NSS2025という地図:AIとブロックチェーンが再起動する金融秩序

0. プロローグ|静かに進む“再起動”
本稿は、NSS2025を手がかりに、2026年の世界秩序と金融秩序を読み解く試みです。
世界は、かつてないほど混乱しているように見えます。
戦争、地政学的対立、インフレと金融不安、分断される国際社会──。ニュースを追うほどに、「世界秩序は崩壊しつつある」という印象を抱く人も少なくないでしょう。
今後これがもっと加速し、これまでの制度や常識が徹底的に破壊される可能性は否定できません。つまり今起きているこれこそが歴史的大転換の渦中になるかもしれないというわけです。
しかし、本当に起きているのは“崩壊”なのでしょうか。
少し視点を引いて俯瞰すると、むしろ逆の光景が浮かび上がります。混乱の背後で、世界秩序は静かに、しかし意図的に再設計されている。そう捉えたほうが、今の動きをより正確に理解できるように思われます。
重要なのは、この再設計が偶発的に起きているのではない、という点です。そこには明確な思想と構造があり、その“地図”として機能している文書が存在します。それが、「National Security Strategy of the United States of America(2025年11月)」、いわゆる NSS2025 です。
NSS2025は、単なる安全保障政策の羅列ではありません。軍事、外交、経済、金融、技術を一体のものとして捉え、次の世界秩序と金融秩序をどう構築するのかを示した、包括的な設計図だと読むことができます。特に注目すべきは、金融や資本市場、そしてAIやブロックチェーンといった技術が、国家安全保障の中核に据えられている点です。
本稿「エポックな日々609」では、このNSS2025という地図を手がかりに、いま世界で何が起きているのか、そして私たちが直面しつつあるAIとブロックチェーンを基盤とした新しい金融秩序への“再起動”とは何なのかを読み解いていきます。混乱の時代に見える現象の奥にある、静かに進む構造変化。その輪郭を、一緒に整理していきましょう。
1. NSS 2025という“地図”
NSS2025を読み進めてまず感じるのは、これがもはや従来型の「安全保障文書」ではない、という点です。軍事戦略や同盟政策を中心に据えた過去のNSSとは異なり、2025年版は世界秩序と金融秩序を同時に描く統合的な設計図として構成されています。
この文書の特徴は、軍事・外交・経済・金融・技術を、個別の政策分野としてではなく、一つの戦略体系として束ねているところにあります。安全保障は軍事力だけで担保されるものではなく、経済構造、金融システム、技術基盤を含めた総合力によって成立する──その前提が、文書全体を貫いています。
NSS2025の中で繰り返し強調されるキーワードの一つが、
「経済安全保障=国家安全保障」 という考え方です。
サプライチェーン、エネルギー、重要鉱物、産業基盤といった経済的要素は、もはや成長戦略の話ではなく、国家の生存と競争力を左右する安全保障課題として扱われています。これは、国家間競争の主戦場が、戦場から市場や供給網へと移行している現実を、そのまま反映したものだと言えるでしょう。
さらに踏み込んでいるのが、金融と資本市場の位置づけです。NSS2025では、金融システムや資本市場が「国家のレバレッジ」、すなわち影響力を行使するための中核的な手段として明確に認識されています。通貨、決済、資本の流れをどう設計し、どう管理するかは、軍事同盟と同じくらい重要な戦略テーマになっています。金融はもはや中立的なインフラではなく、秩序を形づくる力そのものとして捉えられているのです。
この文脈で登場するのが、デジタル金融とイノベーションです。NSS2025は、金融秩序を維持・進化させる手段として、デジタル技術を積極的に組み込む姿勢を示しています。AIによる市場監視やリスク管理、デジタル化された決済や資本市場、さらには暗号資産やブロックチェーンといった技術も、排除の対象ではなく、「どのように組み込むか」が問われる段階に入っています。
では、なぜ金融がここまで国家安全保障の中核に置かれたのでしょうか。背景にあるのは、覇権競争の形そのものが変質したという認識です。軍事力の直接衝突よりも、金融制裁、資本市場へのアクセス、通貨の信認、技術標準の主導権といった要素が、国家の運命を左右する時代になりました。金融秩序を制することは、戦わずして秩序を設計することに等しい──NSS2025は、その現実を率直に受け入れた文書だと言えます。
つまりNSS2025とは、
「どの国が、どの市場に、どのルールで参加できるのか」
「その配管を誰が設計し、誰が管理するのか」
を描いた地図なのです。
この地図を手にすると、世界で起きている個々の出来事──資源をめぐる動き、通商摩擦、金融政策、技術規制──が、無秩序な混乱ではなく、一つの方向性を持った再設計のプロセスとして見えてきます。次章では、この設計図が2026年に入ってから、どのように現実の行動として現れているのかを具体的に見ていきます。
2. 2026年に顕在化した現実|設計図はどう実装されたか――「NSSの思想 → 行動 → 世界秩序の変質」で読む
これらの出来事の背後には、もう一つ重要な前提がある。
米国はもはや世界全体を自らのテリトリーとして管理しようとしていない。
NSS2025が示しているのは、西半球を中核とした覇権の再定義である。
ここでは、個々のニュースを“事件”としてではなく、NSS2025の設計思想が現実に実装されていくプロセスとして整理します。結論から言うと、いま起きているのは「偶発的な混乱」ではなく、資源・回廊(チョークポイント)・要衝(key terrain)・金融配管をめぐる再配線です。
2-1. ベネズエラ:資源×金融×制裁
結論:ベネズエラは政権問題ではなく、資源と金融配管の再設計として扱われている。
NSSの思想
- 経済安全保障=国家安全保障
- エネルギー・資源は、単なる経済問題ではなく国家戦略の中核(供給網と価格、同盟の結束、敵対国の資金源遮断に直結)
行動(2026の顕在化)
- ダボス演説で、米国がベネズエラから「50 million barrels」を確保したと明言し、協力関係の枠組みを示唆しています。ここで重要なのは「内政批判」よりも、資源フローを“再接続”する語りになっている点です。
世界秩序の変質
- ベネズエラは「政治問題」ではなく、資源と収益フロー(=金融配管)の主導権として再定義されます。
- 制裁とは“罰”というより、資源・決済・取引相手を含めて、配管のバルブを誰が握るかの争いに変わっていく。
- 結果として「資源国の主権」より「資源の配線図(誰に流すか)」が秩序を決める比重が高まります。
2-2. パナマ運河:チョークポイントという現実
NSSの思想
- 供給網・通商路・要衝は“経済”ではなく安全保障インフラ
- 同盟と経済圏は、理念よりも機能(アクセス・物流・兵站・市場)で束ね直される
行動(2026の顕在化)
- パナマ運河は「物流効率」ではなく、通過・迂回・遮断が世界の価格と安全保障を左右する回廊として扱われ始めます。
世界秩序の変質
- 運河は「貿易の便利装置」から、秩序の配管(誰が通れて誰が通れないか)へ格上げされます。
- その結果、世界は“自由貿易の平面”ではなく、回廊をめぐる立体(要衝を押さえた側が優位)として再編されます。
2-3. グリーンランド:同盟摩擦を許容する戦略
NSSの思想
- 西半球・北極圏など、地理的要衝は戦略的な前提条件
- 同盟は価値だけでなく負担・能力・実利で再設計される(同盟国にも「守れないなら再編」の圧がかかる)
行動(2026の顕在化)
- ダボス演説で、トランプ大統領はグリーンランドを“core national security interest”と位置づけ、米国による取得交渉に言及しています。
- 重要なのは「資源(鉱物)」よりも、米国・ロシア・中国の間に位置する戦略地政学として語っている点です。これについてはベネズエラやパナマ運河についても同じことが言えるでしょう。
世界秩序の変質
- ここで起きているのは、「同盟の絆」よりも「要衝の確保」が優先されうる、という現実の表面化です。
- つまり、同盟は“道徳”ではなく、要衝防衛の契約に近づいていく。
- これは秩序のルールが「理念中心」から「地理・ミサイル・通信・監視・回廊中心」へ移ることを示します。
2-4. 中東(イラン/ガザ):紛争の裏で進む「枠組みの再編」
NSSの思想
- “秩序”は国連的な普遍制度だけで維持できない。現実には、地域・同盟・取引で組み直される
- 紛争は「軍事」だけではなく、エネルギー、海上交通、金融制裁、資本の流れに直結する“総合戦”
行動(2026の顕在化)
- ダボス演説の中では、イラン関連について「核の脅威を排除した」旨の言及があり、軍事行動が“地域秩序の設計”と結びつけられて語られています。
- さらに、ガザの和平会議が「第二の国連になり得る」といった見立てが出てくるのは、既存の国際制度では処理しきれない案件を、別の枠組み(新しい多国間)で処理しようとする動きが強まっているからです(このスレッドの問題意識)。
世界秩序の変質
- 重要なのは「停戦するかどうか」だけではなく、紛争を処理する“制度そのもの”が増殖・競合し始めることです。
- 国連中心の単一秩序から、地域会議・同盟連携・資源連合・金融制裁ネットワークが並走する多層秩序へ。
- その多層化が、資源価格・物流回廊・通貨フローに波及し、金融再起動の“必然条件”(安全な市場=統制できる市場)を押し上げます。
2-5. ダボス会議:エリートの言葉が示す「金融・AI・地政学の接続」
NSSの思想
- 経済安全保障=国家安全保障
- デジタル金融とイノベーションは覇権維持の手段
- 技術(AI)・エネルギー・資本市場を結び、競争力を固定する
行動(2026の顕在化)
ダボス演説には、この連結がそのまま出ています。特に象徴的なのは次の3点です。
- AIとエネルギー AI主導のために電力・発電能力を増強し、企業に“自前電源”まで許容する発想を語っています。これはAIを「民間の流行」ではなく、国家競争力の中枢に置く姿勢です。
- ベネズエラと資源フロー 資源確保を、外交・通商・国内価格(ガソリン)と一体で語り、エネルギーを安全保障の中心に据えています。
- 暗号資産を“国家戦略インフラ”として言語化 「米国が世界のクリプト・キャピタルであり続ける」と述べ、GENIUS Act(ステーブルコイン規制)成立や、市場構造法案への署名意欲、そして理由として「中国に主導権を渡さない」を挙げています。 これは“放任”でも“排除”でもなく、制度化して取り込むという宣言に近い内容です。
世界秩序の変質
- ダボスでの言語化は、単なる演説ではなく「何を正当化し、何を制度化するか」の合図になります。
- ここで秩序は、「自由市場」から「安全な市場(=管理可能で、AIで監視・防衛でき、制度設計で囲い込める市場)」へと定義が変わる。
- 暗号資産はその中で、国家にとっての競争領域(対中)かつ金融配管の部品として組み込まれていく――という方向が、明確に輪郭化したと言えます。
小結:6つの出来事を一本の因果でつなぐと
- NSSの思想:経済・金融・技術(AI/デジタル金融)を安全保障の中心に置き、資源・回廊・要衝を押さえて秩序を設計する
- 行動:資源(ベネズエラ)、回廊(パナマ運河)、要衝(グリーンランド)、紛争処理の枠組み(中東)、制度化(ダボスでの“暗号資産=国家戦略”言語化)
- 秩序の変質:世界は“理念の単一秩序”から、“配管(資源・決済・回廊・データ)を握る側が強い多層秩序”へ移行する
補論|なぜ米国は「西半球」を自分のテリトリーとして再定義し始めたのか

結論(先に要点)
NSS2025の背後には、
「欧州・NATO中心の秩序を支え続けるコストが、もはや覇権維持に見合わない」
という冷徹な認識があります。
その結果、米国は
- 世界の“警察官” から
- 西半球を中核とする覇権ブロックの設計者 へと、役割を切り替えつつあります。
1. NSS2025における決定的な前提転換
NSS2025を通底する前提は、次の一点です。
米国の資源・金融・軍事・技術を、
すべての地域に等しく配分する時代は終わった
これは理念ではなく、持続可能性の問題です。
- 欧州防衛(ウクライナ含む)
- NATOの集団安全保障
- 中東の秩序維持
- インド太平洋での対中抑止
これらを同時に、従来の規模感で維持するのは不可能だ、という判断が透けて見えます。
だからNSS2025は、
- 優先順位をつける
- テリトリーを再定義する
- 守る範囲を明確にする
という方向へ大きく舵を切っています。
2. 「西半球=米国のテリトリー」という発想
ここで重要なのが、西半球(Western Hemisphere)の再評価です。
NSS2025では、西半球は単なる地理概念ではなく、
- エネルギー
- 食料
- 鉱物
- 人口
- 通商路
- 金融圏
を自給可能な“完結したブロック”として再認識されています。
だからこそ起きている現象
あなたが挙げた第2章の事例は、すべてここに収斂します。
- ベネズエラ → 西半球のエネルギーを、域外(中露)に流さない
- パナマ運河 → 西半球と外部世界をつなぐ“バルブ”を米国主導で管理
- 中南米全体 → 中国の経済浸透を「金融配管」の段階で遮断
これは「帝国主義」ではなく、
覇権を維持するための最小完結圏の構築です。
3. 欧州・NATOとの「訣別」は何を意味するのか
ここで誤解しやすい点があります。
訣別=敵対、ではない
米国は欧州やNATOと敵対しているわけではありません。
ただし、
- 無条件で守る
- 米国が赤字を垂れ流す
- 欧州の政治的迷走を肩代わりする
という関係からは、明確に距離を取り始めています。
NSS2025におけるNATOの扱いは、
同盟は価値ではなく、
負担・能力・実効性で評価される
という極めて取引的なものです。
欧州が「重荷」になり始めた理由
- エネルギー自給の失敗
- 人口動態の悪化
- 財政制約
- 意思決定の遅さ
- 対中・対露での曖昧さ
これらは、金融再起動という高速な構造転換と相性が悪い。
結果として、
- 欧州=「切り捨て」ではないが
- 優先順位の外側へ
という位置づけになっていきます。
4. 第2章の出来事を「西半球戦略」で読み替えると
第2章はこう再定義できます。
2章の本当のテーマ
米国は世界を守るのではなく、
自分のテリトリーを再構築している
- ベネズエラ:西半球エネルギーの内製化
- パナマ運河:西半球の出入口管理
- グリーンランド:西半球+北極の防衛線
- 中東:関与はするが、秩序維持の主役ではない
- ダボス:欧州秩序からの精神的距離
これらはバラバラではなく、
「どこまでが米国の責任範囲か」を引き直す作業です。
5. 金融再起動との決定的な関係
この西半球重視は、金融再起動と完全に一致します。
- ドル圏を維持するには → 実体(エネルギー・食料・資源)が必要
- 実体を支えるには → 地理的に管理可能な圏域が必要
- その圏域が → 西半球
つまり、
金融再起動の土台は、
西半球という“物理的な基盤”の上に置かれている
欧州依存の金融秩序は、
エネルギー・安全保障・政治のすべてで不安定すぎる。
だから米国は、
- 金融
- 資源
- 軍事
- AI・データセンター
を自分の庭に集約し始めているのです。
余談ですが、日本の高市総理が突然衆議院解散選挙に踏み込んだ理由に「2026年1月2日のトランプ氏の電話会談」で話された内容にあるという見立てがあります。これは地政学的な変化および米国がの東半球への関与のあり方や戦略の変更があったのかも知れませんね。
3. 金融再起動(financial reboot)の正体|NSS2025が示す“配管更新”

NSS2025の文脈で言う「金融再起動」は、いわゆる危機後の“修復”とは別物です。金融危機やインフレを経て傷んだ仕組みを直す、というよりも――もっと意図的で、もっと構造的な話です。要するにこれは、覇権を維持するための金融インフラ(配管)の更新なんですよね。
危機後の修復ではない
危機後の修復とは、本来「壊れたものを元に戻す」発想です。規制強化、流動性供給、バランスシート調整、信用収縮の緩和……そういう類の話になります。
でもNSS2025が描いているのは、そこではありません。むしろ発想は逆で、次の競争環境に合わせて“仕組みそのものを作り替える”方向です。金融を「市場の結果」ではなく、「国家が戦略的に運用するレバー」として位置づけ直している。ここが最大の転換点です。
覇権維持のための“配管更新”
では「配管」とは何か。ここでいう配管は、ざっくり言えば次の束です。
- 決済・清算・国際送金(資金がどう流れるか)
- 資本市場(誰が資金調達できるか、どこに流動性が集まるか)
- 通貨・信用(何を担保に価値が成立するか)
- 規制・監督・制裁(誰を市場に入れ、誰を締め出すか)
- データと標準(何を“正しい取引”として認定するか)
NSS2025の世界観では、この配管が“覇権そのもの”です。軍事力だけで秩序を維持するのではなく、市場アクセス、流動性、決済ルール、技術標準で秩序を作る。これが「金融再起動」の正体です。
つまり、世界は「ルールに従えば繁栄できる」から、「配管に接続できる国とできない国に分かれる」へと、静かにモードが切り替わっていく。ここに新しい金融秩序の芯があります。
AIが再定義する「市場監視・安全性・レジリエンス」
ここにAIが入ってきます。AIは“便利ツール”ではなく、金融秩序の運用を根っこから変えます。
1) 市場監視:監視は「事後」から「リアルタイム」へ
これまでの市場監視は、遅れて追いつくものでした。事件が起きて、調査して、罰する。
AIが主役になると、監視は 常時・リアルタイム・予測型になります。
- 不正検知(異常な資金移動、疑わしいアドレスクラスタ)
- 市場操作の兆候検出(板・フロー・SNS・ニュースの統合解析)
- 制裁回避のネットワーク推定(ミキシングや迂回のパターン学習)
監視の精度が上がるほど、「市場の自由」は“監督可能性”を条件にして再設計されやすくなります。
2) 安全性:安全は「価格の安定」だけではなく「システム防衛」へ
ここでいう安全性は、単にボラティリティを下げるという話ではありません。サイバー、通信、クラウド、データセンター、取引所・清算機関――金融を支える全体を、攻撃されても動き続ける仕組みとして設計する方向です。
AIは、防衛側の“反射神経”を上げる役割を担います。結果として、「最も安全な市場」としての魅力を強化し、資本を引き寄せる。安全が競争力になります。
3) レジリエンス:危機対応は「人間の判断」から「自動運転」へ
レジリエンスは「壊れない」ではなく「壊れてもすぐ復旧する」です。AIが入ると、危機対応が自動化されます。
- 流動性ストレスの早期検知→自動的な資金繰り最適化
- 取引停止や清算ルールの調整のシミュレーション
- サイバー侵害時の封じ込めと復旧プロセスの半自動化
要は、金融が“国家インフラ”として、軍事に近い運用思想へ寄っていくイメージです。
暗号資産が国家戦略に組み込まれていく流れ
ここが誤解されやすいところですが、NSS2025的な金融再起動は「暗号資産を潰す」方向ではありません。むしろ、潰すのではなく、組み込む。ただし条件付きです。
- 組み込みたいもの: 規制準拠のデジタル決済、トークナイズ資産(RWA)、監査・証明、サプライチェーン証明、透明な清算
- 組み込みにくいもの: 制裁回避、所在不明な運営、監督不能な大規模匿名移転
ここで起きるのは「クリプトの勝利」ではなく、クリプトの二層化です。
制度内で伸びる領域と、制度外で締まる領域が分かれ、同時進行で市場構造が作り替えられていきます。
つまり暗号資産は、「国家から自由な通貨」という物語だけでは生き残りにくくなり、むしろ「国家戦略の金融インフラの一部」としての役割が増えていく。これがNSS2025から見た現実的な帰結です。
4. 暗号資産・ブロックチェーンの行くへ
NSS2025の視点に立つと、暗号資産やブロックチェーンをめぐる評価は、ここ数年で大きく変質していることが分かります。かつては「国家の通貨主権を脅かす存在」「規制すべき敵」として語られることが多かった暗号資産ですが、NSS2025の文脈では、もはやその位置づけは単純ではありません。
結論から言えば、暗号資産は「敵」ではなくなった。ただし同時に、「無条件に自由な存在」でもなくなった。その結果として、世界は静かに二層化へと向かっています。
暗号資産は「敵」ではなくなった
NSS2025が暗号資産を一律に排除しない理由は明確です。金融再起動の中核に据えられたのは、「金融を国家安全保障のレバーとして使いこなすこと」であり、そのためには既存の金融インフラをデジタル化・高度化する必要があります。
ブロックチェーンや暗号技術は、その目的にとって極めて有効です。
取引の即時性、清算の効率化、証明と監査の自動化、改ざん耐性、国境を越えた接続性――これらは、金融秩序をアップグレードするうえで無視できない機能です。NSS2025の世界観では、こうした技術は「潰す対象」ではなく、どう設計し、どう組み込むかが問われるインフラへと位置づけが変わっています。
言い換えれば、暗号資産はもはや体制外から秩序を壊す存在ではなく、秩序そのものを更新するための道具の一部になりつつある、ということです。
それでも「無条件に自由」ではない理由
ただし、この変化をもって「暗号資産の全面勝利」と捉えるのは誤解です。NSS2025が前提としているのは、金融の自由よりも、金融の管理可能性と安全性です。金融は国家安全保障の中核に置かれた以上、無制限で監督不能な価値移転が許容される余地は狭まります。
国家の視点から見れば、次のような問いが常につきまといます。
- 誰がこの金融インフラを運営しているのか
- 資金はどこから来て、どこへ流れているのか
- 制裁や規制を回避する手段になっていないか
- 危機時に止められるのか、回復できるのか
これらに答えられない仕組みは、「技術的に優れている」だけでは採用されにくくなります。つまり、暗号資産が国家戦略に組み込まれる条件として、監督可能性、説明可能性、制御可能性が強く求められるようになるのです。
世界は二層化する
この結果として進むのが、暗号資産・ブロックチェーンの二層化です。
一つは、制度内デジタル金融の層です。
ここには、規制に適合し、国家や既存金融と接続できる暗号資産やブロックチェーンが位置づけられます。デジタル決済、トークナイズ資産、監査・証明、サプライチェーン管理など、金融再起動の目的に合致する用途が中心になります。この層では、ブロックチェーンは「革新的であること」よりも、「安全で信頼できること」が評価軸になります。
もう一つは、制度外クリプトの層です。
高い匿名性、運営主体の不透明さ、監督不能な大規模価値移転といった特徴を持つ領域は、引き続き体制外に位置づけられます。この層が完全に消えるわけではありませんが、NSS2025的な秩序の中では、主流の金融インフラになる可能性は低下していきます。
重要なのは、どちらが「正しい」という話ではない点です。国家が設計する金融秩序の中で拡大する領域と、体制の外に留まり続ける領域が、役割を分けながら併存する。それが、NSS2025が前提とする暗号資産・ブロックチェーンの未来像だと言えるでしょう。
NSS2025の視点から見た暗号資産の行くへは、自由か統制かという二択ではありません。
秩序に組み込まれる自由と、秩序の外に残る自由が分岐していく。
この静かな分岐こそが、金融再起動の時代における暗号資産・ブロックチェーンの現実なのです。
5. BTC・ETH・ADA・Midnightの未来――次の世界秩序・金融秩序における立ち位置の比較分析
NSS2025が描く世界では、暗号資産・ブロックチェーンは一枚岩ではありません。
「金融再起動」という国家戦略の文脈に照らすと、それぞれが異なる役割・異なる緊張関係を持ちながら配置されていきます。ここでは、ビットコイン、イーサリアム、カルダノ、ミッドナイトを、同じ物差しで比較していきます。
5-1. ビットコイン
非国家的準備資産という立ち位置/エネルギーと政治の交差点
ビットコインは、NSS2025の世界観においても特異な存在です。国家が設計する金融秩序の中枢に組み込まれるというより、国家の外側に存在する準備的資産としての役割を強めています。
- NSSとの整合性 ビットコインは国家通貨や金融システムの代替というより、「信用の外部化装置」として位置づけられやすい存在です。ドルの基軸性を直接置き換える存在ではない限り、一定の共存余地があります。
- 金融再起動との関係 金融再起動が「配管更新」である以上、ビットコインは配管の外側に置かれた“圧力計”のような役割を果たします。金融システムへの信認が揺らぐ局面で価値を持つ一方、制度内の主役にはなりにくい。
- 制度内/制度外 本体は制度外にありますが、取引・保管・ETFなどの周辺は制度内に吸収されつつあります。中身は制度外、外枠は制度内、という二重構造が進みやすいと言えます。
- 強み・制約・将来の役割 最大の強みは非国家性と検閲耐性です。一方で、エネルギー問題が常に政治と結びつき、PoWをどう評価するかは国家戦略と切り離せません。将来的には、「デジタル金」に近い役割で、体制の外から秩序を補完する存在に落ち着く可能性が高いでしょう。
5-2. イーサリアム
トークナイズ資本市場の中核候補/規制との緊張関係
イーサリアムは、NSS2025が志向する「デジタル金融による金融再起動」と最も直接的に接続し得るプラットフォームです。
- NSSとの整合性 スマートコントラクトを基盤とした資産発行、清算、決済の自動化は、資本市場の効率化という国家目標と親和的です。特にトークナイズ資産(RWA)の文脈では、中核候補と見なされやすい立場にあります。
- 金融再起動との関係 イーサリアムは「配管の上で動くアプリケーション層」として、金融再起動の実装役になり得ます。市場をより流動的に、より可視化する役割が期待されます。
- 制度内/制度外 技術的には中立ですが、利用形態によって評価が大きく分かれます。制度内用途(トークナイズ、清算)と、制度外用途(無許可DeFi、匿名性強化)が同居するため、常に規制との緊張関係を抱えます。
- 強み・制約・将来の役割 強みは開発者エコシステムと実装実績です。一方で、規制が強まるほど、どこまで自由度を保てるかが課題になります。将来像としては、「制度内デジタル金融の実装基盤」として使われる部分と、体制外の実験場として残る部分に分岐していく可能性があります。
5-3. カルダノ
予測可能性・ガバナンス・制度適合/実需インフラとしての可能性
カルダノは、NSS2025的な金融秩序と比較的摩擦が少ない設計思想を持つチェーンです。
- NSSとの整合性 ガバナンス、検証重視の開発姿勢、長期運用を前提とした設計は、「安全で信頼できる市場」を重視するNSSの価値観と親和的です。
- 金融再起動との関係 金融再起動が求めるのはスピードだけではなく、予測可能性と持続性です。その意味でカルダノは、実需インフラとしての採用余地を持ちます。
- 制度内/制度外 完全に制度内ではありませんが、制度適合を前提に設計を拡張しやすい位置にあります。国家や企業が長期利用するインフラとしての接続が想定しやすい点が特徴です。
- 強み・制約・将来の役割 強みはガバナンスと形式的な安全性。一方で、エコシステムの拡張速度は慎重です。将来的には、「静かに使われる基盤」として、表に出にくいが重要な役割を担う可能性があります。
5-4. ミッドナイト
監督可能なプライバシーという新領域/NSS世界観との高い親和性と条件
ミッドナイトは、NSS2025が直面している矛盾――「プライバシーと監督をどう両立させるか」――に正面から向き合う存在です。
- NSSとの整合性 完全な匿名性ではなく、正当性を証明できるプライバシーという考え方は、国家安全保障と高い親和性を持ちます。情報を秘匿しつつ、必要に応じて説明可能であることが重視される文脈に合致します。
- 金融再起動との関係 金融再起動において、企業秘密や個人情報を守りながら取引を行う仕組みは不可欠です。ミッドナイトは、その「制度内プライバシー」の実験場になり得ます。
- 制度内/制度外 設計次第で制度内に入り得る一方、条件を満たさなければ制度外に追いやられるリスクもあります。最も評価が分かれやすいポジションです。
- 強み・制約・将来の役割 強みは、ZKを用いた新しい秩序設計の可能性です。制約は、監督可能性をどこまで具体化できるかにあります。成功すれば、「次世代金融の裏方インフラ」として重要な役割を担う可能性があります。
小結
NSS2025の世界では、
- ビットコインは体制外から秩序を補完する資産
- イーサリアムは制度内金融の実装基盤候補
- カルダノは長期安定型の実需インフラ
- ミッドナイトは監督可能なプライバシーという未踏領域
として、それぞれ異なる場所に配置されていきます。
次章では、これらを踏まえたうえで、「今、私たちはどの地図の上に立っているのか」を改めて整理していきます。
6. 結論|一枚の地図として

ここまでの議論を踏まえると、私たちが見てきたニュースの多くは、もはや「偶発的な事件」ではありません。
ここまで見てきたように、いま世界で起きている出来事を一つひとつ切り取ると、混乱や分断、衝突ばかりが目に入ります。資源をめぐる対立、地政学的緊張、金融不安、技術をめぐる規制の強化。表層だけを見れば、「世界秩序は崩れつつある」と感じてしまうのも無理はありません。
しかし、NSS2025という視点から全体を俯瞰すると、違う風景が浮かび上がってきます。世界は無秩序に壊れているのではなく、意図をもって再設計されている。軍事、外交、経済、金融、技術を分断せず、一つの戦略体系として組み直す動きが、静かに、しかし確実に進んでいます。
金融はその中心に据えられました。ドル、資本市場、デジタル金融を軸とした“配管”を更新し、AIによって市場監視、安全性、レジリエンスを再定義する。これは危機対応ではなく、次の秩序を前提にした金融再起動です。金融はもはや結果ではなく、秩序を形づくる手段そのものになりました。
その中で、暗号資産とブロックチェーンも位置づけを変えています。かつてのように「体制の敵」として一括りにされる時代は終わりつつあります。一方で、無条件の自由が許される段階でもありません。制度内と制度外が分かれ、役割を分担しながら併存する──そんな二層構造が形になり始めています。
ビットコインは体制の外側から秩序を補完する資産として存在感を保ち、イーサリアムは制度内デジタル金融の実装基盤として試され、カルダノは予測可能性とガバナンスを武器に実需インフラを目指し、ミッドナイトは監督可能なプライバシーという新しい領域に挑んでいる。それぞれが、同じ地図の異なる地点に配置されつつあります。
この一連の動きをつなぐ「一枚の地図」が、NSS2025です。
それは声高に宣言される革命の設計図ではなく、静かに共有され、現実の政策と行動に落とし込まれていく地図です。だからこそ、気づかぬうちに世界は書き換えられていきます。
世界は崩壊しているのではありません。
再起動しているのです。
そして暗号資産とブロックチェーンは、その再起動された世界の中で、秩序の外側から消えていくのではなく、新しい金融秩序の配管の一部として、すでに組み込まれ始めている。
いま私たちが立っているのは、混乱の真っただ中ではなく、次の秩序へ向かう地図の上なのだ――本稿が、そのことを読み解く手がかりになれば幸いです。
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