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【徹底解説】カルダノの新時代を支える財政戦略「ネット・チェンジ・リミット(NCL)」の役割と可能性:ニュース動向 & ステーキング状況 in エポック551

【徹底解説】カルダノの新時代を支える財政戦略「ネット・チェンジ・リミット(NCL)」の役割と可能性

1. はじめに:NCLとは何か

NCLの基本概念と重要性

ネット・チェンジ・リミット(Net Change Limit、以下NCL)とは、カルダノブロックチェーンの憲法によって規定された財政パラメータであり、一定期間内(通常は年間)に財務から引き出すことができるADAの最大量を定めるものです。簡単に言えば、「カルダノの共同銀行口座から、1年間に引き出せるお金の上限」を設定する仕組みです。

NCLは単なる数値以上の意味を持ちます。これは、カルダノエコシステムの成長と財政的持続可能性のバランスを取るための重要な指標です。財務からの出金は、開発プロジェクトやエコシステム成長のための資金として使われますが、無制限に引き出せば財務が枯渇し、逆に引き出さなければ成長機会を逃してしまいます。NCLはこの難しいバランスを取るための「ガードレール」として機能します。

特に重要なのは、NCLが「上限」であって「目標」ではないという点です。NCLは「使わなければならない金額」ではなく、「それ以上は使えない」という制限です。これにより、コミュニティは将来の成長のためにどれだけの資金を投入するかを戦略的に判断することができます。

参考記事:「Understanding Cardano’s Net Change Limit: Balancing Ecosystem Growth and Monetary Stability

カルダノのガバナンス改革における位置づけ

2025年2月に発効したカルダノ憲法では、NCLの設定が明確に要求されています。憲法第4条によれば、予算案を提出する前にNCLを正式に合意する必要があり、これがなければ予算案は憲法違反となり無効になります。

カルダノはいま、歴史的な転換点を迎えています。これまで中央集権的に管理されてきた予算が、コミュニティ主導のオンチェーンガバナンスへと移行する過程にあります。この移行において、NCLは単なる技術的パラメータではなく、カルダノの財政健全性と民主的なガバナンスを象徴する重要な指標となっています。

分散型自律組織(DAO)として成熟するカルダノにとって、NCLの設定は初めての本格的な財政政策決定と言えるでしょう。代表者(DReps)やコミュニティメンバーが、この決定に参加することで、真の意味でのブロックチェーンによる自己統治が実現します。

NCLの設定プロセスは、透明性、説明責任、そして長期的な持続可能性という価値を体現しています。カルダノコミュニティが自らの財政政策を決定できるこの瞬間は、分散型金融の未来を形作る重要なステップなのです。

次のセクションでは、なぜNCLが必要とされるのか、その背景について詳しく見ていきましょう。

2. NCLの背景:なぜ必要なのか

カルダノ財務の現状(約17億ADA)

カルダノの財務には、現在約17億ADAという膨大な資産が蓄積されています。この金額は、ステーキング報酬の一部や取引手数料などが継続的に流入することで形成されてきました。毎エポック(5日間)ごとに約432万ADA、年間で約3億1500万ADAが財務に流入しており、この資金はカルダノエコシステム全体の「共有資産」と言えるものです。

この17億ADAという金額は、現在の時価で計算すると数百億円規模の資産に相当します。これはブロックチェーンプロジェクトとしては非常に健全な財政状態であり、カルダノが持続可能な開発とエコシステムの成長を支える強固な基盤を持っていることを示しています。

しかし、この豊富な財務があるからこそ、その活用方法についての議論が重要になってきます。単純に「たくさんお金があるから使おう」という発想ではなく、「限りある資源をどう最適に配分するか」という視点が必要です。

持続可能な財務管理の必要性

カルダノ財務の管理において最も重要なのは「持続可能性」です。ブロックチェーンプロジェクトは長期的な視野で運営される必要があり、その財務も同様に長期的な持続可能性を確保しなければなりません。

持続可能な財務管理の必要性は、主に以下の点から説明できます:

  1. 長期的なエコシステムの健全性:カルダノは数十年にわたって運営されることを想定したプロジェクトです。財務が短期間で枯渇してしまえば、将来の開発やエコシステム支援が困難になります。
  2. 市場の安定性:財務からの大規模な出金は、市場に出回るADAの供給量を増やすことになり、価格に下落圧力をかける可能性があります。急激な価格変動はエコシステム全体の安定性を損なう恐れがあります。
  3. 予測可能性の確保:開発者やステークホルダーにとって、財務の状態と将来の資金配分が予測可能であることは極めて重要です。NCLはこの予測可能性を高め、長期的な計画立案を可能にします。
  4. 世代間の公平性:現在の決定が将来の世代に与える影響も考慮する必要があります。今日の過剰な支出が、明日のカルダノユーザーの機会を奪うことがあってはなりません。
ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の原則との関連性

カルダノのNCL構想は、国家が運営するソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の原則から多くのインスピレーションを得ています。SWFとは、国家が保有する投資基金であり、石油収入や外貨準備などを原資として、将来の世代のために資産を運用する仕組みです。

特にノルウェーの政府年金基金グローバル(GPFG)は、世界最大規模のSWFとして知られ、その運営原則はカルダノにとって貴重な参考例となっています。GPFGでは、ファンド全体の約3%を年間引き出し額の上限としており、これは持続可能なリターンと一致する水準とされています。

カルダノのNCLとSWFの原則には、以下のような共通点があります:

  1. 長期的視野:短期的な利益より長期的な持続可能性を重視する姿勢
  2. 規律ある支出:明確なルールに基づいた計画的な資金配分
  3. 透明性と説明責任:すべての決定が公開され、ステークホルダーに対する説明責任を果たす
  4. 世代間の公平性:現在の世代だけでなく、将来の世代の利益も考慮
  5. 専門的な管理と監督:適切な知識と経験に基づいた資産管理

カルダノが国家のSWFから学ぶことは多くありますが、同時にブロックチェーン特有の課題も考慮する必要があります。たとえば、SWFは多様な資産に投資できますが、現状のカルダノ財務はADAのみを保有しています。このような違いを認識しつつ、SWFの基本原則を適用することで、カルダノは持続可能で責任ある財務管理を実現できるでしょう。

次のセクションでは、現在提案されている具体的なNCL案とその根拠について詳しく見ていきます。

3. 現在提案されているNCL案の比較

カルダノコミュニティでは現在、複数のNCL提案が検討されています。これらの提案は、カルダノの財務から引き出せる金額の上限を設定するものですが、その金額や適用期間、根拠となる考え方に違いがあります。ここでは、主要な2つの提案を比較し、それぞれの特徴と目指す方向性について解説します。

予算委員会案:2025年 3億5000万ADA

Intersect予算委員会が提案しているNCL案は、2025年の引き出し上限を3億5000万ADAとするものです。この提案は2025年3月26日に「Gov_action1nd3t833j7v5sz65k3tp9yyvztw60sjcjgcgjr37682s3m7frwrusqmd2k80」というガバナンスアクションIDで正式に提出されました。

金額の根拠: この金額は、委員会が行った詳細なモデリングに基づいています。2024年(エポック459-531)における財務への予想流入額は約3億5100万ADAと試算されていました。実際の流入額は3億3596万ADAであり、予測値の5%以内に収まったことから、2025年のNCLも同様の3億5000万ADAとすることが提案されています。

適用期間: この提案によるNCLは、エポック532の開始時から72エポック間(約1年間)適用され、2025年12月のエポック604で終了します。

目指す方向性: 予算委員会案は「前年度の財務流入額に基づいてNCLを設定する」というアプローチを採用しています。これは、財務への流入と同程度の支出を許容することで、財務残高を大きく変動させずに維持するという考え方です。また、このアプローチはプロジェクトがブロックチェーン上の実用性を高めるための直接的なインセンティブを生み出します。より多くの取引や活動がブロックチェーン上で行われれば、財務への流入も増え、結果的に翌年のNCLも増加するからです。

コミュニティ提案:2025年 3億ADA、2026年 2億5000万ADA

一方、コミュニティメンバーからは若干保守的な別のNCL案が提出されています。この提案は2025年3月17日に「Gov_action10ueqgzwenxr39le68n0se9peu92r7gm2846xwehh3u0ahc0qd0uqqyljxu5」というガバナンスアクションIDでオンチェーンに提出されました。

金額の根拠: この提案も財務への流入額を根拠としていますが、より保守的な数値を採用しています。2025年の財務への予想流入額は3億ADA、2026年は2億6500万ADAとしています。2026年のNCLについては「覚えやすさ」も考慮して2億5000万ADAという端数のない数値を提案しています。

適用期間: この提案は2025年と2026年の2年分のNCLを同時に設定するものです。2027年以降のNCLはこの提案では定義されていません。

目指す方向性: コミュニティ提案は、予算委員会案よりもさらに保守的なアプローチを取っています。特に2026年については予想流入額よりも低いNCLを設定することで、財務残高を徐々に増加させる方向性を示しています。また、2年分のNCLを同時に設定することで、より長期的な予測可能性を提供する意図もあります。

提案者たちは「財務から引き出せる金額に関する議論がこれ以上遅れると、カルダノエコシステムにとって大きな機会損失につながる可能性がある」として、迅速な決定の必要性を強調しています。また、もし将来的により高いNCLが必要になれば、新たな提案で上書きすることも可能だとしています。

それぞれの根拠と目指す方向性

両提案は、財務の持続可能性を確保するという共通の目標を持ちながらも、若干異なるアプローチを取っています。

予算委員会案の特徴

  • より積極的な資金配分を可能にする
  • 前年の実績に基づく客観的な基準
  • ブロックチェーン利用促進のインセンティブを内包
  • 単年度のみの提案で柔軟性を確保

コミュニティ提案の特徴

  • より保守的な資金配分を志向
  • 2年分のNCLを設定し長期的な予測可能性を提供
  • 財務残高の増加を促進
  • 迅速な意思決定を重視

これらの提案はどちらも、カルダノ憲法に基づく「責任ある財務管理」という価値観を共有しています。両者の違いは、成長への投資と財政的保守主義のバランスをどう取るかという点にあります。

DRepやカルダノコミュニティは、これらの提案を検討する際、単に数字の大小だけでなく、カルダノの長期的なビジョンやエコシステムの成長戦略との整合性も考慮する必要があるでしょう。また、どちらの提案もNCLが「上限」であって「目標」ではないことを理解することが重要です。実際の支出は、提案の質と必要性に応じて、この上限内で適切に決定されるべきものなのです。

以下に、DRep「SIPO」による2025年ネット・チェンジ・リミット(NCL)に関する2つの提案に対する投票結果とその理由をご紹介します。


SIPO「2025年ネット・チェンジ・リミット」2案への投票結果とその理由

〜コミュニティ主導か?委員会主導か?カルダノ財務の未来を左右する選択〜

🗳️ DRep「SIPO」、ネット・チェンジ・リミット(NCL)に対する投票判断を公表

重要なお知らせ:2025年4月24日、SIPOとして予算委員会提案(2025年 NCL:350M ADA)投票に対して、判断を「反対」から「賛成」へと変更することにいたしました。その理由を下段に掲載しておりますのでご覧くださいませ。

詳細はこちらをご覧ください。👇

カルダノの分散型ガバナンスにおいて重要な役割を担うDRep(Delegated Representative)であるSIPOは、2025年度のネット・チェンジ・リミット(NCL)に関する2つの対立する提案について、投票理由とその根拠を公表しました。

SIPOの投票理由に関する詳細は以下の記事をご参照ください。

🔗 関連リンク:https://sipo.tokyo/?p=41284

結論から言えば:

  • コミュニティ提案(300M ADA/250M ADA)に賛成
  • 予算委員会提案(350M ADA)に反対

その理由は、単なる金額の違いではなく、「財務運営の哲学」と「エコシステムの長期的な健全性」にあります。

🧭 総括:財務の「未来志向」と「責任ある支出」への投票

SIPOの判断基準は明確です。

「NCLという制度は“いくら使うか”ではなく、“いくらまでにとどめるか”を考える枠組み。そこに、持続可能な成長と分散的意思決定が反映されるべきだ。」

両提案の金額差は5000万ADAにすぎませんが、提案の背景にある価値観・方針・哲学の違いは決定的です。

  • 財政規律と予測可能性を重視する「コミュニティ案」
  • 柔軟な支出の拡張性を優先する「予算委員会案」

あなたはどちらを支持しますか?

投票の詳細は以下の記事をご覧ください。

次のセクションでは、NCLがカルダノエコシステムにもたらす影響と意義について、より深く掘り下げていきます。

4. NCLがもたらす影響と意義

エコシステム成長への投資と財政規律のバランス

NCLの最も重要な役割は、「成長のための投資」と「財政規律の維持」という、一見相反する2つの目標のバランスを取ることにあります。このバランスは、カルダノの長期的な成功にとって極めて重要です。

成長への投資なくしては、カルダノは技術的に停滞し、競争力を失ってしまう恐れがあります。開発者エコシステムの構築、新機能の開発、教育活動、マーケティング、実世界での採用促進など、多くの活動に資金が必要です。特に、「実用性のトリレンマ」(セキュリティ、分散性、スケーラビリティの同時達成)を解決し続けるためには、継続的な研究開発投資が不可欠です。

一方で、財政規律を無視した過度の支出は、カルダノの長期的な持続可能性を損ない、財務を枯渇させるリスクがあります。また、大量のADAが市場に流入することで、価格に下落圧力がかかる可能性もあります。

NCLはこの微妙なバランスを取るための「ガードレール」として機能します。上限を設定することで無制限な支出を防ぎつつも、エコシステムの成長に必要な資金を確保できるよう設計されています。

特に注目すべきは、現在提案されているNCLがいずれも「財務への年間流入額と同程度、またはそれ以下」に設定されている点です。これは「入ってくる以上に出ていかない」という基本的な財政規律を示しており、財務の長期的な健全性を確保するアプローチと言えるでしょう。

市場価格への潜在的影響

NCLはADAの市場価格にも影響を与える可能性があります。この関係を理解するためには、ブロックチェーンの経済学的な視点が必要です。

財務からの出金は、通常、受け取ったプロジェクトやベンダーが開発資金として使用するため、一部のADAが市場で売却されることになります。これは市場に新たな供給圧力をもたらし、理論的には価格に下落圧力をかける可能性があります。

分析によれば、財務からの出金と価格の間には統計的に有意な負の相関関係が見られるとされています。ただし、この影響の大きさは出金の規模、タイミング、市場の状況によって大きく異なります。小規模で予測可能な出金は市場に容易に吸収される一方、大規模で突発的な出金はより大きな価格影響を持つ可能性があります。

ここで重要なのは、NCLが市場に与える「予測可能性」です。NCLによって年間の最大出金額が事前に明確になれば、市場参加者はこの情報を価格に織り込むことができます。これにより、突発的な大量出金による市場の混乱リスクが軽減されます。

また、NCLが設定する規律ある財務管理は、長期的には投資家の信頼を高め、カルダノの価値提案を強化する可能性もあります。透明性の高い財政政策は、伝統的な金融市場でも高く評価される特性であり、暗号資産市場においても同様です。

定量モデルによる予測:±15%リミット案と推奨

では、具体的にどのようなNCL水準が適切なのでしょうか?

Cardanoの経済分析レポートでは、過去12か月のトレジャリーへの流入額(約315M ADA)を基準とし、その±15%(約270M〜360M ADA)の範囲内に収めることが、財政的持続性と市場安定性の両面において「最適なゾーン」であると提案されています 。

このアプローチは、以下の利点を持ちます:

持続可能性の確保:インフローとアウトフローが均衡するため、財務残高の維持が可能

価格安定性:急激なインフレ圧力を回避しつつ、成長投資は継続できる

制度的信頼の醸成:予測可能なルールは、投資家や開発者の信頼を高める

特に重要なのは、このリミットは「使い切るべき金額」ではなく、「これ以上使ってはならない最大値」であるという前提です。DRepsはその範囲内で、プロジェクトの実効性や費用対効果を見極め、“予算の質”に基づいて支出を判断する責任を担うことになります。

Cardanoの財務は、エコシステムの開発資源であると同時に、ADAの価値そのものを支える経済的基盤でもあります。NCLのような制度的枠組みは、そのバランスを取るための鍵であり、Cardanoを「単なる暗号資産」から「持続可能な経済圏」へと進化させる礎になるといえるでしょう。

長期的な持続可能性の確保

NCLの最終的な目標は、カルダノエコシステムの長期的な持続可能性を確保することにあります。ここでいう「持続可能性」には、以下のような多面的な意味があります:

  1. 財務的持続可能性:財務が急速に枯渇することなく、長期間にわたってエコシステムをサポートできる状態を維持すること。
  2. 開発の持続可能性:中核技術の進化と実用的な応用開発の両方に継続的に投資できる環境を確保すること。
  3. コミュニティの持続可能性:参加者が増え、活発に関与し続けるための仕組みと文化を育てること。
  4. ガバナンスの持続可能性:意思決定プロセスが透明で公正であり、コミュニティ全体の利益を反映し続けること。

NCLはこれらの持続可能性を支える基盤となります。特に、カルダノのガバナンスが完全にコミュニティ主導へと移行する現在、財務管理の規律は自己統治の成熟度を示す重要な指標となります。

また、NCLは単なる上限ではなく、定期的に見直され、状況に応じて調整される動的なパラメータでもあります。市場環境、技術開発の進捗、コミュニティのニーズなどが変化すれば、将来のNCLもそれに応じて調整されることになるでしょう。

この柔軟性と適応性こそが、真の持続可能性の鍵となります。短期的な利益や特定の利害関係者の視点ではなく、エコシステム全体の長期的な健全性を優先するアプローチは、カルダノの根本理念と完全に一致しています。

NCLの設定プロセスを通じて、カルダノコミュニティは「共有資源をどのように管理するか」という、人類が長年取り組んできた根本的な問いに対する新しい答えを模索しています。これは単なる暗号資産プロジェクトの問題を超えた、分散型組織の自己統治に関する重要な実験と言えるでしょう。

5. Cardanoの財政規律をどう設計するか?

Cardanoが分散型ガバナンスを本格的に運用していくにあたり、避けて通れないのが「財政の規律化」です。ネットワーク上でADAという資産を共有し、その使い道をコミュニティで決定していく以上、明確で責任ある支出ルールが不可欠です。

このセクションでは、ガバナンス設計のベストプラクティスとして注目される**サンティアゴ原則(Santiago Principles)や、スマートコントラクトの活用、そしてCardanoで導入が進む財政的ガードレール(Guardrails)**の考え方についてご紹介します。


サンティアゴ原則:責任ある資産運用の基本

「サンティアゴ原則」とは、世界のソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)における責任ある資産管理の国際的ガイドラインです。

これには以下のような原則が含まれています:

  • 透明性と定期的な報告
  • 説明責任の明示
  • 明確な目的と支出基準
  • 市場や世代を超えた長期的視点

Cardano財務においても、こうした原則を参考に、明確な支出ルールと監視体制を導入しようとする動きが進んでいます。Intersectや予算委員会が提案するNCLの導入、マルチシグ署名によるトレジャリー支出の監督、DRepsによる意思決定といった構造は、まさにSWF型の運用原則を分散型ネットワークに適用した実例と言えるでしょう 。

スマートコントラクトの活用:透明性と制御性の両立

Cardano財務の実行プロセスにおいては、今後スマートコントラクトが中核的な役割を果たすと見られています。

具体的には、Intersectが指定する管理者、外部の監査人、技術委員会などが共同で署名を行うマルチシグ型スマートコントラクトによって、資金の払い出しや凍結が制御されます 。

この仕組みの利点は以下のとおりです:

  • 資金の不正使用を防止(契約違反時の支払い停止)
  • コミュニティによる監査可能性の確保
  • 透明性と自動性を両立した財務管理

Cardanoがスマートコントラクトを「ガバナンスの実行エンジン」として活用する姿は、Web3時代の公共財管理の新しい可能性を示しているとも言えます。

ガードレールとしてのNCL:「上限」であって「ノルマ」ではない

ここで改めて強調しておきたいのが、NCLは予算の「使用義務」ではないという点です。NCLは、1年間に使える最大の額を定める「天井」であって、必ずその全額を使わなければならないというルールではありません 。

むしろ、以下のようなガードレールとしての意味合いが強調されています:

  • 予算の乱用や過剰支出を防ぐ
  • トレジャリーからのインフレ的な資金放出を抑制
  • 支出判断の質を高めるための枠組み

この制度設計の意図は、「資金があるから使う」のではなく、「本当に価値のある提案にだけ、資金を配分する」という分散型予算配分の質的向上を促す点にあります。

そのため、DRepsやコミュニティは、NCLの範囲内であっても提案の内容や意義をしっかり評価し、「使わない選択」も常に視野に入れる必要があります。これは、財政的持続性を保ち、未来世代にも資産を残すためのガバナンス倫理とも言えるでしょう。

Cardanoにおける財務ガバナンスは、中央集権的な予算執行ではなく、コミュニティの合意と自己制御によって成り立つものです。

NCLはそのための“憲法的なガイドレール”であり、「信頼のデザイン」としての機能を持ちます。

このような制度設計を通じて、Cardanoは持続可能な分散型経済圏として、次世代の公共財ガバナンスのモデルを築こうとしています。

次のセクションでは、他の主要な暗号資産プロジェクトの財政管理モデルと比較しながら、カルダノのアプローチの独自性について考察します。

6. グローバルな視点:他の暗号通貨との比較

カルダノのネット・チェンジ・リミット(NCL)と財務管理の仕組みをより深く理解するために、他の主要な暗号資産プロジェクトがどのように資金管理を行っているかを比較してみましょう。それぞれのプロジェクトは異なるアプローチを取っており、その違いはプロジェクトの哲学や目標を反映しています。

ビットコイン・イーサリアム・ポルカドットの財政管理モデル

ビットコインの財政管理モデル

ビットコインには中央集権的な財務は存在しません。開発資金は主に以下の方法で調達されています:

  1. ボランティア開発者:多くの開発者が無償でコードに貢献しています。
  2. 企業スポンサーシップ:BlockstreamやSquare Cryptoなどの企業が開発者に給与を支払っています。
  3. 寄付:Bitcoin Core開発のための寄付金も一部あります。

ビットコインの特徴は、固定された発行上限(2100万BTC)と約4年ごとに半減する「ハービング」メカニズムです。これにより、市場には「希少性」という明確なナラティブが形成されています。

分析によれば、ビットコインの供給量増加と価格の間には負の相関関係は見られず、むしろ予測可能な供給増加は市場に「織り込み済み」となっています。ビットコインのストック・トゥ・フロー比率(既存の供給量と新規発行量の比率)は価格と強い相関関係(相関係数0.93)を示しており、希少性と価値の関係を示唆しています。

イーサリアムの財政管理モデル

イーサリアムには「イーサリアム財団」という非営利組織が存在し、初期のICO(Initial Coin Offering)で調達した資金を管理しています。また、以下のような資金調達メカニズムもあります:

  1. 助成金プログラム:イーサリアム財団が開発者や研究者に助成金を提供
  2. コミュニティ資金:Gitcoinなどのプラットフォームを通じた寄付金と企業のマッチング
  3. 企業スポンサーシップ:ConsenSysなどの企業が多くの開発者を雇用

イーサリアムは2021年8月のEIP-1559実装により、取引手数料の一部を「燃焼(バーン)」するメカニズムを導入しました。これにより、ネットワーク利用が活発な期間には供給量が減少する可能性もある動的な供給モデルとなっています。

イーサリアムの供給量と価格の相関は弱い負の相関(相関係数-0.12)を示しており、供給動態が価格変動の一部しか説明していないことが示唆されています。ビットコインと比較すると、イーサリアムはユーティリティとネットワーク活動がより大きな価格要因となっているようです。

ポルカドットの財政管理モデル

ポルカドットはカルダノと最も類似した財務ベースの資金調達モデルを採用しています:

  1. オンチェーン財務:トークン供給の一部が財務に割り当てられています。
  2. 財務評議会:財務からの支出を管理する専門の評議会が存在します。
  3. 提案ベースの資金配分:コミュニティメンバーが提案を提出し、評議会が承認します。

分析によれば、ポルカドットは供給量と価格の間により顕著な負の相関関係が見られ、財務からの出金に対する価格感応度がカルダノよりも高い可能性が示唆されています。

カルダノの独自性と強み

カルダノの財務管理アプローチには、他のプロジェクトと比較して以下のような独自性と強みがあります:

1. 包括的な憲法に基づくガバナンス

カルダノは2025年2月に発効した憲法によって、財務管理の基本原則を明文化しています。これは、単なる技術的なパラメータではなく、コミュニティの価値観と長期的なビジョンを反映した包括的な枠組みです。この憲法ベースのアプローチは、ガバナンスの安定性と予測可能性を高めています。

2. 代表民主制(DReps)による意思決定

カルダノのDReps(Delegated Representatives)システムは、直接民主制と代表制の利点を組み合わせたものです。これにより、専門知識を持つ代表者が詳細な検討を行いつつも、広範なコミュニティの意向が反映される仕組みとなっています。

NCLの決定においても、DRepsはコミュニティの将来のための重要な判断を担います。この責任ある意思決定構造は、単なる「人気投票」ではなく、財務の長期的な健全性を考慮した決定を促します。

3. 学術的アプローチと証拠に基づく意思決定

カルダノの特徴の一つは、学術的な厳密さと証拠に基づく意思決定です。NCLに関しても、単なる推測や感情ではなく、詳細なデータモデリングと分析に基づいて提案が行われています。

各提案には、財務の流入予測、過去のデータ分析、シミュレーション結果などが添付されており、これらの証拠に基づいて議論が進められています。この証拠ベースのアプローチは、より合理的で持続可能な決定につながります。

4. ソブリン・ウェルス・ファンドからの学習

カルダノは暗号資産の世界に閉じこもるのではなく、伝統的な金融や国家の資産管理からも積極的に学んでいます。特に、ノルウェーのGPFGなどのソブリン・ウェルス・ファンドの原則を取り入れている点は、カルダノの財務管理の成熟度を示しています。

長期的な視野、世代間の公平性、透明性と説明責任といった原則は、ブロックチェーンプロジェクトにとっても極めて重要であり、カルダノはこれらを体系的に取り入れています。

5. 柔軟性と適応性の確保

カルダノのNCLは固定されたものではなく、定期的に見直され調整される動的なパラメータです。コミュニティ提案では2025年と2026年の両方のNCLを設定していますが、将来的には状況の変化に応じて新たなNCLを設定することも可能です。

この柔軟性は、急速に変化する暗号資産市場において極めて重要です。固定化された硬直的なルールではなく、証拠に基づいて継続的に最適化される適応的なシステムとなっています。

6. 透明性と包括性の重視

カルダノのガバナンスプロセスは、極めて透明で包括的です。すべての提案はオンチェーンで公開され、誰でも内容を確認できます。また、決定プロセスにおいても、多様な視点が考慮されるよう設計されています。

NCLの決定においても、予算委員会だけでなく、一般コミュニティメンバーからの提案も同等に扱われ、オープンな議論が行われています。この透明性と包括性は、より正当で持続可能な決定につながります。

カルダノの財務管理アプローチは、これらの独自性と強みにより、単なる「資金の配分」を超えた、コミュニティ主導の持続可能なエコシステム構築のモデルとなっています。他のブロックチェーンプロジェクトとの比較を通じて、カルダノが目指す「証拠に基づく、長期的視野を持った、コミュニティ主導のガバナンス」の価値がより鮮明に浮かび上がります。

次のセクションでは、このNCL決定プロセスにおけるDRepとコミュニティの役割について詳しく見ていきましょう。

7. DRepとコミュニティの役割

NCL決定プロセスにおける投票の重要性

ネット・チェンジ・リミット(NCL)の決定は、カルダノの分散型ガバナンスにおける最も重要な決定の一つです。この決定プロセスにおいて、代表者(DReps)とコミュニティメンバーは極めて重要な役割を担っています。

DRepは、ADA保有者から委任された投票権を行使して、NCL提案を批准するかどうかを決定します。この投票は単なる形式的なものではなく、カルダノの財政の将来を形作る実質的な力を持っています。カルダノ憲法によれば、NCLの承認には「アクティブな投票DRepステークの50%超」の賛成が必要とされています。ただし、現在の提案では、財務引き出しのパラメータ比率である67%の閾値に合わせることも検討されています。

この高い閾値は、決定の重要性を反映しており、十分な合意形成が必要であることを示しています。DRepはNCLに投票する際、以下のような要素を考慮する必要があります:

  1. 財務の長期的持続可能性: 提案されたNCLは財務を長期的に維持できるか
  2. エコシステムの発展ニーズ: カルダノの成長に必要な資金を確保できるか
  3. 市場への影響: 財務からの出金が価格に与える潜在的影響
  4. 世代間の公平性: 将来のカルダノユーザーにとっても公平な決定か
  5. 技術的健全性: 提案の背後にあるモデリングや分析は堅実か

一般のコミュニティメンバーも、直接投票はできなくても、このプロセスに参加する重要な方法があります:

  • 自分のADAを信頼できるDRepに委任する
  • フォーラムや社会メディアでの議論に参加する
  • 独自の分析や視点を共有する
  • DRepに直接フィードバックを提供する
  • 必要に応じて、自らDRepになることを検討する

NCL決定プロセスへの広範な参加は、より良い決定だけでなく、決定に対するコミュニティの支持と正当性を高めることにつながります。

透明性と説明責任の確保

分散型組織において、透明性と説明責任は中央集権的な権威の代わりとなる重要な原則です。カルダノのNCL決定プロセスでは、これらの原則が様々な形で具現化されています。

透明性の確保:

  1. オンチェーン提案: すべてのNCL提案はブロックチェーン上に公開され、誰でも内容を確認できます。
  2. 公開データ: 提案の根拠となるデータモデルやシミュレーション結果も公開されています。
  3. オープンな議論: フォーラムやソーシャルメディア、タウンホールミーティングなどで公開議論が行われます。
  4. 投票結果の公開: DRepの投票結果はブロックチェーン上に記録され、誰でも確認できます。

説明責任の仕組み:

  1. DRepの評判システム: DRepの投票履歴は公開され、委任者はその行動を評価できます。
  2. 再委任の自由: ADA保有者は、DRepのパフォーマンスに満足できない場合、いつでも別のDRepに委任を変更できます。
  3. 定期的な報告: 予算委員会やIntersectなどの組織は、NCLに関する分析や提案の根拠を定期的に報告します。
  4. 実施後の評価: 決定されたNCLの影響は継続的に評価され、次回の決定に反映されます。

この透明性と説明責任の文化は、カルダノガバナンスの中核をなすものであり、NCLの設定においても重要な役割を果たしています。情報の非対称性を減らし、すべての参加者が十分な情報に基づいて決定できる環境を作ることで、より良い集合知が生まれます。

「上限」と「目標」の違いの理解

NCLを正しく理解し活用するためには、「上限(ceiling)」と「目標(target)」の違いを明確に認識することが極めて重要です。この違いを理解せずにNCLを運用すると、意図しない結果を招く恐れがあります。

NCLは上限であり、目標ではない:

NCLは特定の期間内に財務から引き出すことができる最大額を定めるものであり、必ずしもその全額を使うべきだという意味ではありません。これは、家計における「支出予算の上限」と同様のものです。予算があるからといって、必ずその全額を使う必要はなく、実際の支出は必要性と価値に基づいて決定されるべきです。

DRepとコミュニティが理解すべき重要なポイントは以下の通りです:

  1. 価値ベースの判断: 提案を評価する際は、「NCL内に収まるか」ではなく「この提案は価値があるか」を第一に考えるべきです。
  2. 必要性の吟味: すべての提案を自動的に承認するのではなく、それぞれの必要性を厳密に吟味する必要があります。
  3. 機会費用の認識: 今日使われるADAは将来使えなくなるため、各支出の機会費用を考慮すべきです。
  4. 長期的視点: 短期的な利益だけでなく、長期的な影響も考慮した判断が求められます。

この「上限vs目標」の区別を誤解すると、以下のような問題が生じる可能性があります:

  • 使い切り症候群: 「予算があるから使い切る」という考え方で、価値の低い提案にも資金が配分される
  • インフレ圧力: 必要以上の資金が市場に流入し、価格に下落圧力をかける
  • 財務の早期枯渇: 持続可能なペースを超えた支出により、財務が予想よりも早く減少する
  • 投資収益率の低下: 厳密な精査を経ない提案への資金配分により、全体の投資効率が低下する

カルダノのDRepとコミュニティメンバーがこの違いを明確に理解し、NCLを「守るべき上限」として認識することで、より責任ある財務管理が可能になります。最終的には、単にNCL内に収まる提案を承認するのではなく、カルダノエコシステムに真の価値をもたらす提案を選別し、支援することが重要です。

これらのガバナンス原則を実践することで、カルダノは単なる暗号資産プロジェクトを超えた、持続可能な分散型組織のモデルとなる可能性を秘めています。次のセクションでは、NCLを取り巻く今後の展望と課題について検討していきます。

8. 日本の読者に向けて:なぜNCLが「自分ごと」なのか?

ネット・チェンジ・リミット(NCL)は一見、グローバルなブロックチェーンCardanoの財務制度という遠い世界の話に思えるかもしれません。しかし、この制度は、私たち日本に住む一人ひとりにも深く関係する「自分ごと」になりうる仕組みです。

このセクションでは、Cardano財務の性質や、日本の自治体予算・補助金制度との類似性、そして私たちがSPOやDRepとして関与することの意義について掘り下げていきます。

分散型公共財としてのCardano財務

Cardanoのトレジャリー(財務)は、特定の企業や団体のものではなく、ネットワーク全体の資産です。つまり、それは**分散型の「公共財」**なのです。

この財務は、ステーキング報酬や手数料によって徐々に蓄積され、エコシステム内での提案や開発活動に再投資されることによって、Cardano全体の成長とユーザー体験の向上につながるように設計されています。

これは、日本における「税金」や「地方交付金」に非常によく似ています。税金を集め、それを学校、病院、インフラ整備などのために再分配するという流れと、Cardanoのトレジャリー → 予算提案 → 投票 → 支出 → エコシステム開発という流れは、構造的に非常に近いものがあります。

違いがあるとすれば、それが中央政府や官僚によるトップダウンではなく、**ブロックチェーン上の投票によってコミュニティが意思決定する“ボトムアップ型の公共財”**だという点です。

自治体財政や補助金制度との共通点

日本の自治体では、人口減少や高齢化などの課題を受けて、限られた予算をどう使うかが深刻なテーマになっています。その中で、補助金や助成金制度は、地域経済を活性化するための重要な手段として活用されています。

たとえば、IT導入補助金、持続化補助金、省力化投資補助金などは、国や自治体が設定した上限の中で、「どの事業に、どれだけの予算を配分するか」を審査・決定する制度です。

この点は、CardanoにおけるNCL(ネット・チェンジ・リミット)→ 予算アクション → 支出の判断というプロセスと極めて似ています。

違いは、それがオンチェーンで透明に、そして誰でもアクセス可能な形で行われていることです。もし日本の地域経済にも、こうした分散型の予算配分制度が導入されれば、地域住民が主体的に予算の使い道を選べる未来も考えられるかもしれません。

SPOやDRepとして関与する意味

日本でも多くの方が、Cardanoのステークプールオペレーター(SPO)やDelegated Representative(DRep)として活動されています。

SPOはネットワークの安全と可用性を支える技術的な要であり、DRepはその上に成り立つ意思決定の代弁者です。

特にDRepは、NCLや予算提案に対して「賛成・反対」を投票するだけでなく、提案者との対話を通じて提案の質を高めたり、コミュニティの声を吸い上げて調整したりする役割も担います。

つまり、DRepとは「予算をどう使うか」「未来に何を残すか」という問いに対し、Cardanoの財政的方向性を形づくる非常に責任あるポジションなのです。

日本に住む我々が、ただ外からこの動きを見守るだけでなく、SPOとしてネットワークに貢献し、DRepとして意思決定に関与することで、Cardanoというグローバルな公共財の未来を、共に創っていくことができます。

私たちは今、中央集権的なシステムから分散型の仕組みへと移行する歴史的な転換点に立っています。

CardanoにおけるNCLの議論は、単なるブロックチェーンの予算問題ではなく、「公共資源を誰が、どう使うのか?」という社会的な問いでもあるのです。

それを理解し、自らの役割を見出すことは、分散型未来社会の実践者としての第一歩になるはずです。

9. 今後の展望と課題

スマートコントラクトによる透明性向上

カルダノの予算プロセスは現在、重要な進化の段階にあります。特に注目すべきは、スマートコントラクトを活用した資金管理の透明性向上への取り組みです。

Intersectの発表によれば、新しい予算プロセスでは、資金配分の透明性と安定性を向上させるため、マルチシグ(複数署名)スマートコントラクトの導入が計画されています。このスマートコントラクトは、Intersect、監査人、その他の関係組織が署名者となり、以下のような機能を提供します:

  1. 資金フローの透明化: すべての資金移動がブロックチェーン上で記録され、誰でも追跡可能になります。
  2. 条件付き支払い: マイルストーンの達成など、特定の条件が満たされた場合にのみ資金が解放される仕組みが導入できます。
  3. 適切な監視: 契約違反などの「正当な理由」がある場合、ベンダーへの支払いを一時停止する機能も備えています。
  4. 不正防止: 複数の署名者による承認が必要なため、単一の主体による不正が防止されます。

このスマートコントラクト開発はSundaeLabsとXerberusが担当しており、カルダノのネイティブスマートコントラクト言語であるPlutusを活用する予定です。この取り組みは、カルダノ憲法第4条第2節の「カルダノブロックチェーンエコシステムの予算策定および管理には、意思決定を促進し、透明性を確保するために、可能な限りスマートコントラクトおよびその他のブロックチェーンベースのツールを活用するものとする」という原則を実践するものです。

このスマートコントラクトベースのアプローチは、NCLの効果的な実施にも重要な役割を果たします。予算が承認されても、実際の支出はマイルストーンの達成や成果物の提出など、事前に定義された条件に基づいて段階的に行われることになります。これにより、「一度に大量のADAが市場に流入する」のではなく、より管理された形での資金配分が可能になります。

将来的な調整メカニズム

NCLは静的なパラメータではなく、時間とともに進化していくべきものです。現在提案されているNCLは2025年(および一部は2026年)を対象としていますが、その後の調整について、いくつかの興味深いアプローチが議論されています:

1. パーセンテージベースのNCL

現在のNCL提案は固定額を指定していますが、将来的には「財務への年間流入の一定割合」としてNCLを定義するアプローチも検討されています。これには以下のようなメリットがあります:

  • 自動調整: ADA価格や財務流入量が変化しても、自動的に適切なレベルに調整される
  • 予測可能性: 割合が固定されていれば、将来の流入量の予測から概算のNCLを計算できる
  • 持続可能性: 流入量を超える支出を防ぎ、財務の長期的な安定性を確保できる

ただし、この方法の課題としては、割合の設定自体が複雑な判断を必要とすることが挙げられます。

2. 動的なフィードバックメカニズム

より高度なアプローチとしては、市場状況やエコシステムの成長指標などの要素を考慮した動的なNCL設定メカニズムも考えられます:

  • 市場状況の反映: 強気市場ではNCLを増やし、弱気市場では減らすなど、市場環境に応じた調整
  • 実用性指標との連動: ブロックチェーン上の実際の活動量や採用指標に基づく調整
  • 投資収益率の考慮: 過去の資金配分から得られた成果に基づく調整

このような動的メカニズムはより複雑である一方、カルダノエコシステムの実際のニーズと成長に密接に連動したNCLを実現できる可能性があります。

3. 定期的な見直しと再評価

より実践的なアプローチとしては、NCLを定期的(例えば年1回)に見直し、最新のデータと分析に基づいて調整するという方法も考えられます:

  • 証拠に基づく調整: 過去のNCLの影響、財務の状態、エコシステムのニーズなどを総合的に評価
  • コミュニティによる再承認: 新しいNCLをコミュニティが民主的プロセスで承認
  • 漸進的な改善: 急激な変更ではなく、段階的な調整による安定性の確保

カルダノコミュニティが現在議論している「2025年と2026年のNCLを同時に設定する」アプローチは、このような定期的見直しの第一歩と考えることができます。

多様な資産への分散可能性

現在のカルダノ財務はADAのみを保有しています。これは、価格変動リスクが集中する状態であり、従来のソブリン・ウェルス・ファンドが採用している分散投資戦略とは大きく異なります。将来的には、財務の資産構成を多様化する可能性も検討されています:

1. ネイティブトークンの保有

カルダノブロックチェーン上では、様々なネイティブトークンが発行されています。将来的に財務がこれらのトークンを保有する可能性があります:

  • エコシステムトークン: カルダノ上で構築されたプロジェクトのトークンを保有
  • 資産裏付けトークン: 実物資産や法定通貨に裏付けられたトークンの保有
  • 収益生成トークン: 配当や収益分配権を持つトークンの保有

この多様化により、価格変動リスクの分散と潜在的な収益源の追加が可能になります。

2. ステーブルコインの活用

価格安定性を確保するため、財務の一部をステーブルコインで保有するアプローチも考えられます:

  • 購買力の保全: 市場の下落時にも一定の価値を維持
  • 計画的な支出: 価格変動に左右されない予算計画が可能に
  • 多通貨支出: ベンダーに対してADA以外の通貨での支払いも可能に

ただし、このアプローチには憲法上の検討事項があり、慎重な議論が必要です。

3. クロスチェーン資産の可能性

より長期的な視点では、カルダノ財務が他のブロックチェーン上の資産を保有する可能性も考えられます:

  • リスク分散: ブロックチェーン特有のリスクを分散
  • 戦略的投資: 相互運用性を高める他プロジェクトへの投資
  • イノベーション促進: 他エコシステムからの革新的なアイデアの取り込み

これらの多様化戦略は、従来の金融機関が採用している近代ポートフォリオ理論の考え方を取り入れたものです。ただし、実現にはカルダノの技術的なアップグレードやガバナンス上の合意など、複数の条件が整う必要があります。

今後のNCLと財務管理の進化は、カルダノが直面する最も重要な課題の一つです。技術的可能性と社会的合意のバランスを取りながら、持続可能で効果的な財務管理の仕組みを構築していくことが求められています。このプロセスは、ブロックチェーン時代の新しい組織運営モデルを創造する意義深い実験でもあるのです。

次のセクションでは、これまでの議論を総括し、カルダノの未来に対するNCLの意義について考察します。

10. まとめ:カルダノの未来に向けて

NCLの長期的な意義

ネット・チェンジ・リミット(NCL)の設定は、単なる数字の決定以上の意味を持ちます。これは、カルダノがブロックチェーン時代の新しい組織モデルとして成熟していく過程における重要なマイルストーンです。

NCLの長期的な意義は、以下の点に集約されます:

財政的自律の象徴: NCLはカルダノが自らの財政政策を自律的に決定できることを示す重要な象徴です。中央銀行や政府に相当する中央集権的な機関なしに、コミュニティ自身が「通貨発行と財政支出」という国家の根幹機能を担うという歴史的な実験です。これは、ブロックチェーン技術が可能にした「新しい社会組織の形」を具現化するものと言えるでしょう。

持続可能性の確保: NCLは短期的な利益よりも長期的な持続可能性を優先する価値観を体現しています。この姿勢は、単に「どれだけ使うか」ではなく「どう責任を持って管理するか」という深い問いに答えるものです。カルダノがデジタル通貨の実験を超えて、真に持続可能な価値提供システムになるために、NCLは欠かせない基盤となります。

世代間の公平性: NCLの設定は、「現在のステークホルダー」と「将来のステークホルダー」の間の公平性を確保する試みでもあります。まだ参加していない未来のコミュニティメンバーにも配慮した意思決定は、カルダノが目指す「百年単位で考える」という長期的視野を具現化するものです。

アダプティブガバナンスの一歩: NCLは固定されたルールではなく、エコシステムの成長と共に進化する適応的なパラメータです。この「学習と適応のプロセス」自体が、カルダノの「証拠に基づき継続的に進化する」という哲学の実践となっています。

コミュニティ主導のガバナンスの可能性

カルダノのNCL設定プロセスは、コミュニティ主導のガバナンスの可能性と課題を鮮明に示しています。

「分散化された知恵」の力: カルダノコミュニティには、金融の専門家、開発者、学者、起業家など、様々な背景と専門知識を持つメンバーが存在します。NCL議論を通じて、こうした分散化された知恵が一つの決定に集約されていく過程は、集合知の力を示す好例です。誰一人として「絶対的に正しい答え」を持っていなくても、透明で証拠に基づいた議論を通じて、より良い解決策に近づくことができます。

新しい民主主義の実験場: カルダノのガバナンスは、「1人1票」ではなく「1 ADA = 1票の委任権」という原則に基づいています。この仕組みは、「経済的なステークに比例した発言権」という新しい民主主義の形を提示しています。NCL決定プロセスを通じて、この仕組みがどれだけ効果的かつ公正に機能するかが試されています。

透明性の新たな標準: すべての提案や議論がオンチェーンで記録され、誰でもアクセスできるという透明性のレベルは、従来の組織やガバナンス体制では考えられなかったものです。NCLのような重要な決定が、この透明性の中で行われることは、新たな組織運営の標準を作り出しています。

グローバルな参加の実現: カルダノのコミュニティは地理的・文化的に極めて多様です。NCL議論には世界中からの視点が含まれ、真にグローバルな意思決定プロセスが実現しています。これは、インターネットとブロックチェーンが可能にした「国境なきガバナンス」の姿を示しています。

SPOとDRepとしての視点

カルダノのエコシステムにおいて、ステークプールオペレーター(SPO)とDRepは特に重要な役割を担っています。両者の視点からNCLを考えることで、より多角的な理解が可能になります。

SPOの視点: 私たちSPOにとって、NCLはエコシステムの健全性と直結する問題です。SPOはカルダノネットワークのセキュリティと分散性を支える重要な役割を担っていますが、その経済的持続可能性はADAの価値に依存しています。

NCLが過度に高く設定され、市場に大量のADAが流入すれば、価格に下落圧力がかかる可能性があります。これはSPO報酬の実質価値を低下させ、長期的にはネットワークの分散性を損なうリスクがあります。一方で、NCLが低すぎれば、エコシステムの成長が停滞し、長期的にはネットワークの価値そのものが低下する恐れもあります。

SPOとしては、「適切なバランス」に基づくNCL設定が最も望ましいと考えられます。それは単にADA価格を守るためではなく、カルダノエコシステム全体の持続可能な成長を確保するためです。

DRepの視点: DRepとしての立場は、委任者の利益を代表しつつも、エコシステム全体の健全性を考慮するという難しいバランスを求められます。NCLの設定において、DRepは以下のような複合的な視点から判断することが求められます:

  1. 委任者の多様な意見の反映:委任者には短期的な価格上昇を期待する人もいれば、長期的な技術発展を優先する人もいます。
  2. 技術的な理解と判断:NCL提案の背後にある技術的・経済的分析を理解し、その妥当性を評価する能力。
  3. 長期的な視野:個別の提案だけでなく、カルダノの長期的なビジョンとの整合性を考慮。
  4. 説明責任の自覚:自らの投票決定について、委任者に対して明確に説明できる準備。

これらの観点から、DRepはNCL決定において単なる「票の集約者」ではなく、真の意味での「代表者」としての役割を果たすことが期待されています。

SPOかつDRepとしての統合的視点: 私のように、SPOとDRepの両方の役割を担う者は、特に独自の視点を持つことになります。ネットワークの技術的な健全性、経済的な持続可能性、そしてガバナンスの公正さを同時に考慮する必要があるからです。

この統合的な視点からは、NCLは「技術的要素」と「社会的合意」が交差する領域であることが鮮明に見えてきます。最適なNCLは、単純な数学的計算や経済モデルだけでは決定できず、コミュニティの価値観と長期的なビジョンをも反映したものであるべきです。


カルダノは今、「実験的プロジェクト」から「実用的なブロックチェーンインフラ」へと進化する重要な段階にあります。NCLの設定はその進化の一部であり、私たちが「共有の資源をどう管理するか」という古くて新しい問いに対して、ブロックチェーン時代の答えを模索する過程です。

このプロセスは完璧ではなく、常に学びと改善の連続ですが、それこそがカルダノの「証拠に基づき、段階的に進化する」というアプローチの本質です。NCLという「共有財産の管理ルール」を通じて、私たちは単なる暗号資産を超えた、真の意味での「分散型自律組織」の構築に参加しているのです。

この壮大な実験の結果が、ブロックチェーンだけでなく、より広い社会組織のあり方にも影響を与える可能性があります。私たちは今、その歴史的な一歩を踏み出しているのです。

付録1:カルダノのNCL提案に対する投票選択肢の分析

2つの提案に対する投票オプションの意味

現在、カルダノコミュニティには2つのNCL提案が提出されています。

  1. 予算委員会案: 2025年の上限を3億5000万ADA
  2. コミュニティ提案: 2025年の上限を3億ADA、2026年の上限を2億5000万ADA

これらの提案に対する賛成、棄権、反対票を投じることの意味を分析してみましょう。

賛成票の意味

予算委員会案に賛成する場合:

  • 2025年の財務支出として最大3億5000万ADAを認める
  • 前年の財務流入に基づくNCL設定アプローチを支持する
  • 比較的柔軟な予算枠を確保し、エコシステム発展を重視する姿勢を示す
  • 単年度のみの設定を支持し、翌年は状況に応じて再評価する柔軟性を支持

コミュニティ提案に賛成する場合:

  • 2025年は3億ADA、2026年は2億5000万ADAの上限を認める
  • より保守的な財務管理アプローチを支持する
  • 2年連続での設定を支持し、長期的な予測可能性を重視する姿勢を示す
  • 財務残高の徐々の増加を志向する方針に賛同する
棄権の意味

いずれかの提案で棄権する場合:

  • その提案に対して特に強い賛否の意見を持たない
  • 他のDRepの判断に委ねる
  • 情報不足や判断材料の不確実性から決断を保留する
  • 投票結果が自分の委任者の利益に大きく影響しないと判断している

特に注意すべき点は、カルダノのガバナンスでは、棄権票は投票に参加した総票数から除外されるため、実質的な賛成率・反対率の計算に影響します。つまり、棄権は「意思表示の放棄」ではなく、多数決の母数から自分の票を除外する効果があります。

反対票の意味

予算委員会案に反対する場合:

  • 3億5000万ADAという上限が高すぎると判断している
  • あるいは逆に、上限が不十分で低すぎると判断している
  • 単年度のみの設定という方針に反対している
  • 予算委員会のアプローチや分析手法に疑問を持っている

コミュニティ提案に反対する場合:

  • 提案されている上限が現実的でないと判断している
  • 2年分のNCLを同時に設定することに懸念がある
  • より高い(あるいは低い)上限を望んでいる
  • コミュニティ主導の提案プロセスに懸念がある
両方の提案に対する投票の組み合わせ分析

両方に賛成票を投じる場合:

  • NCLの設定自体を支持し、具体的な数値については柔軟な姿勢を示す
  • いずれの案も受け入れ可能と判断している
  • 最も早く合意形成ができる案を前進させたいという意思表示

両方に反対票を投じる場合:

  • 両提案とも現実的でないと判断している
  • 別の代替案(例:より高いNCL、またはより低いNCL)を望んでいる
  • NCL設定のプロセス自体に懸念がある
  • 財務管理に関する根本的に異なるアプローチを望んでいる

予算委員会案に賛成、コミュニティ提案に反対の場合:

  • より柔軟で高めのNCLを支持している
  • 単年度設定のアプローチを支持している
  • コミュニティ提案の保守的な姿勢に反対している

コミュニティ提案に賛成、予算委員会案に反対の場合:

  • より保守的で低めのNCLを支持している
  • 2年分の設定による予測可能性を重視している
  • 予算委員会案の柔軟性や金額設定に懸念がある
戦略的な投票の考慮事項

DRepとしての投票を検討する際には、以下の点も考慮する必要があります:

  1. 複数提案間の優先順位:
    • 両方の提案が可決閾値(おそらく67%)を超えた場合、ガバナンスIDの若い提案が優先されるというルールがある可能性があります。
  2. コミュニティの合意形成:
    • 新しいガバナンスシステムの初期段階では、提案内容の正確さだけでなく、健全な合意形成プロセスを確立することも重要です。
  3. 将来の提案への影響:
    • 現在の投票行動は、将来のNCL提案や他のガバナンス提案に対するコミュニティの期待形成に影響します。
  4. 委任者の意向反映:
    • DRepとして委任者の利益と意向をどう解釈し、反映させるかの検討が必要です。
まとめ

NCL提案への投票は単なる数字の選択ではなく、カルダノの財政哲学と将来の方向性に関する重要な意思表示です。DRepは委任者の利益、エコシステムの健全性、そして自らの分析と価値判断を総合的に考慮して投票することが求められます。

最も重要なのは、どの選択肢を選んだとしても、その理由を明確に説明できることです。透明性のある意思決定プロセスは、カルダノガバナンスの信頼性と持続可能性の基盤となります。


付録2:カルダノ準備金の未来:ADAを超えた財務運用と分散型資本戦略の可能性

カルダノは、分散型公共財としてのトレジャリーを備えた数少ないブロックチェーンの一つです。2025年現在、約17億ADAという膨大な財務資産を蓄えながらも、そのすべてがADAのみで構成されているというのが現状です。

しかし、今後のエコシステムの拡大や国際的な展開を見据えたとき、「準備金のあり方」そのものが新たな課題として浮上してきます。本付録2では、カルダノトレジャリーの未来を「準備金とその運用」という視点から捉え直し、持続可能で柔軟性のある分散型資本管理の可能性を簡単に探ります

1. 準備金の多様化:ADA以外の暗号資産の保有

現時点では、カルダノの財務準備金は100% ADAで構成されています。しかし、暗号資産市場のボラティリティを考慮すると、単一資産での保有にはリスクも伴います。

今後の議論として想定されるのが、BTC(ビットコイン)やETH(イーサリアム)といった主要暗号資産の導入です。これにより、価格変動リスクを分散できるだけでなく、暗号資産経済圏との接続性を高めることが可能となります。

また、ステーブルコイン(例:USDA、USDM、Djed etc..)の保有は、購買力の安定性を強化するうえで有効です。特にUSDA、USDMのようにカルダノ上で発行されるステーブルコインであれば、チェーン内の流動性確保と価値保存を同時に実現できる可能性があります。

さらに、カルダノネイティブトークンによる分散投資も有望です。例えば、エコシステム内で認知度やユーティリティのあるプロジェクトトークン(例:Min、LQ、iUSD、Sundae、)を限定的に保有することで、Cardano経済圏の成長に資本として参加する構造が考えられます。

2. 余剰ADAの戦略的運用

現在、トレジャリーに蓄積されたADAの多くは「未使用状態」にあります。そこで注目されているのが、余剰ADAの戦略的な活用です。

まず有望なのが、自己ステーキングです。ガード付きのスマートコントラクトを用いて、Cardanoトレジャリーが自らステーキングを行うことで、年間2〜3%程度の利回りが期待でき、準備金を減らすことなく運用益を得られます。

次に、トークン担保型のレンディングという選択肢もあります。たとえば、DAOやDApp運営者に対して保証付きで一定量のADAを貸し出すことで、金利収入を得ながらエコシステムの拡大も支援できるという構造です。ただし、これは非常に慎重なリスク評価と返済管理の仕組みが前提となります。

また、インフレヘッジ型の運用戦略──たとえばドル連動資産や商品型ステーブル資産の導入──も、法定通貨建てでの価値保存を補完する可能性があります。

3. 準備金と運用の分離管理

現実の公共財管理と同様、Cardanoにおいても「使うための資金」と「守るための資金」を分けて考えるべき時期に来ているのかもしれません。

その一例が、短期流動性資金(支出用)と長期準備金(備蓄・運用用)の分離です。これにより、トレジャリー全体の健全性を保ちながら、必要な資金供給と資産保全を両立できます。

この運用にあたっては、サンティアゴ原則に基づいたガイドライン(目的明確性、透明性、リスク管理など)と、分散型ガバナンス設計(マルチシグ+ステーク連動投票)による仕組みが求められます。

さらに、オラクルとの連携により、時価ベースでの資産評価や価格アラートを活用することで、準備金のリアルタイム管理とアクティブ対応が可能になるでしょう。

4. NCLとの連携:準備金管理と予算上限の整合性

NCL(ネット・チェンジ・リミット)と準備金運用は、本来密接に関連しています。今後の重要な論点は、運用益をNCLのベースラインに含めるか否かという点です。

たとえば、350M ADAのNCLが設定されていても、そのうち50M ADAが準備金運用による利回りで得られたものであれば、実質的な支出圧力を軽減しつつ予算配分が可能になります。

さらに、運用益の全額を再投資して複利成長を図る「長期志向」と、一部を短期的支出に回す「即応性重視」の間で、最適なバランスを設計することが求められます

この点においても、Cardanoが持つ透明性・分散性・ガバナンス構造は、制度的連動を柔軟に実装できるポテンシャルを有しています。

5. 制度設計・実装に関わるコミュニティの役割

準備金の運用は、単なる技術的・経済的課題ではなく、ガバナンス上の制度的課題でもあります。

まず、現行のCardano憲法においては、資産運用のあり方に関する明確な規定が存在していません。今後、準備金の運用原則や資産クラスの明示を盛り込んだ憲法改正(または追加ガイドライン)が必要になる可能性があります。

また、DRepやIntersectの委員会がどのような形で準備金の監視・助言・執行判断に関わるのかという点も、制度設計上の焦点です。

そして将来的には、準備金自体をDAO的にガバナンスする仕組み──たとえば「Reserve DAO」や「Cardano Investment Collective」といった仮想組織──を形成し、投資戦略・保守性・リスク許容度の意思決定をコミュニティが担うという道も考えられるでしょう。

終わりに

「カルダノ準備金の未来」は、単に資産を守るという視点だけでなく、「Cardano経済圏がどのような原則と責任を持って運営されるか」という価値設計の問題でもあります。

分散型の公共財がどのように管理されるべきか。資産の多様性と信頼性をいかに両立させるか。Cardanoはその問いに、オンチェーンという透明で実験可能な場を用いて、世界に新しい選択肢を提示しようとしています。

準備金は「守りの資本」であると同時に、「次世代への投資の原資」でもあります。だからこそ、私たちは今、その活かし方を真剣に考えるべきタイミングに来ているのです。

参考記事:「Understanding Cardano’s Net Change Limit: Balancing Ecosystem Growth and Monetary Stability

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