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GENIUS法から始まる通貨革命──ステーブルコインとビットコインが描く「新たな標準」:ニュース動向 & ステーキング状況 in エポック572

GENIUS法から始まる通貨革命──ステーブルコインとビットコインが描く「新たな標準」

以下の記事のデータやニュースの引用は次のXアカウントから参照・引用しています。
SITION@SITIONjp
SIPO:CARDANO SPO & DRep@SIPO_Tokyo

序章|「お金のルール」が変わり始めたアメリカ

2025年、アメリカで「お金のルール」が静かに、しかし確実に変わり始めました。

その象徴が、7月に連邦議会を通過した「GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act of 2025)」です。この法律は、米国史上初めてステーブルコインというデジタル通貨に対し、発行・準備資産・会計・監督体制までを包括的に規定したものであり、事実上「デジタルドルの制度的インフラ」を築く起点となりました。

これまで暗号資産(暗号通貨)は、投資商品としての側面ばかりが強調されてきました。しかし今、制度面・技術面・政策面の三方向から、「通貨としての暗号資産」という新たな実像が立ち上がろうとしています。

ステーブルコインは、その最前線にあります。ドルに1対1で裏付けられ、リアルタイムで送金・決済に使えるデジタルトークンは、従来の銀行送金や国際決済システムの代替になりうるだけでなく、新興国やスマホユーザーを中心としたグローバルな金融包摂にも寄与し始めています。

そして、その「制度的信頼」を担保するための礎が、まさにGENIUS法であると言えるでしょう。

同時に、ビットコインもまた新たな段階へと進もうとしています。アメリカ議会では現在、「デ・ミニマス免除法案」と呼ばれる税制改革が審議されており、少額のビットコイン決済を非課税とする構想が本格化しています。もしこの法案が成立すれば、「ビットコインでコーヒーを買っても税金がかからない」日常が実現するのです。

また、通貨制度そのものへの問題提起も始まっています。財務長官スコット・ベセント氏は、連邦準備制度(FRB)が年間1,000億ドル以上の損失を出している現状を指摘し、「内部監査の時だ」と発言しました。これは単なる予算批判にとどまらず、「中央銀行という制度の持続可能性」に対する根源的な問いかけであるとも言えます。

ステーブルコインの制度化、ビットコインの実用化、中央銀行への揺さぶり──これらはすべて、「お金」という概念が今まさに再構築されつつあることの表れです。かつては国家の独占だった「通貨発行」と「価値の管理」は、今後は分散性・透明性・技術的合理性によって再定義されていく可能性があります。

本稿では、GENIUS法を起点としながら、ビットコイン、ステーブルコイン、そしてその周辺で進む制度改革や技術革新を照らし出し、これから始まる「通貨革命」の全体像を描いてまいります。


第1章|GENIUS法の全容──ステーブルコインの連邦標準が意味するもの

2025年7月、米国議会で成立した「GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act of 2025)」は、暗号資産史における一大転機として注目を集めています。この法律は、ステーブルコインを明確に定義し、発行者や準備資産に対して厳格かつ包括的な規制基準を導入するものであり、米国における“通貨の新たな標準”の出発点となっています 。

◇ ステーブルコイン発行の「連邦ライセンス制」

GENIUS法は、米国内でステーブルコインを発行する者に対し、「許可を受けた発行者(Permitted Payment Stablecoin Issuer)」としての資格を義務付けました。これには以下の三類型があります。

  • 連邦認可の非銀行型発行体(Federal Qualified Nonbank Issuer)
  • 銀行の子会社による発行体
  • 州認可の発行体(State Qualified Issuer)で連邦基準と同等であると認定されたもの

これにより、誰でも勝手にステーブルコインを発行することはできなくなり、法的信認と発行体の責任体制が強化されました。

◇ 1:1の準備資産と再利用禁止

GENIUS法の核となるのが、「発行済みステーブルコインの100%を裏付ける準備資産」の保有義務です。これに含まれる資産は厳格に限定されており、以下のような高流動・低リスクの金融商品に限られます。

  • 米ドル紙幣や硬貨
  • FDIC保護下の預金口座
  • 満期93日以内の米国財務証券(T-Bills)
  • 一定条件を満たす短期リバースレポ契約
  • 中央銀行への預け金

さらに、これらの準備資産は「再担保化(リハイポセシーション)」を原則禁止とし、必要最低限の流動性確保目的以外で第三者に流用することはできません 。この点は、信用創造型の銀行とは一線を画す、“信託的構造”の徹底を意味しています。

◇ 情報公開と監査の義務化

すべての許可発行者には、以下の情報公開と監査対応が義務付けられています。

  • 毎月の準備資産構成と発行量の公開
  • CEOおよびCFOによる証明書の提出
  • 第三者会計事務所による月次報告監査
  • 誤認・虚偽報告に対する刑事罰の明記

これは、これまでステーブルコイン市場で問題視されてきた不透明な準備資産構成や、裏付けの不在リスク(例:過去の某ステーブルコイン事件)に対する明確な制度的対応と言えます。

◇ SECとCFTCの規制外とする明文化

もうひとつ大きな特徴は、GENIUS法によってステーブルコインを「証券」または「コモディティ」から除外する旨が明文化された点です。これにより、SEC(証券取引委員会)やCFTC(商品先物取引委員会)との重複・曖昧な規制領域を解消し、発行者は明確な枠組みのもとで事業を展開できるようになりました。

◇ EUのMiCA規制との比較──グローバル標準へ向けて

このGENIUS法は、EUが先行して導入した「MiCA規制(Markets in Crypto Assets)」と共通点を持ちつつも、より金融インフラに即したアメリカ型の発行責任構造に重きを置いています。特に以下の点で先鋭的です。

  • 準備資産の質と流動性要件がより具体的
  • 州レベルの制度との連携・互換性を保つ設計
  • 清算・破綻時における「ステーブルコイン保有者の優先債権化」

このように、GENIUS法は単なる技術規制ではなく、米国の金融インフラそのものの一部として、ステーブルコインを制度内に組み込むものとなっています。

◇ 制度化された信認の先にある「実用化」と「通貨としての拡張」

この章で見てきた通り、GENIUS法はステーブルコインを制度の中に取り込むことでその信認を高め、法定通貨との“共存”を可能にする枠組みです。しかし、信認だけでは通貨にはなりません。

次章では、この法整備を受けて進行している「ビットコインの実用化」──すなわち「デミニマス免除法案」による税制改革と少額決済の非課税化の動きを取り上げ、実際の通貨利用にどのような変化が起きようとしているのかを読み解いていきます。


第2章|税制の転換点──ビットコインの「非課税通貨」化が始まる

GENIUS法がステーブルコインの発行・運用に制度的信認を与えた一方で、もう一つの通貨的暗号資産──すなわちビットコインもまた、静かにその地位を変えつつあります。

その鍵を握るのが、米国議会で審議中の「デミニマス免除法案(de minimis exemption)」です。この法案は、少額のビットコイン決済に対してキャピタルゲイン課税を免除するという、これまでにない画期的な税制改正案として注目を集めています。

◇ 課税ルールが「日常利用」の障壁だった

これまでの米国税法では、たとえ日常的な支払いであっても、ビットコインを使った決済は「資産の売却」と見なされるため、購入時と使用時の価格差によってキャピタルゲイン(またはロス)が発生し、課税対象となっていました。

たとえば、5ドルのコーヒーをビットコインで購入するだけでも、その取引に含まれる価格変動によって申告義務が生じるという状況でした。これは、一般ユーザーにとって煩雑かつ非実用的な制度であり、「ビットコインを日常通貨として使う」というビジョンを大きく阻んでいた要因のひとつです。

◇ デミニマス免除法案の内容と構造

現在審議されている同法案は、この障壁を取り払うことを目的としており、以下のような骨子で構成されています:

  • 非課税の条件
    • 1回あたりの取引額が300ドル以下
    • 年間キャピタルゲイン総額が5,000ドル以下
  • インフレ調整
    • 2026年以降はCPI(消費者物価指数)に連動して上限が自動的に引き上げられる
  • マイニング・ステーキング報酬の課税時点変更
    • 現行制度では取得時に課税されていたが、法案では「売却または交換時」に一本化される予定
  • 暗号資産貸出やチャリティ寄付の評価制度との整合性も調整中

この改正によって、日常決済における課税リスクと記録義務が大幅に軽減されると同時に、税務処理のシンプルさが確保されることで、一般利用者にとっての心理的・実務的ハードルが下がることが期待されています。

◇ トランプ政権とホワイトハウスも支援の姿勢

注目すべきは、トランプ政権もこの法案に対して前向きな立場を示しており、600ドルまでの非課税枠を支持する可能性が報じられています。さらに、7月30日に予定されているホワイトハウスの暗号資産政策レポートでは、ビットコインの戦略備蓄と並行して、このような法整備の方向性が明確にされる可能性もあります。

これは、単なる税制の話にとどまらず、ビットコインを「投資資産」から「通貨資産」へと移行させる国家戦略の一環とも受け取れます。

◇ 企業の実装と制度の連動──PayPal、IBの例

現実の動きとして、PayPalは「Pay with Crypto」機能を導入し、ビットコインやイーサリアムでの支払いを即時にステーブルコインや法定通貨に変換するサービスを開始しています。さらに、インタラクティブ・ブローカーズ(IB)はステーブルコインを使った証券口座への入金の検討を進めており、金融の出入り口そのものが暗号資産に対応し始めています。

このようなインフラ側の対応と制度整備が噛み合い始めたことにより、ビットコインを「使える通貨」として再定義する環境が急速に整いつつあるのです。

◇ 「使えるビットコイン」が日常を変える可能性

この法案が通過すれば、たとえば以下のようなユースケースが実現可能になります。

  • コンビニでの支払い
  • サブスクリプション料金の支払い
  • 海外旅行中の即時決済
  • マイクロペイメントによる個人間の報酬やギフティング

これらは従来、実現しようとするたびに税務面のリスクや複雑性が立ちはだかっていました。しかし今、税制そのものが「日常通貨としてのビットコイン」の可能性を後押しするフェーズに入ったのです。


◇ 通貨制度の変質と中央銀行への揺さぶり

GENIUS法とデミニマス法案が整える「ステーブルコイン+ビットコイン」の制度インフラは、国家の通貨政策そのものにも影響を与え始めています。

次章では、FRBの赤字と財政負担の拡大、そして中央銀行の信認そのものに対する政治的な揺さぶりに焦点を当て、従来型の通貨制度がいま直面している構造的限界を掘り下げていきます。


第3章|FRBと通貨制度の危機──赤字企業化と政治的監査の衝撃

アメリカの通貨制度の中枢を担ってきた連邦準備制度(FRB)が、いま大きな問いに直面しています。その発端は、2025年夏に財務長官スコット・ベセント氏が放った、ひとつの強烈な言葉──「FRBは赤字企業だ」という発言でした。

この発言は、単なる財務状況への皮肉にとどまらず、米国の中央銀行制度そのものの信認に関わる問いかけであり、「お金の価値」を管理する存在に対する根源的な再評価を促すものでした 。

◇ 年間14兆円の赤字──中銀バランスシートの限界

ベセント長官が指摘したのは、FRBが2025年度に年間約1,000億ドル(約14兆円)の損失を計上しているという事実です。これは、利上げ政策に伴って保有債券の評価損が拡大していること、そして準備金への利払いなどが大きく負担となっていることが背景にあります。

加えて、FRB本部の約25億ドルに上る改修プロジェクトが予算を圧迫していることも、納税者の視線を集める要因となりました。こうした状況に対し、ベセント氏は「内部監査の時が来た」と述べ、中央銀行に対する政治的統制と説明責任を求める姿勢を明確にしたのです 。

◇ 「神聖不可侵」の終焉──中央銀行への信認が揺らぐとき

FRBは建前上、政府から独立した中立的な金融政策機関とされてきました。しかしその一方で、中央銀行が政府債務の最大の引受人となっている現実は無視できません。

たとえば日本銀行は、発行済み国債の50%超を保有し、イングランド銀行や欧州中央銀行(ECB)も同様に自国債を買い支える構造にあります。米国でもFRBが全米国債の約25%を保有しており、中央銀行が事実上「国家の負債の最終保証人」となっている状況が浮き彫りとなっています 。

こうした構造は、金利正常化や財政規律の回復を困難にするだけでなく、通貨そのものの信認を蝕むリスクをはらんでいます。

◇ ベセント長官のメッセージ──“次の通貨体制”への布石か

ベセント財務長官は、FRBを単なる機能不全の官僚機構として批判しているのではありません。彼のメッセージは、もっと本質的です。

「FRBは政府機関ではなく、説明責任を負う“民間企業”である」という前提に立ち、国家が金融制度の主導権を再び掌握する時期に来ているという認識が背景にあるのです 。

この視点は、トランプ政権が掲げる「中央銀行なき通貨体制」=Public Digital Money構想とも親和的です。たとえば、「ステーブルコインを制度化」するGENIUS法や、「デジタル資産を国家的に備蓄する」戦略が議論されていることも、その延長線上にあると考えられます 。

◇ 通貨制度の変質と「通貨の選択権」の時代へ

いま、私たちは「中央銀行か、それともコードによるルールか」という二項対立の枠組みから脱しつつあります。FRBのような中央集権的な通貨発行体が揺らぐ一方で、制度に裏付けられたステーブルコインや、税制に支えられたビットコイン決済が現実化しつつあります。

GENIUS法が示すのは、民間主導の透明で信頼性ある通貨発行モデルの制度化です。そして、デミニマス法案が示すのは、国が暗号資産を“日常通貨”として扱うことへの政策的合意です。

そこに今、FRBの制度的限界が露わになることで、国家・市場・市民の間で「通貨の選択権」が分散化される時代が到来しているのです。

◇ 分散型通貨の未来像:PlasmaとMidnightの挑戦

中央銀行の揺らぎと制度的改革の進展。その両者の間隙を縫うように、暗号資産エコシステムの中では新たな通貨インフラの構築が進行しています。

次章では、ピーター・ティール支援のPlasmaや、カルダノのサイドチェーン「Midnight」によるステーブルコイン構想を取り上げ、制度の中からではなく“外側”から始まる通貨革命の動態を見ていきます。


第4章|ビットコイン新章──PlasmaとMidnightが示す非中央集権的な未来像

これまで見てきたように、米国政府はGENIUS法によってステーブルコインを制度化し、デミニマス免除法案によってビットコインを「通貨としての日常利用」へと導こうとしています。また、FRBという中央集権的な貨幣管理装置には制度疲労の兆しが表れており、通貨の未来は、中央集権と分散化のせめぎ合いの中にあります。

そんな中で、制度の外縁からまったく新しい通貨像を提示しようとしているのが、PlasmaMidnightという2つの分散型プロジェクトです。これらは、それぞれ異なる思想と技術的文脈を持ちながらも、中央管理に依存しない「お金」の設計図を提示しようとしている点で共通しています。

◇ Plasma──「ビットコイン上のステーブルコイン」という未踏領域

2025年夏、ピーター・ティール率いるFounders Fundの支援を受けた新興プロジェクト「Plasma」が、わずか一度のトークンセールで3億7300万ドル(約580億円)もの資金を調達したことは、業界に大きな衝撃を与えました。

Plasmaは、イーサリアムやソラナといったL1チェーンとは異なり、ビットコインのL2サイドチェーンとして構築されるステーブルコイン特化型ネットワークです。以下のような特徴が注目されています。

  • ローンチ時点で10億ドル規模のステーブルコインが導入予定
  • 送金手数料ゼロという大胆な設計
  • DeFiや国際送金向けのスケーラブルな決済プラットフォーム

これまで、ビットコインは「価値の保存(Store of Value)」に特化してきた資産であり、決済通貨としてのユースケースは限定的でした。しかしPlasmaは、ビットコインネットワークのセキュリティと信頼性を活かしながら、高速で実用的な決済レイヤーとして機能することを目指しており、これは「価値の保存」と「価値の移動」の橋渡しを果たす試みでもあります。

その意味でPlasmaは、ビットコイン×ステーブルコインというこれまで未開拓だった分野において、「分散型ドル経済圏」の起点になりうる存在です。

◇ Midnight──プライバシー保護とステーブルコインの融合

一方、カルダノのサイドチェーンとして設計された「Midnight」も、通貨の未来像を提示しようとするもう一つの重要な試みです。Midnightは、ゼロ知識証明(ZK)による秘匿性コンプライアンス対応性を両立させたブロックチェーンとして開発されており、最近ではアルゼンチンにおいてMonetaとの連携による「秘匿型ステーブルコイン」構想が動き出しました。

この構想は、既存のKYC義務や監視性を前提としたステーブルコインとは異なり、利用者のプライバシーを尊重したデジタル通貨のあり方を追求しています。構想の中核には、「Private Treasury(プライベート財務省)」という概念があり、これは国家や中央銀行が関与せず、コミュニティ主導で発行・運用される自主的で秘匿性の高い通貨インフラを意味します。

Midnightは、GENIUS法のような制度的通貨モデルと競合するわけではなく、むしろその制度外において「選択可能なもう一つの公共性」を提供する存在です。これは、法に基づく信頼(rule-based trust)ではなく、プロトコルに基づく信頼(code-based trust)を提供する、まさにWeb3的な通貨モデルと言えるでしょう。

◇ 制度内と制度外──共存する2つの通貨進化系統

PlasmaとMidnightは、それぞれが制度の外側から「通貨」の再定義に挑戦する存在でありながらも、GENIUS法で制度化されたステーブルコインや、税制に支えられたビットコインの実用化と、ある種の補完関係にあります。

  • Plasmaは「最速・最安のドル決済インフラ」として、伝統金融の限界を突き崩す可能性
  • Midnightは「誰にも監視されない経済圏」として、自由と匿名性を再設計する可能性

国家と協調するステーブルコインと、国家の関与を避ける分散型通貨。これらは対立構造ではなく、異なるニーズに対応する選択肢として共存しうるというのが、2025年現在の通貨進化のリアルです。

◇ 制度と分散の交差点に立つ私たち

PlasmaやMidnightは、法定通貨でも暗号資産でもない、「第三の通貨領域」を提示しています。そしてそれは、「通貨とは何か?」という問いに対して、制度に頼るのではなく、技術・信念・選択に根ざした解を示そうとするものです。

最終章では、GENIUS法によって生まれた制度的インフラ、PlasmaやMidnightのような分散型革新、そしてFRBやホワイトハウスの動向を俯瞰しながら、「お金の未来」がどう変わっていくのかを総括してまいります。


終章|「法定通貨か、分散型通貨か」ではない──新たな重層通貨時代へ

これまで「通貨」とは、国家が発行し、中央銀行が管理し、法律によって流通が保障されるものでした。私たちはその前提のもとで生活し、経済活動を行ってきました。しかし2025年、世界は明確にその枠組みを脱しつつあります。

本書で取り上げてきたGENIUS法によるステーブルコインの制度化ビットコイン少額決済の非課税化を目指すデミニマス免除法案、さらにはFRBという“国家の貨幣工場”への政治的監査と信頼の揺らぎ──それらはすべて、「通貨は誰が発行し、誰が管理すべきか?」という問いの再浮上に他なりません。

一方で、PlasmaやMidnightといった新興プロジェクトは、国家の制度から自律的に設計され、コードと暗号技術に基づいて流通する通貨のもう一つの形を提示しています。国家と企業が主導する「制度型通貨」と、個人とプロトコルが主導する「分散型通貨」。いま世界は、この二つの潮流を排他的にではなく、重層的に共存させようとする地点に立っているのです。

◇ 通貨は「選ぶ」時代へ

21世紀初頭まで、通貨は選ぶものではなく「与えられるもの」でした。生まれた国の通貨を使い、国境を越えれば為替に依存し、政治や金融政策によってその価値は上下しました。しかし今、私たちは通貨を自らのニーズに応じて選べる時代を迎えています。

  • 価格変動のないデジタルドルが必要なら、GENIUS法に準拠したステーブルコインを使う
  • プライバシーを守りたいなら、MidnightのようなZK対応通貨を選ぶ
  • 国家のインフレ政策から資産を守りたいなら、ビットコインで備える
  • 複数の通貨を同時に使い分けるマルチアセット・マルチウォレット時代もすでに始まっています

かつて「通貨」は単一であることが信用の条件でした。今は逆に、「複数性こそが信認の担保」となりつつあるのです。

◇ 通貨の三層構造が生まれる未来

私たちが向かっているのは、「国家通貨 vs 暗号通貨」という単純な対立構造ではありません。制度・市場・技術という三つの層が重なり合う「通貨のレイヤー構造(layered money)」が形成されつつあります。

レイヤー主な通貨モデル主体特徴
上層(制度)中央銀行デジタル通貨(CBDC)、規制済ステーブルコイン(GENIUS法準拠)国家、規制機関法的信用と制度的透明性
中層(市場)準制度型ステーブルコイン(USDC、USDT)、金融系DeFi民間企業、金融業者実用性と利便性、準法的信認
下層(技術)ビットコイン、Midnight、ZK資産、非KYC型トークン個人、DAO、開発者自律性と非中央集権性、匿名性

この三層が有機的に交差し、ユーザーや経済圏によって動的に使い分けられるようになることで、通貨そのものが再定義されていきます。

◇ ルールではなく信頼を設計する時代へ

GENIUS法は「法による信頼」を与えました。PlasmaやMidnightは「コードによる信頼」を設計しています。そして、デミニマス免除やFRB監査の動きは、「政治による信頼の再構築」を模索しています。

通貨はもはや一枚の紙や一つの記号ではありません。それは、私たちが信じるべき仕組みと、それを選び取る自由の総体です。

国家はルールをつくり、市場は利便性を磨き、個人は原理を守る──この三者のバランスがもたらす通貨こそ、次の時代の標準となるでしょう。

◆ 通貨は、未来そのもの

『GENIUS法から始まる通貨革命』は、単なる法案の解説ではありません。それは、いま私たちの手の中に生まれつつある「未来の通貨」「信頼のデザイン」「個人の選択権」についての物語です。

ビットコインを使うか、ステーブルコインを選ぶか、プライバシーを守る秘匿通貨に移行するか──そのすべてが、私たち一人ひとりの意思によって選ばれる時代が、もう目の前まで来ています。

通貨が「国家に従うもの」から「市民が使いこなすもの」へと変わるとき、経済も社会も政治も、根本から変わるのかもしれません。

そしてその始まりが、2025年、GENIUS法の可決という“制度の小さな革命”だったのです。


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