金融秩序の再設計が始まった──革新的「責任ある金融イノベーション法案(草案)」が示す米国の本気とカルダノへの地政学的波及
「暗号三法」時代の幕開けとオンチェーン主権の夜明け──”破壊と創造”が交差するデジタル金融国家構想の全貌

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・SITION:@SITIONjp、
・SIPO:CARDANO SPO & DRep:@SIPO_Tokyo
序章|破壊と創造が交差する時代──米国「金融再起動」の決定打としての本法案
2025年夏、米国では長年にわたり模索されてきた暗号資産の制度化が、いよいよ本格的に動き出しました。連邦議会では、既にトランプ政権の下で「GENIUS法(ステーブルコイン)」が成立し、「CBDC禁止法(デジタルドル規制)」と残る最後の柱とされた包括的暗号資産法制──それが「Responsible Financial Innovation Act of 2025(責任ある金融イノベーション法案:草案)」です。
本法案は、かつて「CLARITY法(Clarity for Digital Tokens Act)」として知られた立法構想を土台としつつ、トークンの法的分類、分散型ネットワークの取り扱い、銀行業務におけるデジタル資産の活用、さらにはサンドボックス制度や自主管理ウォレットの法的保護に至るまで、デジタル時代に対応した包括的な規制フレームワークとして構築されております 。
従来の証券法では、暗号資産(特にユーティリティ型トークンや分散ネットワーク上の資産)がSEC(米証券取引委員会)の広範な裁量によって「証券」と見なされるリスクがつきまとっていました。その曖昧な解釈に終止符を打つべく提案されたのが「CLARITY法」であり、今回の責任ある金融イノベーション法案は、それを内包し、より制度的に洗練されたかたちで再設計されたものと位置づけられます。
法案の中核には「Ancillary Asset(補助資産)」という新たな法的カテゴリーが導入されており、これは“証券に準じる関係性はあるが、証券そのものではない”という中間的な資産分類です。この定義を用いることで、トークン発行者が自己認定により非証券扱いの地位を取得できる道が開かれ、一定の分散性や経済的独立性を満たせば、SECの規制対象から除外される可能性が生まれました。
このような動きに対して、カルダノ創設者のチャールズ・ホスキンソン氏は自身のX(旧Twitter)で「暗号資産業界にとって歴史的文書の誕生だ」と賞賛し、法案発表に際して祝意を示しました。また氏は、上院銀行委員会主催の円卓会議にも招かれ、実際に制度設計に技術的見地からの助言を行ってきたことが明かされております 。
法案が公開されたタイミングも極めて象徴的です。米国金融制度の中核であるFRB(連邦準備制度)に対しては、近年その存在意義に疑問が呈されるようになり、ランド・ポール上院議員による「Fedの全面監査要求」や、スコット・ベセント財務長官による構造改革の提言が相次いでいます。トランプ政権が掲げる「オンチェーン経済」への移行は、金融主権を再定義する大胆な構想であり、本法案はその制度的下支えとなるものです。
このように「Responsible Financial Innovation Act of 2025:草案」は、単なる暗号資産規制ではなく、米国の金融秩序そのものの再設計に向けた“制度的起爆剤”と言えるでしょう。そしてその波は、当然ながら世界にも及びます。
日本においても、「日本人ファースト」を掲げる参政党が、積極財政やWeb3的通貨政策(暗号資産・デジタル通貨の発行)を掲げ、参院選で躍進を果たすなど、金融構造をめぐる政治的対話が徐々に表舞台へと浮上しつつあります 。既存秩序の「破壊」が進む中で、日本においても「創造」の芽が微かに芽吹きはじめたと言えるかもしれません。
本稿では、こうした世界的金融変動の文脈を踏まえつつ、「責任ある金融イノベーション法案」の全文草案を精査し、制度・技術・地政学の交点から、ブロックチェーン・カルダノ・分散型エコシステムにもたらす影響と展望を読み解いてまいります。
第1章|法案の全体像──デジタル資産の包括的規制設計
「Responsible Financial Innovation Act of 2025(責任ある金融イノベーション法案:草案)」は、その名のとおり、“責任あるかたちでの金融制度のイノベーション”を実現するために、従来の証券法・銀行法・マネーロンダリング対策・技術監督制度のあらゆる側面をアップデートする包括的な法案となっております。
本法案は以下の4つの柱(タイトル)から構成され、それぞれが米国金融インフラの再設計に直接関与する構造を持っています。
■ タイトルⅠ|責任ある証券制度の近代化(Responsible Securities Innovation)
このパートでは、暗号資産に該当するトークンを「Ancillary Asset(補助資産)」として新たに定義し、その取扱いに関する開示要件・販売制限・移転ルールなどを定めています。
特に重要なのは、一定の条件下でこの「補助資産」が証券に該当しないことを自己認定によって主張できるという仕組みです。このプロセスはSEC(米証券取引委員会)に提出された「自己認定届出」が60日間異議なく経過した場合、自動的に有効となります。つまり、SECの明示的な承認を必要とせず、“黙認”によって非証券化を実現できる道が開かれたのです。
加えて、開示義務の内容も独自です。トークンの価格変動、運営主体の活動計画、ステーキングやネットワークに関する設計、コード監査の有無など、従来の有価証券とは異なる指標が中心となっており、Web3時代の「透明性と説明責任」の基準を形成しようとしています。
■ タイトルⅡ|不正金融への対策(Protecting Against Illicit Finance)
このパートでは、暗号資産を用いた違法資金移動への対応として、FinCEN(金融犯罪取締ネットワーク)や司法省といった複数の機関が民間企業と協力して情報共有を行う「イリシットファイナンス共有プログラム」の創設を提案しています。
また、外部のスマートコントラクトや分散型ネットワークに対しても、監視や規制を強化するのではなく、リスク共有と透明性の確保という形で対応しようとする姿勢が見られます。この点においても、技術との共存を前提とした制度設計の柔軟性がうかがえます。
■ タイトルⅢ|責任ある銀行制度の近代化(Responsible Banking Innovation)
銀行・信託・証券会社に対しても、デジタル資産に関する明確な業務範囲が与えられます。たとえば以下のような業務が、明示的に「合法かつ認可不要」とされました。
- トークンの保管(カストディ)
- ステーキング・レンディングの代行
- トークン担保型ローンの提供
- ノード運用やウォレット提供
- DEX市場へのリスクレス取引(Riskless Principal)
これらの活動が「銀行業務の一部」として認定されることにより、従来は不明確だった制度的グレーゾーンが大きく払拭されることになります。
■ タイトルⅣ|規制のイノベーションとサンドボックス(Responsible Regulatory Innovation)
ここでは、Web3領域に特有の「開発者の責任範囲」や「自主運営のネットワーク」に対する保護が定められています。
代表的な例が以下の3つです:
- 開発者はマネートランスミッターではない(Blockchain Regulatory Certainty Act)
- 自己管理ウォレット(Self-Custody)の権利を明記
- 「マイクロ・イノベーション・サンドボックス」制度の創設
とくに注目すべきは、開発者が単にコードを公開・保守しているだけであれば、「送金業者」としての規制対象外とされる点です。これは、分散型ネットワーク上で開発に携わるエンジニアやDAOコントリビューターを法的リスクから解放する重要な条文です。
また、国際協力・共通ルールの整備に向けた項目も複数盛り込まれており、「ドル建てオンチェーン経済圏」のグローバルスタンダード化を視野に入れた規制設計となっております。
■ 総括:包括と分権を融合する法制度へ
以上のように、本法案は単なる「暗号資産の規制緩和」ではなく、分散型インフラと既存制度との接点を丁寧に制度化するものであり、「包括性」と「分権性」を両立させることを目的とした米国の制度的回答と言えます。
この枠組みが機能すれば、トークンの設計、発行、取引、利用に関する透明性と法的安定性が担保され、カルダノのようにP2P経済圏を前提としたプロジェクトにとって、非常に大きな追い風となることは間違いありません。
第2章|トークン分類の画期的転換:
「証券ではない」ことの自己認定プロセス
本法案において最も革新的かつ業界から注目を集めている点は、暗号資産に関する法的地位を「自己認定によって非証券として扱うことができる」という仕組みを制度化したことです。
従来の証券法では、暗号資産が「投資契約」(Investment Contract)に該当するか否かの判断は、SEC(米証券取引委員会)の広範な裁量に委ねられてきました。これにより、開発者や発行体は明確な基準のないまま、後日突然「証券である」として訴追されるリスクを抱えていました。リップル社をはじめ、多くのプロジェクトがこの不透明性に苦しめられてきたのは記憶に新しいところです。
こうした混乱に終止符を打つのが、本法案が導入する「Ancillary Asset(補助資産)」という新たな資産区分と、それに付随する「自己認定プロセス(Self-Certification)」です 。
■ Ancillary Assetとは何か?
法案において「補助資産」とは、デジタル上で記録された商業的に代替可能な資産(たとえばユーティリティトークン)であり、以下のような“金融的権利”を有しないものと定義されています。
- 発行体に対する株式的な所有権
- 配当や利息などの金銭的権利
- 清算に関する請求権
- 発行者の知的財産への出資的関与
このように、「資産自体が発行体との金融的結びつきを持たず、ネットワーク内での機能性・使用価値に基づいて存在する」ことが、補助資産とみなされる条件です。
■ 自己認定制度の仕組み
この補助資産に該当するかどうかは、トークン発行体が自ら申請し、SECの異議がなければ自動的に認定が成立するという画期的な手続きが導入されました。手続きの概要は以下のとおりです。
- 発行体が「補助資産に該当する」との自己認定書をSECに提出
- SECが60日以内に反論しなければ、そのまま「非証券」としての扱いが成立
- SECが異議を申し立てる場合には、10日前に通知し、委員会での公開ヒアリングを実施
- 異議がある場合でも、明確かつ説得力のある証拠(clear and convincing evidence)が必要とされる
つまり、SECの“黙認”が自動承認として法的に効力を持ち、証券該当性の「無条件認定」ではなく「証券ではないと主張する権利」を発行体に明示的に認めた制度となっております。
■ 二次流通も“非証券取引”に
本制度の導入により、補助資産が非証券と認定されれば、それに関連する二次流通市場での取引も証券取引ではないという立場が法的に確立されます。これにより、暗号資産取引所(CEXやDEX含む)において、登録証券業者でなくとも当該資産を取り扱うことが可能となります。
また、初期配布についても「gratuitous distribution(無料かつ広範な配布)」である場合は、証券法上の販売とは見なされないと明記されており、エアドロップや初期ステーキング報酬などの設計が合法化される道筋が開かれています。
■ 非証券化後の開示義務と終了手続き
補助資産として認定された場合、発行体は定期的に開示義務を負います。ただし、その期間にも終わりが定められており、
- 12ヶ月以上、価値を左右する「経営的・起業家的活動」が発行体から行われていない
- すでに「約束された義務」が果たされた
と認定される場合、最終的に開示義務も終了する仕組みです。これは、分散化が進んだプロジェクトが、「完全に独立したネットワーク」として法的に自由な存在になることを意味します。
■ カルダノへの示唆:現在のプロトコル設計、LeiosやHydraとの親和性
カルダノにおいては、すでに現在のプロトコル設計において、運営主体による起業的・経営的関与が排除された構造が確立されており、「プロトコル的に起業的関与がない」状態をすでに実現しています。加えて、LeiosによるP2Pネットワークのさらなる強化や、Hydraによるレイヤー2処理の分散化が進めば、その自律性と分散性はさらに高まっていくことが期待されます。
こうした構造が本法案の想定する補助資産と一致することで、ADAを含むカルダノ資産群が合法的に“非証券”として扱われる未来が近づいていることは間違いありません。
このように「自己認定制度」は、SECによる“事後的訴追”ではなく、“事前的な法的安定性”をもたらす画期的なルールです。
Web3プロジェクトにとって、これは単なる規制緩和ではなく、「設計時点で法的予見性を持てる環境」が整いつつあることを意味します。
第3章|分散性とガバナンスの設計:カルダノ型エコシステムの優位性
「Responsible Financial Innovation Act of 2025(責任ある金融イノベーション法案)」の核心には、単なる資産分類や取引規制を超えて、「ネットワークの支配構造」に関する制度的評価軸が新設されたことがあります。これは従来の証券法には存在しなかった次元であり、ブロックチェーン・プロジェクトが真に「分散化」されているかどうかを、制度的に評価し、権利制限を解除する仕組みを導入する試みです 。
とりわけ注目されるのは、「共通支配(Common Control)」の概念に基づく安全港ルール(Safe Harbor)の導入です。
■ 「共通支配」とその認定解除──ネットワークの“自立性”を証明する
法案では、トークンを補助資産として自己認定した場合でも、ネットワークが開発者や関連当事者によって実質的に“共通支配”されていると見なされた場合には、一定の売却制限が課されることになります。逆にいえば、ネットワークが「誰にも支配されていない」状態にあると証明できれば、その制限を解除できるという設計です。
この認定解除の仕組みは、発行者による「自己証明(Self-Certification)」と、それに対するSECの反論権(60日以内)を中心に構成されています。また、支配性の有無を判断するための指標として、以下のような技術的・組織的要素が評価対象として明記されています:
- プロトコルに対する一方的な変更権限の有無
- ガバナンス権限(Voting Power)の分布と偏在度
- ソースコードの公開状況とパーミッションレス性
- 技術的・経済的影響力の集中度
- ネットワークの管理主体の所在・構成・資産の国籍比率
このように、“支配されていないこと”が法的に認められれば、関連当事者(創業者・開発者・初期投資家など)に対する資産移転・売却制限も解除され、市場での正当な流通が認められることになります。
■ カルダノが示す「制度的に分散されたネットワーク」の原型
カルダノにおいては、すでに現在のプロトコル設計において、創設者や運営主体による「起業的・経営的関与」は排除されており、技術的にも経済的にも“制度的分散”が実現されたネットワーク構造を形成しております。
ネットワークのコンセンサスアルゴリズム(Ouroboros)は完全に自動かつ分散的であり、ブロック生成と検証のプロセスは世界中の独立したSPO(ステークプールオペレーター)によって担われています。Cardano財団やEmurgoは、オンチェーン・ガバナンスにおいてDRep(代表委任者)として参加していますが、コンセンサスそのものの決定過程には特権的な形では関与しておりません。- ノード運用は世界中の独立SPO(ステークプールオペレーター)によって担われており、その構成は完全にパーミッションレスです。
- 財務管理も、トレジャリー制度とDRep(代表委任者)による民主的な予算決定を経て、分散化が進んでいます。
- ソースコードはオープンソースとして公開され、カルダノ改善提案(CIP)制度により、コミュニティ主導の進化が可能な状態となっています。
つまり、カルダノは本法案が定義する「共通支配が存在しないネットワーク」に最も近い実装を、すでに先行して制度的に成立させている数少ないパブリックチェーンであると言えます。
■ トークン保有者による分散的ガバナンスの正統性
また、本法案においては、トークン保有者による分散的ガバナンスに対する制度的評価も内包されています。とくに、今後導入される予定の「分散型自治組織(DAO)」への明確な法的認知に向けた準備条項や、トークンのガバナンス利用が「金融的権利」に該当しないことを明文化している点は、オンチェーン民主主義の法的正統性を後押しする内容となっております。
カルダノでは、GovToolを通じて市民的投票が可能なDRep制度が稼働しはじめており、権力の分散・意思決定の可視化・予算執行の透明性といった民主政治の三原則をブロックチェーン上で実装しつつあります。このような機構設計は、本法案が描く「規制に適合する分散型ネットワーク」のひとつの模範となり得るでしょう。
■ 分散=合法の時代へ──制度と技術の接合点
本章で取り上げた「共通支配からの脱却」という考え方は、単に技術的な分散性を意味するのではなく、制度的な法的リスクからの解放を意味します。中央集権的な支配構造が解体され、自律的・継続的に機能するネットワークが法的に保護される時代が、ついに到来しつつあるのです。
そして、そのモデルケースとして最も法案の要件に適合しやすい存在──それこそが、カルダノです。
第4章|DeFi・ステーブルコイン・自律分散に対する規制視点の再定義
「Responsible Financial Innovation Act of 2025(責任ある金融イノベーション法案:草案)」は、暗号資産の規制においてもはや無視できない存在となったDeFi(分散型金融)、ステーブルコイン、自律的分散システム(DAOや自己管理ウォレットなど)に対して、従来の中央集権的な制度とは異なる新しい視点でアプローチしています。
本章では、それら分散型要素に対する制度的評価と規制緩和の動き、さらには今後の技術設計・ガバナンスモデルに及ぼす影響について掘り下げてまいります。
■ ステーブルコイン発行者への責任範囲を限定的に明示
本法案では、ステーブルコインの発行者(とくに「決済型ステーブルコイン」)に対し、制裁法(OFAC)やAML/CFT法制の適用対象となる範囲を明確に定義しています。
注目すべきは、以下の点です:
- ステーブルコインが一次流通後に誰の手に渡るかという「二次以降の利用」について、発行者に全面的な責任を課さないことが明文化されました。
- 財務省は120日以内に、「発行者の制裁コンプライアンス義務はどこまでか」というガイダンスを発行するよう義務づけられています。
これにより、たとえばUSDAやUSDM、USDCのようなプロジェクトが、「悪用される可能性があるから不許可」という規制過多の論理から解放され、発行者として果たすべき義務と果たさなくてよい責任の線引きが可能となる道が開かれました。
■ 自己管理ウォレット(Self-Custody)の自由を法的に保護
もう一つの画期的な条文は、自己管理ウォレットの使用権を連邦法で明記した「Self-Custody条項」です。
本条項により、以下が合法的権利として保護されることになります:
- 自分の資産を自分で保持・管理する権利
- 第三者を介さず、自由にデジタル資産を使用・送金・保管する権利
- 政府機関がこの自由を妨害・制限・差止することを禁じる原則
この条項は、自己保有・自己決済を前提とする分散型経済圏の発展において極めて重要です。実際に、日本を含む多くの国では、「自己管理=脱法行為」という誤解が根強く存在しており、それがDeFiの法的位置付けを不明確にしてきました。
本法案によって、“自己管理ウォレットは合法的に保護されるべき金融インフラ”であるという前提が、米国議会レベルで制度化されたことになります。
■ 開発者とインフラ提供者を“免責対象”とする明記
DeFiやDAOを支える開発者・ノード提供者・UI設計者といったインフラプレイヤーに対し、「彼らを“マネートランスミッター”として規制するべきではない」とする「Blockchain Regulatory Certainty Act」条項が法案に組み込まれています。
この条文では、「ノード運営・コード公開・自己保管用ソフトウェアの開発・提供」といった活動に従事している限り、以下のようなことは明確に“免責対象”であるとされています:
- 登録・免許制の適用対象とならない
- マネーロンダリング規制の直接責任を問われない
- 間接的な責任や共同責任としての規制対象にならない
つまり、DeFiの基盤を構築している開発者が「金融業者」として扱われる恐れがなくなるということであり、これは開発の自由・表現の自由を制度的に保障するものです。
■ カルダノにおける実装との親和性
カルダノにおいては、USDAやDJEDといったステーブルコインの実装が進む一方で、HydraやMithrilなどを活用した自己主権的な金融サービスの構築が進んでいます。たとえば以下のような要素が、法案の設計思想と非常に高い整合性を持っています:
- USDAのオフランプ機能は「発行者責任の限定」原則に合致
- EternlやLaceといった自己管理型ウォレットの普及はSelf-Custody条項と親和的
- PlutusやMarloweで構築されたスマートコントラクトは、金融業ではなく技術提供として明確に分離可能
これらの設計があればこそ、Cardanoは「規制に適合しうるDeFi基盤」を最も先進的に備えたL1ブロックチェーンとして、今後ますます制度的信用を得ることが期待されます。
■ 自律性の時代へ──自由と信頼の再構築
本法案においては、「自由=無秩序」という古い考え方は完全に放棄され、「自由を保障するための制度的設計」が積極的に進められています。とくにDeFiや自己管理のような領域では、“誰も支配しない”という設計がむしろ制度的信頼を生む”という逆転現象が起きていることは特筆に値します。
この章で見てきたとおり、米国の制度設計は「中央からの管理」ではなく、「技術と分散性への信頼」を制度化する方向にシフトしています。そしてその文脈で、カルダノが持つ技術設計と哲学は、まさに時代の要請に合致したモデルとなっているのです。
第5章|規制サンドボックスとWeb3インフラ──制度から開放へ
「Responsible Financial Innovation Act of 2025(責任ある金融イノベーション法案)」が描き出す未来は、「規制からの逃避」ではなく、制度の中にイノベーションを適合させる道筋を明確に示すものです。その象徴が、「マイクロ・イノベーション・サンドボックス」制度の創設と、Web3インフラを前提とした規制緩和の枠組みです。
この章では、「試す自由」と「責任ある規律」を両立させる制度設計、そしてその実装が意味する社会的意義について考察してまいります。
■ 規制を試す制度:マイクロ・イノベーション・サンドボックス
法案では、特定の新規技術・新規サービスを既存法制の枠外で一定期間・一定条件下でテストできる「Micro-Innovation Sandbox(マイクロ・イノベーション・サンドボックス)」の制度化が明記されています 。
この制度の主なポイントは以下の通りです:
- 対象となる技術・プロジェクトは、“他に類例のない革新的構造”であることが条件
- 規制当局に提出する「参加通知」によって、自動的に最大2年間の参加が可能(拒否されない限り)
- 一定の金額・ユーザー数の上限を超えない限り、免許・登録義務が適用されない
- フェーズ終了後、恒久制度への移行やガイドライン策定のためのデータがフィードバックされる
- 「詐欺・マネロン禁止」の根幹法制(BSAなど)については免除されない
つまり、Web3時代の“制度的実験場”を連邦法として正式に設けるという試みであり、現場主導・民間主導の規制提案に対する明確な出口を用意したものといえます。
■ 開発者・運営者の“制度的保護”が明文化される
本法案では、開発者やインフラ提供者に対する“過剰な法的負担”を回避するための条文が複数組み込まれております。その中でも象徴的なものが、「非支配的開発者・サービス提供者に対するマネー送金業登録の免除」です。
たとえば、以下のような活動を行う個人・企業・DAO等は、連邦法における“送金業者”に該当しないことが明確に規定されます:
- ブロックチェーン・ノードの運用
- コントラクト用のUI提供やウォレット開発
- コントラクトコードのオープンソース化・保守
- インフラ構築者であって、ユーザーの資産移動を直接制御しない立場の者
この条文により、開発者が「送金免許の取得義務」や「AML事業者登録義務」から解放され、“コードを書くこと”自体が違法にならない土壌が法的に整備されることになります。
■ Web3的サービスに向けた制度的整地
さらに注目すべきは、分散型技術を前提とした記録管理の承認です。
たとえば、法案第108条では「分散型台帳の記録を正式な監査記録・帳簿として活用可能」と明記されており、以下のような将来的展開が可能になります:
- DAOの資金移動や投票記録を監査対応可能なデータとして承認
- Proof of Reserve、オンチェーンガバナンスの記録が法的証跡として機能
- ブロックチェーンデータをAPI経由で自動報告するスマート・レギュレーションの実装
これは、いわゆる「コードによる規制(Regulation by Code)」の萌芽であり、Web3時代の“自動遵法インフラ”の構築に向けた第一歩とも言えます。
■ カルダノと規制的実装の接続点
カルダノにおいても、こうした制度的開放に直結する技術や設計思想がすでに実装・実験されています:
- MithrilやHydraによるサイドチェーン/マルチチェーン展開は、低リスク環境下での実証に適しており、サンドボックス運用に最適です。
- DRep制度やガバナンス投票記録はオンチェーンで永続的に残され、開示性と説明責任を確保する法的証跡となり得ます。
- Project CatalystやGovToolを通じた参加型の意思決定は、「ユーザーが自己の権限でネットワークに影響を与えている」ことを証明する仕組みとして、制度的にも評価可能です。
このように、カルダノがすでに備えている要素は、「制度的に評価される分散型技術モデル」として、サンドボックスや自己証明型運用において大きな優位性を発揮するものです。
■ 制度を“避ける”のではなく、“味方につける”
本章で見てきたとおり、本法案が提示する「サンドボックス」と「分散型インフラの法的正統性」の組み合わせは、制度を回避するのではなく、制度そのものを技術と共存させるための“アップグレード”であると位置付けることができます。
これにより、革新はもはや“グレーゾーン”の中にあるものではなく、明示的に合法で、規制当局と連携して推進されるものへと変化していきます。そして、それこそがWeb3という文明の根幹──「中央に頼らずとも、社会は構築できる」という思想を、現実の制度の中で活かすための布石なのです。
第6章|日本へのインプリケーション──「破壊」だけが進む日本と「創造」を始めた米国

2025年、米国では「Responsible Financial Innovation Act of 2025」を含む“暗号三法”が制度設計の土台として動き始め、金融のインフラそのものがオンチェーンベースに再構築されつつあります。金融主権、自己管理、分散的経済圏、トークン分類、自己証明など、まさにブロックチェーン時代の制度基盤が米国から始まろうとしています。
一方、日本ではどうでしょうか。残念ながら、現時点では「破壊」だけが先行し、「創造」の段階には至っていないように見受けられます。
■ 政策的空白とイノベーションの置き去り
日本では依然として暗号資産が「投機的商品」「マネロンリスク」「監督強化の対象」として扱われる場面が多く、Web3や分散型経済に対する戦略的アプローチが欠如しているのが実情です。
- トークン発行=証券的判断を回避しきれない
- DeFiは「無免許業者」として黙殺されがち
- ステーブルコインの設計も、銀行預金リンク型が主でオンチェーン活用は制度的に進まず
- 自己管理ウォレットの普及にも行政的後押しは見られません
こうした状況下では、技術者・起業家・プロトコル開発者たちが海外へ流出する傾向が強まり、「制度が創造を押しとどめている」構図が続いています。
■ 参政党の台頭が示す“創造”への微かな兆し
しかし、光もないわけではありません。2025年7月の第27回参議院選挙において、「日本人ファースト」「積極財政」「暗号資産・デジタル通貨活用」を掲げた参政党が急躍進を遂げました。
同党の神谷宗幣代表は、金融主権の回復とインフレ・円安への対抗策として、以下のような「Web3的経済モデル」を明確に言及しています:
- 減税と財政出動の財源に「国債+暗号資産的通貨(民間発行)」の併用を検討
- デジタル地域通貨を用いた循環型経済圏の構築
- 政策によるイノベーション保護と人材流出の阻止
- 自主憲法と連動する、経済主権のオンチェーン化構想
これは、従来の「中央集権的経済管理モデル」から脱却し、**地域・市民・分散的構造による経済再建という“創造的発想”**へと舵を切ろうとする政治的動きと捉えることができます。
■ 制度的比較:米国が進める“積極的制度設計”と日本の“抑止的運用”
| 観点 | 米国(本法案) | 日本(現状) |
|---|---|---|
| トークン分類 | 自己認定+SECの黙認制 | 原則“証券扱い”か“無登録扱い” |
| DeFi開発者の位置付け | 非マネートランスミッター明記 | 「無登録業者」扱いの懸念 |
| ステーブルコイン | 二次責任の免除+オフランプ認定 | 銀行型・保守型が中心 |
| ウォレット | Self-Custodyを連邦法で保護 | 取引所ウォレット偏重 |
| サンドボックス | 自動参加制+明確な期限 | 運用主体が限定的・不透明 |
| 財源構想 | トークン+DAO的制度にも開放 | 日銀・国債依存が継続 |
このように、米国は「制度でイノベーションを支える」アプローチを取り、日本は「制度で抑え込む」姿勢が根強く残っています。
■ カルダノと日本の“創造”の接点
この構図のなかで、カルダノが提供する制度的・技術的中間層(ミドルレイヤー)の存在は、日本にとって極めて有用です。
- HydraやMithrilによる地方自治体単位のブロックチェーン導入
- Catalyst型の市民主導型予算配分プロトコル
- USDAやDJEDを活用したインフレ・信用リスク耐性を持つ地域通貨設計
- ガバナンスツール(GovTool)による透明な投票制度
こうした要素を活用すれば、日本でも制度依存から制度共存型の分散経済への転換が現実味を帯びてきます。
■ 終わりなき「破壊」か、新しい「創造」か──選択は私たちにある
本法案が米国で進む中、日本は制度改正の意思を持つのか、それとも現行秩序の延命に留まるのか。その選択は、今後数年間の政治・市民活動・技術者の動きによって左右されます。
いま、日本社会のさまざまな制度は“ほころび”を見せています。そのなかで、「破壊」に飲み込まれるのか、「創造」の風を起こせるのか──その鍵を握るのは、市民・開発者・起業家、そして我々自身です。
そして、カルダノというプロトコルと、それを支える分散型インフラは、制度的創造にとって極めて現実的な選択肢となり得ることを、ここであらためて強調しておきたいと思います。
終章|カルダノとこの法案が示す新文明の可能性──「オンチェーン国家モデル」へ
「Responsible Financial Innovation Act of 2025(責任ある金融イノベーション法案)」は、現時点ではまだ“ディスカッション草案”の段階であり、正式な法制化までには議会審議や関係機関からの意見募集など、いくつものプロセスを経る必要があります。
しかしながら、その構造・方向性・制度設計の革新性はすでに多くの業界関係者、技術者、法学者たちにとって「制度としての革命的提案」であると認識されつつあります。
この法案が提示する未来像──それは、単に暗号資産を合法化するための調整案ではなく、国家の金融・法制度の設計思想そのものを根底から再構築する“文明的転換”の宣言にほかなりません。
■ オンチェーンで運営される「制度」──国家の再構築はコードと共に
この草案が示した最大のインパクトは、「国家的制度運営の一部をオンチェーン上で実現可能にする」法的枠組みを、現実的・漸進的かつ技術的に整合したかたちで提案したことにあります。
たとえば以下のような制度要素が、「ブロックチェーン前提」で設計されています:
- 証券性の自己認定とブロックチェーン上での情報開示
- 自己管理ウォレットによる主権的資産保有の合法化
- トークン担保型財務とネットワーク自律性による信認の分散化
- サンドボックスにおける自動実験・規制データのオンチェーン分析
- 分散ガバナンス(DRep等)による公共資源の予算配分
これらはすべて、「コードによる契約」から「コードによる統治」へと向かう潮流を、制度として肯定・保護しようとする国家的意思を示していると言えるでしょう。
■ カルダノが描く「オンチェーン国家モデル」との親和性
こうした文明的転換において、カルダノが構築してきたガバナンス、スケーラビリティ、決済モデル、証明可能な予算執行の仕組みは、まさに“オンチェーン国家モデル”を現実に近づけるための基盤となっています。
- Plutus / Marlowe による契約の自動執行
- CIP / GovTool による市民的意思決定の記録と反映
- Catalyst や DRep による予算と資源の分散配分
- Hydra / Mithril によるスケーラブルで自治的な地域インフラ
- USDAやDJEDといった非中央集権ステーブルコインによる信用システムの再設計
これらの要素は単なるテクノロジーではなく、“制度に耐え得る”かつ“制度を代替可能な”統治設計と呼べる段階に達しつつあります。
米国がこの草案で示したのは、まさにこのようなモデルを、国内法の範囲で“可能”とする枠組みです。そしてカルダノは、その技術スタックにおいてすでに「その先」を示し始めています。
補足資料
📐① オンチェーン国家モデルの5構成要素
(Five Pillars of an On-Chain Nation Model)
これは、国家的制度をブロックチェーン上で再構成するための基本設計概念です。カルダノの技術構造と本法案の制度設計を踏まえて、以下の5つの柱で構成されます。
| 構成要素 | 説明 | カルダノの該当要素 |
|---|---|---|
| ① 主権的アイデンティティ(Self-Sovereign Identity) | 国民または市民が自分自身の身元をオンチェーン上で所有・管理する | Atala PRISM(SSI)、Decentralized Identifier(DID)、Midnight |
| ② スマートコントラクトによる制度運用 | 法律・契約・行政執行の一部をコード化し、透明かつ自動で実行 | Plutus / Marlowe によるオンチェーンスマートコントラクト実装 |
| ③ 分散型財政・予算配分 | トレジャリーによる資金調達と、民主的な予算執行 | Catalyst、GovTool、Treasury、DRep制度 |
| ④ 証明可能な意思決定と投票 | 政策決定や法改正を、投票によって透明に決定し、記録する | On-chain voting, CIP、憲法改正プロセス(Voltaire) |
| ⑤ 信用・流通・価値保存の基盤通貨 | 信頼できる価値交換手段を自律分散的に発行・運営 | ADA、USDA、USDM、DJED、トークン・ガバナンストークン設計 |
✅ この「五本柱」は、既存の中央集権国家モデルに対する構造的代替案となり得ます。
📊② カルダノ×制度化マトリクス
(Cardano × Institutional Fit Matrix)
このマトリクスは、カルダノの各技術・制度・構造が、どのように「制度的信頼性(Institutional Legitimacy)」と「分散的自律性(Decentralized Autonomy)」の軸に位置づけられるかを示したものです。
| 項目 | 制度的信頼性(制度に適合する) | 分散的自律性(制度から自由である) |
|---|---|---|
| ADA通貨 | ✅(上場ETF/金融商品として制度適合) | ✅(PoSにより運用も流通も自律) |
| Catalyst | ✅(DRep制度で市民参加と予算運営) | ✅(オンチェーン実装、IOG等の支配なし) |
| Hydra / Mithril | ✅(国・自治体での制度実装可能) | ✅(任意に立ち上げ可能なL2構造) |
| USDA / DJED | ✅(KYC/オフランプ等により準拠) | 🔸(発行体の設計により一部制限あり) |
| GovTool / CIP | ✅(改善提案・投票プロセスが整備) | ✅(誰でも提案・改定に関与可能) |
| Atala PRISM、Midnight | 🔸(国家発行IDと組み合わせ可能) | ✅(自己主権型IDを基本設計とする) |
🔸=制度的枠組みに組み込まれる可能性が高いが、運用によって変動余地あり。
■ 新しい公共圏と制度信頼の再創造へ
現代の国家制度は、多くの国で不信・硬直・利権構造に苦しみ、中央集権の限界が露呈しています。その一方で、「国家=中央の権威」「制度=命令の体系」という20世紀的な前提も、すでに崩れつつあります。
そこで求められているのが、信頼を再構築する新しい公共圏=分散化された制度基盤です。
この草案が描いた未来は、「制度を信じる」のではなく「制度が証明される」時代の始まりであり、
カルダノが構築する“コードと合意による文明”は、その一つのロールモデルとなり得るのです。
■ 草案は始まりに過ぎない──創造の責任は私たちにある
忘れてはならないのは、この法案がまだ“草案”に過ぎないという点です。つまりこれは「現実になった未来」ではなく、「実現してほしい未来」の設計図なのです。
しかし、制度は自然に進化しません。制度は、それを設計し、使い、守る人間の意志によって初めて現実になるものです。
カルダノもまた、開発者、ステークプールオペレーター、DRep、市民参加者、そして日々オンチェーンで行動するすべての人々によって、「制度としての文明」として形を成してきました。
この草案が示すのは、技術が文明を設計し直すことができる時代の到来であり、
その未来を実装するのは、私たち一人ひとりの選択と行動にかかっているのです。
これがSIPOが見据える、「制度が分散されるということ」の意味です。
カルダノはその中核であり、制度と技術が交差する新たな“共和国”の設計図を、静かに、しかし確かに描いています。
そして今、私たちはそのページを自らの手で書き加えていく段階に入ったのです。
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