、復元、請求を始める合図ではない。
公式情報は @secondfiapp、@secondfi_jp、secondfi.io、support.secondfi.io の導線から確認する。特に、返還や移行を名乗って復元フレーズ入力、署名、送金、アプリ導入を求める案内は、詐欺として扱うべきである。
「保全」から「返還」へ、残る最後の距離
今回の発表は、資産回収の工程を一段具体化した。
6月末から7月初めにかけては、被害規模の把握、資産保全、回収基金の設置、チェッカー、Quarantine mode、移行手段の開発が並行して進められてきた。そこへ今回、白帽子救出資産の基金への入金が加わった。
しかし、資産が一つの公開アドレスへ集約されたことと、正しい所有者へ安全に返せることは別の課題である。
今後必要なのは、誰に、何を、どの条件で返すかを、監査可能な手続きへ落とし込むことだ。回収ポータル、所有者確認、資産ごとの会計、異議処理、セキュアな移行手段が接続されて初めて、保全された資産は利用者の手元へ戻る。
今回の進展は、返還完了ではない。それでも、「資産は守られている」という説明から、「公開アドレスへ資産が集まり始めた」という確認可能な状態へ進んだ。次に問われるのは、その透明性を返還台帳と利用者向け手順までつなげられるかである。
※本稿は2026年7月30日JST時点の公式発表とオンチェーンデータにもとづく。残高、資産構成、取引件数は今後変化する可能性がある。
参考・出典
- SecondFi公式X:Recovery Process Update — Asset Recovery Fund
- SecondFi公式X:Important Security Reminder
- SecondFi公式X:secure wallet exportを待つよう案内した返信
- SecondFi公式KB:Security Incident Update
- SecondFi公式ダウンロード導線
- Cardanoscan:回収基金アドレス
- Koios API Documentation
SIPO関連記事
- Signal|SecondFi、EMURGOの返還専用アドレスを公表:約1,600万ADA被害の返還準備が次段階へ
- SecondFi、Quarantine modeとsecure wallet exportへ:復旧は「確認・移行・条件付き回復」の次段階に
- Signal|SecondFi、1,610万ADA流出の原因を「暗号署名の実装欠陥」と説明——2系統の攻撃、Yoroi Wallet終了へ
- Deep Dive|プロトコルは無傷、陥ちたのはアプリ層——SecondFi事件がCardanoに残した宿題
- SecondFi資金回収に向けたゼロ知識証明のPoCをEryxが公開
透明性メモ
本稿は、SecondFi公式Xの7月29日更新と安全注意、7月30日の公式返信、SecondFi公式KB、公式サイト、Cardano公開オンチェーンデータを照合して作成した。残高・資産数・取引件数は、2026年7月30日13時58分JSTにKoios APIのaddress_infoとaddress_txsで取得した。
公式発表は、白帽子グループ名、対応するトランザクション、EMURGO拠出分との内訳、対象利用者、返還条件を明示していない。本稿は、特定ウォレットの安全性、返還資格、返還額、返還時期、送金・署名判断を断定するものではない。