研究と現場が交わるとき:Cardano R&Dセッションが示した、SPOとネットワークのこれから
IO記事「Researchers and network operators: aligning Cardano’s long-term vision with on-chain reality」を公開し、CardanoのR&Dセッション(X Space)で行われた議論について紹介しています。議論は、研究者とSPO(ステークプールオペレーター)が直接向き合い、「Cardanoの長期ビジョンが、実際のオンチェーン運用にどう影響していくのか」を具体的にすり合わせる内容。
テーマはシンプルですが本質的です。
研究はどこへ向かっているのか。
そして、その変化はSPOやネットワーク参加者に何をもたらすのか。
この記事は、その問いに対する非常に実践的なヒントを与えてくれています。
Cardano Visionとは何か
今回のセッションでは、5年間の研究ロードマップである「Cardano Vision」が、単なる理論研究ではなく、SPOにとって長期的な価値を生む設計図であることが強調されました。
研究の中心にあるのは次の3点です。
- ネットワークの安全性を、将来の脅威まで含めてどう守るか
- スケーラビリティ向上が、SPOの役割や収益構造をどう変えるか
- 経済設計とガバナンスを、どう持続可能に進化させるか
いずれも「理論的に正しい」だけでは意味がなく、実際に運用できるかどうかが強く意識されています。
ポスト量子時代を見据えたセキュリティ
特に印象的だったのが、量子計算機を前提にしたセキュリティの話です。
現在のCardanoは古典的な攻撃に対して十分安全ですが、将来の量子計算能力を持つ攻撃者に対しては、暗号の前提そのものを変える必要があります。
ここで重要なのは、
これは単なるアップデートではなく、本格的な構造変更(ハードフォーク)になるという点です。
- VRFなど中核暗号の置き換え
- ブロック検証時間やノード要件の変化
- 過去チェーンとの非互換性
量子計算が実用化されるのはまだ先と見られていますが、設計・検証・展開に時間がかかるため、研究はすでに始まっています。
「起きてから対応する」のでは遅い、という現実的な判断が感じられます。
Leiosが変えるのは性能だけではない
Leiosは「スケーラビリティ技術」として知られていますが、この記事では経済的な意味合いに焦点が当てられています。
現在のSPO報酬は、どうしてもブロック生成という“運”に左右されがちです。
特に小規模プールにとっては、収益のブレが大きな課題になっています。
Leiosでは、
- より頻繁なプロトコル参加行動が可視化され
- 継続的な貢献に基づく評価が可能になる
ことで、報酬の分散と安定化が期待されています。
これは単なる高速化ではなく、
「SPOの貢献をどう測り、どう報いるか」を再設計する取り組みだと言えます。
新しい役割としての分散型ストレージ
スループットが上がり、レイヤー2が増えていくと、次に問題になるのがデータ可用性です。
そこで紹介されたのが、分散型ストレージレイヤーという新しい構想です。
ここでは、
- コンセンサスを担うSPO
- データ保存を専門に行うストレージ提供者
という役割分化が想定されています。
すべての参加者が同じことをする必要はなく、
専門化によって新たな収益機会が生まれるという発想は、Cardanoらしい設計だと感じます。
最大の課題は「経済インセンティブ」
議論の中で繰り返し指摘されたのが、
ネットワーク利用をどう増やすかという問題です。
ADAが価値保存資産として意識されるほど、オンチェーンで使われにくくなる。
その結果、取引量やDApp利用、手数料収入が伸びにくくなるというジレンマがあります。
この課題に対して、
- 一時的な補助
- 手数料モデルの見直し
- デュアルトークン設計(MidnightのNIGHT/DUSTなど)
といった選択肢が研究されていますが、いずれも慎重な設計が求められます。
ここで強調されていたのは、
今後いちばん難しいのは暗号技術ではなく、経済設計であるという認識です。
まとめ:研究と現場をつなぐことの重要性
この記事が伝えている最大のメッセージはとても明確です。
Cardanoの次の進化は、
優れた研究だけでは完成しない。
SPOやオペレーターが、実際に参加し、報われる形で実装されて初めて意味を持つ。
量子耐性、Leios、分散型ストレージ、経済設計。
どれもネットワークの未来を左右する重要なテーマですが、
それらを「現場の現実」とどう噛み合わせるかが、これからの鍵になります。
研究者と運用者が対話を続けるR&Dセッションは、
Cardanoが“理論だけで終わらないプロトコル”であり続けるための、非常に重要な場となっています。
以下はIOニュースに掲載された記事「Researchers and network operators: aligning Cardano’s long-term vision with on-chain reality」を翻訳したものです。
研究者とネットワーク運用者:Cardanoの長期ビジョンをオンチェーンの現実と整合させる
最近開催されたCardanoのR&Dセッション(X Space)では、新たに進行中の研究がSPO(ステークプールオペレーター)にどのような影響を与えるのかが検討され、将来のプロトコル変更によって生じ得る技術的な調整点や、新たな経済的役割が明らかにされました。
フェルギー・ミラー
2025年12月22日
Cardano R&Dセッション第6回の概要
Cardano R&Dセッションの第6回では、Input | Output Research(IOR)が各地を巡り、コミュニティマネージャーのマシュー・キャップスが主催する、SPO主導のX Spaceを共同開催しました。冒頭の紹介に続いて、研究パートナーシップ担当ディレクターのフェルギー・ミラーが、IORの5年間にわたる研究プログラム「Cardano Vision」が、SPOに対してどのように直接的かつ長期的な価値を提供するのかを説明しました。
セキュリティ基盤の強化
SPOの運用が依存するセキュリティ基盤を強化することは重要なテーマです。
「ポスト量子ランドスケープ」や「ビザンチン耐性ネットワーキング」といった研究分野は、新たな攻撃モデルに備えるものであり、量子計算能力を持つ攻撃者が出現した場合でも、ステーク鍵、スロットリーダー選出プロセス、ノード間通信の安全性を維持することを目的としています。
さらに、配置場所を考慮したデプロイメントに関する研究も進められており、地域的な障害リスクを低減し、オペレーターおよび委任者にとっての信頼性を高めることで、ネットワーク全体の耐障害性を強化します。
スケーラビリティがもたらすSPOの役割拡張
スケーラビリティに関する取り組みは、SPOの能力を従来のブロック生成という役割を超えて拡張します。
Ouroboros Leios、分散型ストレージ、シャーディング、そしてMinotaurのマルチリソース・コンセンサスといった技術は、新たな参加形態や潜在的な収益源を生み出します。
これらの進展により、運用コストは削減され、トランザクション処理能力は向上し、インフラを重複させることなく特定分野に特化したり、複数のエコシステムにサービスを提供したりすることが可能になります。
結果としてSPOは、よりモジュール化され相互運用性の高いネットワークにおける、重要なサービス提供者として位置付けられることになります。
経済・トークノミクス研究による持続可能性
経済およびトークノミクスに関する研究は、報酬の変動性を抑え、予測可能な収益構造を実現することで、オペレーターの持続可能なビジネスモデルを支えます。
報酬分配、混雑制御、手数料市場の改善は、実際のネットワーク利用状況に即した明確なインセンティブを提供します。また、パートナーチェーン経済やリステーキングの枠組みによって、SPOは複数の実行環境にまたがって価値を獲得できるようになります。
これらの取り組みにより、SPOは単なる受動的なネットワーク維持者から、活動量と需要の増加によって利益を得る能動的な経済参加者へと進化していきます。
ガバナンスの進化とSPOの影響力
ガバナンスの強化により、SPOはCardanoの方向性に対して実質的な影響力を維持できます。
軽量な投票プロトコル、アイデンティティに紐づいた参加メカニズム、分析ツールの導入により、ガバナンスはより効率的で、説明責任が明確になり、エビデンスに基づいたものとなります。
参加コストを下げ、意思決定に用いられる情報の質を高めることで、Cardano VisionはSPOを単なるインフラ運用者ではなく、ネットワークの技術・経済・政策進化を支える中核的な担い手として位置付けています。
その後、X Spaceはディスカッション形式に移行し、研究者とSPOが4つの研究分野について深く議論し、相互理解を深めるとともに、協力関係の強化によって共有課題や新たな機会が浮き彫りにされました。
ポスト量子時代への備え
Cardanoの暗号基盤は古典的な攻撃者に対しては安全ですが、量子計算能力を持つ攻撃者は、リーダー選出やコンセンサスを支える暗号プリミティブに対して理論的な脅威となります。
シニア研究フェローのアレクサンダー・ラッセルは、ポスト量子暗号への移行は単なるパラメータ更新や日常的な最適化ではないと説明しました。
これは、検証可能ランダム関数(VRF)などの中核コンポーネントに対する構造的な変更であり、ブロック検証時間やノードのリソース要件を変化させ、そして決定的に、既存のチェーン履歴とは後方互換性を持たないものになります。
ラッセルは、量子耐性プリミティブの導入には「特定のスロット番号以降に生成されるブロックに対して、異なる検証ルールを用いる必要がある」と指摘し、真のアーキテクチャ的ハードフォークが不可欠であることを明確にしました。
多くの予測では、実用的な量子計算は5〜10年先とされていますが、セキュリティ計画では最も早い現実的なシナリオを前提にする必要があります。分散型エコシステム全体で新しいプリミティブを設計・検証・展開するには時間がかかるため、この分野の研究は5年スパンを前提に進められています。
この研究方針は、長期的なプロトコルセキュリティが、潜在的な攻撃者よりも速く暗号前提を進化させ続ける必要がある、という現実を示しています。
Leiosと新しい経済ダイナミクス
Leiosは、分散性を損なうことなくスループットを向上させるCardanoのスケーラビリティ戦略として広く理解されています。しかし、研究者ジョルジオス・パナギオタコスが示したように、その影響は性能面にとどまりません。
完全なLeiosモデルでは、ノードは追加のコンセンサス参加メッセージを送信する必要があり、ブロック生成よりも高頻度で測定可能な行動が発生します。
このように参加指標がより細分化されることで、経済的な影響が生じます。現在、SPOの報酬は主にブロック生成に依存しており、小規模オペレーターにとっては収益のばらつきが大きくなっています。
高スループット環境では、頻繁な参加シグナルに基づいて、確率的なブロック割当ではなく、継続的なプロトコル活動に基づく報酬分配が可能になります。
これにより、オペレーター収入の変動は抑えられ、小規模プールの経済的耐性が高まり、スロット割当の「運」に依存しない形で分散性が強化されます。
同時に、スループットと取引量の増加は、長期的には手数料収入全体の増加ももたらします。
つまりLeiosは単なる性能向上ではなく、「貢献をどう測定し、どう報酬を与えるか」というネットワーク構造そのものの再設計なのです。
分散型ストレージレイヤー
スループットの向上とレイヤー2プロトコルの増加に伴い、データ可用性はスケーラビリティの中核的なボトルネックとなります。
研究フェローのサンドロ・コレッティ=ドレイトンは、コンセンサス層と同等のビザンチン耐性を提供する分散型ストレージレイヤーに関する研究を紹介しました。
この開発により、「ストレージ提供者」という新たな運用上の役割が生まれる可能性があります。
SPOとは異なり、これらの提供者はコンセンサス検証を行う必要はなく、上位レイヤープロトコルが必要とする検証可能なデータの保存に特化します。
研究者パウロは、これは単なる技術的最適化ではなく、想定された経済的専門化であると説明しました。
任意参加型の仕組みによって、データサービスに基づく新たな収益源が生まれ、すべての参加者にコンセンサス役割を強制することなく、ネットワークの運用基盤を拡張できます。
最大の研究課題は、正しいデータ保持を証明する仕組みと、それに対応するインセンティブ設計です。これが解決されれば、Cardanoは統一された経済フレームワークの中で、コンセンサス提供者とストレージ提供者という異なるオペレータータイプを支援できるようになります。
ネットワーク成長にはインセンティブの整合が不可欠
性能向上や新たな役割がネットワークを強化する一方で、長期的価値の主要な原動力は「利用」です。
コミュニティでの議論では、構造的な不整合が指摘されました。すなわち、利用者がADAを価値上昇資産として扱うことで、オンチェーンでの支出が抑制されているという問題です。
これにより、取引量、DApp利用、手数料による持続可能性といった、エコシステム発展に不可欠な指標が伸び悩みます。
ブロック生成はすでにリザーブからの報酬で補助されているため、使われていないブロックスペースは非効率となります。このセッションでは、低利用期において一時的な補助制度や代替的な手数料モデルによってネットワーク活動を刺激できるかが検討されました。
しかし、単一トークンでこうした仕組みを設計することには、大きな経済的リスクが伴います。
MidnightのNIGHT/DUSTモデルのようなデュアルトークン設計の研究は、より柔軟なインセンティブ構造を模索する試みです。
IORが強調したように、Cardanoの高保証アプローチでは、慎重に設計された実験が不可欠です。手数料構造の変更には、厳密なモデリングとエコシステム全体の協調が必要であり、今後最大の課題は暗号技術ではなく経済設計にあることが示されています。
結論:研究の軌道と経済的現実の調整
今回の議論は、Cardanoの次の進化段階が、先進的な暗号技術や新しいプロトコル機構だけでなく、研究目標とオペレーターのインセンティブを調和させる必要性によって特徴づけられていることを示しました。
量子耐性、Leiosの経済設計、分散型ストレージといった新しい研究分野は、ネットワークの技術構造と経済構成の両方を再形成していきます。
これらの革新にオペレーターが持続的に参加し、経済的な恩恵を得られるかどうかが、研究成果が実運用へと移行できるかを左右します。
Cardanoの長期的成功は、堅牢な科学的基盤と、インセンティブ整合的で実行可能な市場構造の両立にかかっています。
エビデンスに基づく進化を続ける中で、研究チームとオペレーターの継続的な協力は不可欠です。
プロトコルの成熟は、理論的ブレークスルーだけでなく、それが分散性・性能・経済的持続性を実際に支える運用システムへと転換されるかによって測られるでしょう。
CardanoのR&Dセッションは毎月第1火曜日に継続開催され、研究者、エンジニア、エコシステム参加者が集い、Cardanoの長期的未来を形作る技術について議論を深めています。
























