セキュリティ、分散性、スケーラビリティ。ブロックチェーンが長く抱えてきたこの 3 つの両立という難題を、カルダノは研究に基づく設計で解いてきました。2017 年 9 月の誕生から 9 年、チェーンを一度も止めることなく進化を重ね、2026 年 7 月には、大型アップグレードを特定の会社ではなく、チェーン上の投票だけで決めるところまで来ました。
このシリーズでは、カルダノがどんな思想で設計され、どんな技術で動き、通貨としての ADA にどんな性質があるのかを、全 12 回で順に解説します。第 1 回は、その全体の地図です。トリレンマとはどんな難題なのか、カルダノはそれをどう解いたのか、そしてなぜカルダノが「第 3 世代」と呼ばれるのかを、図を交えて見ていきます。
ビットコインとイーサリアムが開いた扉
ブロックチェーンの歴史は、2009 年に動き出したビットコインから始まります。銀行のような管理者がいなくても、世界中の参加者が同じ台帳を持ち合うことで、お金を直接送り合える。これが第 1 世代の発明でした。
2015 年に登場したイーサリアムは、その台帳の上で「プログラム」を動かせるようにしました。条件がそろえば自動で約束ごとが実行される仕組みはスマートコントラクトと呼ばれ、ここから分散型の金融(DeFi)や NFT など、ブロックチェーンの使い道が一気に広がります。これが第 2 世代です。
では、第 3 世代は何をしようとしているのか。カルダノの公式ドキュメントは、カルダノを「第 3 世代のプルーフ・オブ・ステーク型ブロックチェーン基盤」と説明しています。前の 2 つの世代が切り開いた可能性を、何十年も使い続けられる社会の土台に育てること。そのために、広がる力・ほかとつながる力・続いていく力を、後から付け足すのではなく最初から設計に組み込むこと。これがカルダノの言う第 3 世代の意味です。

ひとつ大事な点があります。ここで言う「第 3」は、時価総額の順位のことではありません。設計の考え方がどの段階にあるかという「世代」の話です。カルダノが前の世代を何で超えようとしているのかは、次の「トリレンマ」を知るとよく分かります。
3 つを同時に満たす難しさ、トリレンマ
ブロックチェーンには、昔から知られた難題があります。イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏が「トリレンマ」と呼んだもので、次の 3 つを同時に満たすのは難しい、というものです。
- セキュリティ:参加者の多くが悪意を持って攻撃しても、台帳が壊れないこと
- 分散性:少数の大きな組織に頼らず、普通のパソコンを持つ人でも参加できること
- スケーラビリティ:一台のパソコンでは処理しきれないほど、たくさんの取引をさばけること
たとえば、ビットコインはセキュリティと分散性を大切にする一方で、処理できる取引の量には限りがあります。反対に、処理を速くするためにブロックを作る役を少数に絞ったチェーンは、たくさんの取引をさばけても、その少数を信頼しなければなりません。どれか 1 つを伸ばそうとすると、ほかのどれかが削られてしまう。これがトリレンマです。
ブテリン氏自身も、これは「不可能」ではなく「簡単なやり方では 3 つのうち 2 つしか取れない」という意味だと説明しています。簡単なやり方を選べば、3 つのうちどれかを譲ることになる。カルダノは、どれも譲らない道を選び、簡単ではないやり方でこの難題を解いてきました。

カルダノの解き方、研究から設計する
カルダノのいちばんの特徴は、作り方そのものにあります。新しい仕組みを入れるときは、まず研究者が論文を書き、ほかの研究者の審査(査読)を受け、数学的に正しさを確かめてから実装する。プログラムは、間違いを見つけやすい関数型言語の Haskell で書かれ、仕様と実装が一致しているかを確かめる手法も取り入れられています。
トリレンマの 3 つの角にも、この作り方で一つずつ答えを出してきました。どれか 1 つを伸ばすためにほかを削るのではなく、3 つそれぞれに、研究で裏付けた別々の仕組みを用意する。これがカルダノの解き方です。
- セキュリティには、安全性が数学的に証明されたプルーフ・オブ・ステークの仕組み「Ouroboros(ウロボロス)」で(第 3 回)
- 分散性には、ADA を手元に置いたまま誰でもブロック生成に参加できるステーキングで(第 4 回)
- スケーラビリティには、結果を事前に見通せる取引の形「EUTXO」と、処理量を大きく増やす次の仕組み「Leios」などで(第 5 回・第 7 回)
セキュリティと分散性を保ったまま処理量を大きく増やす Leios は、この解き方の仕上げにあたる一手です。設計は研究論文と仕様(CIP-164)としてすでに公開され、2026 年後半の導入を目指して最後の段階に入っています。
もう一つの特徴は、「進化し続けること」を前提にしている点です。カルダノは 2017 年の誕生から、ステーキングの開始、スマートコントラクトの導入、オンチェーンのガバナンスの開始と、大きな節目を何度も越えてきました。そのたびに、チェーンを止めずに新しい仕組みへ切り替えています。
止まらない強さは、想定外の出来事のときにも表れました。2025 年 11 月 21 日、不正な形の取引をきっかけに、ネットワークが一時的に 2 つの枝に分かれる事案が起きました。それでもブロックは両方の枝で作られ続け、ネットワークが止まることはありませんでした。修正版のノードが行き渡るにつれて、Ouroboros のルールどおり正しい枝が追い越し、約 14 時間で 1 本のチェーンに戻っています。誰かが止めて直すのではなく、仕組みそのものが回復させる。設計の確かさが、実際の危機で試された出来事でした。

カルダノを動かしている人たち
カルダノという名前は、16 世紀イタリアの数学者ジェロラモ・カルダーノに、通貨の ADA は、世界初のプログラマーとも呼ばれる 19 世紀イギリスの数学者エイダ・ラブレスにちなんでいます。数学と計算の先人の名前を借りたところにも、研究を土台にする姿勢が表れています。
カルダノは、2015 年にチャールズ・ホスキンソン氏とジェレミー・ウッド氏が始めた開発会社 Input Output によって作られ、2017 年 9 月に動き出しました。誕生のときから、役割の違う 3 つの組織が支えてきました。
- Input Output:研究と開発の中心。Ouroboros や Leios などの技術を設計・実装してきました
- カルダノ財団:スイスに本拠を置く非営利の財団。カルダノを社会の公共インフラとして広げる活動をしています
- EMURGO:シンガポールに本拠を置く、カルダノを企業や事業の現場で使えるようにする役割の組織です
その後、会員制の組織 Intersect が生まれ、開発や保守の調整を担うようになりました。そして今では、この 3 つの組織も、チェーンのルールを自分たちだけでは変えられません。誕生時に持っていた特別な鍵(ジェネシス鍵)はコミュニティに手渡され、ルールの変更は DRep・ステークプール・憲法委員会のうち少なくとも 2 者のオンチェーンの投票で決まります。ブロックを作るのは世界中のステークプール(11 月 1 日時点で登録されているのは 2,884)、意思決定に加わるのは DRep と、彼らに委任する ADA の保有者たちです。SIPO も、ステークプールの運営者として、また DRep として、その一員です。
今、何が動いているか
2026 年 7 月 18 日、カルダノは「van Rossem(ヴァン・ロッセム)」と名付けられたハードフォークを迎えました。スマートコントラクトの機能を広げるアップグレードで、提案から議論、承認までのすべてを、オンチェーンのガバナンスだけで進めた初めてのハードフォークです。承認には、ADA の保有者から委任を受けた DRep(委任代表者)のステークの 77.6%、ステークプールのステークの 52.7%、そして憲法委員会の過半数の賛成が集まりました。
次に控えるのが、処理量を大きく増やす「Leios(レイオス)」です。開発を担う Input Output は、段階的な導入で処理能力を 10〜65 倍に高めることを目指し、メインネットに入れられる版を 2026 年後半に仕上げる計画を示しています。ただし、実際に導入するかどうかと、その時期は、コミュニティの検証とオンチェーンの投票で決まります。誰か一社の判断ではなく、参加者の合意で進化の速度が決まる。ここにも、カルダノらしさが表れています。
なぜ、それが信頼につながるのか
私たちがふだんお金や契約を信頼できるのは、銀行や国、企業といった「誰か」が責任を持っているからです。けれども、その誰かが揺らいだとき、信頼の土台ごと揺らいでしまいます。
カルダノが目指しているのは、その信頼を「誰か」ではなく「確かめられる仕組み」に置き直すことです。論文と数学で正しさを確かめた設計、誰でも参加できる分散したネットワーク、そして進化の方向まで参加者が決めるガバナンス。トリレンマを解くことは、そのまま「信頼できる台帳」をつくることでもあります。このシリーズでは、カルダノがトリレンマをどう解いたのかを 1 つの角ずつ確かめながら、最後に「カルダノは信頼のチェーンである」という結論にたどり着く予定です。
このシリーズの読み方
次回からは、トリレンマの 3 つの角を一つずつ掘り下げていきます。第 2 回は、カルダノの「研究から始める開発」と、チェーンを止めずに進化する仕組みについてです。カルダノ編と並行して、カルダノとつながる次の世代のチェーン「ミッドナイト」の特集も、1 週ごとに交互にお届けします。
カルダノ編の全体の目次は「カルダノを知る、SIPO ラーニング特集」にまとめています。
次の一歩
- ADA を手元に置いたまま報酬を受け取る仕組みを知る:ステーキングとは
- 実際にプールと DRep を選んでみる:委任マニュアル 2026 年版
- カルダノの意思決定に参加する:DRep への委任とは
- ADA の買い方:マニュアルを準備中です
もっと知りたい人へ
トリレンマの 3 つの性質を、もう少し詳しく
ブテリン氏は 2021 年 4 月のブログ記事「Why sharding is great」で、3 つの性質を次のように定義しています。スケーラビリティは「一般的なノートパソコン 1 台で検証できる量より多くの取引を処理できること」、分散性は「少数の大きな組織に頼らず、ノートパソコンだけで参加できること」、セキュリティは「参加者のかなりの割合が攻撃に回っても耐えられること」です。
同じ記事では、簡単なやり方で作ったチェーンを 3 つの型に分けています。ビットコインのような従来型は分散性とセキュリティを持つがスケーラビリティを欠く。少数のノードで高速に処理する型はスケーラブルでセキュアだが分散していない。たくさんのチェーンを並べる型は分散していてスケーラブルだが、1 つのチェーンが乗っ取られると影響が広がりうる。イーサリアムはこの記事で、3 つを同時に得る方法としてシャーディングを挙げていました。どのチェーンも同じ難題に別々の道筋で答えている、という見方がここから分かります。
カルダノを始めた人たちは、前の世代の何を課題と見たのか
カルダノの創設者チャールズ・ホスキンソン氏は、2017 年のエッセイ「Why Cardano」で、カルダノを作る理由を書いています。ビットコインは仲介者をなくした代わりに、商取引に必要な身元や取引の付帯情報を手放してしまった。イーサリアムは何でも動かせる「世界のコンピュータ」を目指した分、複雑さを抱え込んだ。そこでカルダノは、お金の記録(会計)と計算を層として分けること、暗号の研究成果を取り入れること、将来のアップグレードを最初から想定すること、社会的な合意を効率よく作る仕組みを持つこと、そして規制との接点を考えることを課題に挙げました。
エッセイの章立ても、科学と工学、相互運用性、規制、持続可能性と続きます。2017 年に挙げたこれらの課題が、その後の 9 年でどう形になったのかは、第 2 回以降で一つずつ見ていきます。
出典
- Cardano Docs「Introduction」 https://docs.cardano.org/about-cardano/introduction(第 3 世代のプルーフ・オブ・ステーク型ブロックチェーン基盤という説明、Haskell と形式的な検証)
- Cardano Roadmap「Byron」 https://roadmap.cardano.org/en/byron/(2017 年 9 月の最初の版)
- Vitalik Buterin「Why sharding is great: demystifying the technical properties」2021 年 4 月 7 日 https://vitalik.eth.limo/general/2021/04/07/sharding.html
- Charles Hoskinson「Why Cardano」2017 年 https://why.cardano.org/
- Intersect「Cardano mainnet incident: facts at a glance」 https://intersectmbo.org/news/cardano-mainnet-incident-facts-at-a-glance と「Incident report: network partition analysis and resolution strategy」2025 年 11 月 21 日 https://intersectmbo.org/news/incident-report-network-partition-analysis-and-resolution-strategy(ネットワークは止まらず、両方の枝でブロック生成が続いた・Ouroboros のルールで正しい枝が追い越す)
- カルダノ財団「November 2025 Incident: Cardano Shows Its Resilience」 https://cardanofoundation.org/blog/november-2025-cardano-shows-resilience(約 14 時間で 1 本に戻った)
- cardano.org 用語集「van Rossem」 https://cardano.org/ja/glossary/van-rossem/(2026 年 7 月 18 日・エポック 644・プロトコルバージョン 11・承認の割合)
- Input Output「Cardano is ready to grow. Leios is how it gets there.」2026 年 5 月 14 日 https://cardano.org/news/2026-05-14-cardano-is-ready-to-grow/(処理能力 10〜65 倍・2026 年後半の目標)
- Intersect Knowledge Base「Governance Overview」 https://docs.intersectmbo.org/intersect-knowledge-base/archive/cardano-governance-archive/overview(創設の 3 組織がジェネシス鍵を手放したこと、ガバナンスアクションは 3 者のうち少なくとも 2 者の投票で承認されること)
- Intersect「Decentralizing Cardano development with Intersect」 https://intersectmbo.org/news/decentralizing-cardano-development-with-intersect(会員制の組織としての役割)
- Koios API「pool_list」(登録中のステークプール 2,884・2026 年 11 月 1 日・エポック 665 に取得)
- CIP-164「Ouroboros Linear Leios – Greater transaction throughput」 https://cips.cardano.org/cip/CIP-164(Praos の安全性を保ったまま処理量を増やす仕様)/ Input Output「Ouroboros Leios: Design Goals and Concepts」 https://www.iog.io/papers/ouroboros-leios-design-goals-and-concepts
- Input Output Engineering「Ouroboros Leios」 https://cardano-engineering.iog.io/solutions/leios(メインネット導入はコミュニティの検証とオンチェーンのガバナンスで決まる)
この記事の版
v1.0(2026 年 11 月 1 日) 初版。この記事は、カルダノの変化に合わせて同じページのまま更新していきます。