シリーズ連載『進化するカルダノ・ベーシック』[#6]ブロックチェーン合意形成メカニズムとカルダノのPoSメカニズムとは?(その2)カルダノのプルーフ・オブ・ステークとその優位性そして未来の脅威的合意形成メカニズム
シリーズ連載『進化するカルダノ・ベーシック』は、カルダノについて初心者や、既に知っているが日々進化し続けるカルダノの現在進行形について知りたい方向けに、様々な視点と角度から、カルダノの基礎知識とその未来について、最新アップデート情報を交えてお伝えする企画(不定期)です。
前回は、第6回目の記事として『[#6]ブロックチェーン合意形成メカニズムとカルダノのPoSとは?(その1)分散性を維持する合意形成メカニズムとそのバリエーション』についてお届けしました。
今回はカルダノの合意形成メカニズムである『プルーフ・オブ・ステーク』とは何か?実際にどのような働きをし、どのような特性とメリットがあるのか?そしてさらにカルダノの未来の脅威的合意形成メカニズムについてもご紹介していきます。
カルダノのプルーフ・オブ・ステークとは?
まず、カルダノの合意形成メカニズムである『プルーフ・オブ・ステーク』について詳しく見ていきましょう。
前回お届けした通り、分散型システムであるブロックチェーンには、取引の「検証」と通貨の「発行(採掘)」の方法には、さまざまなコンセンサス・プロトコルのバリエーションが存在します。
このコンセンサスこそブロックチェーンの心臓部でもあり、その方法によってセキュリティの維持、スケーラビリティの確保、分散化を維持し、エネルギー効率などのバリエーションをもたらしています。
その中で最もよく知られているコンセンサス(合意形成)プロトコルは、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)とプルーフ・オブ・ステーク(PoS)の2つです。このほかにもデリゲート・プルーフ・オブ・ステーク(DPoS)、プルーフ・オブ・オーソリティー(PoA)、プルーフ・オブ・キャパシティ(PoC)、PoUW(Proof of useful work)などがあり、前回の記事で取り上げていますのでぜひご覧ください。
カルダノのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)の特徴やメリット
カルダノは、その合意形成メカニズムとしてOuroborosというプルーフ・オブ・ステーク(PoS)アルゴリズムを採用しています。Ouroborosは、ピアレビューによる厳格な学術的な設計と評価が行われており、PoSアルゴリズムの中でも最も安全性が高いと考えられています。
Ouroborosでは、新しいブロックを生成し、トランザクションを検証する「スロットリーダー」は、保有しているADAトークンの量に比例してランダムに選ばれます。これにより、全体のネットワークが分散化され、中央集権化を防ぐことができます。
さらなる進化版として、Ouroboros Praos, Ouroboros Genesisなどがあり、その中では各種の攻撃からネットワークを保護し、さらには動的な参加者の集合もサポートするなどの改良が行われています。
カルダノ(Cardano)のプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake、PoS)の特徴やメリットについては、以下のような点が挙げられます。
- 高いエネルギー効率:カルダノのプルーフ・オブ・ステークは、ビットコインのプルーフ・オブ・ワーク(PoW)と比べてエネルギー効率が非常に高いです。これは、PoSシステムが計算的に複雑なパズルを解くことで合意を得るのではなく、トークンを「ステーキングする」ことで合意を得るためです。これにより、大量の電力を消費することなくネットワークを維持することができます。 Ouroborosは、既存のブロックチェーンが直面している最大の課題である、コンセンサスを達成するためには、より多くのエネルギーが必要である問題を解決します。
- スケーラビリティ:カルダノは、ネットワークのスケーラビリティを向上させるために開発されました。カルダノのプロトコルは、トランザクションの処理速度を向上させることを目指しており、これは大規模なアプリケーションにとって重要な要素となります。
- セキュリティ:カルダノのPoSプロトコル、Ouroborosは、厳密な学術的研究に基づいて開発されており、高度なセキュリティを提供します。これにより、カルダノのネットワークは、ネットワークへの潜在的な攻撃から保護されます。
- 分散性:PoSシステムは、より多くの参加者がネットワークのセキュリティに貢献することを可能にします。これは、特定のマイニングプールやマイナーによる中央集権化を防ぐのに役立ちます。
- ステーキング報酬:カルダノをステーキングすることで、ユーザーは新たなブロック生成の過程に参加し、その報酬を得ることができます。これは、ユーザーがネットワークのセキュリティを強化する一方で、パッシブインカムを得る機会を提供します。
これらの特徴により、カルダノはエネルギー効率、スケーラビリティ、セキュリティ、分散性という4つの主要な要素において優れたパフォーマンスを発揮します。また、ユーザーはカルダノのステーキングを通じて、ネットワークの保守に積極的に参加しつつ報酬を得ることができます。
さらに、カルダノは次のような独自の特徴を持っています:
- スマートコントラクト: カルダノはスマートコントラクトの機能を備えており、これによりユーザーは自動化された契約を作成し、実行することができます。これは、金融サービス、供給チェーン、分散型アプリケーション(dApps)など、さまざまなアプリケーションに対応できるようにするためのものです。
- 相互運用性: カルダノは他のブロックチェーンネットワークとの相互運用性に焦点を当てています。これは、カルダノが他のブロックチェーンネットワークとの間で価値や情報を簡単にやりとりできるようにするためです。
- 持続可能なエコシステム: カルダノは持続可能なエコシステムの構築に取り組んでいます。その一環として、カルダノはトレジャリー(財務省)システムを導入しています。これは、ネットワーク参加者が投票によって新たな開発プロジェクトを資金提供することを可能にします。
これらの特性により、カルダノはブロックチェーン技術の未来を形成するための重要なプラットフォームとなっています。
カルダノのウロボロスは、プルーフ・オブ・ステークの先駆者
カルダノのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)は、Ouroborosと呼ばれ、学術的な研究やピアレビュー研究に基づく最初のブロックチェーン・プロトコルです。
カルダノはこの分野で先発者であり、イーサリアムのプルーフ・オブ・ステーク導入よりも、約4年早く立ち上げられました。2017年に導入されたOuroboros Classicは、エネルギー効率の高いプロトコルの基礎となり、すでに大きなマイルストーンを達成しています。
ちなみに、イーサリアムはプルーフ・オブ・ステークの優位性を認識し、2022年9月15日に行われたMerge(マージ)ハードフォークにより、プルーフ・オブ・ステーク・コンセンサスを導入しています。 これにより、公式にイーサリアムのプルーフ・オブ・ワークは廃止されました。この移行により、エネルギー消費量が最大99.95%削減されています。
カルダノがステークプールとデリゲーション(委任)を導入し、本格的なステーキングが始まったのは、ByronからShelleyへのアップグレードの時でした。その後カルダノは、日本時間の2020年7月30日木曜日の午前6時44分51秒にバイロンからShelleyにハードフォークし、プルーフ・オブ・ステークを”メインネット”で実現しています。
これによりADAホルダーのコミュニティメンバー全員が、「ステーク」を持つことができるようになり、2021年第1四半期には、ステークプール・オペレーター(SPO)コミュニティが新しいブロックを100%生産するようになりました。
2023年5月現在、3,000以上の運用中のステークプールがカルダノの分散化を維持、開発、貢献しています。現在ADAは127万個のウォレットアドレスからステークされており、ADAの全流通量の70%近くが委任されています。
カルダノは学術的な査読を受けた研究に基づいた、初のプルーフ・オブ・ステーク・プロトコル
カルダノのステークプールを説明する上で特徴的なものに、「カルダノは学術的な査読を受けた研究に基づいた、初のプルーフ・オブ・ステーク・プロトコルである」というものがあります。そのネットワークの中心となるウロボロス(Ouroboros)は、学術的な査読を受けた研究に基づいており、数学的に証明されたレベルの安全性を持つ、初のプルーフ・オブ・ステーク・プロトコルです。
カルダノのプルーフ・オブ・ステーク・コンセンサス・プロトコルであるウロボロスについて記述した論文は、Crypto 2017で受理されました。その後、この論文は1,300回以上引用されています。IOGはその後、140以上の研究論文を発表し、その多くが査読付きでした。
プルーフ・オブ・ステークとプルーフ・オブ・ワークの主な違い
カルダノのプルーフ・オブ・ステーク(PoS)を理解する上で、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)と比較することで、理解が深まります。
カルダノは第3世代のブロッチェーンとして知られていますが、最も初期のブロックチェーンである第1世代ブロックチェーンのビットコインや、最初のスマートコントラクト・プラットフォームである第2世代のイーサリアムは、プルーフ・オブ・ワークを基盤としていました。
その後スケーラビリティやエネルギー効率の問題を解決するべく登場したのが、第3世代のブロックチェーンで、その代表的なコンセンサスアルゴリズムとしてプルーフ・オブ・ステーク・プロトコルが登場しています。多くの人が早くからPoWの問題を認識しており、2011年にビットコインのフォーラムでプルーフ・オブ・ステークが提案されました。
プルーフ・オブ・ワーク(PoW)は、2009年にSatoshi NakamotoがBitcoinチェーンに適用した、最初のブロックチェーン・コンセンサス・アルゴリズムです。
プルーフ・オブ・ワークは、コンピュータ(マイナー)間の競争によって、適度に難しいパズルを解くことに依存しています。次にクイズの解答を見つけたマイナーは、ブロックチェーン上で新しいブロックを採掘することができ、その見返りとして報酬を受け取ります。
プルーフ・オブ・ステーク(PoS)はプルーフ・オブ・ワーク(POW)よりも新しく、エネルギー消費量が少ないため、より持続可能なコンセンサス・メカニズムとなっています。
例えば、ビットコインのシステムでは、暗号の報酬を得るためにブロックチェーン内のブロックを検証し、アルゴリズムのハッシュをマイニングして解くことで、電力を大量に使用する必要があります。
プルーフ・オブ・ステークは、コンセンサスを通じて、ブロックチェーン資産の保有者は、自分のステークをバリデーター(カルダノではステーク・プール・オペレーター:SPOと呼ぶことが多い)に委任することで、オンチェーン取引のセキュリティと検証に参加することができます。これによりバリデーター(SPO)も資産を保有する参加者も報酬を得ることができます。
わかりやすくいうと、銀行が取引時に手数料を取るイメージで、その手数料の一部がバリデーター(SPO)とネットワーク参加者(委任者)に支払われるという仕組みです。
以下はIOGブログ『ブロックチェーンの合意形成の仕組み6種類』によるPoWとPoSのそれぞれのメリットとデメリットによる比較です。
PoWのメリットとデメリット
メリット
- PoWチェーンを攻撃するには、ネットワークのコンピューティングパワーの51%をコントロールする必要があり、堅牢なセキュリティを誇ります。
デメリット
- クエリーを解決するためのエネルギー消費量が多いことが、PoWチェーンの大きなデメリットである(すべての採掘者がブロックを採掘するために活発に競争しているため)。
- 採掘者になるには高価で特殊なハードウェアが必要であり、分散化の妨げとなる。
- PoWは、ブロックサイズと作成時間が制限されるネットワーク設計のため、スケーラビリティに限界がある。
PoSのメリットとデメリット
メリット
- 検証者はノードを設置するために高価な専門機器を必要とせず、標準的なコンピュータで十分であるため、分散化が促進される。
- バリデータはリソースを大量に消費するパズルを解く必要がないため、PoSプロトコルは非常にエネルギー効率がよく、持続可能である。
デメリット
- 一部のPoSコンセンサスメカニズムでは、バリデータは少量の資産(プレッジ)をロックする必要があり、一定期間ロックが解除されることはない。注:これはCardanoには適用されない。
- ステークされた資産の額が大きいバリデータ、または複数のプールを持つバリデータは、取引の検証において大きな影響力を持ち、セキュリティリスクをもたらす可能性があります。
- 一部のチェーンでは、バリデータが不正確な取引を検証したり、他のバリデータと一緒にオフラインになったり、ネットワークを攻撃したりすると、委任者とバリデータがステークした資金の一部を失う(スラッシング)リスクがある。注:カルダノにはこのようなスラッシングはない。
- アクティブなバリデータの数が少ないPoSシステムや、中央でホストされているクラウドサービスに過度に依存しているシステム(ベアメタルやセルフホスティングのノードと比較して)は、分散化を抑制しています。
特に力を発揮するPoSの大幅なエネルギー削減とスケーラビリティ
ビットコインをはじめとするプルーフ・オブ・ワーク・プロトコルでは、エネルギー消費の99%がブロック生成の選択だけに使われています。カルダノでは、よりエネルギー効率の高いプルーフ・オブ・ステーク・プロトコルを採用しています。ビットコインの年間エネルギー使用量が115.85テラワットアワーであるのに対し、カルダノの年間エネルギー使用量はわずか6ギガワットアワーです。
- カルダノ:6ギガワット=平均的な発電所2基分
- ビットコイン:115,850ギガワット=国のエネルギー消費量ランキング31位、オランダを上回る。
このように、カルダノはOuroborosを使用することで、ビットコインの最大400万倍のエネルギー効率で、安全、持続可能、倫理的にスケールすることができます。
カルダノの未来の合意形成メカニズム
カルダノの未来には、合意形成メカニズムのアップグレードに加え、次世代の合意形成メカニズムへの拡張も控えています。ここで紹介するものはブロックチェーンの未来であり、現在のカルダノのPoSの上に更なる脅威的な進化をもたらします。
Ouroboros Genesis:より堅牢なセキュリティと相互運用性をもたらすダイナミックアベイラビリティを可能にする初のPoSブロックチェーンになる
まず次期アップグレードOuroboros Genesisは、ビットコインと同様のセキュリティ機能をもたらし、ダイナミックアベイラビリティを可能にする初のPoSブロックチェーンになる予定です。
既存のPoSベースのブロックチェーン・プロトコルは、ビットコインと同じように(生成ブロックの情報のみを使って)**『ダイナミックアベイラビリティ(動的可用性)』**の下で元帳機能を実現できないことが分かっています。この問題を解決するために、カルダノの開発会社であるIOGにより、新しいPoSベースプロトコル「Ouroboros Genesis」が提案されています。これによりビットコインレベルのセキュリティと堅牢さに匹敵するPoSブロックチェーンを実現することが可能になります。
論文の著者らは、提案するOuroboros Genesisプロトコルが、PoSブロックチェーンでは初の『ダイナミックアベイラビリティ(動的可用性)』を実現し、ネットワークの効率と安全性を高める上で大きな前進となると考えています。
Ouroboros Genesisは「コンポーザビリティ (複数の要素や部品などを結合して、構成や組み立てが可能な能力)」という概念を導入することで、互いに相互作用できる複数のブロックチェーン・ネットワークを作成し、スケーラビリティや動的可用性といった従来のPoSシステムの制限を解決することで、より大きなネットワークを形成できる新しいアプローチということになります。
そして、Ouroboros Genesisの新しいルールの導入により、新しいノードやオフラインのノードは、安全に(再)参加し、ジェネシス・ブロック(チェーンの最初のブロック)からブロックチェーンをブートストラップ(bootstrap from genesis )することが可能になります。
「bootstrap from genesis」とは、ブロックチェーンネットワークをゼロから始めるプロセスのことで、その最初のブロックは 「ジェネシス・ブロック :Genesis Block」と呼ばれます。
「bootstrap from genesis」の主な利点は以下の通りです。
白紙の状態からスタートできる:チェーンの最初のブロックからスタートすることで、過去の履歴を考慮する必要がないため、白紙の状態からスタートできます。
監査の容易さ:ジェネシス・ブロックは、監査人がネットワークの履歴や取引を検証するための明確な出発点となり、ネットワークの活動を追跡・検証することが容易になります。
セキュリティ:ジェネシス・ブロックからブートストラップすることで、悪用される可能性のある過去の履歴が存在しないため、より高いレベルのセキュリティを実現できます。
透明性:ジェネシス・ブロックは明確で透明な出発点となり、トークンや計算能力などのリソースをよりオープンで公正に分配することができます。
このようにOuroboros Genesisは、ネットワークの問題、再起動、更新などにより、ネットワーク内の一部の参加者が完全に動作しない状況に対応するように設計されています。
Ouroboros Genesisは、新しい参加者やオフラインの参加者が、特別なアドバイスや過去に関する仮定を必要とせずに、最初からブロックチェーンに参加し、使い始めることができます。これにより、Ouroboros Genesisが、総出資額の半分以下を支配する攻撃者に対して安全であることを証明しています。この新しい安全性は、ネットワークの遅延や最低レベルの可用性に依存しないため、実環境においてより堅牢なものとなっています。
このようにOuroboros Genesisは、カルダノ・ブロックチェーンの安全性、拡張性、持続可能性、相互運用性を高め、分散型経済の需要によりよく対応できるようになります。
脅威的スケーラビリティをもたらす次世代プロトコルのOuroboros Leios
カルダノには10年にわたるカルダノの成長を支えると言われる次世代プロトコルのOuroboros Leiosがあります。
Ouroboros Leiosと、そのスケーリングソリューションの中核技術となる『Input Endorsers』は、カルダノがゲームの先を行く 「超高速&低コストレイヤー1 」を実現するものです。
カルダノの業界最強のプルーフ・オブ・ステーク・ネットワークの基盤であるOuroborosの次世代プロトコルLeiosは、UTxOのポテンシャルを最大限に活用することにより、これまでの同等のセキュリティ特性を維持し達成しながら、低コストとスループットを大幅に向上させる方法として注目されています。
この次世代のカルダノプロトコルとなるOuroboros Leiosは、今後の10年間でカルダノの規模を拡大し、2023年中に何らかの最初のリリース(段階的に)があるかもしれません。
このようにカルダノではVasil以降のBasho v2.0開発フェーズに突入しており、カルダノはスケーラビリティと相互運用性を高めるために、着実にアップグレードと最適化が行われています。
参考記事「2022年にどのようにCardanoをスケーリングしているか」
カルダノのスケーリング計画は、下記のようなレイヤー1によるものとレイヤー2(またはサイドチェーン)が開始されています。
- レイヤー1のソリューション:メインチェーンのプロトコルに直接適用されるアップグレード(Ouroboros Leios)。
- レイヤー2ソリューション:メインチェーンのパフォーマンスを向上させる追加チェーン(サイドチェーン)またはレイヤー2ソリューション(Hydra、Mithril)。
Ouroboros Leiosのコンセプト
IOHKの論文『Ouroboros Leios: design goals and concepts 』によれば、現在のOuroborosブロックチェーン・アルゴリズムの既存の亜種(カルダノ以外にポルカドットなどの他のチェーンも採用している)は、データスループットとCPU処理スループットの両方において、達成できるトランザクションスループットが制限されています。
これは、各ノードが利用できるリソース(ネットワーク容量やCPU性能)ではなく、分散アルゴリズム内のデータ依存関係や通信依存関係の性質によって制限されていることが主な原因です。これを改善するには、新しいアルゴリズム設計が必要であり、それがOuroboros Leiosであるとしています。
さらに、この新しい設計は、サービスの優先度に対応した段階的な取引手数料や、すべてのスマートコントラクトを実行する必要性を排除することによるチェーンの高速同期など、他の有用な最新機能を取り入れる機会をも提供するということです。
この新しいOuroboros Leiosのデザインは、小さな、またはモジュール式の拡張ではなく、Ouroboros PraosとGenesisの設計を大幅に拡張したものであり、実用的な実装への変更も相当なものになるであろうとしています。
Ouroboros Leiosの中核技術の一つであるInput Endorsersは、5年間の並列アーキテクチャの研究に基づき、トランザクションのスループットとスピードを向上させ、コスト削減と分散化の拡大を実現します。
カルダノ・コミュニティの一員であり人気ツィッターアカウントのKtorZ氏は、Ouroboros LeiosとInput Endorsersについて最新情報を投稿しており、Ouroboros Leiosは間違いなく、今後登場するL1アップグレードの中で最も有望なものであると述べています。
また、Leiosの背後にある考え方は(驚くほど)単純だとし、そのプロセスについて下記のように説明しています。
まず、Input Endorsersを理解するには、前提としてカルダノは分散型システムであり、ノードは選出されたスケジュールに従ってブロックを生成することでコンセンサスを実現するということを頭に置く必要があります。
Input Endorsersはブロックチェーンにある非効率性(システムリソースが十分に活用されていない)における改善点の洗い出しを行うことから始めています。
具体的には、カルダノのブロックは20秒かけて作られます。そして20秒の間に5秒の拡散時間があれば、次の20秒を待つ15秒の時間であるアイドル・リソースがあることにあります。そこで活用できるのがこのようなアイドル・リソース(CPUの活動やネットワーク活動他)です。これをうまく効率的に消費すれば、より多くのスループットを得ることができるということになります。
KtorZ氏は、Leiosの背後にある考え方は、つまりそのアイドル状態のリソースを活用し、ブロックの生成(=チェーン構築)をより並列化することであり、この方法はUTXOの真のパワーを活用することなのだと述べています。
Input Endorsersをもう少し具体的に説明します。
まずこれまでの20秒に一回生成されるブロックを大きく二つのタイプのコンセンサスブロックとトランザクションブロックに分離します。これによりより低コストで最適化されたコンセンサス決定とトランザクションのスケーリングが実現されることになります。
コンセンサスブロック
- Ranking blocks: true consensus、真のコンセンサス
- Endorsement blocks: high confidence agreements、高信頼性合意
トランザクションブロック
- Input blocks :most frequent、最も頻繁にストリーミング生成される
コンセンサス・ブロックは、Ranking blocksとEndorsement blocksに更に分離されます。トランザクション・ブロックはInput blocksとなります。この3つのブロックが異なる速度で、異なる目的で生成されるようになります。
*以前は単純にコンセンサスとトランザクションの二つのブロックに分けて説明されていました。
Ranking blocksは現在のコンセンサスブロックと似ており、順次生成され、グローバルな状態について全員が定期的に合意形成するための「チェックポイント」として機能します。
そして、Ranking blocksには、Endorsement blocksへの参照のみが含まれます。
Endorsement blocksは、チェーンが比較的高い信頼性で合意に達するための方法で、この証明書は、特定のイベントを承認しているピア(あるいはステーク)の数についてノードに知らせるものです。
ブロック生産者にとっては、ある時点において、実際にダウンロードすることなく、ネットワークのステークがどれだけある取引を承認(または、Endorsement)したかを知ることができることを意味し、これにより低コストで最適化されたコンセンサス決定が実現できることになります。
そして、トランザクション・ブロックのInput blocksは、トランザクションのバンドル(束)です。コンセンサスブロックと分離することで、20秒に一回のブロック生成を待たずに、常にストリーミングのように処理することが可能になることで、トランザクションを大幅にスケーリングすることが可能になるというものです。
更に、Input blocksは情報を含む実際のデータペイロード(送信データのうち、実際に意図されたメッセージの部分のこと)であり、これは高速で生成され、同時に検証されることを意図しています。複数のマシンに分散している場合、検証はある程度の並列処理で行われることを意味します。
KtorZ氏は、このアプローチがうまくいくのは並行処理を実現するUTXOモデルの特性であると指摘しています。更にこれは膨大な作業の塊であり、おそらくカルダノがこれまでに試みた最も野心的なアップグレードになるだろうと述べています。
早くもInput Endorsersのシミュレーションが登場
カルダノ・ブロックチェーンの研究・開発元であるInput Output Global, Inc.(IOG)主催のイベント『IO ScotFest』でプレゼンテーションされた動画『Driving continued technology advancement through Input Endorsers』では、下記のようなInput Endorsersのシミュレーション環境が披露されていました。
- 100ノード、世界規模の物理ネットワーク
- 一様なステーク分布5ブロック/秒の生成制約条件
- ネットワーク帯域幅と計算遅延
シミュレーションとはいえ、結果は良好で弾道通信とも呼べる超高速ネットワークが披露されています。
Input Endorsers開発プロセスにおける主なマイルストーン
Input Endorsers開発プロセスにおける主なマイルストーンは次のとおりです。
プロトコルの定義:チェーンの維持、状態の管理、メッセージの検証のためのプロトコルを厳密に定義しています。
トラフィックシミュレーション:計算機とネットワークの両方の制約をモデル化した新しいトラフィックパターンで、世界規模のネットワークをシミュレート。
カルダノ改良案(CIP):Ouroboros Leiosの次のイテレーションを評価する。入力デザインの目標やコンセプトを支持する。
コミュニティレビュー:Input Endorsersに対するカルダノ改良案のコミュニティレビューと評価。
Input Endorsersがもたらす多く改善点
Input Endorsersがもたらす改善点は次のとおりです。
トランザクションをより多く処理する
先程の説明の通り、Input Endorsersは、より高速なブロック生成のために並列処理を活用します。トランザクションのスループットを向上させながら、セキュリティを維持することができます。また、計算機およびネットワークリソースの並列利用が増加することで、より多くのトランザクションの処理が可能になります。
段階的な取引手数料を組み入れる機会とチェーンの同期のスピードアップ
また、サービスの優先順位に応じた段階的な取引手数料を組み入れる機会を提供することになります。この結果、スマートコントラクトはチェーン拡張プロセスの外側で実行されるため、チェーンの同期のスピードアップをもたらします。
より強固な基盤
Input Endorsersは、学術的に検討され、正式に証明され、実環境でテストされた基盤であるカルダノの上に構築されます。
Input Endorsersがもたらすカルダノのエコシステムへの付加価値
Input Endorsersがもたらすカルダノのエコシステムへの付加価値は次のとおりです。
- カルダノエコシステム全体の継続的な技術進歩を促進し、第3世代レイヤー1での取引量を増加させます。
- レイヤー1でより要求の厳しいアプリケーションの開発を実現します。
- 既存のSPO(ステーク・プール・オペレーター)によりネイティブに動作します。
メリットは下記のとおりです。
- より多くのトランザクション
- 既存のSPOネットワークを通じて改善される
- システムリソースの利用率向上
- 研究に基づく
- 公的に設計・開発されたもの
カルダノのInput Endorsersなどがもたらす次世代プロトコルOuroboros Leiosの登場は、レイヤー1における10年以上の長期的なスケーリング(超高速化)を可能にするものです。そしてこの長期的な成長への保証は、カルダノの強固な基盤(カルダノには多くのeUTXOをはじめとする独自性と、それがもたらす堅牢な安全性と信頼性)が完成したことで初めて実現可能にするものです。
第4世代のブロックチェーン『Minotaur:マルチリソースブロックチェーンコンセンサスプロトコル』に関する論文を発表
IOGのCEOでカルダノの創設者であるチャールズ・ホスキンソン氏は、IOGが論文『Minotaur: Multi-Resource Blockchain Consensus』をCryptology ePrint Archiveに提出し、これを2022年1月27日に受理されたことをツイッターで報告しています。
論文によれば、Minotaurは、PoWとPoSを交換可能な方法で組み合わせた、マルチリソースブロックチェーンコンセンサスプロトコルです。プロトコルはエポックで動作し、アクティブな計算能力を継続的にサンプリングします。Minotaurは、ビットコインブロックチェーンよりも高い作業変動を処理でき、任意の数のリソースに一般化することができます。プロトコルはRustで実装され、可変マイニングパワーや結合作業/ステーク攻撃に対する堅牢性がテストされており、実世界のブロックチェーンのコンセンサス層として適していることが示されています。
これはPoW(Proof of Work)の最高の要素をどのように取り入れ、最高のPoS(Proof of Stake)を組み合わせ(ブレンドした)た『マルチリソースブロックチェーンコンセンサスプロトコル』で、「Minotaur」と言われる第4世代のブロックチェーンであることを意味しています。
ホスキンソン氏は、以前レジリエンス(回復力)を高めるために、1つのリソースからn個のリソースへという目標は、システムがより全体的にダイナミックになるという意味で必要だと自身の動画『Resources and 1 to N for Consensus』で述べていました。
簡単に言えば、必要に応じてリソースを増やすことで、さらにセキュリティを確保したり、ブロック・プロダクションを複数のプールから得られる可能性があるだけでなく、現在のブロックチェーンでできること以上に、さらに無限にできることを増やすことが可能だということです。
チャールズさんは動画で「今年の後半に論文を発表する予定で、プルーフ・オブ・Xについて、多くの実証実験を行う」と述べていましたが、今回大きく前倒しして2022年の1月という非常に早い段階での発表となりました。
論文によれば、”リソースベースのコンセンサスは、パーミッションレスの分散型台帳システムのバックボーンである”とし、”このようなプロトコルの安全性は、システムに積極的に関与するリソースのレベルに根本的に依存する”ので、”様々なリソース(および関連する証明プロトコル、文献ではPoX[Proof-of-X]メカニズムと呼ばれることもある)が存在するため、それらの多くを同時に利用し、複数リソースのコンセンサスプロトコルを構築することが可能かどうかという根本的な疑問が生じる”と説明しています。
そして”異なるリソースを組み合わせる際の課題は、全てのリソースの敵対的パワーの累積が制限されている限り、セキュリティが保たれるという意味で、リソース間の融通性を実現することであるとし、本研究では、PoW(Proof of Work)とPoS(Proof of Stake)を組み合わせたマルチリソースブロックチェーンコンセンサスプロトコル「Minotaur」を発表し、その最適なカンジビリティを証明する”ものであると説明しています。
また、”設計の核となるMinotaurは、アクティブな計算力を連続的にサンプリングしながらエポック単位で動作し、ワークとステークという2つのリソース間の公正な交換を提供”すると説明、さらに、”Bitcoinブロックチェーンと比較して、Minotaurがより高度な仕事の変動に対応できることを実証し、Minotaurを任意の数のリソースに一般化することも実証した”と述べています。
今回の『Minotaur」では、PoW(Proof of Work)とPoS(Proof of Stake)を組み合わせたものですが、将来的には”proof-of-stake (PoS), proof-of-space (PoSp) and proof-of-elapsed-time (PoD)”などの代替リソース、またさらにはユーザーのスマートフォンなどもリソースとして取り込み、拡張されることが考えられます。
第4世代のプロトコルは、マルチリソースコンセンサスです。まさにブロックチェーンが限界を超えて、無限に進化する道筋となる可能性を追求するものであり、このことは未来の分散型社会の到来を保証しうる可能性のあるものと言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。カルダノの合意形成メカニズムは、最も効率性と信頼性の高いプルーフ・オブ・ステークを採用し、その上で科学的な検証のもとアップグレードによる進化を日々遂げています。
カルダノのプルーフ・オブ・ステークの素晴らしさは、カルダノに関与するすべてのステークホルダー(ADA保有者、SPO、開発者など)がネットワークに参加し、高度な合意形成メカニズムのもとブロック生成をしネットワークに貢献していることです。これにより高度な分散性が維持され、さらに、参加者の投票による分散型ガバナンスが実行され、進化を遂げる仕組みが構築されています。
これは人類のマイルストーンとも言うべき最も優れた合意形成メカニズムの達成であり、今後の更なる進化により、世界中の人々がカルダノに参加する扉を開いたと言えるのではないでしょうか?
もしこの記事が気に入っていただけましたら、SIPO、SIPO2、SIPO3への委任をどうぞよろしくお願いいたします!10ADA以上の少量からでもステーキングが可能です。ステーキングについて知りたい方は、下記の記事をご参考ください。
ステーキング(委任)とは?
カルダノ分散型台帳システムによるステーキングの魅力とその方法:2021版
Q&A:カルダノ、ステーキングに関する基本的な説明集
ダイダロスマニュアル
ヨロイウォレット Chromeブラウザ機能拡張版マニュアル
ニュース動向 in エポック411
シリーズ連載『進化するカルダノ・ベーシック』 [#6]ブロックチェーン合意形成メカニズムとカルダノのPoSとは?(その1)分散性を維持する合意形成メカニズムとそのバリエーション
そして第6回目となる今回はブロックチェーンの持つ重要な特性である「分散性」を維持する上で極めて重要な『合意形成メカニズム』ついて、そしてカルダノの合意形成メカニズムである『プルーフ・オブ・ステーク』とは何か?実際にどのような働きをし、どのような特性とメリットとがあるのかについて、2回に分けて考察していきます。
Web3のプラットフォームLace1.1がリリース
Lace 1.1には、パスワードを忘れた場合のサポート、12〜15語の回復フレーズ、複数の法定通貨で表示できる残高など、新機能が追加されています。
カルダノ週間開発レポート:2023年5月12日
https://essentialcardano.io/development-update/weekly-development-report-as-of-2023-05-12
開発ハイライト
Cardano ノードv.8.0.0リリース
Lace新バージョン1.1.0リリース
Marlowe RuntimeとMarloweエクスプローラー改良
Mithril 2318.0ディストリビューションリリース
IOG、EMURGO、Cardano財団が CIP.1694ワークショップ助成金の受領者を発表
カルダノ・ネットワークの現時点での統計
開始されたプロジェクト:126
開発中のプロジェクト:1240
ネィティブトークン:8.24m
トークンポリシー:73,114
Plutusクリプト:7,962
*うちPlutus V2クリプト:2,463
トランザクション:66.3m
IOGブログ:Atala PRISM:分散型ソリューションでデジタルIDを先駆け
IOGは分散型IDはIOGが構築しているネットワークの状態とシステムの要であるAtala PRISMの最新情報をブログで報告しました。
動画『Charles Hoskinson & Ben Goertzel | Fireside Chat』要約・翻訳:ブロックチェーン技術の文脈でのAIと分散化の状況について
AIsが規模を問わず協力し調整することを可能にする最初で唯一のプラットフォームであるSingularityNETは、動画『Charles Hoskinson & Ben Goertzel | Fireside Chat』を公開しました。
この動画は、Input Output Globalの創設者兼CEOであるCharles Hoskinson(チャールズ・ホスキンソン)氏と、ブロックチェーン技術の文脈でのAIと分散化の状況について話し合う、Ben Goertzel(ベン・ゴートゼル)氏のファイアサイドチャットです。
今最も熱い進展を遂げるAIとブロックチェーンの役割ついて言及した、とても興味深い内容となっています。
Messari動画『State of Cardano Q1 2023 Analyst Call:カルダノの現状についてのQ1 2023アナリストコール』要約・翻訳
Messari:カルダノの現状についてのQ1 2023アナリストコール
Messariは動画「State of Cardano Q1 2023 Analyst Call」を公開し、カルダノの現状、Q1のパフォーマンス、そしてチームの将来のロードマップについて、Messari Research AnalystのRed SheehanがInput Output Globalの最高経営責任者であるCharles Hoskinson氏と、カルダノ財団の最高経営責任者であるFrederik Gregaardと共に詳細な話し合いを行い、Q1 2023のカルダノの状況について詳しく報告しました。
また、この動画ではCardanoおよびその独自の特徴について議論しています。