ハードウェアウォレットは、ネットから切り離しておけば安全だと考えられてきました。その前提が、2026年7月末に大きく揺らぎました。
Coldcardという人気のビットコイン専用ハードウェアウォレットで、シード(秘密鍵の元になる乱数)の生成に不具合が見つかりました。2026年7月30日、41分間で1,196件のアドレスから1,082.65 BTCが一斉に送金され、被害はその後も拡大しています。失われたのは、平均して約3.18年動いていなかった長期保有者の資産でした。
チャールズ・ホスキンソン氏は2026年8月3日、自身のYouTubeチャンネルで「Wallets in 2026」と題したライブ配信を行いました。
氏はこの事件を「誰が悪かったか」の話にせず、「2026年に資産を守るとは、どういう設計を選ぶことなのか」という問いへ組み替えています。中心にあるのは、金額帯によって正解が変わるという考え方、AIが攻撃側の制約をどう外したかという分析、そして「アクセス制御」だけでは足りず「回復」という層が要るという主張です。
本稿では、事件の事実を一次ソースで整理し、ホスキンソン氏の発言と独立確認できる事実を分けて解説した後、動画の日本語全訳を掲載します。
動画はこちらです。
先に結論
- 氏の出発点は「最適なウォレットは何か」ではなく「いくら危険にさらしているか(Value at Risk)」です。5ドルと500万ドルでは正解が違うので、単一の推奨は成り立たないと述べています。
- 自己保管を選ぶなら、金額に応じて「ホットウォレット → 三要素認証つきの認証取得済みハードウェア → マルチモーダル・マルチシグ」と段を上げる、という整理を示しました。
- 今回の事件で本質的に変わったのは、攻撃の難易度ではなく攻撃者の母集団です。「攻撃したい人」は多く「高度な暗号解析ができる人」は少ない、という長年の非対称性を、AIが埋めたというのが氏の分析です。
- 氏は「セキュリティは鎖と同じで、一番弱い環の強さしかない」とし、多くの人が見落としている環として「回復(recovery)」を挙げました。
- Midnightの貢献は、アクセス制御の強化そのものではなく、身元と資産を切り離したうえで必要なときだけ紐づけを証明できるようにすること(選択的開示)であり、それが回復と保険を成立させる、という主張です。
- ただし、動画で語られたもののうち、出荷済みの機能と構想段階のものは分けて読む必要があります。Midnight Passportと保険は、いずれもこれから作るものです。
きっかけ──誰も触っていない金庫が破られた
事件の骨格を、一次ソースで整理します。
Coldcardを製造するCoinkiteは、同社製ハードウェアウォレットで生成されたシードにエントロピー不足の可能性があるとして、セキュリティ勧告を公開しました。勧告は2026年8月1日午後2時35分(米国東部夏時間)に更新されています。
影響範囲は勧告に列挙されています。Mk2/Mk3はファームウェア4.0.1から4.1.9まで、Mk4/Mk5は標準版5.6.0(Edge版6.6.0X)より前、Qは1.5.0Q(Edge版6.6.0QX)より前に生成されたシードです。Mk4/Mk5/Qについて勧告は、本来128ビットあるはずのエントロピーが約72ビットにとどまっていたとしています。Mk2/Mk3では、独立したサイコロの目を50回以上入力していないシードが対象です。
技術的な原因として広く報じられているのは、2021年3月のファームウェア統合時の誤りにより、シード生成がSTM32のハードウェア乱数生成器ではなく、決定的に動くソフトウェアの疑似乱数生成器へ流れていた、という点です。勧告自身は、サイコロ入力との関係を次のように説明しています。
COLDCARD hashed the device-generated seed together with every dice roll entered through Add Dice Rolls.
(COLDCARDは、Add Dice Rollsで入力されたすべてのサイコロの目と、デバイスが生成したシードをまとめてハッシュしていました。)
つまり、デバイス側の乱数が弱くても、利用者が十分な独立エントロピーをサイコロで足していれば、その分は守られていたことになります。
なお、この事故の乱数まわりの仕組み——ハードウェア乱数生成器を読むコード自体は存在していたのに、シード生成がそこへ到達しなかった経緯——については、SITIONが別の記事で掘り下げています。本稿は動画の解説が主題のため、原因の詳細はそちらに譲ります。
流出の実態を追跡したのはGalaxy Researchです。同社は第1波として、2026年7月30日 01:10:20〜01:51:26 UTC(ブロック960,183〜960,191)の41分間に、1,196件のアドレスが全額送金され、合計1,082.65 BTC(当時約7,020万ドル)が動いたと報告しました。すべての送金が30.0 sat/vBという同一の手数料率で、その週の中央値0.4〜1.0 sat/vBに対して30〜75倍の過払いだったことから、自動化されたツールによる一斉実行と見られています。この41分は、ベンダーの公開勧告より約30時間先行していました。
動画で氏が触れているのは、この第1波の数字です。その後、被害は拡大しています。8月4日時点のGalaxy Researchの集計では、確認済みで約7,300アドレス・1,596 BTC(1億ドル超)、未確認の第4波を含む推定で2,055 BTC(約1億3,000万ドル)、そして少なくとも15の独立した攻撃者が動いているとされています。脆弱性が公知になったことで、技術力のある者なら誰でも参加できる状態になったためです。
Coinkiteは修正版ファームウェアを配布しています(Mk2/Mk3は4.2.0以降、Mk4/Mk5は5.6.0以降またはEdge 6.6.0X以降、Qは1.5.0Q以降またはEdge 6.6.0QX以降)。ただし重要な点として、ファームウェアを更新しても既に生成済みのシードは直りません。新しい鍵への移行が必要になります。勧告はその移行についても釘を刺しています。
When migrating to a new key, calm and care should be applied. Rushing a wallet migration can create a more immediate risk than the issue you are trying to address.
(新しい鍵へ移行するときは、落ち着いて慎重に行ってください。移行を急ぐことは、解決しようとしている問題よりも差し迫ったリスクを生みかねません。)
独立確認できたこと、氏の主張にとどまること
動画には、公開情報で裏が取れるものと、氏の見解・進捗認識にとどまるものが混在しています。読み分けの助けになるよう、確認結果を整理します。
確認できたもの
- 氏が言及したProject Glasswingは、Anthropicが2026年4月7日に発表した取り組みです。AWS、Apple、Broadcom、Cisco、CrowdStrike、Google、JPMorganChase、Linux Foundation、Microsoft、NVIDIA、Palo Alto Networksがローンチパートナーで、その後40を超える組織へ参加が広がっています。公表された成果には、OpenBSDで27年間発見されなかった遠隔クラッシュの不具合や、自動テストが500万回試行しても見つけられなかったFFmpegの16年ものの不具合が含まれます。
- 氏が実物を示した金属カード型ウォレットはArculusで、製造元はCompoSecureです。カード内のセキュアエレメントはCommon CriteriaのEAL6+認証を取得しており、認証は「カードを持っていること」「6桁のPINを知っていること」「スマートフォンの生体認証を通ること」の三つで構成されます。
- 氏が回復の例に挙げたDeRecは、HederaとAlgorandのエコシステムが2024年1月に設立したDeRec Allianceが進める規格です。非営利団体として、ロイヤリティ不要の公開規格とApache-2.0ライセンスの実装を提供しています。
- Midnightを開発するShielded Technologiesは、Confidential Computing Consortiumのプレミアメンバーとして名を連ねています。同じ階層にはAMD、Google、Huawei、Intel、Meta、Microsoft、NVIDIAが並びます。
- Cardano FoundationはLinux Foundation傘下のx402にアソシエイトメンバーとして参加しています。財団の説明では、x402はHTTPの402ステータスコードを復活させ、アプリケーションやAIエージェントがアカウントもAPIキーもチェックアウト画面もなしに、リクエスト単位でステーブルコイン決済できるようにする公開規格です。
確認できなかったもの
- OWSのCardano対応:氏は、WingRidersが統合を行い、Cardanoが対応済みになったと述べています。ただし本稿の執筆時点で、OWSの公開リポジトリが列挙する対応チェーン(EVM、Solana、XRPL、Sui、Bitcoin、Cosmos、Tron、TON、Spark、Filecoin)にCardanoは含まれていません。氏自身も動画内で「まだサイトに載せられていない」「ロゴを出してもらう必要がある」と述べており、実装と公開情報の反映にずれがある段階と見るのが妥当です。
- NEAR Protocolの機密計算コンソーシアム参加:動画内で言及がありますが、同コンソーシアムのメンバー一覧では確認できませんでした。
- マルチモーダル・マルチシグが破られた事例はないという認識、暗号資産利用者の8割が取引所に置いたままという見立て、2029年に年間500億ドルの計算負荷が機密計算を通るという見通し、2030年までにウォレットの大半がエージェント保管になるという予測は、いずれも独立検証していません。氏の見解として扱ってください。
SIPOの視点
1.「どのウォレットが安全か」より先に決めるべきものがある
この動画で最も実用的なのは、製品比較ではなく順番の指摘です。
氏は繰り返し「Value at Risk」と言います。危険にさらしている金額を先に決めれば、必要な設計は自ずと決まる。逆に金額を決めないまま「最適なウォレット」を探しても、答えは出ません。
ADAの保管でも同じ考え方が使えます。少額はホットウォレット、まとまった額は三要素認証つきの認証取得済みハードウェア、大きな額は複数メーカーにまたがるマルチシグ。委任者からよく聞かれる「どれを買えばいいか」という問いには、その前に「いくら置くのか」という問いが隠れています。
2.今回の事件は、どのチェーンのハードウェアウォレットにも起こりうる層の問題
失われたのはビットコインですが、原因は乱数生成とファームウェアという、チェーンに依存しない層にあります。
そして重要なのは、被害者が何か間違えたわけではないという点です。ハードウェアウォレットを使い、リカバリーフレーズを別に保管し、何年も触らずにいた。当時の常識ではすべて正しく行動していた人たちが、後から現れた新しい攻撃能力によって資産を失いました。
氏はこれを、動画のなかで最も強い言い方で否定しています。
It’s not the victim’s fault, guys.
(これは被害者のせいではありません。)
「自己責任だから」で終わらせると、次に同じ構造の事故が起きたとき、業界として何も学べません。
3.Midnightの説明の力点が「プライバシー」から「回復と保険」へ動いている
Midnightはこれまで、プライバシー保護のブロックチェーンとして語られることが多い技術でした。この配信での位置づけは一段違います。
プライバシーは目的ではなく、身元と資産を安全に紐づけるための前提条件として置かれています。身元を紐づければ回復と保険が可能になるが、既存の仕組みでそれをやるとプライバシーが永久に失われる。ゼロ知識証明があれば両立できる、という順序です。
そして氏は、保険には副次効果があると指摘します。保険会社が引き受け先を選別する過程で、業界に測定可能な基準が生まれるという議論です。
この論点自体は今回が初出ではありません。氏は7月26日のCoinDesk出演でも、ウォレット保険とゼロ知識による本人証明を組み合わせる構想を語っており、SIPO.TOKYOでも「暗号資産に欠けている『安全網』」として扱っています。7月16日には、Cardano Previewでゼロ知識ウォレット回復を実証した`proof-zk-recovery`の公開もありました。今回の配信は、その構想がハードウェアウォレット側の事故を受けて再提示された回、と読むのが正確です。
SIPOはMidnightのバリデータを運用しアンバサダーとして活動していますが、その説明の力点も、この整理に沿って更新する余地がありそうです。
4.これから確認したいこと
- OWSの公開リポジトリと公式サイトにCardanoが対応チェーンとして掲載されるか、統合の実装がどのリポジトリに現れるか
- Midnight Passportの仕様と提供時期がどこまで具体化するか
- Coldcardの被害集計がどこで収束するか。Galaxy Researchの追跡が続いており、確認済みと推定の差がまだ大きい状態です
- 保険という論点が、実際の商品や規格として現れるか
5.攻撃側がAIを使えるなら、防御側も同じように使える
動画の終盤で氏が置いた指摘は、この記事の中で最も実行しやすい部分かもしれません。
自分の状況、金額、生活様式、技術的な習熟度を伝えて、いまの保管方法の弱い環はどこかを検討させる。それは攻撃者がやっていることと同じ作業を、防御側から行うことに他なりません。
鎖のどの環が一番弱いかを知っているかどうかが、2026年の分かれ目になりそうです。
チャールズ・ホスキンソン氏動画「Wallets in 2026」全翻訳
以下は、YouTubeの英語自動字幕を基礎に、音声認識上の明らかな誤りと固有名詞を文脈に沿って補正した日本語訳です。読みやすさのため、意味を変えない範囲で言い淀み、重複、間投詞を整理しています。
以下はホスキンソン氏の発言の翻訳であり、SIPOの評価や事実認定ではありません。数値や進捗に関する主張のうち、独立確認できたもの・できなかったものは前掲の「独立確認できたこと、氏の主張にとどまること」を参照してください。
導入──Coldcardの事件と、この動画の目的(00:01〜02:34)
こんにちは、チャールズ・ホスキンソンです。暖かく晴れたコロラドからライブ配信しています。いつも暖かく、いつも晴れています。ときどきコロラドです。
ときおりインターネット上でニュースが出てきますが、それについて少し意見を述べるのは、いつも楽しいものです。私たちがいつも話していることの一つが、「Midnightがそれを解決する」ということです。Midnightが解決する。ですから、こういう動画を作るのが好きなのです。世界がどこへ向かっていて、私たちが何をする必要があるのかを、少し話せます。
「Coldcardハードウェアウォレットの不具合、41分で7,000万ドル相当のビットコイン盗難につながる」。攻撃者が41分間で1,196件のビットコインアドレスから資金を抜き、当時の価値で約7,000万ドル相当が動きました。Galaxy Researchがその一連の送金を追跡し、Coldcardのファームウェアの不具合と結びつけました。
要するに、2021年に何かを作るときに失敗があったということです。
人々は正しいことをすべてやっていました。資金をコールドウォレットに置き、鍵を分けて保管し、リカバリーフレーズも別にしていました。それでも誰かが──ほぼ間違いなく、私たちのよき友であるバイブコーディングを使って──問題があることを発見したのです。
私は4、5か月ほど前に動画を作り、暗号資産分野に来る「ハッキングの黙示録」について少し話しました。そのとき私は、Project Glasswingがあると言いました。Project Glasswingは、世界に響いた号砲でした。ClaudeやChatGPT、そして中国の同等品のようなバイブコーディングのフレームワークが、長時間じっと何かをスキャンし、多くの作業をこなし、そして新しい攻撃を編み出せるということです。
その攻撃は、ファームウェアを逆アセンブルすることかもしれませんし、ブロックチェーンを走査して構造的な問題を探すことかもしれません。GitHubを見ること、暗号ライブラリを見ること、その他あらゆることが対象になります。AIはそのすべてができます。
多くの人が私に連絡をくれて、こう言います。「いったいどうすればいいのか。2026年に、どうやって安全を保てばいいのか。ソフトウェアはどれも非常に脆弱に見えるし、みんなが片っ端から壊しているように見える」
ですからこの動画の目的は、その周辺を少し話し、2026年に安全を保つために、どう考えればよいかを筋道立てて示すことです。
ところで、Microsoftがホワイトボードを終了するそうです。どうしたのでしょう、Microsoft。Excalidrawか何かに移らないといけませんね。
すべてはValue at Riskから始まる(02:35〜04:12)
まず最初に、この業界で最も基本的なものを見なければなりません。Value at Risk(危険にさらしている価値)です。
つまり、どれくらいの金額の話をしているのか、ということです。
「最適なウォレットの解決策は何ですか」と聞いてくる人が大勢います。しかし、ここが肝心です。5ドル相当のADAを持っているなら、500万ドル相当のADAを持っている場合とは、まったく違う状況です。金額によって、保管方法もセキュリティの考え方も、まったく変わります。
5ドルなら、これはホットな領域です。ブラウザベースのウォレットに置いてもいい。デスクトップに置いてもいい。取引所に置いてもいい。誰が気にするでしょうか。5ドル相当のADAです。悪いことは常に起きます。
500万ドルなら、そこで初めて「本当に何をすべきか」を考え始めます。
Value at Riskを考えるとき、大きく二つの世界に分かれます。自己保管(self-custody)と、第三者保管(third-party custody)です。
自己保管と第三者保管──二つの哲学(04:13〜05:13)
それぞれにトレードオフがあり、背後には哲学があります。
ビットコインの世界、チーム・オレンジの人たちは、基本的にこう言います。本当のお金とは、自己保管されたビットコインだけである。第三者のカストディアンを使うなら、それは実際にはビットコインではない。あなたは実際には支配していない。「Not your keys, not your wallet(鍵を持っていないなら、それはあなたのウォレットではない)」。これが筋金入りの哲学です。
企業の世界では、ほぼ常に専門のカストディアンを使います。彼らがやりたいのはリスクを管理することだからです。保険の話もできますし、あらゆることを設計できます。
つまり、ここには既に哲学的な分断があり、それは突き詰めればValue at Riskに行き着きます。私たちは、ここに違いがあることを哲学的に理解しているわけです。
これが、この話全体を考えるときのメタな枠組みです。
実物のカードで見る「鍵とアクセス制御の分離」(05:14〜06:54)
少し実物をお見せします。これはある製品で、私はその背後にいるチームを知っていますし、彼らはよい人たちです。
実は数年前、私たちがLaceに最初に取り組んでいた頃に一つ買ってベータテストをしました。その後もいくつか買っています。これは非常によく考えられたエコシステムと製品の例で、自己保管の道を進むなら、どう段階を踏んでいけばよいかがよく分かります。
まず、ハードウェアデバイスがあります。このカードは金属製で、頑丈で、かなりタフです。そしてこのカードはハードウェアデバイスであり、スマートフォンと接続されます。
ここには三要素認証があります。PINコードという「知っていること」。生体認証ロックという「その人自身であること」。そしてこのカードという「持っているもの」です。
こうしたハードウェアウォレット、専用デバイスを見るとき、最初に探すべきものは認証(certification)です。これはEAL6+のセキュア認証を取得しています。ほかにもFIPSのような認証を見かけるでしょう。
そして、これを製造しているのは上場企業のCompoSecureです。長く事業を続けており、政府機関などのためにこうした専用製品を作ってきました。
まず何より、ここには鍵の分離があります。鍵はCompoSecure製のEAL6デバイスの中で生き、アクセス制御は別にある。これが、安全なデバイスを見分けるときに探すべき一つの傾向です。
設計原則としての三要素認証(06:55〜08:14)
よい設計原則として、送金やアクセス制御には典型的に三要素認証があります。
一つ目は「持っているもの」。二つ目は「知っていること」──通常はパスワードかPINコードです。三つ目は「その人自身であること」。
私が経営していたクリニックでも、バッジがあり、生体認証があり、パスワードがありました。三要素認証です。一度ログインすれば、あとはバッジをかざして入れます。しかし、持っているもの、知っていること、その人自身であること。これが一つの設計原則です。
ハードウェアの認証制度──EALとFIPS(08:15〜10:32)
そしてハードウェア側には、認証という概念があります。認証はハードウェアにとって非常に重要です。
政府機関は、機密取扱業務やセキュリティのために調達をしなければならず、そのためにさまざまな認証と認証レベルが用意されています。
EAL6を見てみましょう。
Wikipediaによれば、EAL(Evaluation Assurance Level)は1から7まであり、ITの製品やシステムに対して、国際標準に基づくコモンクライテリアのセキュリティ評価を完了したときに与えられる数値の等級です。1999年から有効です。
レベル6は「準形式的に検証された設計とテスト」です。EAL6は、高価値の資産を守るための上位の評価対象を作るために、厳格な開発環境でセキュリティ工学の技術を適用することで、開発者が高い保証を得られるようにするものです。背後には保証を与える機関があり、EALを通すのは非常に高価だということが分かります。
ほかにも認証はあります。たとえばFIPSです。FIPS 140という暗号標準があり、FIPS 140-2は暗号モジュールのセキュリティ要件を定めています。ほかにも数多くあります。
すべての認証を知っていることが重要なのではありません。そういうものが存在すること、それが高価であること、第三者によって維持されていることを知っていることのほうが重要です。
ですからハードウェアを見るときには、何らかの認証の基盤があるはずです。そして、最も一般的なセキュリティ認証にはどんなものがあり、何を意味し、どのデバイスがどれくらいの頻度で審査を受けるのかを調べるには、クロード先生かGPTを使えばよいのです。
CACカードとSCIF──三要素は既存の高セキュリティ環境の標準(10:33〜12:28)
その大御所とも言えるものをお見せしましょう。CACカードです。
軍や情報機関、政府請負業者にいた方なら分かるでしょう。Common Access Card、これが本人を識別する仕組みです。
そして、軍や情報機関にいる人にとっては悩みの種でもあります。いつも何かしら問題があって、うまく動かないのです。とはいえ、そこにいる人は基本的に、クレジットカードサイズのこのカードを持っています。中にICチップがあり、そこに信頼された認証情報が入っています。さらに本人を認証するための情報が多数入っています。
CACカードリーダーという概念があり、機密区分に応じてカードの種類も分かれます。どの機関にもこの種のものがあります。
これは、信頼された実行環境を内蔵し、人を認証する方法を備えたものの例です。
機密情報を扱う施設、たとえばSCIF(Sensitive Compartmented Information Facility)に入るには、CACカードに加えて、何らかの生体認証とPINコードが必要になります。三要素認証です。これらは仕様に沿って作られ、セキュリティ的な堅牢化が施されています。
ですから最初に見るべきものは認証です。誰が認証するのか、どの政府系試験機関か、どれくらいの頻度で審査を受けるのか。そして、それを製造している企業が、大きな機関向けにも同じものを作っているかどうか。そうした機関は多くの攻撃にさらされているからです。
そのうえで、常に三要素認証という概念があります。
自己保管の第一段と、金額が上がったときのマルチモーダル・マルチシグ(12:29〜15:44)
自己保管について言えば、いまや十分に安価になったので、それなりの金額──数千ドル以上としましょうか、その数字はご自分で決めてください──を自己保管するなら、少なくとも三要素認証の解決策を採用すべきです。生体認証という「その人自身であること」、通常はPINという「知っていること」、そしてデバイスという「持っているもの」です。
LedgerやTrezorもこの枠に入ります。デバイスがあり、PINコードがあります。実務上はそれで十分です。Ledger、Trezor、Arculusのカードもその例で、いずれもEALやFIPSといった認証を備えています。ハードウェアがかなり厳密に検査されたことを示す認証標準があり、どれくらい厳格に検査されたかの目安になります。
さて、金額がもっと大きくなると──数千ドルから数百万ドルへ上がると──自己保管の場合は層を一つ足さなければなりません。それが、私たちがマルチモーダル・マルチシグと呼んでいるものです。
マルチシグはm-of-nでご存じでしょう。全体でn人の鍵保有者のうち、m人が集まらなければなりません。たとえば3-of-5なら、独立した鍵を持つ5人のうち3人が署名しないと取引を開始できません。
では、なぜ「マルチモーダル」なのか。マルチモーダルとは、異なるインフラを使うという意味です。
鍵保有者の一人はLedger、一人はTrezor、一人はArculusに置く。なぜか。もしこれらのどれかのハードウェアに欠陥があったら、どうなるでしょうか。攻撃者はその一つの鍵を得るかもしれませんが、ほかの鍵は得られません。ほかの鍵は別の方式に載っているからです。
現時点まで、ハードウェアをバックエンドとしたマルチモーダル・マルチシグが破られた事例を、私は暗号資産の歴史全体を通じて知りません。あったのかもしれませんが、そういう被害は通常、ソーシャルエンジニアリング、スマートコントラクトの欠陥、インフラの欠陥です。デバイスそのものの欠陥であることは、まずありません。それらのシステムがすべて同時に破られる、あるいは脆弱である確率とコストが、単純に高すぎるからです。
ですから、これがゴールドスタンダードです。マルチモーダル・マルチシグ。
オンチェーンかオフチェーンか──Parityの教訓(15:45〜17:41)
そして私は、これらすべてがオンチェーンのインフラを必要としないことを前提にしています。
Parityのエコシステム、Polkadotのエコシステムで、非常に有名なバグがありました。5年前か10年前か、歳をとって正確には思い出せませんが、イーサリアム上にマルチシグのスマートコントラクトがあり、そのコントラクトがハッキングされました。
ですから、あなたのマルチシグがデバイスだけで構成されているのではなく、スマートコントラクトの中で構成・調整されている場合、そのスマートコントラクトがハッキングされて漏れてしまう可能性があります。
したがって、それが完全にオフチェーンなのか、オンチェーンなのか、ハイブリッドなのかを理解することが非常に重要です。
ビットコインは完全にオフチェーンです。イーサリアムの多くの方式はオンチェーンの構成を含みます。オンチェーンであれば、スマートコントラクトがハッキングされ、あらゆる面倒と問題を引き起こす可能性があります。
問うべきは、資産はどこに保管されているのかということです。アドレスに属しているのか、それともスマートコントラクトに属しているのか。
ですからステップ1は、常にValue at Riskを見ることです。そのうえで、異なるセキュリティ設計を選びます。数千ドルを超えるなら、通常は二要素か三要素の認証要素が必要です。そして、ArculusやLedger、Trezorのようなハードウェアの背骨を持つ。政府系の試験機関が認証したと言っているものを探す。そうすれば安心できます。
しかし大きな金額になり、それでも自己保管したいなら、マルチシグの方式を組まなければならず、それはマルチモーダルでなければなりません。マルチモーダルであれば、それをハッキングできる可能性は非常に低くなります。
第三者カストディアンは何を持っているか(17:42〜18:26)
第三者保管は、ここまでの話をすべてやっています。
彼らは通常、マルチパーティ計算を使い、マルチモーダルなバックエンドを持ち、それに連なる人的プロセスを持ち、コールドストレージとホットストレージという概念を持っています。
ゴールドスタンダードの一つはBitGoです。私個人の一番のお気に入りで、長年一緒に仕事をしてきました。歴史的な脚注として、Cardanoのクラウドセールのビットコインを保管していたのも彼らです。BitGoの口座に108,000ビットコインがあり、彼らがそのすべてを管理し、見事に務めを果たしました。
BitGoのほかにも、FireblocksやCopperなど、こうした専門のカストディアンは多くあり、非常に特化したハードウェアを持ち込んでいます。
Midnightはどこで効くのか──「そのアドレスは誰のものか」(18:27〜20:53)
さて、こうしたすべての中で、Midnightはどこに関わってくるのでしょうか。ここまでの話はすべて以前から存在し、長らくあるものです。
Midnightは少し違うことをします。Midnightは非常に特別です。
問題は、まず第一に、これらの資産は誰が所有しているのかということです。
馬鹿げた質問に聞こえるかもしれません。たとえばチャールズ・ホスキンソンの銀行口座があるとします。誰かが私になりすまして支店に入り、1万ドルの引き出しに成功したとします。私は電話をして「あれは私ではない。何をやっているんだ」と言います。すると銀行は「ああ、そうですか」と言い、銀行はお金を取り戻します。
なぜでしょうか。その口座が「チャールズ・ホスキンソンによって所有されている」という属性を持っているからです。
さて、ビットコインのアドレスがあります。そのアドレスは「誰に所有されている」というデータを伴っているでしょうか。
カストディの場合は伴っています。カストディアンがそれを紐づけているからです。あなたはBitGoと関係があり、彼らはそのアドレスがあなたのものだと知っています。
しかし自己保管の場合、それを証明するものは何もありません。第三者がそれを見て「これは確かにあなたのアドレスだ」と言えるものはありません。
なぜなら、攻撃者にそのアドレスへのアクセスを与えるものは、通常、そのアドレスの秘密の認証情報に関わるものへのアクセスも同時に与えるからです。つまり秘密鍵です。攻撃者は資金を動かすために取引に署名しなければならないので、秘密鍵を再生成なり複製なりできています。
秘密鍵を持っている、あるいはそれを構成する方法を持っているなら、彼らはあなたから、あなたがそのアドレスを所有していると証明する手段そのものを奪ったことになります。
リカバリー用の単語のようなものもありますし、ゼロ知識証明などを考え出せるかもしれません。
四角形とSSI──身元と資産を分けて、必要なときだけ結ぶ(20:54〜22:05)
Midnightについて考えるとき、それは実のところ「四角形」です。
四角形には辺があります。プライバシー強化技術(PET)があり、抽象化があり、エージェントがあり、そして最後の一辺は「スマートコンプライアンス」です。
スマートコンプライアンスが言っているのは、これらの組み合わせによって、自己保管のかたちで身元を加えられるということです。これをSSI(自己主権型アイデンティティ)と呼びます。
そうすることで何をしたのかというと、身元を資産から切り離したのです。しかし、そうすることによって、両者を証明として結びつけることができます。
生成の時点で「このアドレスはチャールズ・ホスキンソンのものである」と言えます。「所有されている」のです。しかしプライバシーがあるので、外からは見えないかたちでそれができます。
そして、もしウォレットが侵害されたなら、これらの認証情報を分離してあるので、そのウォレットが本当に自分のものだったと証明できるのです。
アクセス制御の世界と、回復の世界(22:06〜23:26)
これは、これまでの世界とはまったく違うものです。
これまでの世界は、すべてアクセス制御についてのものでした。それがこの世界の本質です。アクセス制御。あなたを締め出そうとしている。権限のある人だけに使わせようとしている。
新しい世界は、回復についてのものです。
悪いことが起きたとき、どうなるのか。その人たちはどうやってお金を取り戻すのか。どうやって自分が所有者だったと証明するのか。
それは、身元を資産に結びつけることで実現します。
ではなぜ、ブロックチェーンの世界でそれをやりたくないのでしょうか。プライバシーがないからです。ディストピア的な地獄絵図になるからです。身元とプライバシーが両立する仕組みが、いまは存在しません。
現在の銀行システムでは、すべてが第三者保管です。ですからWells Fargoに匿名の銀行口座という概念はありません。「チャールズ・ホスキンソンの銀行口座」であって、匿名の口座は持てません。
では、もしWells Fargoに対しては匿名でいられて、しかし何か悪いことが起きたときには、自分が口座の所有者であり、その処理が間違っていると証明しに行けるとしたら、どうでしょうか。
それを何と呼ぶか。選択的開示です。
マルチパーティ計算とハイブリッド保管(23:27〜25:04)
Midnightが持ち込むもう一つのものがあります。
利用者であるあなたは通常、アクセス制御という側にいて、鍵とリカバリー用の単語を生成するアクセス制御を持っています。それは普通、BIP39と呼ばれるもので、24個の単語を受け取ります。そして暗号資産では通常マルチシグを併用します。
しかし最上級のもの、本当に良いものは、カストディアンのものです。マルチパーティ計算の技術であり、それは特注です。彼らは内製し、自分たちのウォレットで使い、カストディ業務ができることの秘伝のタレの一部になっています。
なぜなら、抽象化の世界では、あなたは100を超えるブロックチェーンへ日常的に読み書きすることになるからです。
これがMidnightの柱の一つです。ゼロ知識に加えて、遊べる信頼実行環境に加えて、私たちはマルチパーティ計算も持っています。それがキットの一部なのです。
ですから、身元を資産から分離できて、しかも望むときには選択的開示として証明可能な結びつきを持てるなら、マルチパーティ計算のような重い技術もシステムへ足せます。
一つの普遍的な認証情報を持ち、それを第三者に実際に管理してもらうことができます。つまり、自己保管でありながら第三者カストディアンの能力が入ってくるハイブリッドモデルです。より重い暗号技術を、実際にシステムで使えるようになります。
Midnightは、アクセス制御を強化するための道具を多く持ち込みますが、同時に、物事がうまくいかなかったときの回復も可能にします。
信頼モデルの限界と、保険という発想(25:05〜26:23)
なぜそれが必要なのか。いまのこれらの製品の信頼モデルは、「私たちを信じてください」だからです。
長くやってきたから信じてください。オープンソースのコードがあるから信じてください。認証を取得しているから信じてください。
しかし、何かが吹き飛んだときはどうなるでしょうか。彼らはこう言います。「それはあなたの問題です。私たちに責任はありません。これは非カストディアルのウォレットですから」
私は、FDICのような保険が欲しいのです。
消費者保護として素晴らしいですし、月額の保険に加入して、何かあったら暗号資産を取り戻せる。しかし、あなたが誰なのかを私が知らなければ、そして、あなたが何かに同意できなければ、それはできません。
ところが、既存のシステムでそれをやった瞬間、あなたのコインはその口座と公開の場で紐づくので、プライバシーを永久に失います。ゼロ知識のシステムでやれば、紐づきません。
ですから、実際に保険に加入できて、悪いことが起きたときに現れて「実はあれは私で、あの資産の移動を私は承認していない」と言えるのです。大きなハッキングが起きたときに。
メタ・クリプト──環境・技能・ハードウェア・知識(26:24〜27:35)
ですから特効薬はありませんが、結局はいつもValue at Riskに行き着きます。
そして、これはメタ・クリプトとでも言うべきものの一部です。
こういう問いを立てることになります。
適切な環境を持っているか。適切な技能を持っているか。適切なハードウェアを持っているか。適切な知識を持っているか。
知識、技能、ハードウェア、環境。これらを持っているか。そして、いま話しているのは5ドルなのか、5,000ドルなのか、500万ドルなのか。
金額が上がるにつれて、戦略を変えなければなりません。ブラウザの中にあるホットウォレットから、何らかのハードウェアの解決策へ、そしてマルチモーダルな解決策へ。これに例外はありません。
そうすれば、お金を失うことは決してない、あるいは非常に稀になります。
回復について──失ったときにどうするか(27:36〜28:13)
回復について少し触れましたが、失ったときにどう回復するかという問題があります。悪いことは起こります。
交通事故に遭う。妻が暗号資産へアクセスする必要がある。アルツハイマー病になり、パスワードやその他のことをすべて忘れてしまう。
そこで第三者のサービスが登場します。カストディをするのではなく、回復をするサービスです。
たとえばTurnkeyのような会社があります。そして、私たちがAlgorandやHederaなどと共に開発した社会的回復があります。DeRecと呼ばれるものです。
いろいろなものがあります。
鎖は一番弱い環の強さしかない(28:14〜29:04)
こうしたシステムのセキュリティは、鎖のようなものです。
この環はチタン合金の超硬質な代物かもしれませんが、こちらの環はブリキかもしれません。明らかに同じではありません。
そして私たちは、大きな力で、何トンもの力で鎖を引っ張ります。
ほかの環がすべて良くても、良い、良い、良い、そして……切れる。
ですから、信じられないほど優れたマルチモーダル・マルチシグを組んでいても、回復の解決策が非常に弱ければ、システムに侵入する道があるかもしれません。オフチェーン側をすべて超強力にしても、Polkadotの事例のように、オンチェーン側がハッキングされるかもしれません。
セキュリティは、鎖の強さでしか測れません。
AIが二つの集合を対称にした(29:05〜31:18)
そしてここが、いまAIが私たちを破壊しつつある部分です。
これらのAIシステムが非常に優れているのは、忍耐強いからです。じっと鎖を見つめ、掘り下げ、よく考え、鎖の中の環を一つひとつ見ていきます。「この環は大丈夫。この環も大丈夫。この環も大丈夫」。ああ、ここに小さな何かがある──そして、その瞬間に鎖が切れ、全体が崩れ落ちます。
擬似乱数生成器でなければ、別の何かかもしれません。
そして人間には、有限の資源しかありません。何かを攻撃するには、攻撃者は知識と欲求を持っていなければならないからです。
この二つは対称ではありません。
攻撃したいという欲求を持つ人の集合は、非常に大きい。非常に大きいのです。彼らはあなたのお金を手に入れたい。そういう人は何百万人もいます。
複雑な暗号を破る知識を持つ人の集合は、非常に小さい。
ですから、これらのシステムがすべて脆弱だったとしても、この二つの重なりは、ほんの小さな部分でしかありませんでした。彼らがあなたの5,000ドルの暗号資産ウォレットを破るために、重罪のリスクを冒し、その他あらゆることをするでしょうか。しません。
彼らは本当に価値のあるものを狙います。
しかしAIが何をしたか。二つの集合を対称にしてしまったのです。
いまや知識はAIに外注できます。ですから、欲求を持つ世界の全員がハッキングできるようになり、しかもそれは無限の忍耐力を持っています。
座って、Daybreakでもお好みのセキュリティシステムでも起動して、「鎖全体を読め」と言えばいいのです。
まずは明らかなところから。ソフトウェアの脆弱性、ファームウェアの脆弱性、チップ設計を見る、あらゆること。さまざまな探索を走らせる。そして、それが延々と続いていき、最後には全体が崩れます。
それが大きな問題です。だからこそ、これほど多くのハッキングが起きているのが見えるのであり、しかも増えています。
防御の結論(31:19〜32:12)
ですから、本当に自分を守る唯一の方法は、マルチモーダルにすることです。
自己保管するなら、長期の保管にはマルチシグを使う。あるいは、評判がよく、長く続いている第三者カストディアンを使う。
自己保管するなら、三要素がゴールドスタンダードです。そして通常は、認証を取得していて、かつオープンソースであるものを探します。それが私の好みです。しかも、長く存在しているもの。それが助けになります。
暗号資産ごとに少しずつ事情が違うことも理解してください。
そしてMidnightのようなものがあれば、ここに新しい層を足せます。回復と保険の話ができるようになります。身元とアドレスを結びつける話ができるようになります。
そうすれば、私たちがレガシーな世界で持っていたモデルへ戻ることができ、状況は少し良くなり、より大きな市場が参入できるようになります。加えて、より高度なマルチパーティ計算もあります。
環境と、ハードウェアウォレットが強い理由(32:13〜33:20)
ところで、環境は非常に重要です。
あなたはWindowsユーザーですか。Macユーザーですか。iPhoneですか、Androidですか。あなたの動作環境は何ですか。そして、その環境が安全だと本当に納得していますか。誰かが忍び込んであなたのものを盗めない、と本当に納得できていますか。自分のコンピュータを堅牢化する技能はありますか。
とくに、あの非対称性が埋められてしまった以上、なおさらです。
その方面の知識はどうでしょうか。もし無いなら、新しい環境を買う必要があります。そこが、ハードウェアウォレットが非常に強力な理由です。
技術的に言えば、ハードウェアウォレットの能力すべては、ネットワークを切ったノートPCを、Tailsのようなメモリ上だけで動くOSで起動し、ウォレットを事前に読み込み、オフラインで取引を作り、それをUSBメモリに入れて移す、という方法で再現できます。
しかしそれは大変な手間です。だからこそ多くの人は、LedgerやTrezorのようなものを使うのです。そして、ハードウェアには多くの機能を組み込むこともできます。
それから、鍵をどうバックアップするかという回復の解決策も非常に重要です。
LaceのPGP紙ウォレットと100万ドルの挑戦(33:21〜36:18)
Laceで私たちがやったことの一つに、PGPの紙ウォレットがあります。
PGPの紙ウォレットがどれだけ安全かを示すために、皆さんは私が100万ドルを入れたウォレットにアクセスできる状態になっています。
私はこれを2020年にやりました。
これがハックできるなら、取っていい。これが私の紙のウォレットでした。これは実際に私のウォレットのバックアップです。すべてそこにあります。皆さんが見られます。PGPで暗号化されています。
これは私たちがLaceのために作った、私のお気に入りの機能です。基本的に、私たちは生成器を作りました。通常は24個の単語を書き留めて金庫に入れ、安全に保管します。その代わりに、それを生成してPGP鍵で暗号化し、印刷するときには暗号化後のファイルを印刷するのです。そうすればプリンタのリプレイ攻撃を防げます。
しかし実は、私はバックアップの手段としてTwitterを使いました。PGP鍵を持っているからです。もしウォレットを失っても、自分のTwitterのフィードへ行き、これをツイートした投稿を見に行けばいい。それがこの投稿です。
そこに100万ドルを入れられます。「ハックできたら取っていい」というコンテストもやりました。ウォレットに100万ドルを入れて、誰も請求できませんでした。
ですから回復は非常に重要で、これはあなたの仕組みへの裏口でもあります。鎖の環の一つは、システムを失ったときにどう回復するか、なのです。
第三者に代行してもらうか、自己保管の解決策を持ち、関心事を分離するかです。使う場所が一つ、回復する場所が一つあって、それぞれをどこかに置く。
もし誰かが家に押し入り、金庫を破ったとして、彼らが手に入れるのは、印刷されたこの紙のウォレットです。いかにも本物らしく見えますが、スキャンしても復元できません。紐づいたPGP鍵を持っていないからです。彼らにとっては残念なことです。
被害者を責めるべきではない(36:19〜37:50)
これで、これが非常に複雑なエコシステムだと伝わったことを願います。
そして、人がお金を失ったとき、人々が最初にすることは被害者を責めることです。「あの被害者は何をしているか分かっていなかった。無能だ。私は特別で、有能だ」と言うのです。
しかし今回のウォレットのハッキングの人たちは、安全だと思っていたハードウェアウォレットを使い、できる限りのことをして、リカバリー用の単語をバックアップし、金庫に入れていました。5年間触りもしませんでした。それでもお金をすべて奪われたのです。
彼らはこう考えていました。これはハードウェアウォレットだ。オフラインだ。鍵は一度もオンラインで使われていない。このデバイスの中にしか存在しない。安全だ、と。
そこへ新しい敵対的な能力が現れ、突然、こちらの懸念の世界からあちらの懸念の世界へ移り、資産がすべて失われました。
これは被害者のせいではありません。
暗号資産が50億人に届き、世界のマネーシステムになるには、アクセス制御についてのより良い考え方が必要です。人々が本当に必要としているものを見極める手助けをする、より良いメタ的な技能が必要です。第三者保管と自己保管の間を、より現実的で、合理的で、規模に応じて動ける流れが必要です。そして、悪いことが起きたときに回復できる能力も必要です。
それらが揃って初めて、包括的なマネーシステムになります。
最も一般的な第三者保管は、取引所(37:51〜38:54)
ところで、最も一般的な保管の形は第三者保管です。それが何か分かりますか。取引所です。
私はもう15年もこの業界にいて、何年も何年も「取引所にお金を置いたままにするな」と言い続けてきました。それでも暗号資産利用者の8割はそうしています。
彼らはこう考えるからです。取引所はおそらくかなり安全だ。二要素認証がある。自分が持っているよりうまく保管してくれるだろう。とくにBinanceやCoinbaseのような大手なら、自前のカストディソリューションまで持っている、と。
こうして取引所が、意図せず第三者カストディアンになってしまいます。だからこそ、これほど多くのADA、NIGHT、ビットコイン、イーサ、その他が取引所にあるのです。
どうすればそこから抜け出せるでしょうか。自己保管をもっと簡単にすることです。しかし、ハードウェアの会社がハッキングされている状況では、それは容易ではありません。
災害復旧も必要ですし、あらゆるものが必要ですし、身元を結びつけられる必要もあります。
Midnight Passportと、保険が標準を強制する(38:55〜40:49)
そこで私たちは、Midnight側でこれを本当に簡単にするための技術に取り組んでいます。一つはMidnight Passportと呼ばれるもので、まさにこの問題全体の核心です。
もちろん、第三者のハードウェアも各所に存在します。しかしゴールドスタンダードはマルチモーダル・マルチシグで、導出の方法が異なり、すべてオフチェーンで、マルチシグは決してハッキングされません。実行するのは本当に難しく、本当に高価です。だからこそ、通常は大きな資金のためのものです。
金額が小さい側なら、ハードウェアウォレットが正解です。
しかし、ここから完全に抜け出す唯一の方法は、保険と結びつけることです。この二つが揃えば、何があっても、システムの使いやすさについてずっと良い話ができるようになります。
保険についてもう一つ言えるのは、保険は標準を強制するということです。
誰のウォレットでも無条件に引き受けるでしょうか。しません。誰が適格で誰が不適格かを決める規則が必要です。
LedgerやTrezorは引き受けます。長くやってきて、自分たちが何をしているか分かっているからです。認証もなく、長く存在してもおらず、セキュリティ体制もよく分からない、どこかの小さな家族経営のものを引き受けるでしょうか。しません。
ですから保険は、市場に勝者と敗者を選ばせ、標準を選ばせ始めます。そしてその過程で、品質を大幅に高めるのです。
標準がなければリスクを測れません。リスクを測れなければ、値付けができません。値付けできなければ、人に保険を売れません。
ですから、もう一つ考えるべきことは、プライバシーがあれば、ウォレットに結びついた身元は自己保管と両立し、それが分散型の保険を作る力になる、ということです。分散型の保険は標準を作り、標準は業界全体の鎖を強くし、私たち全員を守ります。
そして消費者は、これまで持ったことのないものを手にします。
消費者もAIを使える(40:50〜41:35)
攻撃者と同じように、消費者にもクロード先生がいます。
消費者もAIに質問できます。「これが私の状況です。これらすべてを扱う最善の方法は何でしょうか」と。
そしてAIは、あなたのValue at Riskを見て、あなたの生活様式を考え、いくつも質問をして、答えを出します。正しいかもしれませんし、間違っているかもしれません。それは、あなたを攻撃している側が受け取っているのと同じ種類の出力です。
ですから、自分のインフラをペネトレーションテストし、考えを巡らせるために使えます。AIとブレインストーミングすることを強くお勧めします。
AIはゴミを入れればゴミが出てきます。何を尋ねるか、何を期待するか次第です。
第4世代──エージェント・ウォレットの時代(41:36〜42:42)
私たちの側から言えば、これは第4世代です。
私はこれを消費者世代と呼びたいと思います。
これは、暗号資産を10兆ドルの価値にする世代です。そしてこれは、何十億人もの人々、日常の人々を連れてくる世代です。
なぜか。これまで人々を守ってきたのと同じやり方で、彼らを守り始められるからです。そして、道具箱の中の道具がずっと増えたからです。
新しいウォレットの大半はエージェント・ウォレットになるでしょう。あなたは自分の資産を保有すらしません。OWS標準はその一例です。オープン・ウォレット・スタンダード、OWSです。
スマートコンプライアンス、身元の紐づけ、PETがあることで、たくさんの追加要素を足せます。そして抽象化があることで、最も良い領域を選び、MPCを使って支払い、ZKを使って読み取ることができます。
つまり、固有の脆弱性を抱えたものではなく、耐量子性も含めて、保管するのに最も安全な台帳を選べるのです。
考える材料として、どうぞ。
締めくくり──結局はValue at Risk(42:43〜44:50)
というわけで、42分の短い動画でした。私にはよくあることです。
同じ話を、数年ごとに違う形で語っているだけです。
このハードウェアウォレットのハッキングでお金を失った方々には、申し訳なく思います。あれは本当につらい。
普通は、SecondFiのように誰かが暗号ライブラリで失敗して、ホットな場所からお金が盗まれる、というものです。ハードウェアウォレットから盗まれる。それは本当に、実に残酷です。飲み込むには苦い薬です。
しかしそれは、マルチモーダルなアプローチの価値を本当によく示していますし、三要素認証の価値、認証取得の価値も示しています。それらは、あなたを面倒から遠ざけ、正直でいさせてくれます。物事を遅くし、費用を高くしますが、結局はいつも同じです。
Value at Risk。Value at Risk。Value at Risk。どれだけのお金が危険にさらされているか。
500ドルなら、5,000ドルとはまったく違います。5万ドルとも、まったく違います。
現実的に考えましょう。5万ドルの現金を人目に見えるように持って、治安の悪い地域を歩き回りますか。おそらくしないでしょう。もっと分別のある行動をとるはずです。
同じように考えれば、あまり安全でないインターフェースに5万ドルを置いたままにしますか。
ですから、こうしたことを注意深く考えなければなりません。
そして、こうも問うべきです。間違ったときに何の損もしない一社を、100%絶対に信頼したいですか。答えは「いいえ」でしょう。ではマルチモーダルにしなければならない。マルチシグにし、複数の会社にしなければならない。半カストディアルの取り決めなども可能です。
そして、それを行う知識はありますか。もし答えが「いいえ」なら、外注して、できる人を見つけ、サービス料を払って手伝ってもらう必要があります。そのうえで基本的なデューデリジェンスを行う。クロード先生が、そのすべてを進めるのを手伝ってくれます。
この話題について私が言いたいのは以上です。
OWSとx402、そしてMidnight City(44:51〜46:47)
私たちは革新を続けます。Midnight Passportは大きく前進していますし、Midnight全体も築き上げています。そしてOWSがMidnightへ統合されました。
ちなみに、OWSは私のお気に入りの一つです。
ところで、私たちはウェブサイトに載せてもらわないといけません。もう対応しているのですから。あの小さなCardanoのロゴを出してもらう必要があります。
これがオープン・ウォレット・スタンダードです。これが何をするかというと、スタック全体をまとめるのです。
見てください。x402、Privy、Coinbase Agent、Keys Store、W3CのUniversal Wallet、Turnkey、Lit Protocol、WalletConnect V2、Crossmint、ERC-4337、CAP標準、Solana Wallet Standard──これらすべてを一つのプロトコルスタックにまとめ、エージェントにウォレットを与え、ほかのすべてに接続できるようにします。
そしてCardanoがこれに対応しました。統合したのです。これを支持している人たちがここに並んでいます。Polygon、Sui、Filecoin、Tron、Arbitrum、OKXなど。統合をしてくれたのは、WingRidersの素晴らしい人たちです。私たちは「これに入り込む必要がある、やり遂げよう」と言いました。ロゴを載せてもらわないといけませんね。
OWSは本当にクールで、エージェントがウォレットを持てるように作りました。ウォレットを持てば、取引もできますし、ほかのこともできます。
Midnight Cityは、そのために私たちが作った最初の接点です。さまざまなものを追加しています。そしてPatrickは、Cardanoをx402へ入れることの大きな推進者でした。Cardano Foundationがx402ファウンデーションに加わったと思います。ですから、これと組み合わせる決済プロトコルがあります。
2030年までに、暗号資産ウォレットの大半は主にエージェントによって保管されるようになるでしょう。そしてそのエージェントは、おそらく信頼実行環境で動きます。それを機密計算と呼びます。
機密計算コンソーシアム(46:48〜49:03)
実は、私たちは機密計算コンソーシアムと協働しています。
世界最大級の企業が集まり、「価値あるデータを保存するために、ハードウェアがどう動き、ネットワークがどう動くかの標準が必要だ」と言ったのです。
機密計算コンソーシアムを見てみると、AMD、Google、Huawei、Intel、Meta、Microsoft、NVIDIAが並んでいます。かなりの大企業ですよね。そしてShielded。Shieldedとは何者か。私の会社です。Midnightを構築している開発会社です。
私たちは、ほかの大企業すべてと一緒に集まり、枠組みをどう築いていくかを非常に慎重に考えてきました。2029年には、年間500億ドル規模の計算負荷が機密計算を通ることになるからです。
いまは「AIにいろいろ渡して、AzureやAmazonなどで処理してもらおう」と考えられています。しかし長期的には、エージェントがこの機密計算のクラスタで動くことになると考えています。エージェントは自分のウォレットを持ち、あなたのお金を使います。
では、それがエージェントをホストしている人に盗まれないことを、どう保証するのか。「どうやってあなたのデータを盗まないようにするか」と同じ問いです。処理中も、保存時も、安全でなければなりません。
ですから私たちは、多くの大企業と一緒に、これらすべてをどう組み合わせるかを非常に包括的に考えてきました。
そして良い知らせは、ハードウェアがこの方向へ動いていることです。あらゆるものが信頼されたハードウェアになりつつあります。それを構築しているのは、世界で最も大きく、最も利益を上げている企業たちです。
私たちはAI革命に相乗りでき、それが暗号資産のセキュリティに新しい次元を加えます。
ですから、取引所や第三者カストディアンに保管する代わりに、エージェント向けハードウェア上で動くエージェントに保管できるようになるかもしれません。そして、その中に正しい暗号技術を入れておけば、実質的にマルチモーダル・マルチシグのようなものになります。
なかなかクールな話です。
ともあれ皆さん、聞いてくださってありがとうございました。ここで区切ります。良い一日をお過ごしください。それでは。
透明性メモ
- 対象動画は2026年8月3日のライブ配信、YouTube IDは `e3z-IPQahVY` です。動画名「Wallets in 2026」と投稿者「Charles Hoskinson」はYouTubeのoEmbedで確認しました。配信日は同動画を報じた記事(2026年8月4日公開)の記述に基づきます。動画の長さは約49分です。 氏は42分43秒の時点で「42分の短い動画でした」と述べていますが、その後も約6分続いており、字幕の最終行は49分00秒です。翻訳では発言どおり「42分」と訳しています。
- 翻訳はYouTubeの英語自動字幕を基礎にしています。見出しの `(MM:SS〜MM:SS)` は、タイムスタンプ付き字幕の秒数に対応します。区切りは話題の切れ目で取っているため、字幕の行境界と厳密に一致しない箇所があります。
- 固有名詞は文脈と公式資料に基づき補正しました。`multi-IG` をマルチシグ、`treasure` をTrezor、`archus`/`arcuous` をArculus、`Bitco`/`Pico` をBitGo、`X42` をx402、`Derek` をDeRec、`skiff` をSCIF、`cat card` をCACカード、`Bitnite` をMidnight、`Al Grand Hideera` をAlgorandとHedera、`Compo Secure` をCompoSecure、`Salana` をSolana、`Arbitum` をArbitrum、`Cross Mint` をCrossmint、`Knight` をNIGHT、`Excaladraw` をExcalidraw、`chpt` をChatGPTとしています。
- 「Dr. Claude」は氏の言い回しで、翻訳では「クロード先生」としました。
- 「Daybreak」は字幕どおりに訳しましたが、氏が具体的にどの製品を指したかは確認していません。
- Coldcardの被害額と対象アドレス数は、Galaxy Researchの追跡が継続中です。本稿は2026年8月4日時点の集計を記載しています。動画内で氏が述べている数値は、7月30日の第1波のものです。
- Coinkiteの勧告について、報道では公開日を7月31日とするものがありますが、勧告ページ自体は2026年8月1日更新と表示されています。本稿では、Galaxy Researchによる「一斉送金はベンダーの公開勧告より約30時間先行した」という相対的な記述を採用しています。
- 氏が述べた「マルチモーダル・マルチシグが破られた事例を知らない」「利用者の8割が取引所に置いたまま」「2029年に年間500億ドルの計算負荷が機密計算を通る」「2030年までにウォレットの大半がエージェント保管になる」「BitGoがCardanoクラウドセールの108,000 BTCを保管していた」「2020年にPGP紙ウォレットへ100万ドルを入れた」は、いずれも独立検証していません。氏の発言として扱ってください。
- Parity/Polkadotのマルチシグ事故について、氏は動画内で「5年前か10年前か覚えていない」と述べています。本稿では発生年と被害額を記載していません。
- OWSの対応チェーン一覧は、2026年8月7日時点で公開リポジトリのREADMEを確認したものです。
- 本稿は投資助言ではありません。資産の保管方法は、ご自身の状況に応じて判断してください。
一次ソース・関連資料
- Charles Hoskinson「Wallets in 2026」(2026年8月3日 ライブ配信)
- COINKITE Blog「Coldcard Security Advisory」(2026年8月1日 更新)
- Galaxy Research 公式X投稿(第1波の資金追跡)
- Anthropic「Project Glasswing」(2026年4月7日 発表)
- Confidential Computing Consortium メンバー一覧
- Cardano Foundation 公式X投稿(x402 参加)
- DeRec Alliance 公式サイト
- Open Wallet Standard 公開リポジトリ
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