『扉の向こう』に進むために──SIPO DRrep「2025 Cardano Budget Reconciliation」投票の論理と2025年の分散型文明への設計図

*レポート形式はこちらをご覧ください。
はじめに──2025年、カルダノは「魂の選択」を迫られている
2025年、カルダノはかつてない転換期に立っています。
それは単なるアップグレードやロードマップ上の一工程ではありません。
コミュニティが主権を持ち、文明のOSを自ら設計していく「2.0時代」への移行──
これこそが、いま静かに、しかし確実に進行している本質的な変化です。
カルダノの創設者チャールズ・ホスキンソン氏は、2025年4月23日のSurprise AMAにおいて、自らの退場を意味する言葉でこう語りました。
「このプロジェクトは、私ひとりのものではない。今こそ、皆さんがそのバトンを受け取るときなのです。」
この言葉が象徴するのは、
「誰が未来を語るのか」という問いへの根源的な転換です。
カルダノの制度設計、投票権、予算配分、技術実装──
そのすべての意思決定プロセスが、コミュニティ自身の意志によって再構成されようとしています。
参考記事
時代背景──2025年という「文明の転換点」
2025年度のCardano Treasury予算プロセスは、まさにこの時代精神を映すものでした。
史上初めて、DRep(Delegated Representatives)が主体となり、提案を精査・調整・投票する「Reconciliation Workshop(予算調整ワークショップ)」が導入され、194件に及ぶ提案をめぐる集中的な議論が展開されています 。
この背景には、2025年という年が持つ世界規模の「歴史的な文脈」があります。
- トランプ政権の復活と、グローバル経済秩序の再構成
- 米ドル基軸体制の揺らぎと、国家戦略としてのビットコイン採用
- AIとブロックチェーンが主導する新たな文明段階への移行
- そしてカルダノが掲げる、「公共性をコードに埋め込む」という設計思想
こうした大きな潮流の中で、
今回の予算投票とは単なる資金配分ではなく、「新たな社会構造のプロトタイプを形作る行為」に他なりません。
本稿の目的──思想・判断・戦略としての記録
本稿は、
SIPO DRepがこの歴史的予算投票にどのような観点で臨み、
どのような提案に賛成し、
どのようなものに慎重な姿勢を取ろうとしたかを、
「思想」──なぜその提案に賛成/反対したのか
「判断」──どういう基準と軸を持って評価したのか
「戦略」──カルダノの未来像と結びつけて何を重視したのか
という3つの視点から明らかにしていきます。
これは単なる一DRepの行動記録ではありません。
カルダノという“分散型文明”が、自らの意思で未来を選び取っていくための設計図であり、
また、次に続く者たちへの小さな羅針盤でもあります。
現状とこれから──修正と対話を続ける意志
なお、本稿の分析・報告に基づく投票記録は、
2025年4月29日時点でSIPOが投票を完了した内容に基づいています。
現時点でのSIPO DRepの投票結果はこちらです。
投票締め切りは5月5日まで延長されており、
それまでの期間、私たちは提案者や他のDRepとのコミュニケーションと再分析を続け、
必要に応じて票の修正・立場の見直しを行っていく予定です。
また、予算全体の上限を定めるNCL(Net Change Limit)議論にも積極的に参加し、
今回の投票プロセス、そしてカルダノコミュニティの意思形成プロセス全体に対しても、
一歩深く目を向けていく考えです。
分散型文明への道は、誰かが用意してくれるものではない。
一票一票の積み重ねこそが、その設計図を描き上げる。
第1章:Reconciliation Workshopとは何だったのか?
──DRep主導の「社会的予算設計」への第一歩
2025年度のCardano Treasury予算プロセスにおいて、
最も本質的な変化の一つが、「Reconciliation Workshop(予算調整ワークショップ)」の導入です。
これは単なる手続きの追加ではありません。
カルダノ2.0時代の象徴ともいえる、社会的意思決定プロセスへの「制度化された対話」の組み込みだったのです。
参考記事
💡 Reconciliationとは何だったのか?
これまでのProject Catalyst型の予算配分では、提案提出から投票までがほぼ直線的に進み、
「対話」「修正」「再考」のための公式な場は設けられていませんでした。
一方、今回のReconciliation Workshopは、次の点で画期的と言えるものでした。
- DRep主体:投票権を持つDRepたちが、提案を直接精査・対話・修正要求する
- フェーズ制:テーマ別調整(フェーズ1)と、横断的な最終調整(フェーズ2)を段階的に実施
- リアルタイム修正:提案者からの回答を受け、その場で承認または再評価を行う
- NCLとの整合性:予算総額をNet Change Limit(NCL)内に収める責任を負う
⚡ ただし、課題も浮き彫りに
しかし一方で、今回のワークショップと投票プロセスは、
スケジュールの調整や時間的制約の中で急ぎ進められた側面も否めません。
- 投票期間の急遽延長(締め切りが5月5日へ変更)
- NCL(Net Change Limit)が未決定のまま進行
- ワークショップから投票までの準備・告知時間の不足
これにより、実際には多くのDRepが十分な準備・適応を果たせているとは言いがたい状況となりました。
現時点(4月29日時点)で見ると、
各提案への投票数が100未満にとどまっているケースが大半であり、
「社会設計プロセス」としては未熟なスタートであったことも事実です。
今後、スケジュール設計、ガイダンスの明確化、コミュニティトレーニングといった点で、
より本格的な制度改善が求められるフェーズに入っていくことは間違いありません。
Budget Reconciliation workshop #1 – Day 1
Budget Reconciliation workshop #1 – Day 2
Budget Reconciliation workshop #1 – Day 3
🔹 フェーズ1:カテゴリー別調整──分野別に「問い直す」
4月24日時点の提案スナップショットをもとに、
4月26日〜27日、5月2日〜3日にかけて、各分野別にワークショップが開催されました。
ここでは、
- Core(基盤開発)
- Research(研究開発)
- Governance(ガバナンス支援)
- Marketing & Innovation(マーケティング・イノベーション)
- その他(社会実装・地域プロジェクトなど)
といった分類ごとに、提案の優先順位と戦略的意義が一つ一つ問われました。
必要に応じて提案修正も求められ、提案者が即時回答し、DRepによる再投票が行われる場面もありました。
この時点で、「誰が、なぜ、どこに賛成するのか」という共同作業が開始されていたのです。
🔹 フェーズ2:横断的最終調整──「全体としてカルダノは何を選ぶか?」
4月28日以降に行われたフェーズ2では、カテゴリーをまたいだ総合的な優先順位調整と、
財務ガードレールとの整合性確認が行われました。ただしこの時点でも、NCL(Net Change Limit)の具体的な数値は未決定であり、この未確定状態のまま横断的な最終調整を進めるという、非常に難易度の高い調整が求められました。
ここでは、各分野の局所最適ではなく、
- エコシステム全体にとっての公共性
- 技術堅牢性と成長性
- 地域実装や社会的意義
- 財務健全性と持続可能性
といった複合的な判断軸での再評価が求められました。
単なる個別の良案の寄せ集めではなく、
「カルダノ全体として、どんな未来を形づくるか」という問いへの集合知的応答。
それこそが、フェーズ2が目指したものだったのです。
📚 従来型との決定的な違い
項目 | 従来型(Catalyst) | 2025 Reconciliation型 |
---|---|---|
対話・修正の場 | なし | DRep主導で正式導入 |
投票スタイル | 各自自由 | 対話と再調整に基づく |
財務制約(NCL) | 実質なし | 現在設定中(200M 〜 350M ADA) |
責任の所在 | 有権者個々人 | DRep主体で戦略策定 |
🧭 Reconciliationの意義は、それでも「制度化された対話を始めた」ことにある
未熟であれ、準備不足であれ、
それでもカルダノは今回初めて、正式な制度として、
- 対話を行い
- 意見をすり合わせ
- 予算を社会設計の一環として再定義する
このプロセスに挑戦しました。
この一歩を踏み出した意義は、非常に大きいと私たちは考えます。
なぜなら、投票とは単なる機能ではなく、
未来の社会構造を形づくるための「文明的な技術」だからです。
第2章:SIPOの投票判断──「成長か、健全性か」ではなく「両立の設計」
2025年の予算プロセスにおいて、SIPO DRepは、単なるプロジェクト単体の良し悪しを超え、
「カルダノの未来像にふさわしい構造をどう作るか」という視点から、投票判断に臨みました。
キーワードは、
「成長か、健全性か」ではなく、「両立の設計」です。
📊 SIPOの投票サマリー
- ✅ 投票済み提案数:183件(194提案中)
- ✅ YES(賛成):54件(約29.5%)
- ✅ NO(反対):126件(約68.9%)
- ✅ ABSTAIN(棄権):3件(約1.6%)
- ✅ YES票に対する総予算額:280,882,744 ADA
現時点でのSIPO DRepの投票結果:https://2025budget.intersectmbo.org/voters/drep1yffld2866p00cyg3ejjdewtvazgah7jjgk0s9m7m5ytmmdq33v3zh
*今後投票結果は、締め切りまでに変更される可能性があります。
このデータからも分かるように、SIPOは単に「多くに賛成する」という姿勢ではありませんでした。
限られた資源の中で、どの未来を優先的に育てるべきかを慎重に選び取ることを最重視しました。
この金額の内訳を見ると、大きな割合を占めているのは以下のプロジェクトです:
- 2025 Input Output Engineering Core Development Proposal: 96,817,080 ADA
- Catalyst 2025 Proposal by Input Output: 69,459,000 ADA
- Input Output Research (IOR): Cardano Vision – Work Program 2025: 26,848,000 ADA
- TWEAG’s Proposals: 11,070,322 ADA
これらの主要プロジェクトだけで約204百万ADAとなり、YES票の総予算の約73%を占めています。これは先ほど作成した報告書で分析した通り、コア技術開発に対する強い支持を数字で示しています。
🧭 投票判断の基本軸──三つのフィルター
SIPOはすべての提案に対して、以下の三重のフィルターを通して精査しました。
1. 技術的堅牢性(Technical Robustness)
- Cardanoのプロトコル発展に寄与するか?
- 開発者・ユーザー体験を確実に向上させるか?
- 長期的なセキュリティとパフォーマンスを意識しているか?
2. 社会的実装力(Societal Anchoring)
- 現実世界で実用される道筋が明確か?
- 地域経済や公共サービスと接続できるか?
- 「Proof of Use」(利用による社会的証明)を重視しているか?
3. 財務持続性(Financial Sustainability)
- NCL(Net Change Limit)下で財務バランスを取れるか?
- 継続的な自己成長・自己資金調達能力を持ちうるか?
- リスクに見合ったリターン設計がなされているか?
✋ 反対・棄権の判断基準
一方で、以下のような提案には慎重な立場を取りました。
- 目標設定が曖昧で、成果測定が困難なマーケティング活動
- 既存の成功プロジェクトとの重複が疑われる教育・啓発系提案
- 財務規模に対してROI説明が不十分な超大型予算要求
- 定性的な記述ばかりで、社会実装の道筋が見えないプロジェクト
特に、
「良いか悪いか」ではなく「今のカルダノの優先順位に合うかどうか」
を最重要視しました。
🔥 YES票に込めた意志
SIPOが賛成票を投じた提案には、共通する思想があります。
「カルダノをインフラとする未来に対して、本質的に資するものに投資する」
それは単なる短期成果や人気取りではなく、
長期のビジョンに立脚した、持続的な文明構築への投資です。
💬 現状と課題
とはいえ、今回の投票プロセス全体にはいくつかの制約も存在しました。
- ワークショップと投票の間の時間不足
- 投票リストや内容の整理・表示方法の不統一
- 提案内容の質に幅があり、比較評価が難しかったケース
これらは、今後のガバナンス制度設計において重要なフィードバックポイントになるでしょう。
第3章:「カルダノ2.0」にふさわしい提案とは何か
──制度 × 技術 × 社会実装の三位一体基準で見る選択
SIPO DRepは、今回の投票にあたって単なる「賛成・反対」の判断ではなく、
カルダノ2.0時代の設計図にふさわしい提案かどうかという観点から精査を行いました。
この新しい時代における提案評価基準は、従来の単純な「技術的な革新性」や「人気投票」とは異なり、
制度・技術・社会実装の三位一体という、より包括的な価値観に基づいています。
🧭 SIPOが採用した「三層フィルター」
すべての提案は、以下の三つのレイヤーからなるフィルターを通して審査されました。
1. 制度的意義(Governance Alignment)
- カルダノのオンチェーンガバナンス(GovTool、DRep制度、憲法委員会)と整合性があるか?
- 持続可能な制度や公共財の形成に貢献するか?
- 透明性、説明責任、合意形成プロセスを支える設計になっているか?
→ 例:
- Catalyst 2025 Proposal by Input Output
- Beyond Minimum Viable Governance: Improving Voltaire
- Project Catalyst dRep Analysis Framework
2. 技術的堅牢性(Technical Robustness)
- Cardano基盤技術(Hydra, Mithril, Layer2, Oracles等)に資するか?
- 開発者体験(DX)やユーザー体験(UX)を高める提案か?
- 長期視点でネットワークのセキュリティ、拡張性、相互運用性を強化するか?
→ 例:
- Blockfrost Platform Community Budget Proposal
- Atlas PAB統合群(Chainlink、Hydra、Bitcoin連携)
- Ledger App Rewrite
- Input Output Research (IOR): Cardano Vision Program
3. 社会的実装力(Societal Anchoring)
- 地域経済や公共サービスに直結する活用例を生み出すか?
- リアルワールドアセット(RWA)化やフィアットブリッジ(ステーブルコイン統合)を実現するか?
- 生活者や非暗号資産ユーザー層にまで届く設計になっているか?
→ 例:
- AIRA(Hydraベース地域通貨プラットフォーム)
- DigiFT(規制対応型RWA取引所)
- USDX on Cardano(ステーブルコイン)
- Cardano Community Hub in Africa
📚 「三層にかかる提案」ほど高く評価された
単一レイヤーに特化した提案(例えば「技術開発だけ」や「単発イベントだけ」)も重要ですが、
SIPOは特に、制度・技術・社会実装のすべてにまたがる提案を高く評価しました。
つまり、
- ガバナンスにも資する
- 技術の根幹を強化する
- 社会的な利用ケースに結びつく
この三拍子が揃っている提案こそが、カルダノ2.0時代の中核を担うと考えたのです。
🔥 投票行動に込めた思想
今回、SIPOが「Yes」とした提案群には、次のような明確な思想が流れています。
「カルダノを単なるブロックチェーンではなく、“公共OS”として育てる」
それは単に技術革新を追うだけではなく、
公共性・経済性・分散性のバランスを取りながら、
文明そのものを設計する意識を持ったプロジェクトへの賛同だったと言えます。
💬 課題と次への視点
しかし、すべてが理想的な提案だったわけではありません。
- 成果指標(KPI)が曖昧なプロジェクト
- リスクとリターンのバランスが説明不十分な高額提案
- ガバナンスとの接続が弱い単発型施策
これらには慎重な姿勢を取りました。
今後さらに求められるのは、
単なる「提案者視点のROI」ではなく、
「カルダノ公共圏の一員としての社会的ROI(Public ROI)」を明示できる提案です。
第4章:地域と世界をつなぐ投票──AIRAやアフリカ支援の意味
──Proof of Use(利用による証明)を重視する未来設計
今回の予算投票において、SIPO DRepが特に注目し、積極的に支持を表明したのが、
地域社会への社会実装を具体的に目指す提案群でした。
その象徴が、
- 日本発のAIRA(地域DAO・地域通貨プラットフォーム)、
- そしてアフリカにおけるリアルワールドアセット(RWA)トークン化や地域DAO支援プロジェクトです。
🌍 「分散型社会」は地域から始まる
カルダノ2.0時代において、単に「技術を開発する」「制度を設計する」だけでは十分ではありません。
それらが実際に使われ、社会に根ざして初めて、分散型文明の証明となります。
- 誰が使うのか?
- どこで使われるのか?
- どんな社会的インパクトを生むのか?
これらを問うことなしに、分散型社会の構築はあり得ないのです。
その意味で、AIRAやアフリカ支援提案は、
Proof of Concept(概念実証)ではなく、Proof of Use(利用による実証)を真剣に目指す稀有な試みでした。
🇯🇵 日本──AIRA:地域DAOと地方経済の再構築
AIRA(アイラ)は、日本の自治体や地域企業と連携し、
Hydraレイヤー2技術とトークン経済を活用して、
地方経済圏の再設計を目指す分散型地域OSプロジェクトです。
AIRAの主な特徴:
- 🏦 独自ポイント経済圏の構築:地域通貨やポイントを発行し、地元経済を活性化
- 🔄 ステーブルコイン連動:法定通貨(例:JPYC)との橋渡しを実現
- 🗳️ 地域DAO:失効ポイントの再配分などを住民投票で決定
- 🔗 Hydra活用による超高速決済
「AIRAは、単なるWeb3アプリケーションではない。
社会インフラそのものの分散型アップグレードを目指している。」
これは、単にカルダノの技術力を誇示するものではなく、
現実社会を舞台にした公共性の証明でもあります。
🌍 アフリカ──リアルワールドアセットと社会包摂
一方で、アフリカ支援提案も非常に重要な意味を持っています。
- 🏘️ 土地・農業・小口金融などを対象としたリアルワールドアセット(RWA)のトークン化
- 🏦 信用スコア不足に悩む新興国市場向けに、ブロックチェーン上での信用履歴構築
- 🌍 地方自治体レベルでのDAO形成によるガバナンス・インクルージョン支援
これらは単なる慈善事業ではありません。
「分散型インフラは、世界中の誰もが“最初の財産”を持つための橋になる」
というカルダノの原点思想に深く根ざした取り組みです。
🤝 地域と世界をつなぐ──カルダノの社会的証明とは何か?
SIPOがこうした提案を支持した背景には、次の確信があります。
「カルダノの未来は、国際金融市場ではなく、地域の暮らしの中に芽吹く」
国家を超えた技術も重要ですが、
最終的にカルダノが世界に受け入れられるかどうかは、
- 市場経済の頂点ではなく、
- 地方自治体、農村、地域経済、生活圏といった
地に足のついた実装にかかっているのです。
AIRAもアフリカプロジェクトも、
この「Proof of Society」(社会的実証)に向かう第一歩でした。
💬 今後の展望と期待
今回、こうした地域プロジェクトが投票によって支持されたことは、
カルダノコミュニティの意識変化を示す重要な兆候です。
今後はさらに、
- KPIの明確化(利用者数、トランザクション数、自治体数など)
- 成果のオンチェーン記録と可視化
- 社会的ROI(公共性リターン)の測定モデル
こうした仕組みづくりを進めながら、
分散型社会のリアルな“運用フェーズ”へと移行していく必要があります。
第5章:NCLとの整合性と、次の再調整フェーズへ

──財務健全性と未来設計の両立を目指して
カルダノの2025年度予算プロセスにおいて、
単なる個別提案の是非を超え、
「全体予算規律(Net Change Limit=NCL)」との整合性を取ることが、DRepに課された最大の課題でした。
SIPO DRepも、このNCLという財務ガードレールを強く意識しながら、投票判断を行いました。
💰 NCL(Net Change Limit)とは何か?
NCLとは、カルダノ財務(Treasury)から1年間で引き出せるADAの総上限額を意味します。
- 今回の2025年度予算案では、NCLの目標値は200M ADAから350M ADA(=2億〜3.5億ADA)前後が議論されています。
- これは、カルダノの長期的な財務持続性を確保するために設けられた制限です。
- 無制限な予算支出を防ぎ、エコシステムの成長と財務健全性を両立させるための制度的歯止めです。
📊 SIPOの投票結果とNCLとの整合性
- ✅ 投票対象となったYES提案数:約60件
- ✅ YES票に対する総要求額:約280,882,744 ADA
- (集計対象から重複や棄権を除外)
この数字は、単独で見るとNCLの200M ADAをオーバーしているものの、
350M ADAには収まっており、さらに実際には多くの提案が再調整・削減・棄却されるプロセスを経て、最終的な支出額はNCL枠内に収まる見込みとなっています。
⚖️ 「選び、削る」という新しい意思決定の重さ
今回のReconciliation Workshop以降、DRepたちは、
単に「良い提案に賛成する」だけではなく、
- ✅ 「優先順位をつける」
- ✅ 「上限を超える提案群の中から、残すべきものを選ぶ」
- ✅ 「NCLに合わせてバランスを取る」
という集合的な財務戦略を設計する責任を負うことになりました。
これは、単なるプロポーザル評価とは質的に異なる、
「社会的予算策定」という新しいフェーズへの移行を意味します。
🔄 次のフェーズ──再調整とフィードバックサイクル
投票期間は当初予定よりも延長され、
最終締め切りは5月5日となりました。
この期間中に求められるのは、
- 🛠️ 提案者による予算修正・KPI明確化
- 🗳️ DRepによる再検討・再投票
- 🧭 コミュニティからのフィードバック収集
つまり、「投票して終わり」ではなく、
「対話を重ね、最適化していく」プロセスが公式に組み込まれたのです。
🔥 財務健全性の重視と、未来への投資のバランス
SIPOがこのフェーズで重視している基本方針は次の通りです。
- ✅ 財務健全性を損なわないこと(NCL遵守)
- ✅ しかし必要な未来投資は削らないこと(技術基盤・社会実装)
- ✅ コミュニティ全体が選択の結果を共有できる透明性を保つこと
このバランスをいかに取り続けられるか──
それが、カルダノ2.0時代の「市民社会」としての成熟度を試す試金石になるでしょう。
💬 最後に──予算とは、未来の投票でもある
今回のNCL議論と予算調整プロセスを通して明らかになったのは、
予算とは単なる「いくら使うか」ではなく、
「どの未来に投票するか」という社会的選択行為
だということです。
カルダノが本気で文明のOSを目指すのであれば、
この財務的ガバナンスに対する成熟こそが、最も根本的な基盤になるのです。
おわりに──投票とは、分散型文明への設計行為である

今回の「2025 Cardano Budget Reconciliation」プロセスを通じて、
SIPO DRepが体験し、実感したことは明確です。
それは、投票とは単なる意見表明や賛否の意思表示ではなく、
未来社会の設計行為そのものであるということです。
🧭 予算投票とは、「選別」ではなく「設計」である
今回の予算プロセスは、
単に良いプロジェクトを支持するための人気投票ではありませんでした。
それは、限られた資源の中で、
どの技術、どの制度、どの社会的実装に未来を託すのか
を選び取る、極めて重い設計作業だったのです。
選ぶという行為は、
同時に「選ばないもの」を定義する行為でもあります。
だからこそ私たちは、
「どれも良いからYes」ではなく、
「未来をつくる核を見極める」という意識で一票一票を積み上げました。
🌍 カルダノ2.0時代に求められる「市民としての責任」
カルダノ2.0とは、単なる技術アップグレードではありません。
それは、創業者や中心組織から、コミュニティが主権を引き継ぐプロセスです。
つまり、
これからのカルダノにおいて最も重要なのは、
- 誰かが用意した未来を受け取るのではなく、
- 自ら考え、選び、設計に参加する「市民」としての責任
です。
DRepも、ADA保有者も、提案者も、
すべてのメンバーが、未来の公共空間の設計者となる時代に入ったのです。
🔥 分散型文明の第一歩──「選び続けること」
今回、SIPO DRepは一票一票を通じて、次のような意志を形にしました。
「カルダノはただ速く、安く、分散されているだけのシステムではない。
カルダノは、公共性と自由と信頼を支える、新しい文明のOSである。」
このビジョンにふさわしい未来を選び、
そのために資源を配分し、
そして選択の責任を背負う。
これこそが、分散型文明の第一歩です。
📚 最後に──未来は、設計する者の手に
ホスキンソンがかつて語った言葉を、ここに改めて想起したいと思います。
「このプロジェクトは、私ひとりのものではない。
今こそ、皆さんがそのバトンを受け取るときなのです。」
カルダノの未来は、誰かに用意されるものではありません。
未来は、参加し、設計し、選び取る者たちの手にあります。
そして今回、私たちはその未来に、
一票という名の設計図を描き始めました。
✦ 執筆・分析・投票報告:SIPO DRep
✦ Voter ID:drep1yffld2866p00cyg3ejjdewtvazgah7jjgk0s9m7m5ytmmdq33v3zh
✦ 投票済み提案数:183件(YES: 54 / NO: 126 / ABSTAIN: 3)
✦ YES票対象総予算要求額:280,882,744 ADA
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SIPOのDRepとしての目標と活動方針・投票方法
SIPOのDRep投票履歴:https://sipo.tokyo/?cat=307
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DRep ID:
drep1yffld2866p00cyg3ejjdewtvazgah7jjgk0s9m7m5ytmmdq33v3zh
ダイダロス用👇
drep120m237kstm7pzywv5nwtjm8gj8dl55j9nupwlkapz77mgv7zu7l
二つのIDはダイダロス以外のウォレットではどちらも有効です。ADAホルダーがSIPOにガバナンス権を委任する際に使用できます。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。