Cardano の公式 X は日本時間 11 月 1 日、毎週の CIP (Cardano の改善提案) のまとめで、規制に対応したステーブルコインの共通規格を求める CPS の草案を新しい提案として紹介しました。CIP-0113 のトークンは、発行体ごとに違う下位規格 (サブスタンダード) を使うため、ウォレットや取引所が銘柄ごとに個別の対応を迫られており、ステーブルコインだけでも 1 つの下位規格にそろえれば対応が一度で済む、という問題提起です。
草案は GitHub の CIPs リポジトリに 9 月 10 日に提出された PR #1266 で、10 月 28 日にも更新されています。CPS は解決策ではなく「何が問題か」を定める文書なので、ここで決まるのは要件の一覧と未解決の問いまでです。CIP-0113 の何が面倒で、共通規格に何を入れようとしているのかを順に見ていきます。
銘柄ごとに取引の組み立て方が違う
CIP-0113 は Cardano にプログラム可能なトークンを持ち込む枠組みです。登録簿と、すべてのトークンを預かる共通のアドレス、中核のバリデーター (検証スクリプト) は共通にして、送金の可否を決めるルールだけを発行体ごとの下位規格に任せています。
草案が問題にしているのは、この自由度の代償です。CIP-0113 のトークンを送る取引には、下位規格ごとに違う参照入力と引数を載せる必要があります。Cardano 財団の freeze-and-seize (凍結・差し押さえ) 型なら送り手が拒否リストに載っていないことの証明、許可リスト型なら載っていることの証明、FluidTokens の BaFin 向けの型なら利用者リストと全体の一時停止、KYC 型なら外部サービスの証明書が要ります。どれもトークンを見ただけでは分からず、下位規格のコードを読んで取引の組み立て部分を書くしかありません。
草案はこれを eUTxO モデルの性質として説明しています。Ethereum の USDC にも拒否リストや一時停止がありますが、コントラクトが自分の記憶領域を確かめるので、ウォレットから見れば普通の送金です。Cardano のバリデーターは取引に載っているものしか見られないため、規制対応の状態をウォレットの側が取引に載せて運ぶことになります。発行体は登録簿の参照先を差し替えられるので、今日動く対応が更新のあとで壊れることもある、とも書いています。
要件の一覧は MiCA が下敷き
共通規格が現実的だという根拠として、草案は規制の要件が国をまたいでほぼ同じであることを挙げています。EU の MiCA (暗号資産市場規則) や米国の GENIUS 法のもとで、発行体には供給量の管理、法に基づく凍結と差し押さえ、制裁対象の排除、償還への対応が求められます。違いの多くは拒否リストか許可リストか、誰がどの鍵を持つかといった設定の差にとどまる、という見立てです。
草案は 12 項目の要件を表にまとめ、発行体に「抜けている規制はないか」を確かめてほしいと呼びかけています。目を引くのは次の 3 つです。
- 凍結されていない保有者は、送金が一時停止されている間も償還できること。BaFin 向けの型は一時停止が償還まで止めてしまう、と指摘しています
- 凍結と差し押さえには、個人情報を含まない標準の理由コードを付けること。ウォレットが「なぜ凍結されたか」を表示できるようにするためです
- 拒否リスト型を基本に、許可リスト型も同じ取引の形で選べること
既存の 3 つの下位規格はそれぞれ一部を満たしていますが、ステーブルコインの規格として全部を満たすものはない、というのが草案の整理です。アルゴリズム型のステーブルコインや、準備資産の管理・監査のようなチェーンの外の義務は対象外としています。
解決策の前に残る 8 つの問い
草案は未解決の問いを 8 つ挙げています。このうち DeFi に直接かかわるのは次の 2 つです。1 つは、DEX のプールや貸し出しプロトコルのようにスクリプトが持っているトークンを、発行体が凍結・差し押さえできるようにするのか。もう 1 つは、拒否リストの証明と追加の引き出しを毎回の送金に載せる費用が、決済用のトークンとして見合うのか、という点です。
拒否リストに並ぶステーク資格情報が個人情報にあたるのではないか、チェーンの履歴は消せないがそれでよいのか、という問いも入っています。今回のまとめが「2 つの問題提起を追っている」と書いているとおり、下位規格の設定を機械で読める形にする別の CPS 草案も並行して出ており、こちらとは補い合う関係だと草案自身が書いています。
確認できる次の一点は、PR #1266 のコメント欄です。発行体と取引所・ウォレットの側が、12 項目の要件と 8 つの問いにどう答えるか。そこで要件が固まれば、次は解決策としての CIP が出てくる順番になります。毎週日曜の Cardano 公式の CIP まとめでも、進み具合が追えます。
ことば
- CPS — Cardano Problem Statement の略で、CIP の前段にあたる「問題の定義」の文書です。解決策を決める前に、要件と未解決の問いを発行体や開発者から集めるために出されます。
- CIP-0113 — Cardano にプログラム可能なトークンを持ち込む規格です。共通の部分と発行体ごとの下位規格に分かれており、その分かれ方が今回の個別対応の問題を生んでいます。
- 下位規格 (サブスタンダード) — CIP-0113 のトークンが送金の可否を決めるルールの部品です。拒否リスト型・許可リスト型などがあり、取引に載せる証明の中身が型ごとに違います。
一次ソース / 関連リンク
GitHub
- Cardano 公式 X の今週の CIP まとめ (新しい提案)
https://x.com/Cardano/status/2116727932001349995
