カルダノガバナンスアクション:KパラメータについてのDRepとしてのSIPOの見解
1. はじめに
Cardanoのガバナンス進化の現状
Cardanoは2024年に入り、本格的なVoltaire(ヴォルテール)時代に突入しています。CIP-1694によるオンチェーン・ガバナンスの仕組みづくりのための議論が世界中で行われ、カルダノのブロックチェーンネットワークは、分散化されたコミュニティによって管理される新たな段階に移行しつつあります。この進化の中心となるのが、Cardano憲法の策定です。2024年12月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催予定のCardano憲法制定会議では、コミュニティによってガバナンスメカニズムと制度を定義する文書が起草され、批准される予定です。また、Intersectという会員制組織が設立され、コミュニティのガバナンス initiatives をサポートし、カルダノブロックチェーンの持続可能性と維持を促進する役割を担っています。さらに、SanchoNetやGovToolなどのテストツールが導入され、ユーザーがガバナンス機能を実験的に使用できるようになっています。
最新のガバナンスアクションの概要
2024年10月12日(エポック514)に、新しいガバナンスアクションが提出されました。このアクションは、カルダノのプロトコルパラメータの一つであるKパラメータに関する情報提供と議論を促すことを目的としています。
ガバナンスアクションID:7fd6429add8f2611ad8d48c0cc49101463093aec285faea402e8cfde78ea58d7#0
主な内容は以下の通りです。
- アクションタイプ:情報アクション
- 提出日:2024年10月12日(エポック514)
- 有効期限:2024年11月13日(エポック521)
- 目的:
- 次のハードフォーク前にガバナンス参加を増やすこと
- コミュニティにCardanoのガバナンスへの参加を奨励すること
- プロトコルパラメータの変更可能性について理解を深めること
このガバナンス アクションは、カルダノプロトコル パラメータをどのパラメータに変更すべきか、または現時点で変更すべきかどうかを提案するものではありません。将来的な変更の可能性について議論を喚起する重要な役割を果たしています。
また、このガバナンスアクションは、Cardanoのガバナンス進化における重要なステップであり、コミュニティ全体がネットワークの運営と発展に関与する機会を提供しています。次のセクションでは、Kパラメータの詳細とその潜在的な影響について深く掘り下げていきます。
2. Kパラメータとは
Kパラメータの定義と役割
Kパラメータは、Cardanoネットワークにおいて重要な役割を果たす設定値です。このパラメータは、ステークプールが受け取ることのできる最大のステーク量を決定し、実質的にプールサイズに「ソフトキャップ」を設定します。
Kパラメータの主な役割は以下の通りです。
- ネットワークの分散化促進:
Kパラメータは、ステークの集中を防ぎ、より多くのプールがネットワークに参加することを促します。 - 報酬の最適化:
プールが飽和点(最大ステーク量)に達すると、それ以上のステークに対する報酬が減少します。これにより、デリゲーターは自然と他のプールにステークを移動するインセンティブが生まれます。 - ネットワークの健全性維持:
適切なKパラメータの設定により、ネットワーク全体の健全性と安定性が維持されます。
現在の設定値と影響
現在(2024年10月時点)のKパラメータの設定値は500です。この値は2020年12月7日のエポック234から適用されており、それ以前はK=150でした。
現在の設定値(K=500)の主な影響は以下の通りです。
- プールの飽和点:
現在のKパラメータでは、プールの飽和点は約74,551,771.86 ADAとなっています。これは、1つのプールが効率的に運営できる最大のステーク量を示しています。 - プールの分散化:
K=500の設定により、理論上は500の同サイズのプールが最適な状態でネットワークを運営できることを意味します。 - 小規模プールの機会:
この設定は、中小規模のプールにも委任を集める機会を提供し、ネットワークの多様性を促進しています。 - a0パラメータへの影響:
Kパラメータはa0パラメータ(現在0.3に設定)と密接に関連しており、プールのプレッジ量に応じた追加報酬の計算に影響を与えます。 - ネットワークの安定性:
K=500の設定は、ネットワークの安定性と分散化のバランスを取るために選択されました。
Kパラメータの変更は、Cardanoネットワークの分散化と効率性に直接影響を与えるため、慎重に検討される必要があります。将来的な変更については、ネットワークの成長、市場の状況、そしてコミュニティの意見を考慮しながら決定されることになります。
3. Kパラメータ変更の潜在的影響
Kパラメータの変更は、カルダノネットワークに広範囲にわたる影響を与える可能性があります。現在の提案では、Kを500から1000に増加させることが検討されていますが、これにはさまざまな影響が予想されます。
ネットワークの分散化への効果
- プールサイズの縮小: Kを1000に増加させると、プールの飽和点が約32百万ADAに減少します。これにより、より多くの小規模プールがブロック生成に最適な範囲で運営できるようになります。
- プール数の増加: IOGの分析によると、K=1000への移行により、約150の新しいステークプールが生まれる可能性があります。これは主に大規模な私的プールが既存のステークを分割することで生じると予想されています。
- ステークの再分配: 約20億ADA(供給量の8%)が再委任の対象となる可能性があります。これにより、ネットワーク全体でのステークの分散が進むことが期待されます。
ステークプール運営への影響
- 大規模プールの分割: 現在飽和状態にある大規模プールは、収益性を維持するために複数のプールに分割する可能性があります。これは必ずしも真の分散化につながらない可能性があります。
- 中小規模プールの機会: K=1000への移行は、現在苦労している中小規模のプールに代表団を引き付ける機会を改善する可能性があります。
- 運営コストの増加: プールの分割や新規プールの設立により、SPOの運営コストが増加する可能性があります。
委任者への影響
- 再委任の必要性: 現在飽和状態のプールに委任している委任者は、最適な報酬を維持するために他のプールへの再委任を検討する必要が出てくる可能性があります。
- 報酬の変動: 飽和状態を超えるプールへの委任は報酬の減少につながる可能性があるため、委任者は自身のステークの状況をより頻繁に確認する必要が出てくるかもしれません。
- 選択肢の増加: より多くのプールが最適な範囲で運営されるようになることで、委任者の選択肢が増える可能性があります。
ただし、IOGの分析によると、K=1000への移行による影響は、以前のK=150から500への変更時ほど劇的ではない可能性があります。また、Kパラメータの変更だけでは完全な解決策とはならず、委任者の行動変化が重要な要素となります。
Kパラメータの変更は、Cardanoネットワークの健全性と分散化を維持するための重要なツールの一つとして位置づけられていますが、その実施には慎重な検討と段階的なアプローチが必要とされています。
4. SIPOの見解
現時点でのKパラメータ変更に対する立場
SIPOは、現時点でのKパラメータの変更は必要ないと考えています。
その主な理由は以下の通りです。
- カルダノの時価総額および価格が現在の水準にある中で、急激な変更は市場に不必要な混乱をもたらす可能性があります。
- カルダノエコシステムは成長の前段階にあり、現在のパラメータ設定で十分に機能しています。
- 2024年の米国大統領選挙を控え、暗号資産を取り巻く環境が大きく変化する可能性があります。この重要な転換点を迎える前に、ネットワークの基本的なパラメータを変更することは時期尚早と考えられます。
世界情勢と暗号資産市場の現状分析
SIPOは、以下の世界情勢と暗号資産市場の現状を考慮に入れています:
- 規制環境の不確実性:各国で暗号資産に対する規制の動きが活発化しており、一部の地域ではステーキングが禁止される可能性もあります。
- 世界経済の不安定性:銀行の破綻やインフレ問題など、世界の金融経済は不安定な状況にあります。
- 地政学的リスク:世界各地での紛争や緊張関係が、市場に不確実性をもたらしています。
- エネルギー問題:世界的なエネルギー価格の上昇が、ステークプール運営のコストに影響を与えています。
- 暗号資産市場の変動性:市場の乱高下が続いており、安定性を欠いています。
これらの要因により、ステークプールの運営環境は厳しさを増しています。サーバーやネットワークの運用コストが上昇し、一部のサービスでは性能や機能の低下が見られます。
将来的な変更の可能性と条件
SIPOは、将来的なKパラメータの変更について以下の条件が整った場合に検討すべきだと考えています。
- カルダノエコシステムの成熟:Cardano 1.0の完成、正式憲法の制定、オンチエーンガバナンスの搭載、ミッドナイトなどのパートナーチェーン、ハイドラなどのレイヤー2ソリューションの実装によるエコシステムの成長後。
- 市場の安定化:暗号資産市場全体が安定期に入り、急激な価格変動が落ち着いた後。
- 規制環境の明確化:主要国での暗号資産規制の枠組みが確立された後。
- 世界経済の回復:インフレ問題や金融不安が沈静化し、世界経済が安定軌道に乗った後。
- エネルギー問題の改善:再生可能エネルギーの普及などにより、運営コストが安定した後。
- コミュニティの合意形成:十分な議論と分析データの蓄積により、コミュニティ全体でKパラメータ変更の必要性について合意が得られた後。
SIPOは、これらの条件が整った段階で、カルダノネットワークの健全性と分散化を維持するためのツールとしてKパラメータの変更を再検討すべきだと考えています。その際には、AIを活用した科学的な分析や、リアルタイムでのパラメーター調整の可能性も視野に入れつつ、慎重に判断を行うべきだと提言しています。
6. ガバナンス参加の重要性
コミュニティ参加の意義
カルダノのガバナンスへのコミュニティ参加は、ブロックチェーンの分散化と持続可能な発展にとって極めて重要です。以下に、その主な意義を挙げます。
- 分散化の促進: 多様な参加者がガバナンスに関与することで、意思決定の分散化が進み、特定の利益団体による支配を防ぐことができます。
- イノベーションの促進: コミュニティからの多様な意見や提案が、新しいアイデアや解決策を生み出す源泉となります。
- 透明性の確保: オープンな参加型ガバナンスは、決定プロセスの透明性を高め、信頼性の向上につながります。
- エコシステムの活性化: 積極的な参加は、コミュニティメンバー間の交流を促進し、エコシステム全体の活性化に寄与します。
- 長期的な持続可能性: コミュニティの関与は、プロジェクトの長期的な持続可能性を支える重要な要素となります。
DRepとしてのSIPOの役割
SIPOは、Delegated Representative (DRep)として、以下のような重要な役割を果たしています。
- 情報の橋渡し:
SIPOは、技術的な内容や複雑なガバナンス提案を、一般のADAホルダーにも理解しやすい形で説明し、情報の橋渡し役を務めます。 - コミュニティの声の代弁:
日本のCardanoコミュニティの声を集約し、グローバルなガバナンス議論の場に反映させる役割を担います。 - 教育と啓蒙:
ガバナンス参加の重要性や方法について、コミュニティメンバーに対する教育と啓蒙活動を行います。 - 責任ある投票:
SIPOは、提案された変更の技術的・経済的影響を慎重に分析し、エコシステム全体の利益を考慮した責任ある投票を行います。 - 透明性の維持:
投票決定とその理由を公開し、委任者に対する説明責任を果たします。 - 長期的ビジョンの提示:
カルダノの長期的な発展を見据えた視点から、ガバナンス提案を評価し、コミュニティに対してビジョンを提示します。 - 国際協力の促進:
他国のDRepやステークホルダーとの対話を通じて、グローバルなコンセンサス形成に貢献します。
SIPOは、これらの役割を通じて、カルダノのガバナンスシステムの健全な発展と、コミュニティの積極的な参加を促進することを目指しています。Kパラメータの変更提案に関しても、これらの観点から慎重に検討し、責任ある立場で意見を表明していきます。
コミュニティメンバーの皆様には、SIPOの活動を通じてカルダノのガバナンスに関心を持ち、積極的に参加していただくことを期待しています。皆様の声がカルダノの未来を形作る重要な要素となるのです。
SIPOはDRepとしての活動を行っております。SIPOの活動を応援していただける方は委任をお願いいたします。
DRepID:
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SIPOのDRepについては下記の記事をご参照ください。
7. 結論
Kパラメータ変更に関する慎重なアプローチの必要性
Kパラメータの変更は、カルダノネットワークの分散化と効率性に大きな影響を与える重要な決定です。SIPOは、現時点でのKパラメータの変更は必要ないと考えていますが、この立場は慎重な分析と長期的な視点に基づいています。
- 現状の安定性: 現在のK=500の設定は、ネットワークの安定性と分散化のバランスを適切に保っています。
- エコシステムの成長段階: カルダノエコシステムは依然として成長の初期段階にあり、急激な変更はエコシステムの発展を阻害する可能性があります。
- 世界情勢の不確実性: 規制環境の変化、経済的不安定性、地政学的リスクなど、外部要因の影響を慎重に考慮する必要があります。
- 技術的な準備: 将来的なパラメータ変更に備えて、AIを活用した分析やリアルタイムでの調整機能など、より洗練されたツールの開発が望まれます。
継続的な議論と分析の重要性
Kパラメータの変更に関する議論は、一度きりのものではなく、継続的なプロセスであるべきです。
- データ駆動型の意思決定: ネットワークのパフォーマンス、ステーク分布、プール運営の経済性など、多角的なデータ分析に基づいた決定が必要です。
- コミュニティの関与: SPO、デリゲーター、開発者など、多様なステークホルダーの意見を継続的に収集し、反映させることが重要です。
- 定期的な再評価: カルダノの発展に合わせて、定期的にKパラメータの適切性を再評価する仕組みを構築すべきです。
- 長期的なビジョンとの整合性: パラメータ変更は、カルダノの長期的なビジョンや目標と整合性を保つ必要があります。
- 透明性の確保: 議論のプロセスや決定の根拠を常に透明化し、コミュニティ全体で共有することが重要です。
SIPOは、Kパラメータの変更に関して、2025年のCardano 1.0完成後、エコシステムの成長、パートナーチェーンやレイヤー2ソリューションの導入後に、再度慎重に検討することを提案します。この間、コミュニティは継続的な議論と分析を通じて、カルダノの分散化と効率性のバランスを最適化する方法を模索し続けるべきです。
最後に、Kパラメータの変更は単独の解決策ではなく、他のプロトコルパラメータや改善提案(CIP)と合わせて総合的に検討する必要があります。カルダノの持続可能な成長と真の分散化を実現するためには、技術的な側面だけでなく、経済的、社会的な影響も考慮に入れた包括的なアプローチが不可欠です。
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