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Hydra と Leios は競合しません——Cardano のスケーリングを二層で読む

2026-08-08SIPO

Cardano Foundation が 8 月 6 日、あるユーザーからの問いに答える形で、Hydra と Leios の関係を短く整理しました。曰く、両者は競合ではなく補完関係にある。Leios は本線そのものを拡張し、Hydra は高頻度の活動を本線の外へ動かす。どちらも Cardano の容量を増やすが、方向が逆なのだ、と。

この一文は簡潔ですが、実際にどちらを使うかを決める段になると、簡潔さだけでは足りません。二つは「速くする」という同じ言葉で語られながら、答えている問いが違うからです。本稿では、両者が何を引き受け、何を引き受けないのかを、それぞれの仕様書に戻って並べます。

Hydra and Leios are complementary, not competing.

Leios scales the main chain itself. Hydra moves high-frequency activity off it. Both ship more capacity for Cardano, just from opposite directions.

■ Leios が広げるのは、本線そのものの太さ

Leios の仕様書である CIP-0164 は、動機をはっきり書いています。Cardano エコシステムの成長が見込まれる以上、ネットワークのスループットを根本から引き上げる必要がある、と。そして現状について、メインネットは周期的に混雑し、処理待ちの取引量がネットワークの取り込み能力を上回る局面がある、と述べています。原因は Ouroboros Praos がブロックの伝播に課す要件そのものにあります。

Linear Leios の設計は、二種類のブロックで構成されます。ランキングブロック(RB)は従来の Praos ブロックで、エンドーサーブロックを告知し証明するためのフィールドが追加されています。エンドーサーブロック(EB)は、RB の生成者がスロットを獲得したときに作られる、より大きな二次ブロックです。EB は、基本の RB に入りきらない取引を参照します。

研究段階の Leios にはインプットブロック(IB)という第三の要素がありましたが、CIP-0164 はこれを廃し、EB の生成を RB の生成に結び付けることで複雑さを減らしています。

証明の作り方も規定されています。プール運用者による投票委員会が、なりすまし検知の期間を置いたうえで EB を検証します。所定の時間内に検証が終われば投票し、票が高い閾値(たとえば七割五分)を超えれば EB は証明済みとなります。集約された BLS 署名が圧縮された証明としてまとまり、後続の RB に載ります。

目標値は、毎秒 140,000〜300,000 トランザクションバイトです。現在のメインネットの毎秒約 4,500 トランザクションバイトに対して、30〜65 倍という数字がここから出ています。

そして、書かれていないことも重要です。CIP-0164 はレイテンシの改善を約束していません。Leios は逐次的な処理を保ったままであり、取引が取り込まれるまでの時間は証明のタイミングに依存します。Leios が広げるのは、太さであって、速さではありません。この区別については Leios が広げる Cardano の処理能力 で詳しく扱っています。

■ Hydra が引き受けるのは、顔ぶれが決まった取引

Hydra Head の公式ドキュメントは、Hydra を「査読された研究に根ざした Cardano のレイヤー 2 スケーリングソリューションであり、厳密なセキュリティを保ちながらスループットを高め、コスト効率を確保する」ものと定義しています。

設計上の特徴は同型(isomorphic)であることです。Hydra は取引をオフチェーンで処理しますが、そこで使われるのは「まったく同じ、実戦で試された Cardano の台帳」です。別の台帳を新しく設計するのではなく、同じ規則をそのまま外に持ち出す。だから既存の取引の形も、既存の資産も、そのまま通用します。

もう一つの特徴は、参加者が事前に決まっていることです。ドキュメントは「既知の参加者」という言い方をします。head を一緒に開く当事者たちがトークンを預け入れ、そのあいだは互いにレイヤー 2 の速度で取引し、最終的な結果だけをメインチェーンに記録します。ドキュメントは飛行機の比喩を使っています。出発前に、乗客と荷物を機内に積み込む、と。

想定される用途も明示されています。グローバルな合意が必要ではない場面です。少額決済、知人どうしの貸し借り、ゲーム、そして一部の DeFi。逆に言えば、誰が相手になるか事前に決められない取引は、Hydra の射程の外にあります。

■ 二つの層は、交換可能な部品ではない

ここまで並べると、財団の言う「方向が逆」の中身が見えてきます。三つの軸で分かれます。

第一に、相手が事前に決まるかどうか。Hydra は決まっていることを前提にし、Leios は前提にしません。第二に、全体の合意が必要かどうか。Hydra は head の内側の合意で足り、Leios は Cardano 全体の合意の上で動きます。第三に、取引のたびにメインチェーンの記録が要るかどうか。Hydra は head を閉じるときにまとめて戻し、Leios は一件ずつ本線に載せます。

この三つは、アプリケーションを設計する段階で決まる性質のものです。動かし始めてから差し替えられる部品ではありません。「Cardano が速くなる」という一語で両者をまとめてしまうと、この設計判断が見えなくなります。財団が競合ではないと言い切ったのは、比較する対象が最初から違う、という指摘でもあります。

なお、CIP-0164 はレイヤー 2 との統合について何も述べていません。二つは、それぞれ独立に進んでいます。補完関係とは、片方がもう片方を前提にしているという意味ではなく、埋めている穴が重ならないという意味です。

■ 委任する側から見ると、どう関係するか

どちらを使うかを選ぶのはアプリケーションの設計者であって、ADA を預けている側ではありません。ただし、無関係でもありません。

Leios はプロトコルそのものの変更です。Leios の FAQ は、テストネットへの展開を 2026 年に目標としたうえで、その後に十分なテスト・監査・そして Cardano のガバナンス承認を経てメインネットに向かう、と書いています。つまり Leios は、最終的にオンチェーンの投票を通る議題になります。テストネットで出てくる数字と、運用者側の機器要件は、その投票の材料です。

Hydra はプロトコル外の層であり、ガバナンスの投票を必ずしも通りません。ただし開発資金の配分という形では議題に上がります。SIPO も過去に、Hydra 関連の予算提案について判断を示しています(『IO: Hydra』提案をどう考えるか)。

容量を増やす方法が二つあるということは、どちらにどれだけ資源を割くかという配分の問題が常に付いて回る、ということでもあります。「競合ではない」は技術的な事実ですが、予算の場では、両者は同じ財布を見ています。

■ これから見るもの

【1】Water フェーズで公表されるパラメータの振り幅と、そこで出る実測値。CIP-0164 の 30〜65 倍という目標に対して、どの条件で何が出るのかが、Leios の現実的な性能像になります。

【2】Leios がメインネットに向かうときの、監査結果とガバナンス提案の中身。技術的に動くことと、入れてよいと決まることは別の手続きです。

【3】Hydra 側で、想定用途に沿った実運用の事例がどれだけ積み上がるか。同型設計の利点は、実際に既存の資産と契約がそのまま動いたときに確かめられます。

■ 編集メモ

本稿は、Cardano Foundation の投稿を出発点に、CIP-0164 と Hydra Head 公式ドキュメント、Leios 公式 FAQ を照合してまとめたものです。財団の投稿は短い返信であり、そこに書かれていない前提は各仕様書側から補いました。

数値はいずれも仕様書に記載された目標値・現状値であり、実測値ではありません。Leios の性能像は Water フェーズ以降の測定で更新される可能性があります。再検証をお勧めする先は、CIP-0164 の本文、Musashi Dojo の公表資料、そして Hydra Head のドキュメントです。


一次ソース / 関連リンク