Cardano のステークプール BKIND を運営する Smit Blockchain Operations は、日本時間 10 月 29 日夜、新しい CIP「Disclosure of Governance Roles」を CIP のリポジトリに提出しました。SPO・DRep(委任代表者)・憲法委員会の役割を兼ねる人が、その兼任をどこに、どの形で開示するかを定める提案です。
Cardano の憲法は兼任の開示を義務づけていますが、場所も形式も決めていません。提案は、すでにオンチェーンに記録が残っているメタデータの中に、もう一方の役割の ID を書く欄を足すというものです。委任先の DRep を選ぶ方にも、SPO と DRep を兼ねる運営者にも関わる話なので、何を定め、何をあえて定めないのかを原文に沿って整理します。
憲法が求める開示と、決まっていない置き場所
根拠になっているのは、憲法の第 II 条第 3 節第 2 段落です。DRep・SPO・憲法委員会という 3 つの投票主体について定めたあと、次の一文があります。
anyone holding multiple roles must publicly disclose such overlaps before engaging in any on-chain governance actions.
複数の役割を持つ人は、オンチェーンのガバナンス行為に加わる前に、その重なりを公に開示しなければならない、という意味です。ただ、どこに書けばよいかは書かれていません。そのため開示は、DRep のメタデータの自由記述、ウェブサイト、SNS などにばらばらに置かれ、ツールが一律に読み取れる形になっていません。
提案者は、書く前に実態を測っています。ブロック 14130891(エポック 664)時点の数字は次のとおりです。
- 投票力の分布に載っている DRep 850 のうち、アンカーのハッシュと一致するメタデータを持つのは 449。そのうち自由記述でステークプールに触れているのは 129 で、実際のプール ID を含むのは 1 つだけ
- 登録済みのプール 2,885 のうち、ハッシュの一致するメタデータを持つのは 1,986。実際の DRep ID を含むのは 2 つ
- 憲法委員会の資格情報は、どの文書にも出てこない
名前や略称で「このプールもやっています」と書いてあっても、プログラムがそれを ID 同士のつながりとして読む手段はありません。この空白を埋めるのが提案の目的です。
もう一方の役割の ID を「Role」として書く
仕組みはシンプルです。開示は、メタデータの参照リスト(references)に、種類を「Role」とした項目を 1 つ足して書きます。項目には、もう一方の役割の ID を URI の形で入れます。ステークプールなら pool1 で始まるプール ID、DRep や憲法委員会なら CIP-0129 の形式の ID です。
- DRep は、CIP-119 の DRep メタデータの参照リストに書きます。書けるのはステークプールと憲法委員会の役割です
- ステークプールは、登録証明書にハッシュが記録されているプールのメタデータに、参照リストの欄を足して書きます。この文書には 512 バイトの上限があり、原文の付録には 296 バイトの完全な例が載っています
- 憲法委員会には自分の文書がないため、委員が DRep や SPO を兼ねる場合は、その文書の側から宣言します
置き場所を証明書で固定された文書に限ったのには理由があります。こうした文書は、版を変えるたびにそのハッシュが、宣言する本人の鍵で承認された取引の中の証明書に記録されるため、いつの時点でどの宣言があったかを後からたどれます。憲法は「ガバナンス行為に加わる前に」と時点を指定しているので、履歴が残ることに意味がある、というのが提案の説明です。取引なしで差し替えられる拡張メタデータ(CIP-0006)は、同じ理由で対象から外されています。
双方が宣言しても、同一人物の証明にはならない
この CIP が慎重なのは、読み取った結果の扱いです。プール P と DRep D の関係を、ツールは次の 5 つのどれかとして示します。
- 相互(P も D も互いを宣言している)
- プールの側だけが宣言
- DRep の側だけが宣言
- どちらも宣言していない
- 不明(どちらかの文書が有効でない)
そのうえで原文は、ツールがしてはならないことを 3 つ挙げています。名前やウェブサイト、委任、投票の傾向から役割を推測して宣言のように見せること。相互の宣言を、一人が両方を支配している証明として示すこと。「宣言なし」や「不明」を、兼任がない証拠や憲法を守っている証拠として示すことです。二者が示し合わせて互いを名指しすることもできるため、言えるのは「両方の鍵が、互いを名指しする文書を承認した」ところまで、という整理です。開示が十分かどうかの判断も、この CIP は引き受けていません。
開示の形を決めるだけで、真偽と網羅性は本人に残す。範囲を絞ったぶん、編集者や他のツールの作り手が受け入れやすい設計です。
BKIND は自分のプールで先に試した
提出と同じ 10 月 29 日から、BKIND の DRep メタデータとプールのメタデータは互いを宣言しています。提案者は、これが最初の相互の組だとしています。プール側の文書は 438 バイトで、512 バイトの上限に収まっています。最初の対応ツールとして、Smit Blockchain Operations のサイトのプール一覧と DRep 一覧が、メインネットのすべての登録プールと DRep の宣言を毎日読み取り、文書の状態と関係を表示しています。
CIP としての状態は Proposed(提案中)で、番号はまだ割り当てられていません。SIPO も SPO と DRep を兼ねる運営者の一つで、この書式が採られれば、開示を書く側の当事者になります。
ID で確かめられるようになるか
委任先の DRep がどのプールを運営しているのかを、名前の一致ではなく ID で確かめられるようになったとき、委任を選ぶ基準は少し変わるはずです。その入口になるかどうかは、CIP リポジトリのプルリクエスト #1311 で、編集者のレビューを経て番号が割り当てられるかに懸かっています。このページの議論と、プール一覧・DRep 一覧で相互の宣言が増えていくかを見ていきます。
ことば
- CIP — Cardano Improvement Proposal の略で、Cardano の仕様や書式を提案する文書です。番号が付き、編集者のレビューを経て採用が進みます。今回の提案はまだ番号のない段階です。
- アンカー — ガバナンスの証明書に、文書の置き場所の URL と中身のハッシュを記録する仕組みです。今回の提案は、兼任の宣言をこのアンカーで固定された文書に書くことで、履歴が残るようにしています。
一次ソース / 関連リンク
提案の原文(README)(GitHub)
- 提出者の告知(BKIND の X)
https://x.com/BKINDSPO/status/2115804795579548054
Smit Blockchain Operations(対応ツールのプール一覧・DRep 一覧)(smitblockchainops.nl)
