カルダノ財政とエコシステムを豊かにする財政投融資:分散型ソブリン・ウェルス・ファンド(dSWF)としての進化とADAの循環経済

第1章|序論:なぜ今「カルダノ財政」を再考するのか?
2025年6月8日に配信された「Surprise AMA」にて、チャールズ・ホスキンソン氏は、Cardano財政の未来に関わる極めて重要な発言を行いました。とりわけ注目を集めたのが、AMA内で提示された次の質問です。
質問18:Cardano財政から100M ADAを使ってUSDMを発行し、DeFi流動性を構築する案についてどう思いますか?
これに対し、ホスキンソン氏は以下のように明確な肯定的見解を示しました。
「非常に理にかなっている。Cardanoの財政準備金(約17億ADA)のうち、1億ADAをUSDM(Cardano上のUSD連動ステーブルコイン)に変換し、それを用いて流動性供給やマーケットメイクを行えば、年間5〜10%の利回りを見込める。その収益でADAを買い戻し、再びトレジャリーに戻せば、持続可能な財政循環モデルが成立する」
さらに彼は、こうした取り組みの実行主体としてIntersectやコミュニティの役割を問う形で、次のような象徴的な言葉を投げかけました。
「資金も手段もある。あとは意志だけだ」
この発言は、現在のCardano財政が抱える構造的な課題──すなわち「執行者不在」と「合意疲弊」による停滞──を端的に表現していると言えるでしょう。
本稿では、このホスキンソン氏の提言を起点として、以下の観点からCardano財政の再設計と未来像を探っていきます。
- 分散型ソブリン・ウェルス・ファンド(dSWF)としてのCardano財政の構想
- DeFiおよびステーブルコインUSDMを活用したADAの循環的な財政モデル
- 世界の財政投融資(FILP)やSWF制度との比較
- 実例としてのAnzens & Encryptus提案とCardanoへの収益還元構造
- 米国の新法案「GENIUS法案」や「CLARITY法案」がもたらす法制度環境の変化
- 財政構造とエコシステムの持続可能な接続方法
Cardanoは今、単なるブロックチェーン・プラットフォームを超え、「分散型の国家財政モデル」を体現する可能性を秘めています。その最前線にあるのが、財政を“回す”ための新しい思想と戦略なのです。
次章ではまず、「分散型ソブリン・ウェルス・ファンド(dSWF)」という概念を解説し、Cardanoがそこにどう近づきつつあるかを具体的に見ていきましょう。
参考記事:
第2章|Cardanoの国庫(Treasury)を“循環型dSWF”として構築するという発想
2-1|dSWF(分散型ソブリン・ウェルス・ファンド)とは何か?
ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)は、国家が保有する超過外貨準備や資源収益などを運用するための公的資金ファンドです。たとえばノルウェーの政府年金基金(Government Pension Fund Global)は、国の石油収入を原資とし、世界最大級の資産規模を持つSWFとして知られています。
こうしたモデルを分散型で再現しようという発想が、「分散型ソブリン・ウェルス・ファンド(decentralized SWF / dSWF)」です。Cardanoのトレジャリーがその代表例となりうる理由は、次の点にあります。
- プロトコルレベルで自律的に蓄積される資産(例:ステーキング報酬の一定割合が国庫に入る)
- 投票によって資金の使途が決定される民主的設計
- 財政支出が「利益目的」ではなく「エコシステムの発展」という公共目的に準じている
つまり、Cardanoの国庫とは「市民(保有者)によって管理される公共財」であり、その構造は従来の国家財政と極めて類似しているのです。
次節では、ホスキンソン氏の提案した「ADA → USDM変換と循環的運用」のモデルが、いかにしてdSWFとしてのCardano財政を現実のものにしていくかを解説します。
2-2|USDMによる循環型運用モデル:ADAの持続可能な再投資エンジンへ
チャールズ・ホスキンソン氏が提案した「ADAからUSDMへの変換による流動性供給モデル」は、単なるDeFi戦略にとどまらず、Cardano国庫を持続可能かつ自律的に成長させる“循環型エンジン”として注目されるべきです。
このモデルの基本構造は以下の通りです:
- 国庫から100M ADAをUSDMに変換
- そのUSDMを用いてDEXやDeFiプラットフォーム上で流動性供給、レンディング、マーケットメイク等を実施
- 得られた利回り(想定5〜10%)をADAに換えて再びトレジャリーに戻す
このスキームによって、以下の効果が期待されます:
- ✅ Cardanoチェーン上のTVL(Total Value Locked)増加
- ✅ USDMの活用による基軸通貨としての役割強化
- ✅ 開発者・dAppsの参入促進(流動性のある市場の形成)
- ✅ Cardanoトレジャリーの「資産を育てる」運用体制への移行
ホスキンソン氏はこのような戦略の実行主体としてIntersectや財政投票機関(DRep)などの役割強化を期待しており、「単に配布する財政」から「運用する財政」への転換を明確に提言しています。
このような循環モデルは、国家におけるSWFの長期的な資産成長モデルに極めて近く、Cardanoが“分散型国家モデル”として進化する上での核となる概念であると言えるでしょう。
次章では、こうしたモデルを支えるガバナンス構造と、Intersectや投票プロセスの課題について掘り下げていきます。
第3章|USDM戦略の実行とIntersectの機能不全:誰が意思決定し、実行するのか?
ホスキンソン氏が指摘した「資金も手段もある。あとは意志だけだ」という言葉は、単なるレトリックではなく、Cardanoの現行ガバナンス構造が抱える根本的な問題を突いています。それは「実行者の不在」と「合意形成の遅延」という二重の構造的欠陥です。
Cardanoでは、予算や政策に関する意思決定はDRep(Delegated Representative)やコミュニティ投票に委ねられています。一方で、実行にあたっての執行組織(たとえばIntersect)には、法的・技術的な裁量やスピード感が欠けており、複雑なガバナンスプロセスによって、機動的な行動が困難な状態にあります。
とりわけホスキンソン氏は、Intersectについて次のような批判を展開しています。
- Intersectは資金配分機関であると同時に、USDM流動性戦略のような施策を実行する「準執行機関」として設計されたはず。
- にもかかわらず、実際には誰もUSDM発行の判断を下さず、提案も実行されないまま放置されている。
- コミュニティの一部は「39票が必要」として制度的に合意形成を遅延させており、スピード感を伴う戦略実行が不可能となっている。
これに加え、Circleを呼ぶべきだという声に対しても、ホスキンソン氏は「それを誰がミントするのか?誰が運用するのか?責任を持って契約と成果を持つ機関が存在しない」と反論しています。
結局のところ、Cardanoの財政が「投票民主制」と「執行力の欠如」の間に挟まれた状態にあり、「意思決定したものの実行されない」という構図が継続しているのです。
次節では、こうした問題に対して具体的な対処を示しつつ、Intersect以外の実行組織モデルや分散的な執行メカニズムの可能性について検討していきます。
第4章|Anzens & Encryptus提案に見る実行型モデルの萌芽と、Cardanoへの還流構造
Intersectや他の公式機関による執行遅延が指摘される一方で、Cardanoエコシステム内部からは、より実行性と現実的な財政貢献を伴う民間主体による提案も出現しています。その中でも特に注目すべきが、2025年の予算提案ラウンドに提出された「Anzens & Encryptus」の共同提案です。
この提案では、以下の3つの柱によってCardanoのトレジャリー(財務基金)に対する定常的なADA還流メカニズムを構築することが表明されています:
- Anzens収益の20%をADAとして国庫に再投資
- Anzensプラットフォーム上でのEncryptusによるオフランプ収益の30%もADAとして再投資
- ステーブルコインUSDAのミント/バーン手数料を完全無料化し、開発者への支援環境を整備
このように、提案の本質は単なる「事業運営」ではなく、Cardano全体のエコシステム拡大と財政強化に資する「構造的な還元モデル」にあります。さらにこの提案には、還流の上限として最大400万ADAを設定することで、持続可能性と成長のバランスにも配慮がなされています。
この提案が評価されるべき理由は次の通りです:
- ✅ 開発者にとってコストゼロでのUSDA活用を可能にする「公共インフラ提供型戦略」
- ✅ ADAでの国庫還流を仕組み化することで、財政自立性の一部を民間で実現
- ✅ 「エコシステムへの還元」という評価軸を用いた公共的な提案として位置づけ可能
これは、分散型エコシステムにおいて「税金」や「配当」といった従来の財政手法を再定義する試みとも言えます。Anzens & Encryptus提案は、まさに“DeFi時代の分散型公共事業モデル”の実験と捉えることができます。
ホスキンソン氏もAMAの中でこのような動きを歓迎し、「ステーブルコイン流通促進と財政拡大の両立が可能」と明言しました。
次章では、こうした動きが世界各国のソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)や日本の財政投融資制度(FILP)とどのように比較され得るのかを整理し、分散型運用モデルとしてのCardanoの位置づけを掘り下げていきます。
第5章|世界のFILP・SWFから学ぶ:日本・米国・中東における制度との対話
Cardano財政が分散型ソブリン・ウェルス・ファンド(dSWF)として進化する道を探る上で、現実の国家が運用する長期公共投資ファンドや財政投融資制度を参照することは極めて有意義です。本章では、日本の「財政投融資(FILP)」、中東や北欧諸国の「ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)」、そしてアメリカの制度設計と課題について概観し、Cardanoとの接点を明らかにします。
5-1|日本の財政投融資制度(FILP)とその教訓
日本では、長らく「財政投融資計画」に基づいて郵貯・年金資金をもとに国の公共事業や産業育成、研究開発支援に投融資する制度が整備されてきました。この制度は“第二の予算”とも呼ばれ、国家の潜在力を引き出す長期資金供給源として機能してきました。
しかし、小泉政権下の郵政民営化以降、資金の供給元が弱体化し、「30年失われた成長」とも重なって制度の有効性が問われる状況となりました。神谷宗幣氏と松田学氏の対談の対談でも指摘されたように、「運用益を社会に還元する投資的財政」の重要性が改めて見直されつつあります。
とりわけこの対談は、日本の財政状況に関する分析として、非常に的を得た視点を提供していると考えられます。具体的には、財政投融資が次第に「国外向け(グローバル投資)」に偏重し、「国内産業や地域経済」への循環が弱まっているという実情があります。たとえば、近年普及しているNISA制度を通じて、日本国民から集められた投資資金の大半が米国株式市場に流れているという実態は、この「外向き」の傾向を象徴しています。
これは、本来あるべき「国民の資本を国民のために再投資する」循環経済モデルとは逆行するものであり、まさにCardanoが目指す“循環型・内発的経済モデル”との対比材料として示唆に富んでいます。
5-2|ノルウェー・UAE・シンガポールに見るSWFの成功モデル
ノルウェー政府年金基金(GPF-G)は、原油収益を原資に株式・債券・不動産等に分散投資を行い、安定した利回りを国民福祉に還元しています。また、UAEのアブダビ投資庁(ADIA)やシンガポールのテマセクは、国家主導のグローバルな産業投資で資本収益を生み出し、それを国家経済に取り込むモデルを構築しています。
これらのSWFは、いずれも以下の特徴を持ちます。
- ✅ 長期リターン重視の運用方針
- ✅ 透明性の高い開示と統治構造
- ✅ 国内投資と国際分散のバランスを確保
CardanoがUSDM戦略を通じて形成しようとしている運用型トレジャリーモデルも、分散型ガバナンスという点を除けば、こうしたSWFの理念に非常に近い設計を志向していると言えるでしょう。
5-3|米国のファンド制度と規制上の障壁
米国では、州レベルでは年金基金などの公共投資ファンドが運用されている一方で、連邦政府レベルでのSWFは存在しません。また、最近では米国債の需給ひっ迫や財政赤字問題から、金利やデフォルトリスクへの注目が高まりつつあります。
そのような状況下で、「ビットコイン準備金構想」や「州によるBTC保有政策」など、暗号資産を用いた新たな“国庫設計”への模索も始まっています。これは、Cardanoがトレジャリーを通じてWeb3時代の公共資産モデルを構築しようとしている動きと同調しています。
次章では、そうしたWeb3型公共財政が法制度とどのように接続されていくか、米国における「GENIUS法案」「CLARITY法案」の動向とCardanoへの影響について考察していきます。
第6章|米国における暗号資産立法の最前線と、Cardano財政戦略への影響

Cardanoが循環型トレジャリーモデルやUSDM流動性戦略を展開する上で、規制環境は避けて通れない要素です。特に米国においては、2025年に入り暗号資産業界に大きな影響を与える二つの法案が浮上しており、これらの動向はCardano財政の実行戦略に直接的な影響を及ぼすと考えられます。
6-1|GENIUS法案:ステーブルコインに明確な法的位置づけを与える
「The Guaranteed Electronic Notes under Investigation for United States (GENIUS) Act」は、ステーブルコインの発行・準備金管理・報告義務などを明確に規定する法案であり、主に次のような特徴を持ちます:
- ✅ 準備金の100%裏付け義務(現金・米国債など)
- ✅ 発行体は登録を受けた適格金融機関に限定
- ✅ 準備金運用におけるリスク管理の枠組みを規定
この法案が成立した場合、USDMやUSDAといったCardano上のステーブルコインが米国との法的接続を得るには、発行主体と準備金運用の体制を法準拠に適合させる必要があります。特に、IntersectがUSDM流通の管理者となる場合、その法的格付けや運用能力が問われることになります。
同時に、これはチャンスでもあります。米国がステーブルコインを正式に認可することで、Cardano上のUSDMも機関投資家や米国系DeFi事業者からの信頼を得やすくなり、TVL増加と国庫収益強化にもつながる可能性があるのです。
6-2|CLARITY法案:SECとCFTCの権限整理と「明確な定義」
もう一つの重要法案が「CLARITY(Congressional Leadership Addressing Regulatory Integrity Through Yield)」法案です。この法案では、暗号資産に関する以下のような明確なルール設定が行われるとされています:
- ✅ SECとCFTCの監督対象を明確化(証券型/商品型)
- ✅ 特定のデジタル資産に対し「十分に分散化されたネットワーク」であれば証券該当しないとの例外明記
- ✅ DeFiプロトコルの管轄や開発責任を免責的に規定する条文案も存在
この法案は、CardanoのようなPoSベースかつガバナンス分散が進んだプロジェクトにとって極めて有利なものであり、dSWFモデルが「証券ビジネス」と見なされることなく合法的に運用可能になる可能性を高めます。
USDM戦略においても、CLARITY法案の下で「準公共的流通インフラ」としてのDeFi支援が明記されれば、Cardano上の財政投融資スキームが合法的かつ透明な形で米国市場に対応できる可能性が開かれます。
次章では、こうした制度的整備と技術・市場の動向を踏まえて、「持続可能なADA経済圏」をいかに設計していくか──Cardano財政を核とした“Web3循環経済”構想について考察します。
第7章|Web3循環経済としてのCardano財政:ADA・USDM・トレジャリーの三位一体設計
これまで見てきたように、Cardano財政は「dSWF(分散型ソブリン・ウェルス・ファンド)」としての構想を軸に、ステーブルコインUSDM、そして国庫(トレジャリー)を組み合わせた循環的な運用モデルを模索しています。
その全体像は、まさに「ADA → USDM → 運用収益 → ADA」という経済循環を形づくり、ステーキングによるインフレ分配だけに依存しない“再投資型の公共経済”としての設計思想に貫かれています。
このようなWeb3循環経済モデルにおいて、次の三つの要素は不可分の相互作用を持っています:
7-1|ADA:原資・報酬・流動性の中核資産
ADAは、Cardano財政の中核資産であり、次の役割を果たします:
- ✅ ステーキング報酬の源泉として国庫に継続的なADAフローを供給
- ✅ USDM発行時の担保資産(→100M ADA変換構想)
- ✅ 財政循環による買戻し対象資産として、価格安定と成長性の鍵を握る
7-2|USDM:DeFiとの橋渡しと流動性導管
USDMは、Cardanoエコシステムにおける“公共的なステーブルコイン”として、以下のような役割を担います:
- ✅ DEXやレンディング、dAppsの通貨基盤として開発者の参入コストを低減
- ✅ 国庫ADAをDeFiに接続するための循環導線
- ✅ 戦略的運用による利回り確保とADA買戻しの実現手段
7-3|Treasury:資源管理と政策執行のコア
トレジャリーは、Cardanoの「経済的な意思決定中枢」であり、次のような機能を持つべきです:
- ✅ 資産保有と配分のガバナンス(投票を通じた意思決定)
- ✅ Intersect等を介した執行機能(USDM運用や委託契約)
- ✅ 自律的な再投資循環を促す“ループ設計”の策定
この三位一体の設計により、Cardanoは単なる技術プラットフォームを超えて、「経済圏そのもの」としての姿を鮮明にしつつあります。dAppsが増え、開発者が流入し、USDMが流通し、トレジャリーが育つ──そうした循環が実現すれば、Cardanoは世界初の“分散型国家経済OS”と呼ぶにふさわしい進化を遂げるでしょう。
特別章|チャールズ・ホスキンソン氏が提唱する『分散型ソブリン・ウェルス・ファンド(dSWF)』構想の全貌
本稿を執筆している最中の2025年6月12日、カルダノ創設者チャールズ・ホスキンソン氏は突如として「Cardano Decentralized Sovereign Wealth Fund(分散型ソブリン・ウェルス・ファンド)」と題した動画を公開し、Cardano財政の未来像に大きな一石を投じました。本特別章では、その内容をもとに、氏が提唱する分散型SWF構想の全体像と、それが既存のカルダノ財政戦略にどのようなインパクトを与えるかを分析・解説します。
1. 「今こそ自分たちに投資すべき」──構想の出発点
ホスキンソン氏はこの動画の冒頭で、現在のカルダノにおけるステーブルコインの発行量(約3300万ドル)がTVL(約3億3000万ドル)の10%未満であることを問題提起しました。イーサリアム(190%)やソラナ(110%)と比較すると、明らかに流動性基盤が脆弱であり、DeFi基盤としての機能に制約を与えているというのが氏の基本的認識です 。
2. 100M ADAを「分散型SWF」として活用するプラン
この状況を是正するため、氏は以下のような財政戦略を提示しました:
- カルダノ財政の5〜10%(約100M ADA)を、USDM、USDA、iUSDなどのステーブルコインに分散投資
- 一部をBitcoinに変換し、Bitcoin DeFiエコシステムを“プライム(初期活性化)”
- DeFiプロトコル群(Indigo、Fluid Tokensなど)と協調し、収益性のある運用先を模索
- 年次利益をADAで買い戻し、再びトレジャリーに還流させる循環モデルを構築
これは、まさに従来型のソブリン・ウェルス・ファンド(ノルウェー、アブダビ、アラスカ州など)と同様に、「投資によって財政の購買力を維持・拡大する」という思想をカルダノ財政に持ち込む試みです 。
3. 「破壊的売却リスク」への反論と市場分析
100M ADAを売却すれば市場が崩壊するという懸念に対し、ホスキンソン氏は「完全な誤解」と一蹴。現在のADAの流動性やOTC取引、アルゴリズム的分割売却(T-WAP)の活用により、「最大でも0.5%未満のスリッページ」で吸収可能と断言しました 。
4. 分散型運用機構:DAO+専門運用チームという構想
SWF構想の中核には、「オフショアに登記されたWeb3特化型資産管理チーム」と「DAO的なコミュニティ管理機構」の組み合わせがあります。特に注目すべきは以下の提案です:
- ガバニングボード(理事会)を選挙で構成
- ファンド運用者を複数募り競争的に運用管理
- 収益はADA購入に使われ、年次でトレジャリーに還流
- スマートコントラクトで自動化された透明な運用ロジック
まさに分散型国家の財政管理モデルとしての「分散型ソブリン・ウェルス・ファンド(dSWF)」の輪郭が描かれています 。
5. 将来的な「マルチアセット財政」への進化構想
ホスキンソン氏はさらに、将来的にカルダノ財政がADA以外にも:
- Knight(Midnight報酬トークン)
- Bitcoin(Bitcoin DeFi)
- 他のパートナーチェーン報酬トークン
など、多資産保有となる必然性を強調しました。これらを総合管理する財政基盤として、分散型SWFの制度化が重要になると述べています 。
6. コミュニティに求められる覚悟と次のステップ
ホスキンソン氏は、「自分たちに投資せず、VCに投資を求めるのは筋が通らない」と強く訴え、まずはカルダノ自身が率先して投資・循環経済を実現すべきだと説きました。
Rare Evo(2025年8月)を目標に、詳細な提案をまとめ、憲法改正や予算プロセスの改善も視野に入れて議論を進めることが今後のステップとして提示されています 。
補足:記事全体との整合と意義
本稿全体で論じてきた「ADA→USDM変換とDeFi流動性」「国庫の循環モデル」「SWF的発想の導入」といった議論は、まさにこの動画でホスキンソン氏が語った戦略と完全に呼応しています。今回の動画「Cardano Decentralized Sovereign Wealth Fund」公開は、カルダノがいよいよ財政運用の“国家戦略化”へと踏み出すことを意味しており、SIPOにとってもこの動きに知的かつ実務的に応答する時機が来たことを強く印象づけるものでした。
関連記事:
次章では、この全体像を踏まえた上で、「Cardanoトレジャリーを豊かにし持続可能な財政を創る」ための戦略的提言をまとめ、本稿を締めくくります。
第8章|まとめと提言:カルダノ財政の持続可能な豊かさへ

本稿では、「Surprise AMA 06/08/2025」におけるチャールズ・ホスキンソン氏の提言──すなわち「100M ADA → USDM変換による循環的な財政構造」──を起点として、Cardanoトレジャリーを分散型ソブリン・ウェルス・ファンド(dSWF)として機能させる構想について詳述してきました。
以下、各章で示された主要なポイントを整理します。
要点の総括:
- ✅ USDMによる循環運用モデルは、TVL増加・ADA買戻し・開発者支援を一体化した戦略的財政再投資モデルとなり得る。
- ✅ IntersectやDRepによる意思決定・執行体制の遅延が最大の課題であり、「意思の不在」が資金と戦略の活用を妨げている。
- ✅ Anzens & Encryptus提案は、民間主導による持続的還流モデルとして“実行可能な公共プロジェクト”の先例となる。
- ✅ 世界のFILPやSWFとの比較からも、Cardano財政は公共財的性質と再投資性を持ち合わせた“分散型国家型経済モデル”として成立し得る。
- ✅ **米国の「GENIUS法案」「CLARITY法案」**は、Cardano上の財政モデルを法的に支える新たな制度基盤を提供する可能性を秘めている。
特別章を受けての追加提言:
本稿執筆中に公開されたホスキンソン氏の新動画「Cardano Decentralized Sovereign Wealth Fund」は、まさに本記事全体の論点を総括・具体化するものでした。氏は、100M ADAの一部をステーブルコインやBitcoinなどに分散投資し、ADAを買い戻す運用循環を構築するdSWF構想を明示しました。
この構想は、従来の単なる支出型トレジャリーを脱し、
- ADAの購買力維持
- エコシステムTVLの強化
- 暗号資産を保有・循環させる国家的戦略モデル
として、カルダノ財政を根本的に刷新するものであり、今後のガバナンス選挙、Intersect改革、ステーブルコイン政策において必ず議論の主軸になるでしょう。
戦略的提言:
- 「ADA→USDM→DeFi→ADA」の循環実行の意思決定を迅速に行う体制を設けること
- Intersectや新設される財政執行委員会等による迅速かつ明示的な実行権限の付与
- 民間主体による「Cardano還元型モデル」の推進とインセンティブ強化
- Anzens型の提案を“公共還流モデル”として標準化し、評価・報酬体系に反映
- 法制度整備と連動した運用モデルの確立
- 米国法制との整合性を意識したDeFi構造とトークン発行・流通スキームの策定
- 財政の「可視性」と「KPIベース運用」への転換
- 期待利回り、投資効果、エコシステム影響を数値化し、透明性と説明責任を高める
Cardanoは今、単なるブロックチェーンを超えて、循環的・分散的・持続可能な「公共経済インフラ」へと進化する節目にあります。USDMを鍵としたこのトレジャリーモデルは、世界の他のチェーンにはない「経済設計の深さと覚悟」を示すものであり、それは「ADAの未来」だけでなく、「分散型社会の基盤」としての挑戦でもあります。
私たち一人ひとりがDRepやガバナンス参加者として、「単なる支出」ではなく「育てる財政」を支える意思を持ち、提案に耳を傾け、戦略に投票し、成果を評価していく──そのプロセスこそが、Cardanoという公共財の進化を支える最大の原動力となるでしょう。
「資金も手段もある。あとは意志だけだ」
このホスキンソン氏の言葉が、単なる警句ではなく、希望と行動の呼びかけとして共有されることを願ってやみません。
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