Cardano のレンディング(貸し借り)プロトコル Liqwid が、Project Catalyst から ₳200,000 の資金を得て、ADA と NIGHT の市場で使う価格を Pyth の署名付きデータでオンチェーン検証する仕組みに切り替えます。Liqwid が日本時間9月26日未明に公式 X で発表し、Catalyst の提案ページでは状態が「funded(採択・資金決定)」と表示されています。
これまで Liqwid の価格は、Liqwid 自身が管理する 1 本の鍵で書き込まれていました。今回の資金は、その「1 本の鍵を信じる」構造を、取引の中で署名を検証する構造へ置き換えるためのものです。貸し借りの安全を最も深いところで支えるオラクル(価格情報の入口)が、どう変わるのかを提案書から読み解きます。
今の価格は、1 本の鍵で書き込まれている
提案書は、現在の仕組みを率直に説明しています。Liqwid が運営するボットが、Pyth の価格(Hermes というサービス経由)を含む市場データをオフチェーンで集め、30 分の指数移動平均をかけたうえで、Liqwid が管理する鍵でオラクルの UTxO を更新します。スマートコントラクトは価格を受け入れる際、「許可されたウォレットが更新した」ことは確かめられますが、その価格がどこから来たのかまでは確かめられません。
提案書はこれを単一障害点と呼んでいます。鍵や運用システムが侵害されたり止まったりすれば、誤った価格が書き込まれ、プロトコルがそれを受け入れてしまう可能性がある。影響は担保の評価、借入の上限、清算にまで及びます。
レンディングでは、価格は「いくらまで借りられるか」と「いつ清算されるか」を決める数字です。価格の入口が 1 本の鍵に依存していることは、Liqwid に限らず、オラクルを自前で運用するプロトコル全般が抱える論点でもあります。
取引のたびに、署名付きの価格を持ち込む
新しい仕組みでは、価格が必要な取引(借入、担保の引き出し、清算など)が、Pyth の署名付き価格更新を自ら携えて送信されます。その取引の中で、Pyth が用意した検証用スクリプトが署名を Pyth の公開状態と照らし合わせ、Liqwid のバリデーターは検証済みの価格を同じ取引の中で読み取ります。
信頼の置き場所は、Liqwid が持つ 1 本の鍵から、Pyth の価格提供者ネットワークとその署名へ移ります。提案書は、これに Liqwid 側の運用上の安全装置を組み合わせることで、プロトコルの安全性と分散性が大きく高まると説明しています。
対象は、当面 ADA と NIGHT の 2 資産です。Pyth に価格フィードがある資産だけが置き換えの対象で、Pyth が扱っていない Cardano ネイティブトークンの市場は、リスク上限を設けたうえで従来の仕組みのまま残ります。まず Liqwid V2 に入れ、次の V3 へ持ち込む計画です。
既存の仕組みを捨てるわけではない点も、提案書は明記しています。Liqwid はすでに複数の価格源を集約し、安全装置もかけている。Pyth はそれを置き換えるものではなく、独立した価格の層を加えるものだ、という位置づけです。Cardano 上の代替として Orcfax と Charli3 の名前も挙げたうえで、補完的な選択だと説明しています。
₳200,000 の内訳と、3 か月の期限
提案書は資金の使い道を 4 つに分けています。
- Aiken で書くバリデーターへの Pyth 検証経路の追加と、開発環境での品質確認・広範なテスト:₳90,000
- 取引の組み立てと価格購読のオフチェーン改修(Preview テストネットでの結合テストを含む):₳30,000
- 稼働中のメインネット市場を、停止や既存ローンへの影響なしに切り替える移行計画:₳20,000
- 新しいバリデーター経路への独立したセキュリティ監査:₳60,000
監査に全体の 3 割を充てているのが目を引きます。価格を読むバリデーターは、プロトコルで最も安全性が問われる部品のひとつだからです。
この案件は、日本時間9月25日未明に発表された Catalyst Pilot 2026 の 12 件のひとつです。Pilot の資金は、着手時に 40%、利用目標の達成に応じて最大 40%、継続的な利用に対して残り 20% と分けて支払われます。Liqwid は 3 か月の期間内に、新しいバリデーターのメインネット展開と、開いているポジションを混乱なく移すところまでを約束しています。
利用目標も数字で宣言されています。オラクルを使う取引 2,600 件と、手数料 1,650 ADA です。提案書によると直近 30 日の実績は 1,777 件・₳1,149.81 で、目標は現状を明確に上回る水準に置かれています。提案書は、最近の取引の減少を DeFi 全体の活動低下によるものと説明しています。
NIGHT の市場にも、同じ価格の基盤が入る
対象に NIGHT が入っていることにも意味があります。Midnight のトークンである NIGHT は、Cardano 上でも取引されており、Liqwid ではその貸し借りの市場が開かれています。価格の入口が署名検証型に変われば、NIGHT を担保にする・借りるといった使い方の土台が、ADA と同じ水準で固められることになります。
開発されるバリデーターは MIT ライセンスで完全に公開される予定で、Liqwid V2 本体も 2026年12月までに BUSL(一定期間の商用利用を制限する公開ライセンス)でソースを公開するとしています。Pyth の検証を組み込む実装が公開されれば、他の Cardano のプロトコルが同じ経路をたどる手間も小さくなります。
確認できる次の一点は、GitHub の Liqwid-Labs/liqwid-pyth-oracle リポジトリです。オンチェーンのコードとサンプルを置く場所として 8月に作られており、実装と監査報告がここに出てくるはずです。あわせて、Project Catalyst のブログで Pilot 2026 の Demo Day の日程が告知されたら、Liqwid がそこでどの取引を実績として示すかを見ておくとよいでしょう。
ことば
- オラクル — チェーンの外にある価格や事実を、チェーン上のスマートコントラクトに届ける仕組みです。レンディングでは担保の評価と清算の判断に直結するため、ここが誤ると貸し借り全体が誤った前提で動きます。
- Pyth — 多数の価格提供者(パブリッシャー)が出した価格を、署名付きで配信する価格ネットワークです。必要なときに利用者側が最新の価格を取りに行く「プル型」で、Cardano でも Pyth Pro として検証の仕組みが用意されています。
- 清算 — 担保の価値が下がり、借入に対して不足したときに、担保を売って貸し手を守る処理です。価格が数分遅れたり誤ったりすると、清算されるべきでない人が清算される、あるいはその逆が起こりえます。
一次ソース / 関連リンク
- Liqwid の発表投稿(2026年9月25日)
https://x.com/liqwidfinance/status/2103533999838712216 - Catalyst 提案「Liqwid Pyth Oracle Integration」(Project Catalyst)
https://app.projectcatalyst.io/proposals/1de76c65-3217-487b-a4da-fe8bc1cdbca4 - Project Catalyst「Meet the 12 teams selected for the Catalyst Pilot 2026」
https://projectcatalyst.io/blog/meet-the-12-teams-selected-for-the-catalyst-pilot-2026 - Liqwid-Labs/liqwid-pyth-oracle(GitHub)
https://github.com/Liqwid-Labs/liqwid-pyth-oracle - Catalyst Pilot 2026 の12件、資金の6割は利用実績に連動(SIPO.TOKYO)
https://sipo.tokyo/signal-20260925-c0e60d44/
