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CIP-23 の最低プールマージン、Dijkstra のハードフォークへ前倒し

2026-10-21SIPO

ステークプールの可変手数料(マージン)に下限を置く CIP-23 が、次のハードフォーク Dijkstra(プロトコルバージョン 12)に全面的に入る見通しになったと、この案を推してきた SPO たちが 10 月 20 日(UTC)に伝えました。数か月先のバージョン 13 に回るとみられていた変更が前倒しになり、台帳の GitHub では、報酬計算に最低マージンを効かせるコードが下書きとして出ています。

プールが受け取る手数料の床は、これまで固定費(minPoolCost)の一本だけでした。そこに比率の床がもう一本加わると、小さなプールと大きなプールが同じ条件で委任者を集められるかという、Cardano の分散の前提に直接かかわります。何が決まり、何がまだ決まっていないのかを、台帳のコードに沿って整理します。

ATADA と Cerkoryn が伝えた「バージョン 12 への前倒し」

最初に伝えたのは、オーストリアのステークプール ATADA の運営者です。10 月 20 日、X に次のように書きました。

SPOs – we did it! minMargin CIP23 will be fully included in the upcoming Dijkstra Hardfork to PV12 and not in PV13 many months away!

続けて、コア開発のチームが SPO の声に耳を傾けてくれたと感謝を述べています。CIP-23 の共著者で DRep の Cerkoryn(Ryan Wiley 氏)も同じ日に、CIP-23 は Dijkstra で「全面的に」実装されると投稿し、実装作業を担っているのは IOG の台帳チームだと書きました。

前倒しは、つい最近まで既定路線ではありませんでした。10 月 13 日、Cardano 財団の Nicolas Cerny 氏は、ATADA の運営者がハードフォーク作業部会で minPoolMargin を次のハードフォークの範囲に加える提案をしたと紹介し、「現時点では範囲外」だが加えるのは理にかなっている、と書いています。10 月初めに出た憲法改正案 CAP-12 の文案でも、最低プールマージンは Dijkstra の後のハードフォークで有効になる予定とされていました(10 月 5 日の記事)。1 週間ほどで、扱いが「後回し」から「Dijkstra に同梱」へ変わったことになります。

台帳のコードで何が変わるのか

実装の中身は、IntersectMBO の cardano-ledger リポジトリで追えます。

まず 8 月 4 日に、minPoolMargin というパラメータそのものを Dijkstra 期の台帳に足す変更(PR #5949)がマージされました。ここまでは「箱を用意した」段階で、報酬の計算には使われていませんでした。

次の段階を扱うのが、10 月 17 日に作られた PR #6197「Use CIP-23 effective cost and margin in rewards calculations」です。10 月 19 日に積まれたコミットを読むと、報酬を計算するときに次の 2 つの値を使うように変わります。

  • 実効の固定費 = プールが登録した固定費と minPoolCost の大きい方
  • 実効のマージン = プールが登録したマージンと minPoolMargin の大きい方

この切り替えは、プロトコルのメジャーバージョンが 12 以上のときにだけ働くよう書かれています。台帳のコードでは Dijkstra 期のプロトコルバージョンは 12 と定義されているので、Dijkstra への移行と同時に効き始める設計です。ATADA の運営者の言う「PV12」は、この点を指しています。

もう一つの変更は、Dijkstra で「固定費が minPoolCost を下回る」という理由でのプール登録の拒否をやめることです。台帳チームの Alexey Kuleshevich 氏(lehins)は 7 月に立てた課題 #5954 で、CIP-23 の仕様からの小さな逸脱として、下限を下回るマージンを申告したプールの登録・更新を失敗させず、報酬計算の時点で大きい方の値を使うと説明し、固定費にも同じ考え方を Dijkstra から当てはめるとしていました。CIP-23 の本文は、登録証明書がマージンの下限を満たすことを求めています。台帳の実装は、証明書をはねる代わりに計算の側で下限を当てる形を選んだわけです。既存のプールが証明書を出し直さなくても済む点で、CIP 自身が後方互換のために挙げていた方法に近い作りです。

ただし、PR #6197 は 10 月 21 日時点で下書き(draft)のままで、レビューも済んでいません。SPO たちが伝えた「全面採用」は台帳チームの方針として受け止めてよいものの、コードが本線に入るのはこれからです。

値が 0 のうちは、誰の報酬も変わりません

CIP-23 は、minPoolMargin をまず 0 で導入するよう勧めています。既存のプール証明書を乱さないためで、目標の値へは通常のパラメータ変更のガバナンスアクションで引き上げる、という段取りです。CIP は具体的な値を定めていません。

つまり Dijkstra で入るのは「比率の床を立てられる状態」で、床の高さはその後のガバナンスで決まります。0 のままなら、プールの取り分も委任者の受け取りも今と同じです。

この値の議論は、固定費の床と切り離せません。minPoolCost を 170 ADA から 75 ADA に下げる提案は、DRep の賛成 44.18% で 10 月中旬に失効しました(既報)。CIP-23 の本文は minPoolCost を変えないと明記していますが、CAP-12 の議論では、最低マージンの設定に合わせて minPoolCost を 0 にする変更が想定されているとして、minPoolCost は運営の経済的なコストに沿って決めるべきだとする憲法の既存規定(MPC-03)とぶつかるのではないか、という指摘が出ています。固定費を下げ、比率で取る方向へ動くなら、憲法の条文と 2 つのパラメータの値を同時に動かすことになります。

CAP-12 の文案には、10 月初めの時点で最低プールマージンの定義とガードレール(変更してよい範囲)が書かれていませんでした。SIPO も 10 月 3 日、3 つのステークプールを運営する DRep として、最低プールマージンに上下限を設けるか、有効になるハードフォークに合わせて載せる案をコメントしています(CAP 参加トラッカー)。有効になるのが Dijkstra に早まった以上、このパラメータを Dijkstra の憲法改正にどう書き込むかが、次の具体的な論点になります。

次に確かめる場所

確認先は 3 つあります。

  • cardano-ledger の PR #6197 が下書きを外れ、レビューを経てマージされるか。ここで実装が本線に入ります
  • CAP ポータルの CAP-12 のページに、最低プールマージンの定義とガードレールを加えた改訂版が出るか。Dijkstra のハードフォークの前に、憲法改正の投票が先に来ます
  • Dijkstra の後、minPoolMargin を 0 から動かすパラメータ変更アクションが、いつ・どの値で出てくるか。このとき minPoolCost の値も一緒に議論されるはずです

委任者にとっては、今すぐ何かを変える必要はありません。ただ、固定費が大きな比重を占めている小さなプールほど、床の付け替えで委任者の手取りが変わる余地が大きくなります。委任先の固定費とマージンを、今のうちに一度見ておくとよい時期です。

ことば

  • minPoolMargin(最低プールマージン) — プールが報酬から取る可変手数料の割合の下限。Dijkstra では 0 で入り、値はガバナンスで決まります。台帳の実装では、下回るマージンを申告したプールも報酬計算ではこの値が使われます。
  • プロトコルバージョン 12 — 台帳が Dijkstra 期に割り当てた版番号。今回の報酬計算の変更は、このバージョンに上がった時点で働くよう書かれており、「PV13 ではなく PV12」は同じハードフォークでの有効化を意味します。
  • minPoolCost — プールが毎エポック報酬から先に取る固定費の下限で、現在は 170 ADA。ブロック数の少ない小さなプールほど委任者の負担が重くなるため、引き下げと最低マージンへの置き換えが議論されています。

一次ソース / 関連リンク

cardano-ledger 課題 #5954「CIP-23 Fair Min Fees」(GitHub)

CAP-12「Dijkstra era parameters」(CAP ポータル)(cap.intersectmbo.org)

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