Cardano 財団(CF)の Manvir Schneider 氏と IOG の Paolo Penna 氏が、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)のネットワークを安全に保つのに準備金がどれだけ要るかを、トークンの価格と取引の需要の状態ごとに決める枠組みを論文にまとめ、先週の国際会議 AFT 2026 で発表しました。結論は、名目上の準備金が大きくても、価格や需要が下振れした後には安全の限界に近づきうる、というものです。
Cardano の SPO(ステークプール運営者)が受け取る報酬は、取引手数料と、準備金から毎エポック取り出される ADA でまかなわれています。論文はその Cardano を、この設計の代表例として冒頭に挙げています。準備金の残高を、価格と需要に照らした余力として見直すという論文の主張が、SPO の報酬の将来をどう考える手がかりになるのかを整理します。
Cardano の準備金は、いまどれだけあるか
前提として、Cardano の数字を確認しておきます。オンチェーンの集計(Koios)によると、エポック661の集計値で、準備金は約60億6820万 ADA でした。1つ前のエポック660の集計値からは、約970万 ADA 減っています。
準備金から1エポックごとに取り出す割合は、プロトコルパラメータの monetaryExpansion で 0.3% と決まっています。取り出した ADA と手数料を合わせたものが報酬の原資になり、そのうち20%は国庫に回ります。手数料の収入が小さいうちは、報酬の多くを準備金が支える形です。論文が扱うのは、この準備金による支えから、手数料だけで報酬が足りる状態へ移るまでの道のりです。
価格と需要で決まる、3つの領域
論文は、トークンの価格と取引の需要が時間とともに揺れる中で、バリデーター(Cardano でいう SPO)がどれだけのステークを差し出して参加するかを、それぞれが自分の損得で選ぶゲームとして組み立てています。そのうえで、ある価格と需要の組み合わせのもとで、目標とする安全の水準を保つのに最低限必要な準備金の量を、式の形で導きました。
この必要量を価格と需要の平面に描くと、状態は3つの領域に分かれます。
- 需要が弱すぎて、どれだけ準備金があっても目標の安全に届かない領域
- 準備金があれば安全を保てるが、その量が価格と需要に左右される領域
- 手数料だけで目標の安全をまかなえ、準備金が要らない領域
真ん中の領域では、価格が高く需要が強いほど必要な準備金は少なくなります。準備金はトークンの数で持っている一方、バリデーターの費用はドルのような外の通貨でかかるため、同じ枚数の準備金でも、価格が下がれば買える安全が減るからです。反対に、3つめの手数料だけで足りる領域に入れるかどうかは需要だけで決まり、価格には左右されない、と論文は示しています。利用者が払う手数料は、すでに外の通貨で測った価値を持っているためです。
準備金の余力を測る「セキュリティの滑走路」
論文の題名にある「セキュリティの滑走路(security runway)」は、この必要量と実際の準備金の差のことです。滑走路が尽きるのは、準備金がゼロになった日ではありません。価格や需要の状態に照らして、準備金が必要量を初めて下回った時点です。その時点が来る前に「手数料だけの領域」へたどり着ければ、受け渡しは成功したことになります。
ここから、論文は統治の側への実務的な使い方を示しています。価格と需要について悲観側の見通し(信頼区間の下限)を見積もり、それを式に入れれば、ある期間にわたって安全を保つための準備金の必要量を、保守的に見積もれるというものです。今後の課題としては、準備金から払い出す割合や、手数料から準備金に戻す割合を、価格や残高に応じて動かす政策の設計を挙げています。価格が下がった後に払い出しを抑える、準備金が少ないときに手数料からの戻しを増やす、といった形です。
Cardano では、monetaryExpansion はガバナンスのパラメータ変更の提案で動かせる値です。準備金の払い出しの割合を議論するとき、何年で枯渇するかに加えて、いまの価格と需要に照らした余力を物差しにする、というのが論文から SPO と DRep が受け取れる視点です。
この論文が言っていないこと
注意しておきたいのは、論文が Cardano の実際の数字で滑走路を計算したわけではない点です。図に使われているのはバリデーター5者などの説明用の値で、Cardano の準備金が十分か不足かを判定したものではありません。論文自身も、価格と需要を外から与えた条件として扱い、バリデーターを同じ性質の参加者とみなした単純化を置いていることを、限界として書いています。
そのうえで残る問いは、Cardano の手数料の収入が、準備金の支えなしで報酬をまかなえる水準にいつ近づくのか、です。次の確認先は、5日ごとのエポック境界で更新される準備金と手数料の数字です。次の境界は日本時間10月17日6時44分ごろで、準備金の減り方と、そのエポックに集まった手数料の額を、AdaStat などのエクスプローラーで並べて見ることができます。論文の全文は、会議録(LIPIcs)と arXiv で公開されています。
ことば
- 準備金(リザーブ) — Cardano の最大供給量450億 ADA のうち、まだ流通していない ADA のプール。毎エポック一定の割合が取り出され、手数料と合わせて SPO と委任者への報酬、国庫の原資になります。
- AFT — Advances in Financial Technologies の略で、ブロックチェーンや暗号資産を含む金融技術を扱う国際会議。今回の論文は2026年の第8回の会議録に収められています。
- monetaryExpansion — 準備金から1エポックごとに取り出す割合を決めるプロトコルパラメータ。現在は0.3%で、論文が「準備金から払い出す割合」として置く値に近いものです。
一次ソース / 関連リンク
- Cardano 財団公式 X の告知(2026年10月13日)
https://x.com/Cardano_CF/status/2110013111944003992
Paolo Penna, Manvir Schneider「Reserve Depletion and Security Runway in Proof-of-Stake Systems」AFT 2026 会議録(LIPIcs)(drops.dagstuhl.de)

arXiv.org
Cardano Docs: Monetary policy(準備金と報酬の仕組み)
docs.cardano.org
