🧠Ouroboros Leiosとは何か?
2025年4月17日IOGは記事「Advancing Ouroboros: Leios as the next leap in scalability」を公開し、Leiosの設計思想、技術的構造、そしてカルダノにもたらすインパクトを詳しく解説しています。
カルダノのスケーラビリティを飛躍的に進化させる次世代プロトコルの全貌
2025年、カルダノは「完全なコミュニティガバナンス」体制への移行とともに、本格的なグローバル拡張フェーズへと突入しています。このような中、Input Output Global(IOG)が発表した最新研究「Ouroboros Leios(ウロボロス・レイオス)」は、カルダノのスケーラビリティ問題に抜本的な解決をもたらす可能性を秘めた、画期的なプロトコルです。
🔍 Leiosとは?:Ouroborosの進化形
Leiosは、カルダノのコンセンサスアルゴリズム「Ouroboros」シリーズの最新進化形であり、セキュリティや分散性といった基本特性を維持しながら、「桁違いのスループット向上」と「並列処理の実現」を可能にする次世代設計です。
従来のPraosでは、平均20秒ごとに1ブロックが生成されますが、その間のリソースの大部分がアイドル状態にあり、スループット向上には限界がありました。Leiosはこれを打破し、より多くの処理を同時並行で行える構造へ再設計されています。
⚙ 3階層構造が可能にする「真の並列処理」
Leiosでは、ブロックチェーンを3種類のブロックに機能分離することで、これまで不可能だった並行処理を可能にします。
ブロック種類 | 役割 |
---|---|
Input block | トランザクションを記録する |
Endorsement block | トランザクションの検証・証明 |
Ranking block | ブロックの最終順序決定 |
この構造により、複数のトランザクションブロックが同時に生成・検証され、ノードのCPUやネットワークリソースを最大限活用できる設計となっています。
💡 カルダノにおけるLeiosの利点
項目 | 現状(Praos) | Leios導入後(目標) |
---|---|---|
データスループット | 約4.4kB/s | 最大900kB/s(理論値) |
スクリプト処理性能 | 約2ms/s | 最大1,000ms/s(CPUコア単位) |
トランザクション処理 | 数十TPS程度 | 1,000TPS超(シミュレーション) |
さらに、Leiosはカルダノ独自のEUTXO(Extended UTXO)モデルと完全に親和性があり、各トランザクションの依存関係が明示的であるため、衝突の検出と解消が容易であり、スケーラブルなdApp構築にも最適です。
🔐 セキュリティと分散性はそのまま
Leiosは、従来のPraosと同様にステーク50%の敵対者に対する耐性を保持しつつ、ナカモトスタイルのオープン参加型コンセンサスも継承。現在のSPOたちも、システム構成を大きく変えずにLeiosに移行できるよう設計されています。
🚧 現在の進行状況と今後の展望
Leiosは現在、IOGの研究チームにより以下の取り組みが進行中です:
- 形式的検証(Formal Validation)
- Haskell/Rustでのシミュレーション
- ネットワーク性能モデリング
- インフラ整備および実装試験
将来的には、Leiosの成果がカルダノのメインネットに統合され、Voltaire期の完全分散型運営における高速・高信頼の基盤として機能することが期待されています。
✍ まとめ
Ouroboros Leiosは、単なるスループット改善の施策ではなく、カルダノが「国家インフラ級の分散型基盤」として成熟していくための物理的・構造的飛躍といえるでしょう。Leiosが本格実装されることで、カルダノは、今後数十億人規模の利用にも耐えうる、世界でも類を見ないフォーマルかつ効率的なブロックチェーンネットワークへと進化することになります。
カルダノが切り拓く未来から、ますます目が離せません。
以下はIOGブログ「Advancing Ouroboros: Leios as the next leap in scalability」を翻訳したものです。
Ouroborosの進化:スケーラビリティにおける次なる飛躍「Leios」
Leiosの研究 – 設計目標とそのコンセプトの解説
2025年4月17日 Olga Hryniuk 著
2025年、カルダノが完全なコミュニティガバナンスのもとで進化を続ける中、スケーラビリティ(拡張性)は最重要課題の一つとして残っています。
Ouroboros Leios(ウロボロス・レイオス)は、カルダノのOuroborosコンセンサスプロトコルの大規模な再設計であり、劇的なスケーラビリティと処理能力の向上を目指しています。これにより、カルダノは現在の限界を大きく超えることが可能となります。Leiosは、カルダノの長期的なスケーリング・エンジンとして、マスアダプション(大衆的な普及)、高度な分散型金融(DeFi)、そしてグローバルな分散型アプリケーション(DApp)インフラの実現に道を開く画期的なアップグレードです。それでいて、カルダノが重視する「セキュリティ」と「分散性」は決して損なわれることはありません。
Ouroborosの進化
Ouroborosプロトコルファミリー(Ouroboros family of protocols)は、カルダノ・ブロックチェーンの機能を継続的に拡張してきました。Ouroboros Classic(クラシック)からPraos(プラオス)、Genesis(ジェネシス)へと至る各バージョンは、厳密な査読付きの学術研究に基づいて、セキュリティ、分散性、効率性を向上させてきました。
これらの進化によって、カルダノは「科学的に裏付けられたブロックチェーン設計のリーダー」としての地位を築いてきましたが、今後予想されるユーザーベースの拡大に対応するためには、さらなるスループット(処理能力)の向上が不可欠です。現行バージョンであるOuroboros Praosでは、ネットワーク容量やCPU性能といったノードのリソースによる制約が主なボトルネックではありません。実際の制限要因は、コンセンサスアルゴリズムの基礎にあるデータや通信の依存関係にあります。この課題に対応するには、リソースをさらに活用できるように設計を根本的に見直す必要があります。ただし、カルダノの強力なセキュリティ特性は保持したままにしなければなりません。
そして、この要件を満たすために設計されたのが、Ouroborosファミリーの最新進化形「Ouroboros Leios(レイオス)」です。
Leiosの目的
Leiosは、未活用の計算資源やネットワークリソースを活かしながら、新しい並列型ブロックチェーン構造と並行処理アプローチを導入することを目指しています。
現行のOuroboros Praosが抱えるスループットの制限は、ハードウェアの制約によるものではなく、ブロックチェーンアルゴリズムの構造上の非効率に起因しています。たとえば:
- ブロック伝播(Block diffusion):Praosにおいて、ブロックの伝播に使われるのはブロック生成間隔全体の一部にすぎません。カルダノのメインネットでは、平均して約20秒ごとにブロックが生成されます(ただし、ランダム性により、2つのブロックが同じスロットで生成されたり、数秒間隔で連続して生成されたりする場合もあります)。ブロックの伝播には約5秒を要するため、全体の約75%の時間がアイドル状態(待機)となります。この20秒という間隔は、ブロックの伝播には十分な時間であり、フォークのリスクを低減しつつ、妥当な確定スピードも維持しています。
- 伝播中のリソース利用:ブロックの伝播中でも、大多数のノードはほぼ待機状態です。実際にCPUやネットワークリソースを使用するのは、ブロックを処理しているノードのみであり、これはネットワーク全体にブロックが順次広がっていく過程で断続的に起こります。
こうした非効率性を解消するため、Leiosではブロックチェーンの構造とコンセンサスアルゴリズムの再設計を行います。Leiosの主要な目標は次のとおりです:
✅ データスループットの向上
現行のカルダノのスループットは約4.4kB/sですが、通常のサーバーであれば1ピアあたり900kB/s程度を処理可能です。
✅ スクリプトスループットの向上
これは「CPUミリ秒/実時間秒(ms/s)」で測定されます。現在のカルダノのスクリプトスループットは約2ms/sですが、1つのCPUコアで理論上1,000ms/sの処理が可能です。
✅ トランザクションスループットの向上
これは、データスループットとスクリプトスループットから導かれる派生指標です。ノードの並列性を活用したシミュレーションによれば、1,000トランザクション/秒(TPS)超を目指すことが可能とされています。
✅ 強固なセキュリティの維持
これまでのOuroborosプロトコルと同様に、ステークの最大50%を制御する敵対者に対しても耐性を持つセキュリティ特性を維持します。
✅ 分散性の維持
プロトコルの効率性を高めながらも、分散性やセキュリティの特性を損なうことなく設計されます。
セキュリティと分散性の保持
Leiosは、Ouroboros Praosのコアとなるセキュリティ保証を維持しつつ、スループットを大幅に向上させる設計となっています。ブロックのランク付け間隔は従来と同様に約20秒を維持し、その間に慎重にタイミングが設計されたプロトコルの各ステージが進行します。この設計によって、Praosのセキュリティ証明がLeiosにも引き継がれ、敵対者への耐性が確保されるのです。
また、Leiosではプロトコルの整合性を強化するための追加のセーフガードとして、「エンドースメント(Endorsement)しきい値」などが導入されており、最終台帳(ledger)に反映されるのは有効なインプットブロックだけであることを保証します。
さらに、Leiosはカルダノの分散モデルも忠実に守ります。ノードのリソース使用率が増加することで、既存のPraosオペレーター(SPO)もスムーズに移行可能となります。ステーク重み付きVRF(Verifiable Random Function)メカニズムも引き続き採用され、参加のハードルは低く抑えられたままです。さらに、Leiosもナカモト型コンセンサスを継承しており、カルダノのオープンで包摂的なネットワーク構造がそのまま維持されます。
並行ブロックチェーン設計
従来のブロックチェーンは本質的に逐次的(シーケンシャル)です。つまり、各ブロックはその直前のブロックに直接依存しており、線形の構造を持っています。しかし、ノードのネットワーク自体は本質的に並列的なシステムです。このため、資源の活用が不十分になりがちであり、ブロックの逐次性がデータの依存関係を生み出してしまいます。
例:
- ブロックBはブロックAに依存
- ブロックCはブロックBに依存
- 以降、連鎖的に続く……
Leiosでは、この制限を打破するために、複数のブロックが互いに依存せずに同一レベルで存在可能な「並行ブロックチェーン構造」を導入します。これにより、より複雑な依存関係のパターンが生まれ、並列処理が可能になります。
この並行構造においては:
- 一部のブロックは複数の前のブロックに依存することができる
- 一部のブロックは同時に処理することができる
- この構造全体が、より高い並列性を可能にします
🔽 図1:線形構造と並行構造の比較(Linear and concurrent blockchain structures)
並行ブロックチェーンにおけるトランザクション処理
並行ブロックチェーンでは、トランザクション処理において新たな課題が生まれます。特に重要なのは次の2点です:
- 並行する複数のブロックに矛盾するトランザクションが含まれていた場合、どう処理するか?
- 並行ブロックの結果をどのように一貫した台帳(レジャー)に統合するか?
Leiosはこれらの問題に対し、「楽観的アプローチ(optimistic approach)」を採用しています。これはシャーディング(sharding)の考え方を活用し、並行中のトランザクションのほとんどが互いに独立していることを前提とします。
このアプローチでは:
- 複数のトランザクション・ブロックが同時に処理される
- 各ブロック内では、トランザクションは順番に処理される
- 結果を統合する際には、ブロック全体が線形順序に配置される
- この処理により、すべてのトランザクションに対して線形順序が付与される
- 矛盾するトランザクションが検出された場合は、先に処理されたものを有効とし、後から来たものは破棄される
このアプローチは、カルダノの拡張UTXO(EUTXO)レジャーモデルに特に適しています。EUTXOは、基本的なUTXOモデルにスマートコントラクト機能を追加したものであり、アカウントベースモデルと異なり、トランザクションの結果を事前に正確に予測可能という決定論的な特性を持っています。これは、スケーラビリティと並列処理において大きな利点となります。なぜなら、依存関係が満たされていれば、トランザクションは独立に検証できるからです。
Leiosでは:
- EUTXOトランザクションが、すべてのインプットとアウトプットを事前に明示する
- トランザクション間の依存関係が明確かつ完全に把握可能
- コンフリクト(衝突)は容易に検出できる
- 依存関係さえ守れば、トランザクションの順序を変えても結果は変わらない
仕組み(How it works)
Ouroboros Leiosでは、トランザクションの並列処理を可能にしつつ、セキュリティも維持するために、「三層構造のブロックチェーン」を導入しています。
従来のように単一のブロックがすべての処理を担うのではなく、Leiosでは3つの異なる役割を持つブロックに機能を分担します:
- ✅ インプットブロック(Input blocks):トランザクションを格納する
- ✅ エンドースメントブロック(Endorsement blocks):検証を行う
- ✅ ランキングブロック(Ranking blocks):トランザクションの順序を確定する
この分離により、複数のインプットブロックが同時に生成・検証可能となり、スループットの大幅な向上が実現します。
💡 処理の流れ
- インプットブロック(Input blocks)は頻繁に生成され、最近の台帳状態を参照しながらトランザクションを運びます。
- 次に、エンドースメントブロック(Endorsement blocks)がこれらのインプットブロックを束ねて検証します。これは、ステーク重み付き抽選により選ばれたノードが実行します。
- 一定数のエンドースメントが集まると、それを証明する「エンドースメント証明書」が作成され、該当するインプットブロックの正当性が保証されます。
- ランキングブロック(Ranking blocks)はより低頻度で生成され、複数のエンドースメントブロックを間接的に参照することで最終的なトランザクションの順序を決定します。
このアプローチにより、ノードはすべてのトランザクションを即時に処理することなく、最新のブロックチェーン状態を取り入れることが可能となり、スケーラビリティを確保しながらセキュリティを維持できるようになります。
🔧 効率の最大化
トランザクション処理、順序付け、検証を分離することで、Leiosはリソース活用を最大化します。トランザクションは継続的に処理され、ネットワークノードのアイドル時間を削減。一方、並列化された検証プロセスにより、作業の負荷も効率的に分散されます。
さらに学ぶ(Learn more)
Ouroboros Leiosプロジェクトは現在、研究開発段階にあります。現在進行中の研究では、以下の分野に注力しています:
- 形式的な検証(Formal validation)
- HaskellおよびRustによるシミュレーション
- ネットワーク性能のモデリング
- プロトコルの実現可能性と効果を保証するためのインフラ改善
今後のロードマップでは、以下のようなステップが計画されています:
- 短期的には、モデルを実世界の条件により近づけるための改善
- 中期的には、得られた知見をカルダノ全体のツール群へ統合
- 最終的には、今後のコンセンサスプロトコルのアップグレードに情報を提供し、効率性とスケーラビリティをさらに向上
📚 詳細情報の参照先:
- [Leios ドキュメント(Leios documentation)]
- [研究開発の概要(Research and development overview)]
- [週次アップデート(Weekly updates)]
- [GitHubリポジトリとディスカッション(GitHub repository and discussions)]
※このブログ記事は、以下の関係者のインプットとサポートを受けて執筆されました:
William Wolff(ウィリアム・ウルフ)、Giorgos Panagiotakos(ジョルゴス・パナギオタコス)、Nicolas Biri(ニコラ・ビリ)、Christian Badertscher(クリスチャン・バダーツァー)