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ミッドナイト、見せずに証明するチェーン

2026-11-01SIPO #Midnight

ブロックチェーンは、すべてを公開することで信頼をつくってきました。ただ、その透明さは、企業の取引や個人の情報を載せられないという壁にもなっています。2026 年 3 月に本番のネットワークが動き出したミッドナイトは、中身を見せずに正しさだけを証明する技術で、この壁を越えようとしているチェーンです。

このシリーズでは、ミッドナイトが何を解こうとしているのか、どんな技術で動くのか、NIGHT と DUST という 2 つの仕組みがどう働くのかを、全 7 回で解説します。カルダノ編を読んでいなくても読めるように書いています。第 1 回は、その全体の地図です。

「すべて見える」ことの強さと限界

ビットコインやカルダノの台帳は、誰でも中身を確かめられます。どのアドレスにいくらあり、いつ誰に送ったのか。その記録を世界中の参加者が同じように持っているから、特定の誰かを信じなくても、記録が書き換えられていないことを確かめられます。公開されていることが、信頼の土台になっているわけです。

ところが、この透明さは、使い道の壁にもなります。会社が取引先との契約や給与の支払いを公開の台帳に載せれば、金額も相手も競合から見えてしまいます。個人でも、一度アドレスと自分が結び付けば、それまでの取引がすべてたどれます。医療の記録や本人確認の情報のように、そもそも公開してはいけないデータもあります。現実の経済の多くは、公開の台帳にはそのまま載せられないのです。

反対の極には、送り手も受け手も金額もすべて隠す「プライバシーコイン」があります。こちらは、隠せる代わりに、不正な資金の流れに使われる心配を規制当局に抱かせました。日本でも 2018 年に、国内の交換業者が匿名性の高い通貨の取扱いをやめています。

すべて見せるか、すべて隠すか。ミッドナイトは、そのどちらでもない 3 つ目の道を選びました。見せる中身と、見せる相手を、自分で選べるという道です。

3 つの台帳の違い。公開の台帳(ビットコイン・カルダノなど)は、すべてが誰にでも見える。プライバシーコインは、すべてを隠す。ミッドナイトは、正しさは誰でも確かめられ、中身は見せる相手を選べる。
図 1 すべて見せる、すべて隠す、選んで見せる。ミッドナイトは 3 つ目の道を取ります

中身を見せずに、正しさだけを示す

この「選んで見せる」を支えているのが、ゼロ知識証明という暗号の技術です。名前は難しそうですが、考え方は身近です。

たとえば、お酒を買うときの年齢確認。本来お店が知りたいのは「20 歳以上かどうか」だけなのに、免許証を見せると、生年月日も住所も名前も一緒に伝わってしまいます。ゼロ知識証明を使うと、「20 歳以上である」という事実だけを、生年月日を見せずに証明できます。お店は証明が正しいことを数学的に確かめられ、それ以上のことは何も知りません。

ミッドナイトの公式ドキュメントは、この技術でできることを「機密のデータを明かさずに正しさを確かめる」「記録を秘密にしたまま、規制を守っていることを証明する」と説明しています。さらに、利用者が選んだ情報だけを共有する「選択的開示」も掲げています。普段は中身を守り、監査や法的な確認が必要なときには、必要な相手にだけ見せることができる。隠すための仕組みではなく、見せ方を選ぶための仕組みです。

公式も、守る対象は「データ」であって、不正のための盾ではないという立場をはっきり示しています。ここが、すべてを隠すプライバシーコインとの大きな違いです。

開発者は、ミッドナイト専用の言語「Compact」でアプリを書きます。Compact で書いたプログラムは、台帳とのやり取りが正しいことを証明するための回路に変換されます。ゼロ知識証明の詳しい仕組みは第 3 回、Compact でつくれるものは第 6 回で扱います。

NIGHT と DUST、2 つに分けた設計

ミッドナイトには、性質の違う 2 つのものがあります。トークンの NIGHT と、資源の DUST です。

NIGHT は、ミッドナイトのネイティブトークンで、ネットワークの運営に参加するためのガバナンストークンでもあります。総供給量は 240 億枚。そして大事なのは、NIGHT 自体は秘匿されない、公開・透明なトークンだということです。誰がどれだけ持ち、どこへ送ったのかは、ふつうのトークンと同じように見えます。公式サイトも、活動を隠すためだけに作られたプライバシーコインとは違う、と明記しています。

DUST は、取引の手数料を払い、スマートコントラクトを動かすための資源です。こちらは秘匿されます。DUST は買うものではなく、NIGHT を持っていると生まれてきます。持っている NIGHT の量に応じた上限まで少しずつ貯まり、その NIGHT を手放すと減っていきます。そして、DUST は人に送ることができません。

NIGHT を発電所、DUST をそこで生まれる電気にたとえると分かりやすいかもしれません(公式ドキュメントも DUST を「電気」と呼んでいます)。電気は使えばなくなりますが、発電所そのものは減りません。同じように、ミッドナイトを使って手数料を払っても、持っている NIGHT は減りません。公式も、ネットワークを使うことでガバナンスの権利や長期の持ち分が減ることはない、と説明しています。

2 つに分けたことには、もう一つ意味があります。手数料の支払いは秘匿されても、DUST は人に渡せないので、隠れたお金として出回ることはありません。データを守る力と、規制と付き合える透明さを、1 つのトークンに無理に詰め込まず、役割ごとに分けたわけです。NIGHT は第 4 回、DUST は第 5 回で詳しく見ていきます。

NIGHT と DUST の関係。NIGHT はネイティブトークンでガバナンストークン、公開・透明で秘匿されない、総供給量 240 億枚。NIGHT を持っていると DUST が生まれる。DUST は手数料とスマートコントラクトの実行に使う資源で、秘匿され、人に送れず、NIGHT を手放すと減る。使っても NIGHT は減らない。
図 2 NIGHT は持つもの、DUST は使うもの。手数料を払っても NIGHT は減りません

カルダノとの関係、そしてほかのチェーンへ

ミッドナイトは、それ自体が独立したブロックチェーン(レイヤー 1)で、公式は「カルダノのパートナーチェーン」と位置付けています。カルダノの上に乗る仕組みではなく、カルダノのパートナーチェーン技術を使って作られた、隣り合う別のチェーンです。カルダノの研究開発を担ってきた Input Output と同じ研究・開発の流れから生まれました。

2 つのチェーンは、すでに具体的につながっています。NIGHT は 2025 年 12 月、まずカルダノ上のトークンとして配布が始まりました。カルダノ上の NIGHT を持っている人も、カルダノ側で登録をすれば、ミッドナイトで使う DUST を生み出せます。

ブロックを作る人の面でもつながっていきます。今のミッドナイトのブロックは、立ち上げのために選ばれたノード運営者が作っています。公式ドキュメントは、カルダノのステークプール運営者(SPO)が後の段階で加わると説明していて、ミッドナイトのブロック生成者になれるのはカルダノの SPO で、委任されている ADA の量に応じて選ばれる設計です。SIPO もこの段階が始まれば参加するつもりです。

カルダノの創設者チャールズ・ホスキンソン氏は、ミッドナイトの本番開始にあたって、ブロックチェーンの歩みをこう整理しました。サトシ(ビットコイン)は良いお金を、イーサリアムはプログラムできることを、カルダノは相互運用・規模・良い統治という第 3 世代をもたらした。そして、「ミッドナイトは、私たちの身元とプライバシーを取り戻す」。ミッドナイト自身も、本番開始の発表で自らを「第 4 世代のブロックチェーン」と呼んでいます。カルダノ編で見る第 3 世代の土台と並んで、データを守る次の世代が立つ、という関係です。両者のつながりは、橋渡しの回で詳しく扱います。

ただし、ミッドナイトがつながる相手は、カルダノだけではありません。最初の配布 Glacier Drop は、ビットコインやイーサリアムなど、ほかのチェーンの保有者にも開かれていました。2026 年 10 月には、ミッドナイトとほかの公開チェーンを「マルチパーティ計算(MPC)」の仕組みでつなぐ Nightmode が紹介され、Sig Network がミッドナイト財団と組んで、イーサリアムのアプリにデータ保護を持ち込むと発表しました。12 月には TRON への展開も予定されています。ほかのチェーンを使う人やアプリが、そのチェーンを離れずにミッドナイトのデータ保護を使えるようになる。カルダノとの深いつながりを土台に、ミッドナイトは、いくつものチェーンにまたがるデータ保護の層になろうとしています。

ブロックチェーンの世代。第 1 世代ビットコインは良いお金、第 2 世代イーサリアムはプログラムできること、第 3 世代カルダノは相互運用・規模・良い統治、第 4 世代ミッドナイトは身元とプライバシーを取り戻す。カルダノとミッドナイトはパートナーチェーンとしてつながる。
図 3 ホスキンソン氏の整理によるブロックチェーンの世代。ミッドナイトはカルダノのパートナーチェーンです

今、何が動いているか

  • 2025 年 8〜10 月:NIGHT の最初の配布「Glacier Drop」。カルダノだけでなく、ビットコインやイーサリアムなど他のチェーンの保有者にも開かれました
  • 2025 年 12 月:カルダノ上で NIGHT の受け取り(償還)が始まりました。割当は 4 回に分けて解凍され、最後の解凍は 2026 年 12 月 4 日までに終わります
  • 2026 年 3 月:3 月 17 日に最初のブロックが作られ、3 月末に本番ネットワークの稼働が発表されました。立ち上げのノード運営者には、Google Cloud、MoneyGram、eToro、Vodafone の Pairpoint、Blockdaemon などが名を連ねています
  • 2026 年 8 月:国内の暗号資産交換業者 S.BLOX が NIGHT の取扱いを始めました(SIPO の記事)
  • 2026 年 9 月:誰でも本番ネットワークにスマートコントラクトを置けるようになりました
  • 2026 年 10 月:2027 年初めまでの技術ロードマップが公開されました。ほかのチェーンとつなぐ Nightmode と、イーサリアムのアプリへの展開(Sig Network)も発表されています

一方で、カルダノの SPO がブロック生成に加わる時期は、2026 年 11 月 1 日の時点で公式に発表されていません。ミッドナイトは、選ばれた運営者で安全に立ち上げ、段階的に分散した運営へ移っていく途中にあります。

なぜ、それが信頼につながるのか

カルダノが積み上げてきた信頼は、「誰でも確かめられる」ことから生まれていました。ミッドナイトは、その信頼を一歩先へ進めます。誰でも正しさを確かめられる。けれど、中身は自分が選んだ相手にしか見せない。確かめられることと、守られることを、同時に成り立たせるのです。

私たちのデータは、すでに多くの場所で集められ、使われています。AI が膨大な情報を読み取る時代には、データを誰に、どこまで見せるかを自分で決められること自体が、価値の土台になります。そして世界の秩序が揺らぎ、金融の仕組みが組み直されていくほど、特定の会社や国に預けなくても、正しさを確かめ合えて、なおかつ守られる仕組みが求められていきます。カルダノが築いた「確かめられる信頼」と、ミッドナイトがもたらす「守られる信頼」。2 つがそろったとき、ブロックチェーンは、現実の経済や暮らしを本当に載せられる基盤になっていきます。

このシリーズの読み方

次回は、「なぜデータを守る仕組みが必要か」です。公開の台帳だけでは足りない場面を具体的に見ながら、規制と両立するデータ保護の考え方を掘り下げます。ミッドナイト編と並行して、カルダノ編も 1 週ごとに交互にお届けしています。カルダノ編の第 1 回は「カルダノとは、トリレンマを設計で解いたチェーン」です。

ミッドナイト編の全体の目次は「ミッドナイトを知る、SIPO ラーニング特集」にまとめています。

次の一歩

もっと知りたい人へ

ブロックを作る人は、どう移り変わっていくのか

公式ドキュメントによると、今のミッドナイトでブロックを作っているのは、許可を受けたノード運営者(Federated Node Operators)です。ネットワークの設定には、許可を受けた運営者と、登録した SPO のどちらにブロックを作らせるかの割合を決める値があり、これを少しずつ動かして、運営を分散させていく設計になっています。

2026 年 5 月のトークノミクス白書(v1.81)は、ミッドナイトのブロック生成者になれるのはカルダノの SPO で、カルダノ上の登録用コントラクトに登録すること、選ばれる確率は委任されている ADA の量に比例すること、そのために ADA を動かす必要はなく、カルダノ側の報酬にも影響しないことを説明しています。ミッドナイトのロードマップは、トークンの立ち上げ(Hilo)、選ばれた運営者による本番ネットワーク(Kūkolu)、SPO が加わり参加を広げる段階(Mōhalu)、分散した運営とほかのチェーンとの連携(Hua)という、ハワイの月の満ち欠けにちなむ 4 つの段階で描かれています。本番ネットワークの開始は 2 つ目の段階の節目で、SPO が加わる段階は 2026 年 11 月 1 日の時点でまだ始まっていません。公式は、各段階の時期を見込みとしています。

DUST はどう生まれ、どう減るのか

公式ドキュメントでは、NIGHT の 1 つひとつのまとまり(UTXO)に、DUST のまとまりが対応しています。NIGHT が手元にある間、DUST は NIGHT の量に比例した上限まで時間とともに増え、その NIGHT が使われると、DUST は 0 に向かって減っていきます。DUST を使うと DUST のまとまりが新しくなるだけで、NIGHT は入力に入りません。DUST は利用者の間で移せず、使い道はネットワークの手数料に限られます。

カルダノ上の NIGHT から DUST を生み出すには、カルダノの報酬用アドレスと DUST の公開鍵をカルダノ側で登録します。登録がカルダノで確定し、ミッドナイトのノードに届くまでは約 12 時間かかります。手順は、NIGHT の入手方法のマニュアルで扱う予定です。

出典

この記事の版

v1.0(2026 年 11 月 1 日) 初版。この記事は、ミッドナイトの変化に合わせて同じページのまま更新していきます。

タグ: #Midnight
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