アメリカの選挙における安全な投票:チャールズ・ホスキンソンの提言
2025年2月21日、カルダノ(Cardano)の創設者であり、ブロックチェーン技術の第一人者であるチャールズ・ホスキンソン氏が、アメリカの選挙システムにおけるブロックチェーンの活用について詳しく語る動画を公開しました。
ブロックチェーンは選挙の安全性を向上させるか?
多くの人々が「ブロックチェーンを使えばアメリカの選挙システムをより安全にできるのでは?」と考えています。この問いに対し、ホスキンソン氏は「たぶんできるが、前提条件がある」と慎重な姿勢を示しました。
彼は、MITのデジタル通貨イニシアティブが発表した論文「悪化の一途:インターネット投票からブロックチェーン投票へ」に触れ、この論文では「ブロックチェーンは電子投票システムの根本的なセキュリティ問題を解決しない」と主張されていることを紹介しました。しかし、ホスキンソン氏は「現在の技術の進化を十分に考慮していない不公平な結論だ」と反論し、現実的な解決策としてハイブリッド型の投票システムを提案しました。
安全な投票システムを構築するための4つの要素
ホスキンソン氏によれば、安全な投票システムを実現するには、以下の4つの要素が不可欠です。
- 強固な本人確認(ID)システム
- 現在の運転免許証やパスポートなどの「ブリーダー文書」は偽造や改ざんが容易である。
- DID(分散型識別子)やAnonCreds(匿名クレデンシャル)などを活用し、安全性を高める。
- 安全な有権者登録
- 「なりすまし」を防ぐために、生存証明(Proof of Life)や住所証明(Proof of Location)を導入。
- 投票資格(例:犯罪歴の確認)を正確にチェックする仕組みが必要。
- 改ざん不可能な投票用紙
- 紙の投票用紙にホログラムやQRコードなどの改ざん防止技術を組み込む。
- 候補者の公平な掲載を徹底し、不正な投票用紙の混入を防ぐ。
- 適切な投票プロセス
- 郵送投票のリスク:投票の売買が容易になり、不正の温床になる。
- スマートフォン投票の可能性:信頼できる実行環境(TEE)を活用すれば、安全な電子投票が可能になる。
ハイブリッド型投票システムの提案
ホスキンソン氏は、過去の歴史に学びつつ、ブロックチェーンと紙の投票用紙を組み合わせた「ハイブリッド型投票システム」を提案しました。
参考となる歴史的手法
- 古代ギリシャのオストロン(Ostracon):陶器の破片を使った投票システム。
- 中世ヨーロッパのスプリット・タリー(Split Tally):木の棒を二分割し、双方が保管することで不正を防ぐ。
このアイデアを応用し、次のような仕組みを構築できます。
- 有権者がスマートフォンで投票すると、ブロックチェーンに記録が保存される。
- 同時に、紙のレシート(タリースティック)が発行され、ブロックチェーンと紐づく暗号情報が記載される。
- 万が一、ブロックチェーンが改ざんされても、紙のレシートとの照合により不正を発見できる。
- 投票者は自分の投票が正しくカウントされたかをブロックチェーン上で確認可能。
このシステムにより、デジタルとアナログの強みを活かした安全な選挙プロセスが確立できるとホスキンソン氏は主張しました。
選挙システム改革の課題
このハイブリッド型システムを実現するためには、次の4つのステップが必要です。
- 強固な国家IDシステムの確立
- DID技術を活用し、安全な本人確認システムを整備。
- 安全な有権者登録プロセスの確立
- 不正な登録を防ぐため、生体認証や住所確認を徹底。
- ハイブリッド型投票システムの構築
- ブロックチェーン記録と紙の投票レシートを組み合わせる。
- 選挙の透明性を向上させる仕組みの導入
- 投票結果をリアルタイムで照合できるオープンな監査体制を確立。
結論
ホスキンソン氏は、「単純にブロックチェーンを使えば選挙の安全性が向上する」という考え方に警鐘を鳴らし、「システム全体の改革が必要」と強調しました。
彼の提案するハイブリッド型投票システムは、ブロックチェーンと紙の投票用紙を組み合わせることで、不正を防ぎつつ透明性を確保するものです。
この新しい選挙システムは、国家がDID技術を導入し、有権者登録のプロセスを改善することによって実現可能となるでしょう。
「選挙の透明性と安全性を高めるために、もっと多くの人が議論を重ねるべきだ。」
ホスキンソン氏のこの言葉が、未来の選挙制度をより良いものにするきっかけとなることを期待します。
以下はチャールズ・ホスキンソン氏動画「Secure Voting in US Elections」を翻訳したものです。
チャールズ・ホスキンソン氏動画「Secure Voting in US Elections:アメリカの選挙における安全な投票」全翻訳
こんにちは、チャールズ・ホスキンソンです。暖かく晴れたコロラドからライブ配信しています。コロラドはいつも暖かく、いつも晴れています(たまにですが)。今日は2025年2月21日、今回の動画では、私が非常に多くの人々から何度も尋ねられる質問について話します。
「ブロックチェーンを使ってアメリカの選挙システムをより安全にできるか?」
この問いに対する答えは、「たぶんできる」です。
まず、非常に著名な学者によって書かれた論文について話しましょう。私はこの論文に賛同しませんし、非常に不公平な論文だと思っていますが、時には批判を受け入れなければならないこともあります。この論文の著者の一人、ニハン・ヌーラはMITのデジタル通貨イニシアティブに関わっています。しかし、誰もが知っているのは、RSA暗号の「R」にあたるロナルド・リベスト氏でしょう。彼はチューリング賞受賞者でもあります。
論文のタイトルは 「悪化の一途:インターネット投票からブロックチェーン投票へ」 です。
この論文では、ブロックチェーンを活用した投票システムの課題について詳述されています。その結論はかなり厳しく、次のようなものです。
• 「ブロックチェーンは、電子投票システムの根本的なセキュリティ問題を解決しない」
• 「電子・オンライン・ブロックチェーンベースの投票システムは、紙ベースのシステムよりも深刻な障害のリスクが高い」
• 「新しい技術を追加することで、新たな攻撃の可能性が生まれる」
当然ながら、MITからの資金提供を受けた研究であり、私はこの論文の結論に納得していません。なぜなら、現在の技術の進化を十分に考慮していないからです。
ブロックチェーンを活用した投票システムの試み
すでにいくつかの試みが行われています。例えば、「Voatz」というプロジェクトがあり、ハイブリッド型のシステムを構築しました。これが現実的なアプローチだと私は考えています。
彼らの技術は以下の要素を組み合わせたものです。
• 暗号化技術
• 紙の投票記録
• 安全なデジタルレシート
• ブロックチェーンによるデータ保管
• 生体認証
• リスク監査
• データセキュリティ対策
この仕組みでは、紙の投票用紙とブロックチェーンのデータが組み合わさり、投票者には投票レシートが渡されます。
このようなシステムを構築するには、複数のコンポーネントが必要です。それについて詳しく見ていきましょう。
ブロックチェーン投票の前提条件
1. 強固な「本人確認」システム
ブロックチェーン投票を行うには、まず「本人確認(Identity)」が不可欠です。
多くの州政府関係者が私のもとを訪れ、「ブロックチェーンを使った投票システムを構築したい」と相談してきました。しかし、私の答えはいつも「NO」です。なぜなら、本人確認システムが整備されていない限り、投票システムのセキュリティは成り立たないからです。
2. 現行の本人確認の問題点
現在、国家が個人を識別する方法として「ブリーダー文書(Breeder Documents)」が使われています。
これは、以下のような政府発行の文書です。
• 運転免許証
• パスポート
• 出生証明書
これらの文書には、一応の改ざん防止機能(ホログラム・透かし・写真など)がついています。しかし、現実には容易に偽造・改ざんが可能です。政府のシステムには十分な監査ログもなく、ブリーダー文書自体が信頼性に欠けるケースも少なくありません。
さらに、特に海外では、政府自体が偽造文書を発行するケースすら存在します。
つまり、「本人確認」の仕組みが脆弱な状態で、いくら高度な投票システムを作っても意味がないのです。
安全な投票システムの構築
投票システムを安全にするために必要な要素は以下の4つです。
1. 強固な本人確認(ID)システム
2. 安全な有権者登録
3. 改ざん不可能な投票用紙
4. 適切な投票プロセス
では、各項目を詳しく見ていきましょう。
1. 本人確認(ID)
現在、W3C(World Wide Web Consortium)が策定した DID(Decentralized Identifier) 標準や AnonCreds(匿名クレデンシャル) という技術があります。
• DID は分散型のID管理システムで、10年以上にわたり研究されてきました。
• AnonCreds を使うと、特定の個人情報を明かさずに特定の条件を証明できます。
例えば、「21歳以上であること」を証明しつつ、実際の生年月日や名前は明かさない、といったことが可能です。
2. 安全な有権者登録
有権者登録時に 「なりすまし」が発生しない仕組み を導入する必要があります。
具体的には、以下の要素が必要です。
• 生存証明(Proof of Life)
• 住所証明(Proof of Location)
• 投票資格の確認(Proof of Good Standing)
• 例:重犯罪者(Felon)ではないか?
• 例:投票資格の条件を満たしているか?
有権者登録を徹底的に監視し、不正な登録ができないシステムを構築しなければなりません。
3. 改ざん不可能な投票用紙
安全な投票システムを構築するためには、投票用紙が改ざん不可能であることが必要です。具体的には、以下の条件を満たす必要があります。
• 偽造防止機能:投票用紙には、ホログラム、透かし、特殊インク、QRコードなどの改ざん防止機能を追加することができます。
• 候補者の公平な掲載:正式な候補者が正しく掲載されていなければなりません。例えば、ロバート・ケネディが選挙の候補者として認められなかった問題がありました。
• 不正な投票の防止:紙の投票用紙が不正にシステムに混入されることを防ぐための対策が必要です。
現在の紙の投票用紙には不正が発生しうる問題があり、これを防ぐためには、ブロックチェーンの仕組みと組み合わせたハイブリッドな解決策が必要です。
4. 適切な投票プロセス
投票が適切に行われるためには、登録された有権者が、正当に投票できる仕組みが必要です。
• 郵送投票の問題点
私は郵送投票(Mail-in Ballots)が最も危険な方法の一つだと考えています。なぜなら、次のような問題があるからです。
• 投票の売買が容易:他人があなたの横に座って、お金を払って票を買い取ることができます。
• 投票用紙のすり替え:郵送中に投票用紙が紛失したり、意図的に破棄されたりするリスクがあります。
• 署名確認の信頼性が低い:署名の確認は、実際には非常に弱いセキュリティ対策です。
• スマートフォン投票の可能性
「では、スマートフォンで投票すればいいのでは?」という意見もあります。実際、スマートフォンを使った投票は今後普及するでしょう。
しかし、スマートフォンのハッキングリスクも指摘されています。リベストらの論文では、「スマートフォンはハッキングされやすい」とされていました。
ただし、これは現在の技術を正しく理解していない意見です。最新のスマートフォンには「信頼できる実行環境(Trusted Execution Environment, TEE)」が搭載されており、非常に強固なセキュリティが確保されています。
これに加えて、多要素認証や生体認証を組み合わせることで、投票の安全性を大幅に向上させることができます。
ハイブリッド型投票システムの提案
私は、「紙の投票用紙」と「ブロックチェーン投票」のハイブリッドシステムこそが、最も現実的で安全な解決策だと考えています。
これは、新しいアイデアではなく、歴史的にも利用されてきた「タリースティック(Tally Stick)」の概念を応用したものです。
タリースティックとは?
• ギリシャ時代
古代ギリシャでは、「オストロン(Ostracon)」と呼ばれる陶器の破片を投票に使用していました。これは偽造が難しく、投票の信頼性を担保する方法の一つでした。
• 中世ヨーロッパ
中世ヨーロッパでは、「スプリット・タリー(Split Tally)」という木の棒を使って取引を記録していました。木の棒を半分に割り、それぞれの当事者が片方を保管することで、不正防止に役立ちました。
ブロックチェーンとタリースティックの融合
この歴史的な方法を応用し、以下のような仕組みを提案します。
1. 有権者が投票すると、ブロックチェーンに投票記録が保存される。
2. 同時に、紙のレシート(タリースティック)が発行される。
3. この紙のレシートには、ブロックチェーンと紐づく暗号情報が記載されており、改ざん防止の役割を果たす。
4. 万が一、ブロックチェーンの記録が改ざんされても、紙のレシートと照合すれば不正が発覚する。
5. 投票者は自分の投票が正しくカウントされているかをブロックチェーン上で確認できる。
これにより、デジタルとアナログの両方を活用することで、不正を最小限に抑えた投票システムが実現可能となります。
選挙システム改革の課題
このシステムを実現するには、以下のステップを踏む必要があります。
1. 強固な国家IDシステムの確立
• 現在の社会保障番号や運転免許証ではなく、DID(分散型ID)などを活用した強固なシステムが必要です。
2. 安全な有権者登録プロセスの確立
• 不正登録を防ぐための生体認証、居住地確認などの仕組みが求められます。
3. ハイブリッド型投票システムの構築
• スマートフォン投票と紙のレシートを組み合わせたシステムを導入する。
4. 選挙の透明性を向上させる仕組みの導入
• 投票結果をリアルタイムで照合できるオープンな仕組みを採用する。
結論
ブロックチェーンを活用した安全な投票システムの実現は可能ですが、そのためには強固な本人確認システムと有権者登録の改革が不可欠です。
私は、「単純にブロックチェーンを使えば選挙は安全になる」と考えるのは間違いだと指摘したいです。システム全体を段階的に改革しなければ、根本的な問題は解決しません。
実際、カルダノ(Cardano)では、CIP-1694の投票システムを設計する際に、本人確認の問題を慎重に考慮しました。ADAを所有することが投票資格の証明になるため、安全性が確保されているのです。しかし、国家レベルの投票では、これだけでは不十分です。
私は、国家が「ブロックチェーン投票」を導入するならば、同時に「国家IDシステム」も改革するべきだと考えています。そうでなければ、最も安全な投票システムを作ったつもりが、実は最も精巧な不正システムになりかねません。
最後に
今回の話が、皆さんにとって参考になれば幸いです。選挙システムは、単純な技術の問題ではなく、政治・社会・経済のあらゆる要素が関係する非常に複雑な課題です。
しかし、ブロックチェーンと紙の投票用紙を組み合わせたハイブリッドシステムは、今後の選挙改革の鍵になる可能性があります。
この問題について、もっと多くの人が議論することを願っています。
それでは、良い週末を。