Cardano InterChain戦略の現在地──BitcoinDeFiが動き出す理由:マルチチェーン時代の本命構想と【特別コラム】DELTA DeFiの意味

イントロダクション:研究主導・安全性前提・インセンティブ設計まで含めたInterChain構想
エポック601に入り、Cardanoの中長期戦略の中核に位置づけられてきた InterChain(相互運用)戦略が、さらに「具体的な動き」として見え始めてきました。
その中でも特に注目すべきテーマが、BitcoinDeFi(BTCFi)です。
これまでCardanoは、
- 形式検証に基づく高い安全性
- EUTxOモデルによる堅牢なスマートコントラクト設計
- 分散性と持続可能性を重視したプロトコル進化
といった点で、他のL1とは異なる道を歩んできました。一方で、「他チェーンとどう接続するのか」という問いについては、慎重すぎるほど慎重に進めてきたとも言えます。
しかし今、その姿勢が明確な戦略として言語化され、技術実証として表に出始めているのが、IOGの最新記事
「Interchains: connecting Cardano to a multi-chain future」です。
この記事では、Cardanoが目指すマルチチェーンの姿が、単なる「ブリッジ」や「資産移動」を超えた、
研究主導・安全性前提・インセンティブ設計まで含めたInterChain構想として整理されています。
そして、その最初の実践フィールドとして浮かび上がってきたのが、
Bitcoin × Cardano、すなわちBitcoinDeFiです。
- Cardinalによる信頼最小化ブリッジ
- FluidTokensによるブリッジレス・アトミックスワップ
- CharmsによるBitcoinスマートコントラクトとCardano CNTの接続
これらは単発の実験ではなく、「BTCという最大流動性を、どう安全に、どうCardanoへ接続するか」という長年の課題に対する、異なる角度からの具体的解答と言えます。
本記事では、IOGのInterChain戦略を軸にしながら、
- Cardanoはなぜ今、InterChainを本気で進めているのか
- なぜその中心にBitcoinDeFiが据えられているのか
- それはCardano DeFiに何をもたらすのか
を、資料と実例をもとに整理していきます。
さらに後半では、Cardano DeFiの受け皿として注目される「DELTA DeFi」を特別コラムとして取り上げ、
InterChainによって流入し得る流動性を、どのような取引基盤で受け止めるのかという視点まで踏み込みます。
エポック601は、完成形ではありません。
しかし確実に、「Cardanoがどこへ向かおうとしているのか」が見える地点に差し掛かっています。
まずは、IOGのInterChain記事が示す、Cardano戦略の転換点から見ていきましょう。
参考記事:
第1章:Cardanoは「単一チェーン」を終えた──IOG Interchains 記事が示す戦略転換
IOGが公開した最新記事「Interchains: connecting Cardano to a multi-chain future」は、単なる技術解説ではありません。
この記事は、Cardanoが自らの立ち位置を
「一つの高性能なL1」から「マルチチェーン時代の基盤」へと明確に移行しつつあることを示す、戦略的なメッセージだと受け取れます。
これまでのCardanoは、意図的に「単一チェーン」としての完成度を追求してきました。
- Ouroborosによる形式的に検証されたコンセンサス
- EUTxOモデルに基づく安全で予測可能なスマートコントラクト
- ガバナンス、財務、開発を含めた持続可能な設計
これらはすべて、「まずは自分たちの足場を固める」ための選択でした。
結果としてCardanoは、拡張性や分散性、安全性のトリレンマに対して、研究主導で答えを積み上げてきた数少ないL1になったと言えます。
一方で、その慎重さは
「他チェーンとの接続が遅い」
「エコシステムが閉じている」
といった評価につながることもありました。
しかしIOGの記事を読むと、ここで一つはっきりする点があります。
Cardanoは、相互運用性を軽視してきたわけではなかった、ということです。
むしろ逆で、過去10年のブリッジ史を冷静に振り返り、
- 信頼を置きすぎた結果、繰り返された大規模ハック
- セキュリティ前提が曖昧なまま作られたクロスチェーン設計
- インセンティブ不整合によるプロトコル崩壊
こうした失敗を「最初から前提に置いたうえで」、
一から設計し直すことを選んだのがCardanoのInterChain研究でした。
IOGは記事の中で、InterChainを
「とりあえず資産を移動できるようにする仕組み」
としては扱っていません。
重視されているのは、次の3点です。
1つ目は、信頼を最小化したセキュリティモデル。
「誰かを信じる」ことではなく、「誰も信じなくてよい」設計を、暗号学と形式手法でどう実現するかが中心に据えられています。
2つ目は、プライバシーと計算を含む相互運用性。
資産移動だけでなく、
データ・計算結果・インテントまでを、チェーンを越えて安全に扱うという発想です。
3つ目は、インセンティブ設計まで含めた持続可能性。
安全でも、参加者が報われなければネットワークは広がりません。
CardanoのInterChain研究では、トークン配布や参加コストを数学的に分析し、
「広がる設計」そのものを研究対象にしています。
この時点で、CardanoのInterChain戦略は
Ethereum系の「ブリッジ拡張」や、
Solana系の「高速接続路線」とは、明確に異なることがわかります。
IOGが描いているのは、
複数の主権的チェーンが、共通のプリミティブを共有しながら協調する世界です。
- 他チェーンを吸収しない
- 自分たちが覇権を取ることを目的にしない
- それぞれの強みを壊さずにつなぐ
その結果として、Cardanoは
「単一チェーンとして完成すること」を終え、
接続されることを前提とした基盤レイヤーへと進もうとしています。
そして、このInterChain戦略の中で、
最初に本格的な対象として浮上してきたのがBitcoinです。
なぜBitcoinなのか。
なぜEthereumではないのか。
なぜ「BitcoinDeFi」が、Cardano戦略の要として語られ始めたのか。
次章では、その理由を
構造・流動性・設計思想の観点から整理していきます。
第2章:InterChain戦略の中核思想──Cardanoが目指す「協調型マルチチェーン」
IOGの Interchains 記事を読み進めていくと、Cardanoが考えるInterChainは、単なる技術機能の集合ではないことがはっきりしてきます。
そこにあるのは、「どうつなぐか」以前に、どういう世界を前提にするかという思想です。
Cardanoが前提としているのは、
「一つのチェーンがすべてを支配する未来は来ない」という現実認識です。
Bitcoin、Ethereum、Cardano、そして用途特化型のさまざまなチェーン。
それぞれが異なる価値観と設計思想を持ち、並立し続ける世界において重要になるのは、
- 資産が安全に移動できること
- データや計算結果を共有できること
- それを「信頼」に依存せず実現できること
です。
しかし、過去の相互運用性は、この前提を満たしてきませんでした。
中央管理者やマルチシグに依存し、
「大多数が正直であること」を暗黙の前提としたブリッジは、
結果として20億ドルを超える被害を生み出しています。
CardanoのInterChain戦略は、ここから出発しています。
「協調型マルチチェーン」という発想
Cardanoが目指しているのは、
競争ではなく協調を可能にするマルチチェーンです。
重要なのは、「どのチェーンが勝つか」ではありません。
「それぞれのチェーンが、得意な役割を保ったまま、どう共存するか」です。
そのためにIOGが重視しているのが、共通プリミティブという考え方です。
- セキュリティ
- 流動性
- プライバシー
- アイデンティティ
- 計算リソース
これらをチェーンごとに再実装するのではなく、
必要なときに共有できる基盤として提供する。
これが、InterChain戦略の根底にあります。
信頼を前提にしない接続
CardanoのInterChainで繰り返し強調されているのが、
信頼最小化(Trust Minimization)です。
- 管理者が誠実であることを前提にしない
- オペレーターの多数決に安全性を委ねない
- 暗号学的に「不正できない」設計を目指す
これは、OuroborosやEUTxOで培ってきた思想が、そのままInterChainにも拡張されていると言えます。
特に注目すべきなのは、
ライトクライアントとステート証明を中心に据えている点です。
他チェーンの状態を、
「誰かの証言」ではなく
「検証可能な証明」として扱う。
この設計があるからこそ、
Cardanoは「ブリッジを乱立させる」方向には進んでいません。
インセンティブまで含めた設計
もう一つ、CardanoのInterChainが特徴的なのが、
経済設計を研究の中心に据えている点です。
多くのプロジェクトでは、
- 技術は安全
- しかし参加者が集まらない
あるいはその逆に、
- 報酬は魅力的
- しかし安全性が犠牲になっている
というケースが少なくありません。
IOGのInterChain研究では、
エアドロップやトークン配布すら「ゲーム理論の対象」として分析されています。
- どの条件なら人は参加するのか
- どの閾値を超えるとネットワーク効果が生まれるのか
- 不正が合理的に割に合わなくなる設計は何か
これらを数理モデルとして扱う姿勢は、
「つながれば終わり」という短期的視点とは、明確に一線を画しています。
パートナーチェーンという位置づけ
InterChain戦略の中で語られている
パートナーチェーンという考え方も重要です。
これは、他チェーンをCardanoの下位に置く構想ではありません。
- それぞれが主権を保ったまま
- 必要な機能だけを相互に利用する
たとえば、
- ゲームチェーンが、プライバシーだけMidnightを使う
- 決済チェーンが、Cardanoのセキュリティを継承する
- DeFiが、Bitcoin流動性とCardanoのスマートコントラクトを組み合わせる
といった形です。
ユーザーにとっては、
「どのチェーンを使っているか」を意識せずに済む。
それでいて、裏側では最適なチェーンが役割分担している。
これが、Cardanoが描く協調型マルチチェーンの姿です。
なぜ最初の対象がBitcoinなのか
この思想に立つと、
InterChain戦略の最初の本格的な接続先として、
Bitcoinが選ばれる理由も見えてきます。
- 最大の流動性を持つが、DeFiレイヤーを持たない
- セキュリティと主権を極端に重視する文化
- 「信頼を前提にしない設計」との親和性
Cardanoにとって、Bitcoinは
最も難しく、しかし最も価値のある接続先です。
次章では、
なぜBitcoinDeFiがCardano戦略の要になるのかを、
構造と経済の両面から、さらに掘り下げていきます。
第3章:BitcoinDeFiという必然──なぜ最初の接続先がBitcoinなのか
InterChain戦略の中で、Cardanoが最初に本格的な接続対象として見据えているのがBitcoinである点は、偶然ではありません。
それは流行や話題性ではなく、構造的な必然に基づく選択です。
まず押さえておくべき事実があります。
Bitcoinは、暗号資産市場において
- 時価総額・流動性ともに最大
- 最も分散されたセキュリティモデル
- しかし、ほぼDeFiレイヤーを持たない
という、極めて特殊な存在です。
この「巨大な流動性を持ちながら、活用の場がない」という状態は、
DeFi全体から見ても、長年の未解決課題でした。
なぜEthereumではないのか
「DeFiといえばEthereum」という認識は、今でも一般的です。
実際、複雑なDeFiプロトコルの多くはEthereum上で発展してきました。
しかし、CardanoのInterChain戦略において、
Ethereumが“最初の主戦場”になっていない理由も明確です。
Ethereumはすでに、
- スマートコントラクト
- DeFiインフラ
- L2・ロールアップ群
を自前で抱えています。
そこにCardanoが接続することは可能ですが、
構造的に新しい価値を生みにくいという側面があります。
一方でBitcoinは違います。
- スマートコントラクトは極めて限定的
- 基本的には「保有されるだけ」の資産
- それでも最大の価値を内包している
つまり、最も大きな未開拓領域がBitcoinなのです。
Bitcoinコミュニティの価値観との一致
もう一つ重要なのが、思想的な親和性です。
Bitcoinコミュニティは、
- カストディを極端に嫌う
- ラップ資産を信用しない
- 「誰かを信じる仕組み」に慎重
という文化を持っています。
多くのクロスチェーン・ブリッジが
「便利だけれど信用できない」と見なされてきたのは、
この価値観と衝突してきたからです。
CardanoのInterChain戦略は、
- 信頼最小化
- 検証可能性
- 所有権の厳密な保持
を設計の中心に置いています。
これは、Ethereum的DeFi文化よりも、
Bitcoin的価値観に近いと言えるでしょう。
だからこそ、
Cardinalのような信頼最小化ブリッジや、
FluidTokensのブリッジレス・アトミックスワップが、
BitcoinDeFiの文脈で語られているのです。
「BTCをラップしない」という選択
BitcoinDeFiを語るうえで、
Cardano陣営が繰り返し強調しているのが、
「BTCをラップしない」
という姿勢です。
これまでのBTC DeFiの多くは、
- wBTCのようなラップ資産
- カストディアンへの信頼
- 裏側のブラックボックス
を前提に成り立ってきました。
しかしこれは、Bitcoin本来の設計思想とは相容れません。
Cardanoのアプローチは、
- BTCはBTCのまま扱う
- 所有権が常に戻ることを保証する
- ブリッジを“信頼装置”にしない
という方向性です。
これは技術的には非常に難易度が高く、
実装にも時間がかかります。
それでもCardanoがこの道を選んでいるのは、
BitcoinDeFiを一時的な流行に終わらせないためです。
なぜCardanoなのか
では、なぜBitcoinDeFiの受け皿がCardanoなのか。
理由は大きく3つあります。
1つ目は、EUTxOモデルの相性です。
BitcoinとCardanoは、同じUTxO系の設計思想を持っています。
この共通性は、
スクリプトレベルでの安全な接続や、
アトミックな価値交換において、大きな意味を持ちます。
2つ目は、形式的に検証された安全性です。
BitcoinDeFiは、扱う資産規模が桁違いになります。
「多分安全」ではなく、
「証明された安全性」が求められる領域です。
3つ目は、拡張性と役割分担です。
Hydra、Midnight、将来のマルチリソース・コンセンサス。
Cardanoは、Bitcoinを無理に変えずに、
外側で機能を補完する設計が可能です。
BitcoinDeFiは「別系統のDeFi」
ここで重要なのは、
Cardanoが目指しているBitcoinDeFiは、
Ethereum DeFiのコピーではないという点です。
- 高速AMMで回転させるDeFi
- ミームとレバレッジ中心の経済
ではなく、
- 巨大なBTC流動性を、慎重に、段階的に解放する
- プライバシーや所有権を尊重したDeFi
- 長期保有者が参加できる経済設計
という、別系統のDeFi経済圏を構想しています。
この流れの中で、
- Cardinal
- FluidTokens
- Charms
といった異なる技術アプローチが、
同時並行で進んでいることは、むしろ自然です。
次章では、
Bitcoin × Cardanoをつなぐ具体的な実装群を取り上げ、
それぞれがどんな役割を担っているのかを整理していきます。
第4章Bitcoin × Cardano:三つの異なるアプローチ──Cardinal/FluidTokens/Charms
ここまで見てきたように、CardanoのInterChain戦略においてBitcoinDeFiは「中心テーマ」の一つです。
ただし重要なのは、BitcoinとCardanoをつなぐ方法が一つではないという点です。
現在すでに表に出てきているだけでも、
Cardano×Bitcoinには、性格の異なる三つのアプローチが並行して進んでいます。
- Cardinal
- FluidTokens
- Charms
これらは競合というよりも、
異なるレイヤー・異なる前提条件に対する補完的な解として捉える方が自然です。
1. Cardinal──「信頼最小化ブリッジ」という正攻法
Cardinalは、IOGのInterChain研究の文脈で紹介された、
BitcoinとCardanoをつなぐ信頼最小化ブリッジです。
Cardinalの最大の特徴は、
「ブリッジでありながら、ブリッジらしくない」点にあります。
従来型ブリッジの多くは、
- カストディアン
- マルチシグ
- 正直な多数派
といった前提に依存してきました。
一方Cardinalでは、
- オペレーターのほぼ全員が不正でも安全性が維持される
- Bitcoinの所有権が常に元に戻ることが保証される
- 不透明な管理主体を必要としない
という、極めて厳しいセキュリティ前提が置かれています。
仕組みとしては、
- Bitcoinをロック
- Cardano上で対応する資産を発行
- 利用後にトークンをバーン
- 元のBitcoinを確実にアンロック
という流れですが、
重要なのは「この過程が信頼ではなく証明で支えられている」点です。
Cardinalは、
- BTCをCardanoのEUTxO環境で活用可能にする
- レンディングやDeFiロジックに組み込める
という意味で、
BitcoinDeFiの基盤レイヤーを担う存在と言えます。
2. FluidTokens──ブリッジすら使わない「アトミックな価値交換」
FluidTokensが示したのは、
Cardinalとはまったく異なる方向性です。
それが、
ブリッジ不要・カストディ不要のアトミックスワップです。
実際に実行された実証では、
- CardanoとBitcoinのスクリプト同士を直接接続
- 1BTCブロック(約10分)で交換が完了
- 処理は「最も遅いチェーン(Bitcoin)」に同期
という形で、
100 tADAと10,000 satsの交換が原子的に成立しています。
ここでのポイントは非常に明確です。
- ラップ資産を発行しない
- ブリッジに資産を預けない
- 途中状態が存在しない
つまり、
どちらかが失敗すれば、両方とも成立しないという設計です。
この方式は、
- 高頻度なDeFiには向かない
- 処理速度はBitcoinに引きずられる
という制約はあります。
一方で、
- 最小信頼
- 最大の透明性
- UTxO同士の直接接続
という点では、
BitcoinDeFiの「最もクリーンな原型」と言えるでしょう。
FluidTokensは、
「BTCをどうCardanoに持ち込むか」ではなく、
「BTCとどう直接価値交換するか」という別の問いに答えています。
3. Charms──BitcoinスマートコントラクトとCardano CNTの接続
Charmsは、さらに異なる角度からBitcoinDeFiを拡張します。
Charms v0.10.0で実現したのは、
- Bitcoinネイティブコイン(BTC)をロック/アンロック可能なスマートコントラクト
- Bitcoin上のアプリケーションコントラクトの実用化
- CharmsをCardano上でCNTとして表現するための基盤完成
という、かなり野心的なアップデートです。
ここで重要なのは、
Charmsが**Bitcoinを「ほぼそのままの形で拡張しようとしている」**点です。
- 新しいVMを載せるわけではない
- BitcoinのUTxOとスクリプトモデルを尊重する
- その上で「状態を持つアプリ」を実現する
さらにv0.10.0では、
- Litecoin
- Dogecoin
といったBitcoinクローンへの対応も、
ほぼ同じ仕組みで可能になりました。
これは、
PoW系チェーン全体を視野に入れたInterChain設計への布石でもあります。
Charmsは、
- Bitcoin上での表現力を高め
- Cardano側ではCNTとして自然に統合する
という、双方向の拡張を目指しています。
三つは「競合」ではなく「役割分担」
Cardinal、FluidTokens、Charmsは、
同じBitcoinDeFiという文脈にありながら、
解いている問題が微妙に異なります。
- Cardinal → BTC流動性をCardano DeFiに持ち込むための基盤
- FluidTokens → 信頼ゼロでの価値交換を実証する最小単位
- Charms → Bitcoin自体の表現力を拡張し、CNTと接続する
これは、
「どれが勝つか」という話ではありません。
CardanoのInterChain戦略が、
単一解を押し付けない柔軟な設計であることの表れです。
そして、この三つの動きの上に、
プライバシーという次のレイヤーが重なってきます。
次章では、
BitcoinDeFiにMidnightが加わることで何が変わるのか、
その意味を整理していきます。
第5章:BitcoinDeFi × Midnight──プライバシーが加わると何が変わるのか
BitcoinDeFiの文脈において、もう一つ欠かせないピースがあります。
それが、Midnightです。
InterChain戦略を追っていくと、Midnightは単なる「別チェーン」や「新プロジェクト」としてではなく、
Cardanoのマルチチェーン構想を完成させるための中核レイヤーとして位置づけられていることがわかります。
特にBitcoinDeFiと組み合わさったとき、
Midnightは単なる付加価値ではなく、性質そのものを変える要素になります。
Midnightは「プライバシーチェーン」ではない
まず整理しておきたいのは、
Midnightはよくある「プライバシー特化チェーン」とは発想が違う、という点です。
IOGやMidnight Foundationが繰り返し強調しているのは、
- Midnightは“単独で完結する世界”を作らない
- 他チェーンから利用されることを前提に設計されている
- プライバシーを「共有可能なプリミティブ」として提供する
という思想です。
つまりMidnightは、
「自分のチェーンに資産を移して使ってください」
ではなく、
「あなたのチェーンに居たまま、必要な部分だけプライバシーを使ってください」
という設計を目指しています。
これは、InterChain戦略の文脈と完全に一致しています。
BitcoinDeFiにおける「プライバシーの意味」
では、BitcoinDeFiにプライバシーが加わると、何が変わるのでしょうか。
多くのDeFiは、
すべてが公開されることを前提に成立しています。
- 取引量
- 注文価格
- ポジション
- 清算条件
これらがオンチェーンで可視化されることは、
透明性という点ではメリットですが、
同時に「戦略が露出する」という致命的な弱点でもあります。
特にBitcoinの文脈では、
- 大口保有者が多い
- 長期保有が前提
- 公開DeFiへの心理的抵抗が強い
という特徴があります。
この層にとって、
- 公開DEXでの取引
- ポジションが丸見えになる運用
は、参加障壁になりがちです。
Midnightが加わることで初めて、
- 私的DEX
- 私的な流動性提供
- 選択的開示によるコンプライアンス対応
といった選択肢が現実的になります。
「公開DeFi」から「選択的DeFi」へ
ここで重要なのは、
Midnightが「完全匿名」を目指しているわけではない、という点です。
Midnightの中核概念は、
- 合理的プライバシー(Rational Privacy)
- 選択的開示(Selective Disclosure)
です。
つまり、
- 普段は非公開
- 必要な相手にだけ、必要な情報を開示
という設計です。
これにより、
- 規制対応が必要な主体
- 企業・機関投資家
- DAOや公共性の高いプロジェクト
も、DeFiに参加しやすくなります。
BitcoinDeFi × Midnightは、
「アンダーグラウンドな金融」を作るのではなく、
現実世界と接続可能なDeFiを作る方向に向いています。
Bitcoin × Cardano × Midnight の三層構造
ここまでの話を整理すると、
CardanoのInterChain戦略におけるBitcoinDeFiは、
次のような三層構造として見えてきます。
- Bitcoin → 最大の価値・流動性・主権の源泉
- Cardano → 安全なスマートコントラクトとDeFiロジックの実行環境
- Midnight → プライバシー・インテント・選択的開示を提供する共通レイヤー
この三つは、それぞれ単独でも意味を持ちますが、
組み合わさることで初めて成立するユースケースも多く存在します。
たとえば、
- Bitcoinを担保にした私的レンディング
- 価格や数量を秘匿したBTC取引
- プライバシーを保ったままのクロスチェーン決済
こうしたユースケースは、
Ethereum DeFiの延長線では実現しにくいものです。
Cardano DeFiを「10x」するという意味
Charles Hoskinsonが語っている
「MidnightはCardano DeFiを10xする」という表現は、
単なる誇張ではありません。
- Cardano単体でのDeFi拡張
- Bitcoin流動性の取り込み
- Midnightによる新しいユースケース創出
これらが重なったとき、
Cardanoは「L1の一つ」ではなく、
マルチチェーン金融のハブとして機能し始めます。
ただし、ここで一つ、現実的な問いが浮かびます。
流動性が流れ込んだとして、それをどこで、どう受け止めるのか?
次章では、
InterChainとBitcoinDeFiがもたらす変化を、
Cardano DeFi全体の視点から整理していきます。
第6章:InterChainがCardanoにもたらすもの──DeFi・RWA・AI時代への布石
ここまで見てきたInterChain戦略とBitcoinDeFi、そしてMidnightの役割を踏まえると、
一つはっきりしてくることがあります。
それは、
InterChainは「機能追加」ではなく、Cardanoの役割そのものを変える戦略だという点です。
Cardanoはこれまで、
「安全で分散されたL1」という評価軸で語られることが多くありました。
しかしInterChain戦略が本格化すると、
その評価軸は明確に変わっていきます。
DeFi:流動性の「量」から「質」へ
まずDeFiの観点です。
InterChainとBitcoinDeFiが進展すると、
Cardanoに流れ込む可能性があるのは、
- 新しいトークン
- 新しいユーザー
だけではありません。
最大の変化は、
性質の異なる流動性が入ってくることです。
Bitcoin由来の流動性は、
- 長期保有前提
- 高いセキュリティ志向
- 過度なレバレッジを嫌う
という特徴を持っています。
これは、
短期回転・高リスク型のDeFi流動性とは、
まったく異なる性格です。
CardanoのInterChain戦略は、
この「質の異なる流動性」を、
- 無理に変質させず
- 安全性を損なわず
- 段階的に活用する
ための設計になっています。
結果としてCardano DeFiは、
- TVLの数字だけを追う世界
- 流動性マイニングに依存する世界
から一歩進み、
持続可能な金融基盤としての性格を強めていく可能性があります。
RWA:InterChainなしでは成立しない分野
次にRWA(Real World Assets)です。
RWAはしばしば
「トークン化すれば終わり」
のように語られがちですが、実際はそう単純ではありません。
RWAに求められるのは、
- 法的・規制的な整合性
- プライバシーと開示の切り分け
- 複数のチェーン・システムとの接続
です。
ここで重要になるのが、
InterChain × Midnight という組み合わせです。
- Cardanoがスマートコントラクトとガバナンスを担う
- Midnightが選択的開示とプライバシーを担う
- 他チェーンや既存システムと安全に接続する
この構造があって初めて、
RWAは「実験」から「実用」に近づきます。
InterChainは、
RWAをCardanoに“持ってくる”ための技術ではなく、
CardanoをRWAの中継点にするための前提条件と言えるでしょう。
AI時代:Cardanoが「取引基盤」になる可能性
もう一つ見逃せないのが、AI時代との接続です。
すでに金融市場では、
- アルゴリズム取引
- AIエージェント
- 自動化された意思決定
が当たり前になりつつあります。
この世界で求められるのは、
- 予測可能な実行
- 安定したレイテンシ
- 明確なルールと検証可能性
です。
InterChain戦略とHydra、そしてBitcoinDeFiは、
Cardanoを
「人が手動で操作するDeFi」
から
「エージェントが自律的に取引する基盤」
へと押し上げる土台になります。
特に、
- Bitcoin流動性
- プライバシーを備えた実行環境
- L2による高速処理
が組み合わさることで、
CardanoはAIエージェント経済の決済・取引レイヤーとしての役割を担える可能性があります。
InterChainは「拡張」ではなく「再定義」
ここまでを整理すると、
InterChainがCardanoにもたらすのは、
- チェーン数の増加
- 対応資産の増加
といった表面的な拡張ではありません。
それはむしろ、
- Cardanoは何のためのチェーンなのか
- どんな価値を提供する基盤なのか
という問いへの再定義です。
- 単独で完結するL1
- 他チェーンと競争するL1
ではなく、
- 価値・計算・プライバシーが交差するハブ
- 主権的チェーン同士をつなぐ基盤
としてのCardano。
この再定義があるからこそ、
BitcoinDeFi、Midnight、Hydraといった要素が、
一本の線としてつながってきます。
しかし、最後に残る現実的な課題
ここで、どうしても避けられない問いがあります。
流動性とユースケースが増えたとして、
それをどこで、どう取引するのか?
- 高頻度取引
- 大口取引
- AI・アルゴリズム取引
こうした需要を、
AMM中心のDEXだけで受け止めるのは現実的ではありません。
そこで登場するのが、
Cardano DeFiの特別コラムとして扱う「DELTA DeFi」です。
次章では、
InterChainとBitcoinDeFiの「受け皿」として、
なぜDELTA DeFiが重要なのかを掘り下げていきます。
特別コラム:DELTA DeFi──AIトレーディング時代に耐えるCardano DeFi基盤とは
ここまで見てきたInterChain戦略とBitcoinDeFi、そしてMidnightの流れを踏まえると、
Cardanoの次の課題ははっきりしています。
それは、
「流動性をどう呼び込むか」ではなく、「流動性をどう受け止めるか」です。
InterChainによって、
- Bitcoin由来の巨大な流動性
- プライバシー対応の新しいユースケース
- AI・エージェント経済に近い取引需要
が流れ込む可能性が生まれたとしても、
それを処理できる取引インフラがなければ、絵に描いた餅で終わります。
この文脈で注目すべき存在が、DELTA DeFiです。
なぜ「DEXの次」が必要なのか
現在のCardano DeFiは、
AMM型DEXを中心に発展してきました。
AMMは、
- シンプルで使いやすい
- 少額取引には向いている
- 初期流動性を作りやすい
という利点があります。
一方で、明確な限界もあります。
- 大口取引でのスリッページ
- 価格発見の効率の悪さ
- API取引・自動売買との相性の悪さ
これはCardanoに限らず、
AMM中心のDEX全体が抱える構造的課題です。
現実の金融市場では、
すでに取引量の大半がアルゴリズム/AIトレーディングによって処理されています。
この世界では、
- 板情報の透明性
- 予測可能な約定
- 安定したレイテンシ
- APIファーストの設計
が前提条件になります。
AMMは、この前提を満たす設計ではありません。
DELTA DeFiの立ち位置
DELTA DeFiが目指しているのは、
「CEXの体験を、ノンカストディで実現する」ことです。
ポイントは3つあります。
1. オーダーブック型DEXという選択
DELTA DeFiは、AMMではなく
オーダーブック型を採用しています。
これにより、
- 明確な板情報
- タイトなスプレッド
- 大口取引時の価格影響の最小化
が可能になります。
これは、
BitcoinDeFiやRWA、AIトレーディングを受け止めるうえで、
ほぼ必須の条件です。
2. Hydraを前提にした低レイテンシ設計
高頻度・自動化された取引を、
CardanoのL1だけで処理するのは現実的ではありません。
DELTA DeFiは、
- HydraをL2として活用
- 注文・キャンセルを高速かつ低コストで処理
- L1には最終的な決済のみを戻す
という構造を取っています。
これは、
- 伝統的金融市場
- 先物・株式取引所
が長年かけて到達したアーキテクチャに、
非常に近いものです。
Hydraを実運用レベルの取引基盤として使うという点で、
DELTA DeFiはCardanoにおいて先行的な存在と言えます。
3. API取引とAI時代への適合
DELTA DeFiは最初から、
- API取引
- ボット・アルゴリズム対応
を前提に設計されています。
これは単なる機能追加ではなく、
「誰が主に使うのか」という前提の違いです。
- 人が手動で触るDeFi
- エージェントが自律的に動く金融
後者を視野に入れている点が、
DELTA DeFiの最大の特徴です。
InterChain × BitcoinDeFi × DELTA DeFi
ここで、全体像が一つにつながります。
- InterChain → 流動性とユースケースをCardanoに呼び込む
- BitcoinDeFi → 巨大だが眠っていた価値を接続する
- DELTA DeFi → それを実際に回転させる取引インフラ
DELTA DeFiは、
「一つのdApp」ではなく、
Cardano DeFiのインフラ層に近い役割を担っています。
特に、
- 大口BTC関連取引
- RWA由来の取引
- AI/アルゴリズム取引
といった領域では、
この種の基盤がなければ、
Cardanoは機会を活かしきれません。
Vision 2030と「測定されるDeFi」
DELTA DeFiが興味深いもう一つの理由は、
Vision 2030との接続です。
単に「DEXを作る」のではなく、
- スリッページ
- スプレッド
- 取引深度
- CEXとの価格乖離
といった指標を、
継続的に可視化・測定することを重視しています。
これは、
Cardano DeFiは本当に競争力が上がっているのか?
という問いに、
感覚ではなく数値で答えるための取り組みです。
InterChainによって世界とつながり、
DELTA DeFiによって内部の実力を磨く。
この循環が生まれれば、
Cardano DeFiは次の段階に進めます。
特別コラムのまとめ
DELTA DeFiは、
単なる「新しいDEX」ではありません。
- InterChain戦略の出口
- BitcoinDeFiの受け皿
- AIトレーディング時代の実験場
として、非常に重要な位置にあります。
InterChainが「外から価値を呼び込む戦略」だとすれば、
DELTA DeFiは「内側で価値を循環させる基盤」です。
エポック601で見え始めた一連の動きは、
それぞれが独立した話ではありません。
つなぐ、広げる、そして耐えうる基盤を作る。
この三点がそろったとき、
Cardanoは初めて、
マルチチェーン時代の中核インフラとして語られるようになるはずです。
編集後記──Cardanoは「接続される基盤」へ

エポック601で見え始めた一連の動きは、
単発の技術アップデートや話題づくりではありません。
それは、Cardanoがこれまで積み上げてきた設計思想を土台に、
次の役割へと明確に踏み出し始めたサインだと言えます。
本記事で見てきたように、IOGのInterChain戦略は、
- とりあえずつなぐ相互運用性
- 流行に乗るクロスチェーン
- TVLを追うための拡張
とは一線を画しています。
Cardanoが選んだのは、
- 失敗史を前提にした再設計
- 信頼最小化と検証可能性を中心に据えた接続
- インセンティブ設計まで含めた持続可能性
という、時間はかかるが後戻りしない道です。
その最初の焦点として浮かび上がったのが、BitcoinDeFiでした。
Bitcoinは最大の流動性を持ちながら、
長年「活用されないまま保管される資産」であり続けてきました。
Cardanoはそれに対して、
- ラップに頼らず
- カストディを前提とせず
- BTCの主権を壊さず
という条件のもとで接続しようとしています。
Cardinal、FluidTokens、Charmsという三つの異なるアプローチは、
その難題に対する複線的な現実解です。
さらにそこに、Midnightというプライバシー共有レイヤーが加わることで、
BitcoinDeFiは単なる「資産活用」ではなく、
- 私的な取引
- 選択的開示
- 現実世界と接続可能なDeFi
へと性質を変え始めています。
そして最後に浮かび上がるのが、
それを実際に回すための取引基盤という課題です。
DELTA DeFiは、この問いに真正面から向き合っています。
- Hydraを前提にした低レイテンシ
- オーダーブック型という設計選択
- API・AIトレーディング時代への適合
これは単なるDEXの話ではなく、
Cardanoがマルチチェーン金融のハブになるためのインフラ整備です。
InterChainで価値を呼び込み、
BitcoinDeFiで巨大な未活用資産に触れ、
DELTA DeFiでそれを耐えうる形で循環させる。
エポック601は、その全体像が初めて一本の線として見えた地点でした。
Cardanoは今、
「速さ」や「派手さ」を競うフェーズを超え、
長期的に信頼される接続基盤としての役割を選びつつあります。
その選択が正しかったかどうかは、
これから数年をかけて証明されていくでしょう。
しかし少なくとも今、
Cardanoがどこを目指しているのかは、はっきりしています。
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