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チャールズ・ホスキンソンの動画『Getting Bridges back on Track』解説・全翻訳|ブリッジはなぜ破られ、どう直すのか

2026-07-24SIPO

Wanchainブリッジをめぐる事故から一夜明けた2026年7月21日、Charles Hoskinson(チャールズ・ホスキンソン)氏は動画『Getting Bridges back on Track』を公開しました。前回の緊急動画が「何が起きて、何が無事だったのか」の報告だったのに対し、今回はホワイトボードを使った本格的な講義です。テーマは、事故そのものではなく「なぜブリッジばかりが破られ続けるのか」という構造と、「では、どう直すのか」という設計図。ゼロ知識証明でブリッジ運用者そのものを消す方法、安全性と稼働性を切り分ける多層構造、破られたあとに動くべき警報網、そして被害者が資金を取り戻せる制度まで、一本の線でつながった話になっています。SIPOは、この講義を全文訳したうえで、SPOの視点から要点を整理します。

ブリッジは「資産を運ぶ橋」ではない

講義はまず、多くの人が持っているブリッジ像を崩すところから始まります。「ブリッジとは何をするものか」と問われれば、たいていの人は「資産を移すもの」と答えます。しかしホスキンソン氏は、それは数あるユースケースの一つにすぎないと言います。

ブリッジの本質は、あるチェーンが、別のチェーンで起きた事実を信じるための仕組みです。自分のチェーンの中だけでは、外の世界で何が起きたかは分かりません。誰かがその状態を持ち込まなければならない。そして「持ち込まれる事実」は、資産の移動だけではないのです。同氏が自ら作成した文書では、Cardanoについて語りうる事実が42種類、Midnightについては52種類あると整理されています。チェーンとエポックの文脈、トランザクションとブロックの事実、UTxOがまだ存在するか・すでに使われたか、出力アドレスとデータム、ミントとバーン、各エポックの資産供給量、スクリプトの実行結果、ステーク委任、報酬、預託、国庫——さらにはガバナンスアクションについての主張まで含まれます。

ここを押さえると、次の話が理解しやすくなります。ブリッジの設計とは「資産をどう運ぶか」ではなく、「外のチェーンについてのどの主張を、どうやって信じるか」の設計だということです。

攻撃面は4つ、そして見落とされがちな5つ目

典型的なロック&ミント型のブリッジでは、Cardano側でトークンをロックし、ロックの証拠(レシート)と受取先アドレスをBSC側に持ち込み、ラップされたトークンを発行します。戻すときは、BSC側でラップされたトークンを消却し、その証拠でCardano側のロックを解除する。ブリッジは両チェーンのフルノードを持ち、「その主張は本物か」を検証し続ける門番として働きます。

この構造には、攻撃面が4つあります。Cardano側のオンチェーン契約(Plutus)BSC側のオンチェーン契約(Solidity)BSC側のオフチェーン基盤Cardano側のオフチェーン基盤。この4つがすべて噛み合って初めて、ブリッジは正しく動きます。逆に言えば、インデクサーが誤った像を返すだけでも、実在しないトークンを鋳造させたり、偽の証拠で引き出させたりする余地が生まれます。

そのうえで同氏が強調するのが、アップグレード権限という5つ目の急所です。ブリッジには通常、契約をv1からv2へ差し替える機能が備わっています。差し替えには管理者鍵が要る。ならば、その鍵を奪えば「全部こちらに渡す」という契約に書き換えられてしまう——という指摘です。ホスキンソン氏は前半2つ(オンチェーン契約)を「公開側」、後半2つ(オフチェーン基盤)を「非公開側」と呼び分け、公開側の侵害は外部のブラックハットによる脆弱性発見であることが多く、非公開側の侵害は内部関係者や準内部者の関与を疑うべきだと整理しました。どこが破られたかが、事件の性格をかなり語る、というわけです。

ゼロ知識ブリッジ——「橋の番人」を消す

では、どう直すのか。ここで登場するのがゼロ知識証明です。

従来型では、利用者はブリッジ運用者に「これは本物です」と判定してもらう必要がありました。ZK方式では、利用者自身が「Cardano上でこれこれの事実が成立している」という証明を生成し、その証明を受取先アドレスに紐づけて送るだけです。受け取る側のチェーンには検証コントラクトが置かれ、証明が偽造不可能でCardanoの動作の理解に合致していることを確認したうえで、ラップされたトークンを発行します。

この設計の要点は、証明を送信する主体が誰であっても構わないという一点にあります。ブリッジ運用者でも、まったくの第三者でも、利用者本人でもよい。番人がいなくなり、信頼すべき対象が消えるのです。同氏は「ブリッジ運用者はそこにいません。第三者もいません。誰でもそのメッセージを送信できます。トラストレスなシステムです」と述べました。残る信頼の根は、検証コントラクトのアップグレード権限だけになります。

ただし、これは「置いて終わり」ではありません。ハードフォークは起こり、コンセンサスも変わります。EthereumがProof of WorkからProof of Stakeへ移行したように、Cardano自身もPraosからLeiosへと進みます。チェーンが変われば、検証コントラクトが持つ「相手チェーンの理解」も更新しなければならない——この保守こそが、ZKブリッジの運用の中心になる、という整理です。

多層構造——安全性ではなく、稼働性で失敗させる

講義の中で最も実務的だと感じたのが、この部分です。

ホスキンソン氏は、ZK方式と従来型を対立させず、重ねることを勧めます。ZK証明と、専用に設計された閾値署名スキーム。その両方が同意したときにだけ送金を通す。これを同氏は「マルチモダリティ(multimodality)」と呼び、聖杯だと表現しました。

なぜ重ねるのか。理由は、ブリッジの失敗を安全性(safety)稼働性(liveness)に分けて考えるからです。安全性とは「あなたのお金を盗めるか」、稼働性とは「サービスを使えるか」。優先すべきは明らかに安全性のほうで、稼働率は高いに越したことはないが、時には落ちてもよい。そして重要なのは、ZKの証明生成はクライアント側の作業であり、閾値署名はサーバー側で利用者に代わって行われる作業だという非対称性です。

この二つを正しく重ねると、こうなります。ZK側に欠陥が見つかれば、送金は止まる。しかし誰も資金を盗めない。閾値署名側が破られても、攻撃者はZK証明を偽造できない。やはり止まるだけで、盗まれない。どちらが壊れても、失われるのは稼働性であって安全性ではない——これが多層構造の設計思想です。さらに管理者権限の更新には、信頼された実行環境(TEE)とマルチパーティ計算、あるいはシャミア秘密分散を重ね、鍵単体の奪取では動かせない形にする。ここまで積めば、内部脅威が広範に及ばないかぎり、事故は現実的に起きなくなる、というのが同氏の見立てです。

この主張には裏づけがあります。ホスキンソン氏がこの問題に取り組んでいると伝えたところ、Input Outputの研究チームはすでに論文を書き上げていました。『Crossing with Confidence: Formal Analysis and Model Checking of Blockchain Bridges』(IACR ePrint 2026/292、2026年2月公開)です。Aggelos Kiayias氏、Markulf Kohlweiss氏(エディンバラ大学)、Denis Firsov氏、Pooya Farshim氏、Pyrros Chaidos氏(アテネ大学)、Anca Nitulescu氏、そしてMicrosoftにも籍を置くDimitar Jetchev氏という国際的な布陣で、ブリッジの安全性をUniversal Composition(UC)フレームワークの精密な変種で定式化し、さらにQuint(TLA+系の仕様記述言語)による有界モデル検査まで行っています。UC定式化とモデル検査の両方を一本の論文で通すのは学術的にも珍しく、Advanced Threshold Signaturesの理想機能を新たに定義して脆弱性を検証している点も、上で述べた多層構造の議論と直結します。ホスキンソン氏は、ブリッジを作る人はまずこの論文を読み込み、形式テストやプロパティテスト、モデル検査の生成に使うべきだと強く勧めていました。

破られたあとの設計——警報網とサーキットブレーカー

どれだけ堅く作っても、事故はゼロにはなりません。だから講義の後半は「攻撃が起きたあと、何をするか」に移ります。

最初に必要なのは警報システムです。攻撃者の行動には型があります。第一に、DEXに資産を流し込んで売り抜ける。第二に、ステーブルコインを借りるかたちで別資産に移し、混ぜて資金洗浄する。ならば、DEXが即座に警報を受け取れれば流動性を引き上げられますし、レンディング側が知れば貸出ペアを止められる。資産は奪われても、出口を塞げば動かせなくなるという発想です。

ここで、ブリッジの非対称性が効いてきます。BSC側のラップされたNIGHTは、Cardano上のNIGHTが裏付けているからこそ価値を持つ合成資産です。したがって、盗まれたのがBSC側なら、運用者は1対1のペッグを断ち切って「もう償還できない」と宣言できます。しかしCardano側のNIGHTが盗まれた場合は、それはADAやビットコインを盗まれたのと同じで、そのまま換金の道が開けてしまう。ブリッジの両岸は、対称ではないのです。

この文脈で同氏が語ったのが、ブロックチェーン規模のpub/sub(配信購読)システムという長年の構想です。DEX、DeFi、ウォレット、取引所が、ブリッジ運用者やCardano Foundation、Intersectといったチャンネルを購読しておき、侵害が検知された瞬間に警告をネットワーク全体へ一斉配信する。受け取った側は、自動で流動性を引き上げる仕組みを組んでおける。金融システムでいうサーキットブレーカーを、分散型のまま実装するという考え方です。ホスキンソン氏はこれを何度も提案してきたと述べ、Leios後の2027年に向けたCardanoの優先課題として挙げました。

出口を塞ぐという意味では、すでに効いている設計もあります。Cardanoで使われているUSDCxは、Circleのクロスチェーン準備契約を通じて発行される、USDC裏付けのステーブルコインです(2026年2月にCardano上で稼働)。純粋なUSDCであればミキサーへ直行できてしまいますが、USDCxからの出口はCircleを経由せざるを得ない。その一本道は、いざというとき遮断できる。攻撃の一層は、すでに構造として塞がれているという指摘です。

ホワイトハット・ライセンスとMidnight passport

そして講義は、事後処理の話へ進みます。ホスキンソン氏が「これは新しい話です」と前置きして紹介したのが、ホワイトハット・ライセンスという構想でした。

非管理型ウォレットの世界は、基本的に自己責任です。失えば、それまで。しかし、ウォレットを作る時点で「攻撃が進行中の場合、定められた作法に従って救出行動を取ることを認める」というチェックボックスを一つ置いたらどうか——というのが同氏のアイデアです。チェックを入れなければ救出対象から外れ、入れれば、いざというときに資金を安全な場所へ退避させてもらえる。

ただし、これを実現するには二つの壁があります。アイデンティティ否認不可能性です。非管理型ウォレットにKYCはありません。誰の持ち物か分からなければ、救出した資金を誰に返せばよいのかも分からない。そして「あなたが確かにその権限を私に与えた」という署名がなければ、法的にも動けません。

その答えとして提示されたのがMidnight passportです。選択的開示を備えたアイデンティティの層があれば、非管理型ウォレットを、プライベートかつトラストレスな形で身元に紐づけておけます。外から見えるのは意味をなさないデータの塊にすぎませんが、いざ何かが起きたとき、その紐づけが「このウォレットの所有者は本人である」ことの証明として機能する。しかもゼロ知識の仕組みなので、復号する必要すらありません。本人が名乗り出て証明を生成すればよいだけです。ホワイトハット・ライセンスへの同意そのものを、この紐づけに含めておくこともできます。

設計上さらに大事なのは、この資格情報がスマートフォン上の信頼された実行環境に置かれ、主ウォレットからは切り離されるという点です。ウォレットやブリッジが破られても、この中核の資格情報は残る。ハードウェアウォレットに近い堅さを持ちつつ、侵害が全体に波及せず、個々に留まる——ウォレットやブリッジの侵害が全利用者を巻き込む構造とは、そこが決定的に違うという説明でした。

SPOの視点——「選べること」を作るための技術

ここからはSPOの視点で整理します。

この講義を通して聞くと、ZKブリッジも、多層構造も、警報網も、ホワイトハット・ライセンスも、それぞれ別の技術の話ではなく、一つの目的に向かって積み上げられた層だと分かります。ホスキンソン氏が繰り返し語ったのは、既存の金融システムが持つもの——法、消費者保護、裁判所、紛争解決、資産の凍結、法執行、チェック&バランス——を、暗号資産が持つ自己管理という長所を捨てずに手に入れられるか、という問いでした。カードを不正利用されれば取り消してもらえる。銀行で身元を騙られれば口座に戻してもらえる。少なくとも「その会話をする機会」がある。暗号資産の世界には、その会話そのものが存在しない、というわけです。

ここで同氏が慎重に線を引いたのは、非管理型ウォレットをなくす話ではないという点でした。むしろ逆で、消費者保護を口実に非管理型を規制で締め出そうとする流れに対し、非管理型のまま保護を組み込めることを示せれば、その論拠を無効化できる。だから、この設計は非管理型を弱めるのではなく強くする、という主張です。そのうえで、保険を掛けるか、復元可能にするか、ホワイトハット条項を付けるか——選ぶのは利用者自身であり、何も付けない選択も等しく尊重される。財布の中の現金と同じで、落とせば戻らない。それも一つの選択だ、というわけです。SIPOとしても、この「押しつけるのではなく、選択肢を作る」という立て方こそが、この講義の核心だと受け止めました。

SPOやデリゲーターにとっての実務的な含意も、はっきりしています。ネットワーク内部で完結する活動——ステーキング、ガバナンス、委任——と、外部の信頼を前提とするクロスチェーンの資産移動とでは、リスクの質がそもそも違います。今回のような事象が起きたとき、この二つを混ぜて評価してしまうと、健全な部分まで不必要に疑うことになります。チェーン本体の健全性と、接続点のリスクは、分けて見る。前回の記事でも書いたこの原則は、今回の講義でより明確な言葉を得ました。

そして、この講義が単なる構想で終わっていない点も見ておきたいところです。ブリッジの安全性は、すでに形式手法で定義され、モデル検査にかけられ、査読可能な論文として公開されています。Cardanoが積み上げてきた「作る前に証明する」という文化が、事故のあとに慌てて持ち出されたものではなく、事故の半年前から進んでいたという事実は、SIPOにとって心強いものでした。攻撃は止まりません。むしろ増えるでしょう。だからこそ、数学に守らせる領域を広げていく——その方向を、SIPOはこれからも支持し、一緒に前へ進めていきたいと考えています。

「ゾンビ・サバイバルゲームのようなものです。家の中にいて、ゾンビが襲ってくる。ラウンドを重ねて生き延びる。しかし、あのゲームには勝ち方がありません。何ラウンド持ちこたえられるか、それだけです。今の暗号資産はそういう状態です。私は、勝てるゲームにしたい」——Charles Hoskinson『Getting Bridges back on Track』より

【全文翻訳】Charles Hoskinson『Getting Bridges back on Track』

以下は、ホスキンソン氏の動画『Getting Bridges back on Track』(2026年7月21日)を翻訳したものです。話し言葉のため、意味を損なわない範囲で自然な日本語に整えています。自動字幕で崩れていた固有名詞(論文の著者名・所在地・製品名等)は、一次ソースで確認のうえ正しい表記に補正しました。

こんにちは、チャールズ・ホスキンソンです。暖かく晴れたコロラドからライブでお届けしています。いつも暖かく、いつも晴れていて、たまにコロラド、といったところですが。いつかワイオミングに行って、そのままずっと住みたいと思っています。ワイオミングが大好きなので。

さて、昨日、どうしようもない人間が、Cardano–Binance Smart Chain間のブリッジで大量の資金を盗み出しました。そしてこの件は、「なぜこういうことが起き続けるのか」というより広い議論を呼び起こしています。そろそろホワイトボードを使った動画を撮って、問題の根本原因をどう修正するのかを話す時期だろう、と考えました。

直近36か月を振り返れば、資金の喪失額が最も大きいのは、たいていブリッジのハッキングです。そして被害は壊滅的で、後を引きます。多くの人は、これが何を意味するのかをあまり理解していません。暗号技術そのものに欠陥があるのか。作っている人たちが分かっていないのか。いったい何が起きているのか。なぜブリッジのハッキングは繰り返されるのか。ですから今日は、ブリッジとは何なのか、どう手当てできるのか、そしてなぜMidnightがこの問題に対する答えなのかをお話ししたいと思います。皮肉な話ですが、Midnightはまさにこの種の問題を解決するために作られたのに、その問題がCardanoエコシステムのMidnight関連資産で起きてしまったわけです。

まず、研究の話から

まず最初に。この問題に取り組んでいるとAggelos(Kiayias)に伝えたところ、「ちょうどその論文を書いたところだ」と言われました。研究チームは本当に優秀で、こちらが言い出す前に片づけているのです。

この論文は公開されています。ブロックチェーンのブリッジについて、厳密な形式的解析とUniversal Composition(普遍的合成可能性)、そして実際のモデル検査を行ったのは、この業界の歴史上これが初めてです。ブリッジとは何か、何がそれを安全に保つのか、ブリッジのモデルとは何か——そういったものの精密な数学的定義が欲しいとき、そしてネイティブなコンセンサス証明書型やZK型のブリッジ、あるいは高度な閾値署名といった、さまざまなブリッジの種類をより深く理解したいとき、これが正典となる定義です。43ページにわたって数学が詰まっています。

Cardanoの世界で形式手法の話をするとき、私たちは常に仕事をきちんとやります。これはあらゆるブリッジに適用でき、その数学的な記述を与えてくれます。小ステップ意味論のようなものまで入っていますし、これまで世界のどこかで誰かがブリッジとして作ったあらゆるものへの引用も揃っています。付録ではさまざまな性質が扱われ、実際にUniversal Compositionの構成が証明されています。

もう一つ、こちらはCardanoとMidnightに特化した話です。私が興味を持って自ら書いた文書で、テーマは「CardanoとMidnightの間に、トラストレスなZKブリッジを作れるか」です。

ブリッジは何をするものなのか

最初の問いは、「ブリッジは何をするのか」です。ほとんどの人は「資産を移すもの」と考えます。確かにそれはブリッジのユースケースの一つですが、実際にはCardanoエコシステムにおいて、ブリッジで語りうることは42種類あります。

チェーンとエポックの文脈、トランザクションとブロックの事実、UTxOがそこに属しているかどうか、そして非所属——つまりすでに使用済みのトランザクション、出力アドレスとデータム、ミントとバーン、各エポックにおける資産供給量、スクリプトの実行結果、ステーク委任、報酬、預託、国庫……ガバナンスアクションについての主張さえ可能です。42種類の事柄について主張できるわけです。

なぜなら、ブリッジについて語るとき、あなたはこう言っているからです。「私はあるチェーンにいる。別のどこかにある外部のチェーンとやり取りしたい。そのチェーンに私のために何かをしてほしいし、それを頼りにしたい」。そして誰かが、そのシステムの状態を持ち込まなければなりません。チェーンはそれぞれ異なります。すべてが同じではないのです。

この文書をさらにスクロールすると、Midnightについては52種類の事柄が語れることが分かります。チェーンインデクサーのアンカー、トランザクションの意図の有効性、コントラクトの呼び出し、プライベートコントラクトの述語、Zswap、シールドされたトークン、シールドされていないNIGHTやDUST、そして集約基盤に関する主張。これらはCardanoの動作とはまったく異なります。

ですから、まず押さえておくべき基準点は、そこに豊かな数学的裏づけがあるということ。そして、ブリッジ基盤について語るとき、それはADAやNIGHT、Ether、ビットコインを別のネットワークへ動かすこと以上の話だ、ということです。

ボブとアリス、そしてロックとミント

では、少しその話をしましょう。ボブがいます。ボブは必ず出てきます。ボブから逃れることはできません。ボブはCardanoに住んでいます。そしてアリスがいます。アリスはBNB、つまりBinance Smart Chainに住んでいます。

こちら側には、Cardano上のNIGHTがあります。スマートコントラクトによって発行されたものです。

すでにX(Twitter)では「NIGHTの供給量をロールバックすればいいじゃないか」と言って回っている人たちがいますが、Cardano上のNIGHTは完全に分散化されており、Cardanoに埋め込まれています。Cardanoネイティブアセット標準の一部として、すべてのネイティブトークンはADAと同じ分散化の原則に従います。ですから、これは完全に分散化されていて、何もできません。すでに配布され、人々の手に渡っている、本物の暗号資産なのです。

さて、Binanceはこう言いました。「Glacier Dropはいいものだと思う。ただ、NIGHTをCardano上で保管するのではなく、全部Binance Smart Chain上に置きたい」。そこで、以前から存在していたブリッジが使われました。Wanchainブリッジです。彼らは数年前からこのエコシステムにいて、2024年以降のCatalyst資金を受け取り、Cardanoのブリッジを各所に作ってきました。Wanchainは、CardanoネイティブトークンをCardanoからBSCへ動かすためのブリッジを提供したわけです。

こうしたブリッジの作り方はいくつもあります。マルチシグでもよいし、ZKブリッジでもよい、閾値署名でもよい。何でもできます。しかし基本的な考え方はこうです。まずCardano上のNIGHTをロックする。ロックすると、レシート(受領証)が得られます。そのロックは、行き先のチェーン——この場合はBSC——上の受取アドレス(リディーマーアドレス)に紐づけられます。

そこで、受取アドレスとレシートを持って、ブリッジがBinance Smart Chainへその取引を注入します。向こう側に届くと、BSC版のラップされたNIGHTが作られます。これに価値があるのは、ひとえにBSC版NIGHTとCardano上のNIGHTが1対1でペッグされているからです。

では逆方向はどうか。アリスがBSC版NIGHTを破棄します。つまり、BSC版NIGHTを流通から取り除いたことを証明できる仕組みがあり、彼女はレシートを受け取ります。そのレシートはCardanoのアドレスに紐づけられています。ブリッジが「確かにそのレシートは正しい」と判断し、対応する量のロックを解除する。こうして彼女は、指定したアドレスでCardano上のNIGHTを手にします。

つまりブリッジは、両方のチェーンを理解できる立場にいなければなりません。ですから通常はフルノードを両側に持ち、ブリッジがそれを監視します。ブリッジは番人のような存在で、そこには明確に定義されたロジックが必要です。ボブが「これは私のNIGHTだ」と言ったとき、ブリッジは「それは本物か」と問い、チェーン全体を再生し、探索し、「はい、それは本物のNIGHTです」と判断できなければならない。アリスが「これは本物のBSC版NIGHTで、Cardano上のNIGHTに戻す」と主張したときも、ブリッジは「はい、それは本物です。問題ありません」と言えなければならないのです。

カストディアルと非カストディアル

ここで区別が必要になります。カストディアル(管理型)と非カストディアル(非管理型)です。

カストディアルとは、実際にどこかの大きなプールへ送り、そのプールが信頼された第三者の管理下にある形です。非カストディアルは通常、両側でロックを解除できるのがあなた自身である形を意味します。ビットコインDeFiはこの方式で動いています。ビットコインをCardanoへミラーリングするけれども、その等式の両側をあなたが管理していて、1対1の対応がある。

これが重要なのには理由があります。たとえばアリスがCardanoからBinanceへ何かをロックして移し、その半分を売却したあとで戻ってくると決めたら、彼女がロックしたときのNIGHTとは別のNIGHTを受け取ることになるかもしれません。ですから、こうした処理を速くするための流動性プールや、カストディ口座など、あらゆる仕組みがブリッジ設計に追加されてきました。そして、攻撃ベクトルはたいていそこに潜んでいます。通常は何らかのマルチシグ署名があり、ロック解除に関するロジックのルールがあるのです。

4つの攻撃面と、アップグレード鍵

ここには4つの攻撃ベクトルが存在します。オンチェーンで書かれたCardanoのPlutusコントラクト。オンチェーンのBinance Smart ChainのSolidityコントラクト。そしてオフチェーンのBSC基盤。さらにオフチェーンのCardano基盤です。

このどれもがハッキングされ得ます。そしてこの4つすべてが噛み合って、初めてシームレスな処理が成立します。なぜ問題なのか。もし悪い事態が起き、インデクサーが誤っていたり、ブロックチェーンの見え方が間違っていたりすれば、スマートコントラクトを騙して、実在しない偽のNIGHTを作らせることができるかもしれません。あるいは、偽のBSC版NIGHTをCardano側で償還できてしまうかもしれない。

それから、ブリッジを作るときにはたいていアップグレード可能性も持たせます。欠陥が見つかったり、新しい機能や能力を追加する必要が出たりすれば、スマートコントラクトv1からv2へ移行する。では、それは何を意味するのか。誰かが管理者鍵を持っていて、その鍵がバージョンを変更する権限を与える、ということです。もし私がその鍵を奪えたら、スマートコントラクトv2を「全部ジムに渡す」という内容に更新できてしまいます。悪いジムです。シルクハットをかぶって、片眼鏡をつけて、ステッキを持った、古典的な悪役ですね。管理者鍵を通じてコントラクトを書き換え、全部自分のものにできてしまう。まずいことです。

ハッキングが起きるとき、この2つ(オンチェーン契約)は公開側、こちらの2つ(オフチェーン基盤)は非公開側と考えてください。公開側は、ブロックチェーン上にあるので世界中の誰もが見られます。非公開側は、運用者など限られた人たちしか見られません。コンパイル済みのコードであることもあり、必ずしも直接インターネットに晒されているわけではなく、何らかのインターフェースの裏にあります。

ですから、非公開側が侵害された場合、それは通常、内部脅威です。従業員、業務委託先、信頼された第三者など——あるいは「準内部者」と括弧つきで呼ぶべき存在です。一方こちら(公開側)は、たいてい脆弱性を見つけて悪用したブラックハットです。ハッキングがどこで起きたかは、その事件の性質について多くを語ります。そして、そのどれもが等しく脅威です。

資産移動だけではない——ハイブリッドなアプリケーション

先ほどの形式化論文を読めば、この種の運用形態のあらゆる様式が網羅的に扱われています。そして、ここまでの話は資産のロックにすぎません。では、ハイブリッドなアプリケーションを作りたい場合はどうでしょう。

Cardano上にスマートコントラクトがあり、そのコントラクトが「Binance Smart Chainがブロック高XYZに到達したときにのみ実行する」と言っているとします。Cardanoのスマートコントラクトは、それがBinanceで起きたことをどうやって知るのでしょうか。

この種の取引は特別なものです。Cardano上にあるそのスマートコントラクトは、Binanceについて多くを知りません。多くの事実や原則を教えられてはいても、最終的には何らかの信頼の根が必要で、通常はオラクルとして誰かが「はい、それは起きました」と伝えなければならない。マルチシグ方式なら、マルチシグで署名されたメッセージです。ただし、それは誰でもあり得るし、何でもあり得ます。

つまり、スマートコントラクトがあり、特定のブロック高とトリガーがある。そして何かがそれを伝えるわけです。それは信頼された第三者かもしれないし、連合型の信頼された第三者——マルチシグの場合ですね——かもしれない。あるいは専用に設計された閾値署名スキームか、最も重量級のZKか。そしてMidnightが生きているのは、このZKの世界です。

ZKブリッジ——番人のいない設計

Midnightはこう考えました。Cardanoについて人々が語りたい性質は42ある。Midnightについて語りたい性質は52ある。Binance Smart Chainならおそらく50以上でしょう。では、ゼロ知識証明を構築し、両側に検証者(ZKV)を置いたらどうか。

ボブはブリッジを通る代わりに、ただ証明を生成します。そしてその証明を、BSC上の受取アドレスに紐づける。あとは誰でも——ブリッジ運用者でも何でも——それをBinance Smart Chainへ送信できます。ボブ自身が送ってもいい。

送られた先には検証コントラクトがあります。BSC上のZK検証者です。それが証明を受け取り、取り込み、確認します。「なるほど、この証明は偽造不可能で、私が理解しているCardanoの動作に合致している。ならばBSC版NIGHTを鋳造し、その受取アドレスへ送ろう」——ちょうどこのように。

お気づきでしょうか。そこにブリッジ運用者はいません。第三者もいません。誰でもそのメッセージを送信できます。トラストレスなシステムなのです。そしてアリスもまったく同じことができます。証明を生成して送るだけです。

Midnightを作った理由の一つは、こうしたものを構築できる、汎用的でプログラム可能な、高速かつ高機能なシステムが欲しかったからです。多くの事実を読み込んだ埋め込みコントラクトを作り、検証システムを持たせれば、基本的には「設定して、あとは忘れていい」状態になります。そうなると信頼の根は、アップグレード可能性の部分だけに残ります。

基本的にはこれだけです。運用者がそこに座って実際のメッセージのやり取りを取り持ち、エスクローやカストディを介するのではなく、完璧なミラーリングによって1対1で資産を動かせるようになる。そして検証コントラクトを作り、あとは現在の状態を注入して最新に保つだけです。ハードフォークは起きますし、意味論も変わり、コンセンサスも変わります。EthereumがProof of WorkからProof of Stakeへ移行したように、あるいは私たちがPraosからLeiosへ移行するように。それらは符号化して、システムを更新しなければなりません。

マルチモダリティ——安全性と稼働性を切り分ける

こうして見ると、これが理想的な状況です。そしてZKを従来のシステムと組み合わせれば、基本的にマルチモダリティ(多様式)のブリッジを作ることができます。これがある意味で聖杯です。

ZKと、専用設計の閾値署名スキームを組み合わせる。専用の証明書を作り、ZKシステムを作り、両方が同意したときにだけ取引を通すのです。

この種のものは通常、稼働性(liveness)と安全性(safety)の観点で考えます。安全性とは「私があなたのお金を盗めるか」、稼働性とは「私がそのサービスを使えるか」です。理想を言えば、安全性が最優先で、人々が資金を盗めることは決してあってはならない。ブリッジの稼働率も高くありたいけれど、時にはうまくいかないこともある。

さて、ZKはクライアント側の関心事です。あなたが証明を生成します。一方、閾値署名スキームなどは通常サーバー側の関心事で、あなたに代わって実行されます。

この二つを正しい形で組み合わせれば、マルチモダリティはこう働きます。ZKシステムに欠陥があれば、稼働性を失います。誰も送金できません。しかし安全性は失われません。閾値署名システムがハッキングされても、誰もZKシステムを偽造できません。やはり稼働性は失われますが、安全性は失われないのです。

そして通常であれば、管理者権限の更新には信頼された実行環境(TEE)を使い、何らかのマルチパーティ計算プロトコルを組み合わせます。あるいはシャミアの秘密分散を使ってもよい。こうした層を重ねていくのです。それによって、事実上破られない管理者鍵を持つことができます。正しく作られていれば、n個のうちm個という構成の基盤を、誰かがシステム内部から侵害することは決して起きません。

これがブリッジの卓越性における運用面です。そしてMidnightのような強力なZKシステムがあれば、あらゆる実務的な意味において、ハッキングがもう起きないと言える形でこうしたものを構築することは十分に可能です。広範な内部脅威でもないかぎりは。そしてその内部脅威も緩和可能で、それを非常に困難にするためのISO標準やその他の仕組みが揃っています。

攻撃が起きたら、何をするか

さて、ここまでは通常の運用の話です。では、攻撃が起きたときには何が起こるのでしょうか。何をすべきなのでしょうか。

まず、警報システムが必要です。他のブリッジ運用者、DeFiアプリケーション、とりわけレンディング事業者に警告しなければなりません。というのも、攻撃者がやることは二つあり、今回のCardanoでも実際にある程度成功しているからです。一つ、DEXに流し込む。二つ、別の資産——たいていはUSDTやUSDCのようなステーブルコイン——を借り、それを混ぜて資金洗浄する。

ですから、DEXが素早く警告を受けられれば流動性を引き上げられますし、レンディング側が警告を受けられれば貸出ペアを止められます。そうすれば、攻撃者は出口を得られません。資産は手に入れても、それで何もできなくなるのです。

資産がBinance側にあるなら、運用者は1対1のペッグを断ち切れます。Cardano側にあるなら、運用者にはそれができません。ブリッジには非対称性があることにお気づきでしょう。Cardano上のNIGHTと、BSC版NIGHTは同じものではありません。BSC版NIGHTは、Cardano上のNIGHTに1対1でペッグされた合成資産です。それに価値があるのは、ひとえにCardano上のNIGHTが裏付けているからです。ですから、誰かがBSC版NIGHTを盗んだなら、ブリッジ運用者は「それはもう償還できません」と宣言すればよく、Cardano上のNIGHTは無事です。別の問題は残りますが、それで止まります。しかしCardano上のNIGHTが盗まれた場合、それはADAやビットコイン、Ethereumを盗むのと同じです。実際に換金でき、その道を進めてしまう。この二つが、よくある攻撃ベクトルです。

ブロックチェーン規模のpub/subと、サーキットブレーカー

ですから、早期検知システムが必要です。それはブロックチェーン規模のpub/sub(配信購読)システムです。これは私が長年ずっと持ちたかったものです。実現を阻んできた力があって、私はそのことを今でも苦々しく思っています。しかしこれはCardanoにとって2027年に向けた非常に高い優先課題です。挑戦するのは8回目だと思いますが、Leiosの後に必ず実現させます。ブロックチェーン規模のpub/subシステムを手に入れます。

なぜか。すべてのDEX、すべてのDeFi、すべてのウォレット、すべての取引所がチャンネルを購読できるからです。そのチャンネルは、ブリッジ運用者のチャンネルでも、Cardano Foundationのチャンネルでも、Intersectのチャンネルでもよい。そして一斉配信のメッセージを作れます。「危険、危険」と警告メッセージをネットワーク全体へ流すのです。侵害が発生したと知らされれば、あるいは自動化された仕組みを組んでおけば、流動性を引き上げて動きを止められます。何かが検知された瞬間から、数秒から数分のうちにサーキットブレーカーが作動し、被害を食い止めるわけです。

私たちはこれを通常サーキットブレーカーと呼びます。多くの取引・金融システムに組み込まれているものです。取引を止め、システムの運用を止める。それを分散型の仕組みとして構築し、自然に、あるいは手動の介入によって再開できる形にできます。これは、システム内部のリアルタイム警報体制にとって極めて重要です。

もう一つ良い点があります。ブリッジは多方向に働きますが、ここではUSDCxが大いに助けになります。純粋なUSDCであれば、ミキサーのようなものへ直行させ、資金洗浄して不正な利益とともに逃げられます。しかしUSDCxであれば、Circleを経由してからでなければメインのネットワークへ入れません。つまり、そのブリッジは遮断できるのです。攻撃の一つの層は、すでに緩和されているということです。

ホワイトハットの対応と、ウォレットに埋め込む同意

検知システムにできることは他にもありますが、次は事後処理の話です。そしてこれも、私たちがMidnightを作った理由の一つです。ホワイトハットの対応について触れておきたいと思います。これは実に面白い話で、しかも新しい話です。

ウォレットがあるとします。非管理型(ノンカストディアル)です。買い手責任、つまり何が起きようと、失えばそれまで。ブリッジもたいてい同じ論理で動いています。

では、ウォレットの作成時に「ホワイトハット・ライセンス」を埋め込めるとしたらどうでしょう。

ホワイトハットの実務には一連のベストプラクティスがあります。そこで、攻撃が進行中の場合にかぎり、ウォレット提供者が自らホワイトハットとして動くか、その権限を委譲することを、あなたが承認しておくのです。もちろん、あなたが資金を取り戻すための償還プロセスを伴います。ウォレット作成時に小さなチェックボックスがあり、チェックを入れるか入れないかを選べる。入れなければ、あなたの資金はホワイトハットの対象から除外されます。入れれば、対象に含まれる。なかなか良い発想だと思いませんか。

暗号資産の世界では、これまで本当の意味で発明されてこなかったものです。なぜか。ここには大きな問題が二つあるからです。アイデンティティ否認不可能性——この二つは密接に関係しています。

アイデンティティとは、「そのウォレットの持ち主が誰なのかを、どうやって知るのか」という問題です。どうやって資金を返せばよいのか。非管理型ウォレットには伝統的にKYCがありません。KYCがないのです。ですから、それがアリスのものなのか、ボブのものなのか、ジムなのかジェーンなのか、そしてあなたが本当に名乗るとおりの人物なのかを、どうやって知るのか。これは大きな問題です。そして否認不可能性とは、「あなたが法的に私にその権利を与えたと、どうやって証明するのか」という問題です。あなたからの何らかの署名が必要になります。アイデンティティに紐づいた形で、どのように署名すればそれが解決するのか。

Midnight passport

そこでMidnight passportはどうでしょうか。

選択的開示を備えた一級のアイデンティティ市民が手に入れば、非管理型ウォレットを、トラストレスかつプライベートな形でアイデンティティに紐づけられます。ブロックチェーンの側から外部を見れば、意味をなさないデータの塊が見えるだけです。誰にもそれが何なのか分かりません。しかし、いざ何かが起きたとき、そのコミットメントが「ボブがそのウォレットを所有している」ことの証明として使えるのです。

実に素晴らしい仕組みです。そして選択的開示を備えたZKシステムがあれば、これが可能になります。さらに一歩進めれば、そのデータの塊の中に、ホワイトハット・ライセンスに同意したという署名済みの内容——あるいは他のどんなロジックでも——を含めておくことができます。どうでしょう。

悪いことが起きたとき、事後処理を進めるとき、ホワイトハットが資金を確保したり、被害者に返金しようとしたり、保険が発動したりする場面では、こうしたものを開示して中身を確認しなければなりません。ところが、ゼロ知識のシステムであれば、実際には何も復号する必要がありません。本人が現れて証明を生成し、「はい、私がその人物です」と示せばよいだけなのです。

しかもそれは、スマートフォン上の信頼された実行環境に置かれたパスポートから生成できます。その上位にある主ウォレットとは切り離されている。ですからウォレットやブリッジが侵害されても、この中核となる資格情報ははるかに安全です。LedgerやTrezorのような信頼されたハードウェアに近いもので、破るのがずっと難しく、しかもグローバルではなく個別です。ですから、一つが侵害されても、すべてが侵害されるわけではありません。ウォレットやSecondFi、あるいはブリッジのような侵害は、たいてい利用者全員を巻き込む全体的な侵害になってしまうのに対して。

ばらばらの解ではなく、一つの道具箱として

これが大枠の枠組みです。そして本当に興味深いのは、世の中には多くのサードパーティのソリューションがあるということです。「ウォレットの復元ができます」——結構なことです。「アイデンティティができます」——結構です。「pub/subがあります」——結構です。「少し効率の良いブリッジがあります」「ZKブリッジができます」——結構なことです。

しかし、これらすべてを一つの道具箱にまとめ、使いやすく、プログラム可能にした統一的なシステムは存在しません。しかも言語はTypeScriptです。世界で最も一般的なプログラミング言語で、Compactはその派生です。TypeScriptは第一のプログラミング言語であり、とにかく使いやすい。ですからZK基盤を書き、それを信頼された実行環境やMPCに結びつけ、抽象化されたプライバシーのプリミティブを使って、こうした解決策全体を構築できるのです。

ですからMidnightの本当の魔法は、ブリッジ問題を解決すると同時に、ウォレット問題も解決し、それによってホワイトハット問題も解決し、さらにこの業界の大半を支えているアイデンティティ問題までも解決する、という点にあります。

「大人になる」という話

先日インタビューを受けたときに、こう言いました。私たちの最大の課題は、子どもではなく、大人にならなければならないということだ、と。

大人には責任があり、説明責任があり、共感があります。そして大人は、誰かに悪いことが起きたときにその人を笑い飛ばしたりしないことを理解しています。私たちはルールに基づく社会に生きています。互恵性を望み、互いに親切でありたいと願う社会に生きているのです。

ですから金融のオペレーティングシステムという観点で見れば、既存のシステムには法があります。消費者保護があります。裁判所があります——紛争解決と呼ばれるものです。資産の凍結のような仕組みもあります。法執行もあります。チェック&バランスもあります。あらゆるものが揃っています。

もし暗号資産が既存システムを置き換えるつもりなら、問わなければなりません。暗号資産の何が特別なのか。それはあなたが主導権を握っていることです。第三者ではなく、あなたが。では、既存システムの何が特別なのか。すべてを合わせると、それは安全性です。

「誰かが私になりすまして、銀行から5,000ドルを引き出しました」。銀行へ行けば「分かりました、口座に戻します」となる。「クレジットカードを盗まれました」「その取引は取り消して、新しいカードを発行します」。毎日、何千回も繰り返されている会話です。うまくいくこともあれば、いかないこともある。しかし少なくとも、その会話をする機会がある。この世界に住んでいると、その会話をする機会すらありません。

ですから何十億人もの人々に採用してもらいたいのなら、既存システムの安全性に匹敵するか、それを超えられると納得してもらわなければなりません。

そして、それは原則を守ったままで実現できます。あなたが言うこと、すること、考えること、買うものすべてが追跡・記録され、信頼できない第三者がいつでもあなたのお金を止められる——そんな金融のパノプティコン(全展望監視装置)を受け入れる必要はないのです。私たちはそんなものを望みません。これは円を四角にするような難題で、私たちはこれを「web 2.5」、両方の世界の良いところ取りと呼んでいます。

ちなみに、この領域こそがここ2年の業界成長の大半を占めています。トークン価格を上げたい、ネットワークを成長させたいと言いますが、では誰が成長しているのか。XRP。彼らが生きているのはその領域の一つです。BNBは。USDCは。Tetherは。Cantonは。すべてweb 2.5の空間です。彼らが生きているのはそこなのです。

では、この円を四角にするには何が必要か。プライバシーが必要です。スマートコンプライアンスが必要です。抽象化が必要です。そして最終的に、二つの世界をつなぐことができなければなりません。だからこそMidnightは作られたのです。

今回の件について

攻撃は攻撃です。すでにほとんど回復しています。かなり大きな塊だったので、価格が戻るには少し時間がかかるでしょう。しかしMidnightは、5億NIGHTが盗まれても生き延びました。これはEthereumのクラウドセール——Ethereumを作るために集められた資金——のおよそ半分の規模です。決して小さくない金額ですし、流動性との比率で見ればかなり大きな出来事でした。それでも私たちは乗り越えました。ネットワークは力強い。

Midnight自体はハッキングされていません。Cardano上のNIGHTのスマートコントラクトもハッキングされていません。破られたのは第三者のブリッジです。なぜか。これは複雑なものだからです。そして、最新世代のAIモデルが次々と登場するこの時代において、こうしたものを破るのは容易になっています。だからこそ、異なるセキュリティのプリミティブへ移行しなければなりません。マルチモダリティへ移行する必要があります。管理層とZK層が必要で、互いにチェックし合い、安全性ではなく稼働性で失敗する。そのモデルを私たちは形式化しました。

ですから、次世代のブリッジがこれに従ってくれることを願っています。そして事が起きたときには警報システムが必要で、ホワイトハットが活動できる法的な空間が必要です。そのためにホワイトハット・ライセンスが必要で、それを実際に機能させるにはMidnight passportが必要になるのです。

私たちは一歩先にいます。長いあいだ、このことを考えてきました。私はこの業界に長くいます。年を取りました。正直、化石のようなものです。それでもこれを解決したい。なぜなら、これを解決できれば、暗号資産は本物になるからです。「買い手責任です」と言っているうちは、本物ではありません。そして何をしようと、どこかの時点で勝てなくなる。

ゾンビ・サバイバルゲームのようなものです。家の中にいて、ゾンビが襲ってくる。ラウンドを重ねて生き延びる。しかし、あのゲームには勝ち方がありません。ゾンビに捕まるまで何ラウンド持ちこたえられるか、それだけです。今の暗号資産はそういう状態です。私は、勝てるゲームにしたい。そして勝てるゲームとは、保険のゲームであり、早期検知のゲームであり、チェック&バランスのゲームであり、紛争解決のゲームであり、法的な埋め込みのゲームであり、監督のゲームであり、そして最終的には消費者保護のゲームです。そのうえで、人々が自分はどこに住みたいかを選べるようにする。

これがすべての人にもたらすもの、それは「選択肢」です。

非管理型を、なくすのではなく強くする

お気づきでしょうか。私は「非管理型ウォレットをなくさなければならない」とは言っていません。それどころか、非管理型ウォレットは存続するだけでなく、この仕組みによって強化されます。システムがそれをプリミティブとして使うからです。取り除かれることは決してありません。

というのも、今まさに人々は、消費者保護を理由にそれを取り除こうとしているからです。欧州のMiCAの方向性を見ても、米国の政治的左派の多くの人々の主張を見ても、その論旨は「暗号資産は厳しく規制された管理型の環境の中でのみ存在すべきだ」というものです。つまり、すべてのお金を信頼された第三者に預け、ETFのようにあなたに代わって管理してもらう。彼らが望んでいるのはそれです。そして彼らが使う切り口は、毎日ハッキングが起きている、毎日どこかの国家主体が人々の資金を盗んでいる、毎日制裁コンプライアンスに問題が生じている——といったものです。

ですから、非管理型の環境の中に消費者保護を組み込む方法を見つけられれば、彼らは非管理型という道を禁止できなくなります。それは残るのです。つまりこれは非管理型の立場を強化します。そしてベストプラクティスが生まれ、プライバシーを保ったまま消費者保護を実現できるので、大多数の人々がそれを使うようになり、リスク保護を提供する市場が形成されるでしょう。

保険というのは、とても単純です。サブスクリプション料や取引手数料を支払うとプールに入り、反対側の誰かが担保を提供する。保険金が支払われないかぎり、その人は保険料を受け取る。これは利回りのあるRWA(現実資産)であり、何兆ドルもの価値があります。先日バミューダに行ったとき、バミューダ金融当局(BMA)などの人たちがこう言っていました。「ウォレット保険はどうやればいいのか。ブリッジ保険はどうやればいいのか。この種のものには本当に良いお金がある。何とか方法を見つけなければ」と。

このような非管理型ウォレットがあって、それをアイデンティティに紐づけられるなら、同時に保険にも紐づけられます。そして自分で決められるのです。ウォレットを復元可能にしたいか。保険を掛けたいか。ホワイトハット保護条項を付けたいか。チェックボックスにチェックを入れ、手数料を払う。そうしたものが要らないなら、それでも構いません。その場合、あなたは実質的にレガシーなビットコインのアカウントということになります。そして何かが起きれば、買い手責任です。財布の中の現金と同じことです。財布をなくせば、お金もなくなる。誰も助けには来ません。それはあなたの現金であり、あなたの決断なのです。

それが、私やCardanoと、既存の金融業界との違いです。既存の金融業界は「あなたには決めさせません。私たちが代わりに決めますし、その決定で私たちが儲けます」と言います。私が言っているのは、あなたが決めるということです。

ただし、私はあなたに「マッドマックスの世界で、荒くれ者が私のお金を盗みに来るから、12世紀の農民のように、領主に奪われないよう稼ぎを地面に埋めて暮らす」か、あるいは「すべてを信頼できない第三者に渡して、どうか彼らが正直でありますようにと祈る」かの二択を迫りたくありません。私が望むのは第三の選択肢です。あなたが運転席に座り、そのうえでチェック&バランスと管理の仕組みを構築し、そうしたものの市場を作れる——それが第三の道です。これこそ、私たちがMidnightを作った理由の一つであり、実際のところ主要な理由の一つです。

これはMidnightが不要な理由ではなく、必要な理由

ですから、このブリッジのハッキングが起きたとき、多くの人がやってきて言いました。「これでMidnightは終わりだ」「これこそMidnightが消えた証拠じゃないか」と。私はこう答えました。これは、Midnightがなぜ必要なのかを示す、これ以上ないほど大きな広告だ、と。

ハッキングを止めることはできません。むしろ悪化する一方です。オープンソースの原点であるLinuxカーネルでさえ、直近2か月で発見された脆弱性の数が、過去2年間の総数を上回っています。新しいAIシステムのせいです。米国政府も、NSAでさえ、そのシステムは驚くほど穴だらけで脆弱です。これらの新しいAIシステムを使えば、NSAの最も重要なサーバーに侵入するのに11時間しかかからなかったといいます。サイバー能力という点で、それらは非常に獰猛です。

ですからハッキングは止まりません。しかし暗号(クリプトグラフィ)は破れません。デジタル署名やゼロ知識証明が、正しく書かれ、正しく実装されていれば——そしてそれを確実にするためにできることはたくさんあります——誰かがそれを迂回する方法を見つける確率は極めて低い。数学がAIの前に立ちはだかる。数学はAIに勝つのです。

ですから、システムをマルチモダリティで層状に組み上げれば、それは高保証(high assurance)と呼ばれる領域になります。そしてそれこそがCardanoの生きる領域であり、私たち全員が生きる領域です。だからこそ、Cardanoエコシステムではこうした事象がこれほど稀なのです。そして起きるときはたいてい、私たちのエコシステムの外部から来た第三者が何かを作った場合か、あるいはその主体のエンジニアが十分な力量を持っていなかった場合です。形式手法で作られたシステムが炎上するのを見ることは、めったにありません。

この講義が皆さんにとって価値あるものであったことを願います。Aggelosと彼のチームが書いた形式化論文へのリンクを共有しておきます。とても素晴らしい論文です。暗号学者でなければ少し読みにくいかもしれませんが、AIに放り込めば、しっかりした要約を出してくれます。何ができて何ができないのかを教えてくれますし、便利な分類も示してくれます。彼らは本当に見事な仕事をしました。実際、いくつかの事柄をQuintで形式化までしています。モデル検査がTLAで行われたのは実に素晴らしいことです。学術論文でUC形式化とQuint形式化の両方を見ることは、そうそうありません。とても厳密な仕事です。

ブリッジを作ろうとしている方——最近は勢いだけでコードを書いている方もいるでしょうし、心当たりのある方もいるはずです——これこそ最初に読み込むべきもので、形式テストやプロパティテスト、モデル検査などの生成に使うべきものです。これをやらないのであれば、家に帰ってください。ですから、暗号学者たちがこれだけの労力を注いでやり遂げてくれたことを、私はとても嬉しく思っています。43ページの緻密な内容で、しかもエストニア、フランス、スコットランドなど、さまざまな場所で書かれました。学際的なチームで、Microsoft Researchも執筆に参加しています。Microsoft AzureのAIチームのDimitar Jetchev氏が共著者の一人です。実に素晴らしい論文です。

さて、私からお話しできるのは以上です。この動画が皆さんの役に立つことを願っています。すべては計画どおりに進んでいます。そして暗号資産は危険なものです。だからこそ、私たちはそれを直すためにMidnightを作りました。皆さん、ありがとうございました。

一次ソース・参照

  • Charles Hoskinson『Getting Bridges back on Track』(2026年7月21日・動画):https://www.youtube.com/live/bGBbU65EFMM
  • Charles Hoskinson 氏による告知投稿(2026年7月21日 18:12 UTC):https://x.com/IOHK_Charles/status/2079630727742926961
  • P. Chaidos, P. Farshim, D. Firsov, D. Jetchev, A. Kiayias, M. Kohlweiss, A. Nitulescu『Crossing with Confidence: Formal Analysis and Model Checking of Blockchain Bridges』(IACR ePrint 2026/292・2026年2月):https://eprint.iacr.org/2026/292
  • Circle『USDCx on Cardano Now Available via Circle xReserve』(USDCx はCircleのxReserve契約を通じてUSDCに1対1で裏付けられる):https://www.circle.com/blog/usdcx-on-cardano-now-available-via-circle-xreserve
  • SIPO『チャールズ・ホスキンソンの動画「Brief Update on WanChain」解説・全翻訳』(2026年7月21日):https://sipo.tokyo/post-46960/
  • SIPO『📡Signal|Wanchain Cardano–BNBブリッジ事故とNIGHT——守られたコア、破られた境界』(2026年7月22日):https://sipo.tokyo/post-46969/
  • Midnight Network 公式サイト:https://midnight.network/
  • Intersect(Cardanoガバナンス・セキュリティカウンシル):https://www.intersectmbo.org/